【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第1分科会 住民との協働でつくる地域社会

 全国各地で「市民との協働」を掲げた行政運営がなされているが、本レポートでは協働について整理するとともに、別府市の協働事例をもとに、行政とNPOとの協働による地域活性化について検討を行う。



協働による地域の活性化
―― 食べ呑み歩きイベントを通して ――

大分県本部/別府市職員労働組合 牧  宏爾

1. はじめに

 「協働」。この言葉が行政の中で使われ始めて久しい。私は、2003年度より約9年間、観光・まちづくり行政を担当し、NPOの支援等を行ってきた。その後、一個人としてもNPOの活動に関わっているが、常にキーワードは「協働」であった。多くの自治体の各種計画、首長の公約でも盛んに使われ、「協働」を推進するための部署も創設されている。本レポートでは、具体的な事例を通して、行政とNPOの協働による地域活性化について検討する。

2. 協働とは何か

 はじめに「協働」について確認をしておきたい。大分県におけるNPOとの協働指針(以下「協働指針」という。)では、協働を「NPO、企業、行政等の多様な主体がそれぞれの特性を活かし、対等な立場で、共通の目的を達成するために協力すること」と定義している。
 なぜ、協働がクローズアップされているかというと、他の主体と協働することで各々の特性が発揮され、単独で実施するよりも、より大きな効果を得られると考えられているからである。NPOのメリットとして、NPO本来の活動目的の達成、事業収入の確保、信用度の向上等が挙げられる。一方、行政のメリットとしては、社会的ニーズに合致した事業の実施、効率的・効果的な事業の実施、職員のボランティアやNPO活動に対する意識の向上等が挙げられる。
 協働の手法としては、大きく「支援型」と「事業型」に分けられる。支援型では、NPOと行政相互間での人的支援(協議会、実行委員会等への参画)、情報提供・情報交換等があり、特に行政からNPOに対しては、金銭的支援(補助金等)、施設等の使用許可等が挙げられる。事業型では、行政からNPOに対しては、提案公募型委託、従来型委託、共催、アダプトシステム等があり、NPOから行政に対しては、講師派遣等が挙げられている。
 以上、「協働」とは何か、ということについて整理したが、実際に私が関わった協働事業を例に、行政とNPOの協働について考えてみたい。

3. 「路地裏バル」の取り組み

 "バル(BAR)"とは、スペイン語では喫茶店であり、立ち飲み居酒屋であり、食堂、社交場を指す。友人数人で出かけて、各自「ひいき」のお店をハシゴするという楽しみが日常的に行われているそうで、これらの要素を取り入れた地域活性化イベントが"バル"である。
 別府路地裏バル(以下「路地裏バル」という。)の運営主体は、路地裏バル実行委員会(以下「実行委員会」という。)である。実行委員会は、NPO法人の職員、デザイナー、行政職員、会社員、学生等、異業種の有志で組織されている。特徴的なのが、飲食店は協力者ではあるが、実行委員会には入っていないという点である。それゆえに、様々なしがらみに縛られることなく、自由な活動を展開することができる。同時にイベントによる収益を直接得る飲食店が実行委員会に入っていないことは、行政と協働する上で、公益性の観点からも理解が得られやすい。飲食店は、企画・運営にエネルギーを使うことなく、バルで来たお客様にどのようなサービスをすれば満足していただけるかを追求し、かつイベント周知やチケット販売等に協力してもらいたいとの意向がある。
 路地裏バルのシステムは、まず参加者は、2,100円(700円×3枚)のチケットを購入し、参加店舗の中から好きなお店を選び1枚1ヶ所の飲食を楽しみながら飲み歩く。参加店舗は、バルメニュー(自慢の一皿とドリンク1杯)を提供する、というものである。

 過去の実施状況は以下のとおりである。

名称 開催日 開催場所 参加者数 提供数
第1回 路地裏バル 2012.10.31(水)、11.11(日) 別府駅周辺 1,251人 3,700食
第2回 路地裏バル 2013.5.22(水)、5.26(日) 別府駅周辺 1,268人 3,800食
第3回 路地裏バル 2013.11.2(土)、11.3(日) 別府駅周辺 1,049人 3,145食
さかバル 2013.10.18(金)、10.19(土) 別府大学通り周辺 220人 659食

  実行委員会は、行政、商工会、観光団体等に属していない全くの任意団体であり、資金的には、チケットの売り上げに応じて店舗から得る手数料及び企業等からの協賛金収入があるのみである。そこで、第1回目は、別府市の補助事業「泉都別府ツーリズム支援事業」の支援を受けて開催した。第2回目は、自主的な事業展開をめざして、補助金申請はせずに参加店舗から参加料をいただき開催した。第3回目は、別府市が開催する食のイベント「別府食の大宴会」との共催のため、より多くの店舗にバルに参加してもらう必要があったことから、店舗から参加料を頂くことが難しかったこと、そして従来の別府駅周辺のみならず、市内の小さな商店街でのバルイベント開催を実験的に実施することから、大分県の補助事業「まちの賑わい創出支援事業」の支援を受けて開催した。

