【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 大分県豊後高田市におけるNPO法人と行政が連携した子育て支援事業の取り組みに関する報告。



豊後高田市の市民との協働(公私の連携)
による子育て支援策
―― 市民と働く ――

大分県本部/豊後高田市職員労働組合

1. 豊後高田市の子育て支援事業の経緯

 豊後高田市は、民間NPOとの連携により地域の子育て支援を行っている。豊後高田市の人口は23,577人(男11,069人 女12,508人)内、0~6歳1,087人(4.6%)7~12歳1,035人(4.4%)となっている(2014年3月31日現在)。
 豊後高田市における子育て支援事業の経緯は以下の通りである。過疎化・少子化が進む中、その対応策として市長が子育て支援を打ち出し、2003年10月に市の子育て中あるいは子育て経験のある女性職員を集めて子育て支援総合推進モデル事業プロジェクトチームを結成し、子育て支援に関する調査、研究、アンケートによるニーズ調査と分析を行った。
 その後、2004年4月に「子育て支援総合推進モデル市町村」の指定を受け、「子育て支援係」を新設し(福祉事務所の管轄)、「地域子育てサポート事業」(市直営)、「子育て支援総合コーディネート事業」、病後児保育事業「乳幼児健康支援一時預かり事業」(派遣型)の3つの事業を立ち上げた。同年6月につどいの広場「花っこルーム」を開所(市直営)した。スタッフは当時の利用者6~7人であった。
 2005年3月に市町村合併(旧豊後高田市、旧真玉町、旧香々地町)をし、同年4月に「子育て・健康推進課」を健康交流センター花いろ内に新設。子育て支援事業と母子保健事業を同一課で実施する体制にし、加えて「にこにこあかちゃんブックスタート事業」を開始した。さらに7月には合併した真玉地区、香々地地区の親子が交流できるように月1回の「出張花っこルーム」を開始し、2007年4月に「花っこルーム」の運営を当時、子育て支援団体であったアンジュ・ママンに委託した。
 また、2010年には、「地域子育てサポート事業」の運営もアンジュ・ママン(NPO法人を設立)に委託し、さらに「出張花っこルーム」を各地区週1回ずつ開催するとともに、6月から病後児保育事業「天使のゆりかご」を委託している。2011年10月には、地元商店街に「おひさまひろば」を開設し、12月には家庭支援スタッフ訪問事業を開始、さらに2012年4月からは子育て支援コーディネート事業を委託している。

2. NPOアンジュ・ママン設立経緯

 子育て支援団体「アンジュ・ママン」は2007年4月に結成された(※「アンジュ・ママン」とはフランス語で「天使・お母さん」の意味。)。結成に至った経緯は、この広場で出会った母親たちが子育てを通して知り合いながら、友達になり、仲間になっていき、その中でこの場所で共に子育てを行った事に感謝をし、自分たちに出来る子育て支援があるのではないか、花っこルームに恩返しがしたいということで、子育てサークルが誕生した。活動をする中で役割が与えられ、メンバーの責任感も高まり、定着も進んだ。しかし子育てサークルのままでは内輪で終わってしまい、継続性もない。また、同世代のものだけでは経験や知識も画一的となることから、地域の子育て支援を行うためには多くの人や団体の参画・協力が必要だと考えた。
 そこで、行政と協力し、いろいろな人に関わってもらうためにNPO法人アンジュ・ママンを設立した。当初は6~7人弱のメンバーで豊後高田市から「花っこルーム」の運営を受託し、2010年3月にNPO法人「アンジュ・ママン」を設立した。現在のスタッフは 24人、ママさんスタッフ5人である。基本的にはママさんスタッフを経験し、「花っこルーム」をはじめとした「アンジュ・ママン」の活動を理解してくれる人にスタッフになってもらう仕組みとなっている。子育てを通じて元気な地域になればという思いで活動している。

3. 各事業の概要

(1) 地域子育て支援拠点事業 つどいの広場「花っこルーム」
 地域子育て支援拠点事業「花っこルーム」の目的は、子育て中の親子が自由に集い、交流することで子育ての不安感・負担感を緩和し、「親育ち・子育ち」の支援をすることである。もともと2004年から健康交流センター花いろ内の和室で実施していたが、2010年から同施設内でより広い旧デイサービスルームを改修して実施している。運営は、今、現在はNPO法人アンジュ・ママンが行っている。「花っこルーム」内は遊具や絵本(貸出可能)、子ども服などのリサイクルコーナーもある。利用者は年間12,000人程で、活動内容は、基本的に自由にだれでも参加できるようにノンプログラムであるが交流のきっかけとして季節行事やふれあい遊び等を取り入れている。また出張「花っこルーム」として市内2地区で週1回(9時~14時)に開催している。
<利用者の声>
 地元出身でない者にとっては、子育てに不安を持っても相談相手もいない中で、この交流の場は大変ありがたい。地元のスーパーに買い物に行っても、必ず誰かが声をかけてくれるので安心感がある。


