【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 精神障がいは、身近で誰でもなる可能性のある障がいと言えます。しかし、その障がいや症状は漠然としか理解されていないため、誤解や偏見はなかなか無くなっていきません。「働きたいけど働けない。地域で暮らしたいけど暮らせない」。この課題を解決していくには、「理解と支援」が必要になっていきます。「心に病」がある方が、私たちの住む国東市で安心して暮らせる地域をつくるため、精神障がいに偏見を持たずに受け入れてくれる地域づくりの一環としてフォーラムを開催することとしました。



精神障がい者国東フォーラムの取り組み


大分県本部/国東市職員労働組合

1. 経 過 ―知ることから始めた「心の病」―

 精神に障がいのある人は、大分県で3万人以上いると言われています。これは10家庭に1家庭の割合になります。この数からわかるように精神障がい者は、身近で誰でもなる可能性のある障がいと言えます。しかし、その障がいや症状は漠然としか理解されていないため、誤解や偏見はなかなか無くなっていきません。そのため精神障がいであることを隠して生活している人も多く、その人たちが何を思ってどのように暮らしているか、知られていないのが現状です。
 国東市でも精神保健福祉手帳の所持者は、169人、そして精神通院医療受給者証の認定者は、470人(2014年3月末現在)となっています。(計639人)
 ちなみに身体障害者手帳の所持者は、2,102人、療育手帳所持者は、227人となっています。
 一見、他の手帳所持者数と比較すると数字の上では、精神保健福祉手帳の割合が少ないですが、年代で比較すると身障手帳所持者のうち、65歳以下の方は382人で高齢者が約8割、それ以外の年齢の方が約2割という状況から、精神の方が決して少ない状況とは言えないことが分かると思います。(精神 → 高齢者1割、その他9割)
 また、この数から見えてくることは、就労しなければ地域で暮らしていけない人、親が生きているからこそ地域で生活できている人、そういう人たちが多くいることが分かってきます。
 「働きたいけど働けない。地域で暮らしたいけど暮らせない」。この課題を解決していくには、「理解と支援」が必要になっていきます。「心に病」がある方が、私たちの住む国東市で安心して暮らせる地域をつくるため、精神障がいに偏見を持たずに受け入れてくれる地域づくりの一環としてフォーラムを開催することとしました。

2. 成 果 ―みんなに芽生えた気づき―

 フォーラムの目的は「地域で正しい理解を広げ、様々な支援をつなげることにより、『働きながら安心して暮らせる地域』をつくる」ことにあります。
 「そもそも精神障がいちゃなんかえ?」という話が出発点でした。
 それぞれの地域で構成される実行委員会の皆さんと共に、病気について勉強会もしました。その中で、家族や保健関係者の「緊急時の受け入れ体制がなくて、家族も警察も消防も困っている」という切実な声、「支援を受けながら地域で暮らしている人たちが、このまま老いていくのは見ている方も忍びない」という胸に迫る声、「まだまだ支援が届かず、地域でひっそり暮らしている人もいる」という現状などを知ることができ、実行委員の皆さんも徐々に「どうすればいいんかな?」という思いがわいてきました。
 障がい者の方が就労に成功した紹介ビデオがあるということで、就労推進ネットワークの方から紹介を受け、実行委員会で視聴しました。内容は、働いている当事者の様子を当事者である自らが司会者(インタビューをする人)になり、紹介していくという内容で、当事者の気持ちを引き出したすばらしいものでした。しかし、その状況(映像)が大分市での紹介(出来事)でしたので、実行委員の方々は、どことなく、この内容を国東市に置き換えたときに違和感とまではいわないまでも「しっくり」こなかったようです。「上映するなら、国東市内の現状を紹介したビデオを制作すれば」という意見がだされました。幸いにも国東市ではケーブルテレビがあり、直営で運営しています。
 市のケーブルテレビは、自主放送番組を制作してきている実績があることから、福祉にスポットをあてた番組を制作したかったというケーブルの思いもあり、共同でビデオを制作し、フォーラム当日に上映しました。
 完成したビデオを実行委員会で事前に視聴したときに、「フォーラム当日だけに上映するだけでは、あまりにももったいない。惜しい」という意見が出され、フォーラムの当日の様子を含めて、編集をやり直しケーブルテレビで市内で2週間にわたり放映しました。
 このビデオを市のケーブルテレビで放映したことは、『地域の方々にこの国東市に、こういう思いで暮らしている障がい者がいる。それを支えている事業所がある。また、支援している地域の方々がいる』ということを視覚で伝えたことにより、大きな反響がありました。
 ただ、このビデオを制作するにあたり、当事者が写りだされ、当事者の気持ちが放映されることになりますから、当事者を知らなかった方々も、知ってしまうことになります。このビデオに出演することは、当事者そして家族の勇気と思いがなければ、制作できていません。
 『知られることは、もしかして辛くなるかも知れない。でも、知ってもらうほうが楽だ』とそんな思いをこのビデオは伝えてくれたような気がします。