4. 路地裏バルにおける「協働」

 路地裏バルでは、様々な形で行政との協働の要素が働いている。協働の形で言えば、「補助」及び「共催」である。第1回に支援を受けた別府市の「泉都別府ツーリズム支援事業」は、「市民主体の地域活性化、観光振興等の推進」を目的としたものであり、第3回に支援を受けた大分県の「まちの賑わい創出支援事業」は、「消費喚起を図るとともに、まちの賑わいを創出する」ことを目的としているものである。両補助制度とも、市民団体等の活力を生かして地域の活性化を図りたいという行政の目的と、実行委員会の「別府の食を支えてきた地域の飲食店の魅力を発信し、地域活性化を図る」という目的が一致し、協働事業として行われたものである。
 また、第3回は、先述した別府市主催の「別府食の大宴会」との共催により実施したものである。別府食の大宴会は、県内外のご当地グルメの屋台を別府駅前通り及びその周辺に集結し、集客を行うイベントであるが、同日夜に路地裏バルを開催することでよりイベント効果を高めたいという別府市の思いと、これまで市内からの参加者が中心だった路地裏バルに、市外県外からも参加してもらいたいという実行委員会の思いが一致し、協働事業として実現したものである。この協働により、食の大宴会の広報に併せて、市報、ポスター、マスコミ報道等、様々な媒体を使って路地裏バルも一緒に広報することができた。

5. 考 察

 協働指針では、行政とNPOとの協働における課題として次のようなことが挙げられている。
① NPOから行政に対しての課題
  ・作成文書が多い ・計画変更の融通がきかない 
  ・担当者が変わると事業内容が変化する ・協働と言いながら行政主体である
② 行政からNPOに対しての課題
  ・会計、文書作成能力不足 ・連絡が取りにくい ・公金意識が薄い ・人員体制が不安定
 これらの課題の解決策の一つとして、行政職員がNPOの運営・活動に参加するということが考えられる。実際、路地裏バルには、私を含めて数人の市職員が実行委員として関わっているが、行政職員がNPOの事業に関わることのメリットとして、文書作成能力を生かせることである。例えば補助金申請、協賛依頼、後援依頼等、事業を行う上で必要な様々な文書作成は行政職員の得意とするところである。また、地域の様々な分野・組織の方々とのネットワークを持っていることも強みである。さらには小規模な自治体の場合、自治体職場はその地域の中での大企業であり、その職員は地域における大きな消費者である。それらのネットワークを活用することで事業の広報、チケット販売等、効率的に進めることができる。実際に、毎回100人を超える職員が路地裏バルに参加していただいているし、別府市のみならず、大分県庁、隣接自治体である大分市、日出町等の職員もチケット販売や広報に協力していただいている。
 また、普段は観光・商工部局の職員でもなければ飲食店の方々と直接接する機会もないが、実行委員会として接することで、店主の様々な考え方、景気状況等も含めて生の声を聞くことができることは、行政職員のスタンスとして非常に大切なことであると感じた。
 協働の定義における「多様な主体」とは、NPO、企業、行政等の「組織」を基本としているが、行政職員個人がNPOと連携することも協働の一つと言えるのではないだろうか。

6. まとめ

 ここで協働による地域の活性化に向けて次の3点を提案したい。
 まず一点目として、協働を進めるという方向性を明確にする、ということである。そのためには、各自治体が主体的に協働指針を策定し、その中でより具体的な協働の手法を明記し、積極的に協働事例を作っていくことが重要ではないだろうか。その効果を検証し、成功事例について積極的に情報を出すことで協働の進め方、効果が行政内部で理解されていくと思う。
 二点目として、行政職員のNPO等への理解を推進する、ということである。行政職員がNPOの方々と接する機会はまだまだ少なく、実態がよくわからないという職員も多い。そのために、実際にNPOの事業を知る、さらには関わることができるような研修・派遣制度を、それこそNPOとの協働により創ってはどうだろうか。
 三点目として、行政職員が中心となるNPOを設立する、ということである。職員自身が地域活性化のためのNPOを設立することで、NPOへの理解が深まると同時に、地域との連携も生まれてくるのではないだろうか。
 行政職員として協働に関わる際に重要なことは、まず地域に対する思いである。その上で行政職員としての基礎体力(法務知識、財務知識、マーケティング力等)を高めておく必要がある。また、行政内部(所属自治体の他、他の自治体も含めて)や地域住民、団体等との人のつながりを築いていくことが大切なことである。そのためにも自分が関心のあるNPOの活動等に参加するということはとても重要であり、そこで培われた人脈、マーケティング力、住民意識、制度の理解等は、逆に行政の政策形成・事業運営においても生かされ、ひいては行政サービスの向上につながるものと考えている。