(2) 地域子育てサポート事業「ひだまりのおうち」
 地域子育てサポート事業はもともと2002年に旧豊後高田市社会福祉協議会が行っていたが、2004年に市直営となり、2010年からアンジュ・ママンに委託された。2013年度は、210件の利用があり、地域にとってはなくてはならない事業となっている。利用内容は幼稚園の送迎、年長子の行事参加の際に年少子の面倒を見るなどであり、「まかせて会員」(豊後高田市に住民登録しており既定の養成講座を受講した人)は 49人、「よろしく会員」(豊後高田市に住民登録している、または豊後高田市内で勤務している人で子どもを養育している人。概ね生後4ヵ月~小学6年生)は246人、兼ねた会員が30人である。前日までの利用申し込みが基本であるが、当日突発もあり、コーディネーターが「まかせて会員」を探すのに苦労する場合がある。年一度まかせて会員の総会を開催し、活動報告や研修、意見交換を行っている。また、遊ばせ方や事故予防、読み聞かせなどの研修も開催している。
<利用者の声>
 急な残業が入り、保育園のお迎えが間に合わないと困っていた。すぐに、サポートセンターに連絡し、優しいまかせて会員さんが代わりに迎えに行ってくれて、そのあともご自宅で預かってくれ、本当に安心して仕事をすることが出来た。ありがたい事である。


(3) 病後児保育事業「天使のゆりかご」
 病後児保育事業「天使のゆりかご」は、健康交流センター「花いろ」内に設置している。病気の回復期にある児童について、保護者の仕事の都合などやむを得ない事情により家庭で保育できない場合の支援を目的としている。受け入れ人数は1日につき3人、対象年齢は概ね生後6ヵ月から小学3年生、保育時間は8時から18時、利用料金は市内居住者は5時間で1千円、5時間以上1時間につき200円加算、市外居住者(市内勤務者)は5時間1,500円、5時間以上1時間につき300円加算で、受け入れには医師の診断書が必要となっている。なお、医師会と市内外(近郊)小児科医の協力で診断書は500円となっている。業務は、看護師・保育士資格をもったアンジュ・ママンスタッフが中心となって保育を行っている。また、スタッフだけでなく、地域の有資格者の協力が、心強い存在となっている。
<利用者の声>
 仕事で何日も休めずに子どもを預けたが、看護師や保育士の方が面倒をみてくれ、お薬もきちんと飲ませてくれるので安心できる。また、花っこルームを利用しているときのスタッフの方なので、顔見知りということもあり、子どもの方も何も抵抗がなく、過ごせた。


(4) 家庭支援スタッフ訪問事業「ホームスタート」
 子育て支援拠点としての花っこルームの充実により、多くの親子連れが利用しているが、市内には大きな工業団地を抱えており、転勤などで市外からの転入も多い。知人がいないため、家から出て来られず、社会から孤立し相談相手もいないような母親に、どのような支援ができるかという視点で始まったアウトリーチ型の事業であり、2011年12月から実施している。
 ボランティア(ビジター)18人の登録があり、実際に訪問するボランティアは8日間の研修と面談を経る必要がある。ビジターの年代は30代~70代と多様である。オーガナイザーが利用者とビジターのマッチングを行ったうえで派遣する。終了後は報告を出してもらい、気になる事があればすぐに専門的支援につなぐなど対応できるようになっている。
<利用者の声>
 周囲に友人もなく、主人も帰りが遅く、子どもとふたりきりで過ごす日が続き、寂しさに耐えられなかったが、育児を経験したビジターさんからの話は、少しのことでも貴重で、心が落ち着いた。

(5) 子育て応援団「おひさまひろば」
 子育て応援団「おひさまひろば」は「新しい公共」事業支援(内閣府)による助成を受けて2011年に開設した。中央公園・商店街に隣接し、子育て中の方が授乳やオムツ替えなどに気軽に利用できる施設である。開所時間は10時~16時(水・金除く)で、利用者は平日4~5組、週末50人ほどである。週末やイベント時は利用者が多い。市の事業の周知の場でもある。ハローワークからは就労支援として、求人情報も見られるようになっている。
 また、子ども用品で少しの期間しか使わず、高額であるベビーカーやベビーベッド等のレンタル等も行っている。
<利用者の声>
・中央公園を利用し、おむつ替えや授乳スペースがなくて困っていたが、気軽に利用できる施設があり、よかった。
・里帰り出産で、孫のためにチャイルドシートをレンタルした。安く、借りられるのでとても便利である。



(6) コーディネート事業
 コーディネート事業は市内の子育て支援サービス情報を一元的に把握し、情報提供及び利用援助等の支援を行うことにより利用者の利便性の向上、支援サービスの円滑化を目的に行っている。一部事業をアンジュ・ママンに委託し情報誌は健診時に配布するほか、スーパー、病院、ドラックストアなどに配布している。
<利用者の声>
 スーパーで情報誌を持って帰った。
 子連れでも遊びに行きやすいイベントなどを掲載してくれていて参考になった。