<国東フォーラム開催状況>
開催日 会場 メインテーマ
2011年2月4日(金) 武蔵保健福祉センター 理解があれば生きられる 支援があれば働ける
2012年5月19日(土) 鈴鳴荘・三角ベース ともに生きる ともに働く
2013年6月29日(土) アストくにさき まず知ることからはじめてみませんか?

3. 今後の見通し ―理解し、支え合う地域づくり―

 「心の病気」のことをご存じですか。うつ病、統合失調症、認知症、てんかん……いろいろな病気があります。誰がいつなるか分からない病気です。知らないために「治らない」と思い込んだり、「こわい」と感じることもあります。でも正しい治療を受けることで回復し、薬を飲むことにより地域で働きながら普通に生活することもできます。大切なのは、まわりの人たちが理解し、受け入れることなのです。私たちは理解し合い、支え合える地域づくりを考えるために、引き続きフォーラム等を通じて、地域一体となって考え、行動していきたいと思っています。

4. 担当者の声 ―情報発信の必要性―

 フォーラムに参加していただいた方々にアンケートを行い、感想をいただきました。特に、アンケート結果から推察できることは、フォーラムの内容について設問したところ、[とても良かった。が47.9%・よかった。が39.4%]と87.3%の参加者から好評をいただいた点です。また、障がい者への偏見を持っていた方が29.6%と約3割弱の方々がいるということが分かりました。そして、このフォーラムに参加されて考え方が変わったという設問に50.7%の方が考え方を見直されたという点からもフォーラムの目的でもある「精神障がい者の現状や障がい者の生活を知って、障がいについて理解していただきたい、そして支援があれば働けるということを知ってもらいたい」ということに対して、成果が得られたと考えています。
 今後もこうした地域のみなさまへの啓発を含めた情報発信の必要性を改めて感じたところです。(※アンケートの結果は2011年2月4日開催分)

5. まとめ ―市民との協働、そして安心安全な地域づくり―

 実行委員の「分からない、知らないから教えて欲しい」という言葉から始まったフォーラムの実行委員会。「何で、自分に実行委員を押し付けたのか」といわんばかりにまるでけんか腰にくってかかる実行委員。でもその方が、「知らん、と何も始まらんじゃろ。知ることから、始めようじゃないか」そこから、始まったフォーラムでもありました。
 "フォーラム"を開催する意義は、もちろん当日の行事が一番大切なことですが、そこまでに至る間に、多くの方を引っ張り込んで、理解していただくこと。知っていただくこと。それが、できるか、できないかによって、その成果が2倍にも3倍にもなっていくことが、実証できた取り組みでした。「心に病」をもたれている方が、地域で安心して生活できる地域づくりをしていくためには、地域や市民の方々との協働がなければ成り立ちませんが、この協働は、地域の方々が何を思っているのか、何を感じているのか。言い換えるなら行政の目線でなく、市民の目線で携わることにより、その方向性が見えてくるような気がします。これまで国東市で「フォーラム」を開催したことにより、そのことを強く感じるようになりました。