(7) 子育て支援サイト「いいKAMO」
 子育てに関する様々な情報は、市のホームページを通してお知らせしていたが、多くの情報の中から、知りたい子育て情報にたどりつけなかったり、見落としてしまっているという声を受け、豊後高田市の子育てに関する情報を1つにまとめ、お知らせする子育て支援サイト「いいKAMO」を2013年5月に開設した。
 一方的に情報発信するだけでなくサイト利用者同士もつながることができるようSNSサイトもあり、情報交換だけでなく子育て用品がほしい人と不要になって誰かに譲りたい人が情報交換できる「ほしい・あげたい」というコミュニティも作っている。
 また、新着情報・イベント情報の更新はアンジュ・ママンに委託しており、より利用者の立場に近い、子育て中のお母さん目線で情報発信を行っている。
<利用者の声>
 市報やケーブルテレビでも、子育て情報は知れるのだが、見落としてしまった時や見ることができない時も多く、困っていた。サイトならいつも手にしている携帯電話からでも情報が手に入るのでとても便利である。

(8) その他事業
 その他にも、にこにこあかちゃんブックスタート事業(4ヵ月健診時に布絵本等を配布)、子育て応援イベント(わくわくたかだこどもフェスタ)、子育て関連施設AED設置事業、子育て支援ガイドブック作成事業、お出かけ安心パパママホッとタウン事業(子育て家庭だけでなく子ども連れの観光客でも利用しやすい設備・サービス提供や優待特典を付与する商店を「子育て応援店」として現在41店舗が登録)なども実施している。

(9) 事業費概要
① つどいの広場事業             2013年実績 9,218千円
  つどいの広場「花っこルーム」の運営。
  親子で自由に集うことができ、常駐のスタッフに気軽に子育てに関する相談ができる場所を提供するもの。
② 地域子育てサポート事業          2013年実績 2,529千円
  仕事を急に休めない、また、急な残業で保育園の送迎に行けないといった時に、地域住民が協力して託児をするシステム。子育てをサポートする「まかせて会員」とサポートを受けたい「よろしく会員」からなる会員制の相互援助活動。
③ 子育て支援総合コーディネート事業     2013年実績  327千円
  子育てに関する情報提供や利用援助等の支援を行うことにより、利用者の利便性とサービス利用の円滑化を図るもの。
④ 家庭支援スタッフ訪問事業(ホームスタート)2013年実績 1,706千円
  子育て不安を相談できない、社会から孤立して子育てをしている家庭に出向いて、一緒に家事をしたり悩みを聞き、母親のストレスや育児不安を解消させるもの。
⑤ 病後児保育事業              2013年実績 2,750千円
  病気回復期の子どもを、保護者の就労の都合等ややむを得ない事情により、家庭で保育できない場合に、一時的に預かるもの。
⑥ 子育て情報発信強化事業          2013年実績  914千円
  子育て支援サイト「いいKAMO」の運営。2013年5月10日に開設した、子育て関連情報を一元化したサイト。SNSを使った、会員間のコミュニティーも行えるようにしている。

4. これまでの成果

 市立幼稚園の『夢いろ』が隣接していることから、健康交流センター花いろを子育て支援の拠点施設として位置づけ、子育てに関する様々な事業を行っている。2013年度からは、福祉事務所の管轄であった保育所事業が子育て・健康推進課に移管され、『花いろ』に行けば子育ての手続きができると言われるように市民の方に分かりやすく情報を提供できる(情報の一元化を図る)ように心がけている。
 また、花っこ利用者の子育て関連の質問や困り事は、行政には聞きにくいけれど、拠点ひろばのスタッフには、気軽に相談できるということで、NPO法人が市民と行政のパイプ役となり、より利用者の目線にたって子育て支援に取り組めるようになった。

5. 今後の見通し、課題

 2015年度からは、消費税増税等に伴い、子ども・子育て支援新制度が導入され、大きく子育て支援の方法が変わる。豊後高田市の中でも地域毎によって、要望やニーズが異なり、そのニーズをいかに拾えるかがカギになると考えられる。
 具体的には、2014年度の取り組みとして、新制度実施に向け、少しでも保護者の負担感や不安感を取り除けるよう情報提供できるコーディネート事業に力を入れる予定である。
 子育て支援策に対する利用者の要望やニーズは、年々変化していくため、そのニーズをすばやく把握し、対応していくためには、市とNPO法人アンジュ・ママンが常日頃から連携を密にし、現在行っている事業の見直し・工夫を行っていくことが必要であると考えている。
 併せて、少子化が著しい本市にとって、子どもを産み育てる環境づくりのための子育て支援施策の充実が必要であり、また、経済的な安定も必要であることから、子育て中の母親の就労支援にも取り組んで行くこととしている。そのことが、地域経済の活性化にもつながり、少子化対策・定住対策にもつながっていくのではと考えている。