【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

 行政改革が推し進められ、公務の業者委託や指定管理など様々な手法で「民間でできるものは民間へ」と経営形態が変化している職種が多くなりました。子どもたちの給食も、かつての単独調理から共同調理へ、そして公設から業者委託、PFIへと進んできています。地方の財源問題が、安全・安心で子どもたちの食育を司る給食現場に、暗い影を落としている状況がないのか、大仙市の給食センター問題から提起します。



複雑な業務委託が安全・安心な給食を脅かす
―― 安全安心の給食に影を落とす地方財政問題 ――

秋田県本部/大仙市職員組合 野中 正幸

1. はじめに

(1) 市町村合併と賃金カット
 秋田県大仙市は2005年3月22日に8市町村が合併し発足しました。合併直前から合併特例債をあて込んだ建設事業などが計画され、加えて地方交付税が削減され、市当局は深刻な財源不足を抱えていました。
 2007年、その矛先は人件費に向けられ、市当局は一律3%の賃金削減を提案。大仙市職員組合は県本部役員を交渉団に加え、数度の団体交渉を重ね抵抗しましたが、最終的には若年層の負担を減らし1.5~3.5%の削減率で妥結。07年4月から3年間、賃金独自カットが実行されました。この当時の削減額は07年度で1億2千万円程でした。

(2) 当時の財政状況
 合併後の決算状況をみると、合併当初から積立金の取り崩しによって財源が確保されてきたことがよくわかります。実質単年度収支も10億円もの赤字となっており、財源不足が顕著でした。賃金カットが実施された2008年度には財調基金残高も激減し、このままではゼロになると、団体交渉の際には当局がしばしば口にしたものでした。
 現在でも相変わらず厳しいものの、積極的な事業の見直しや職員定数の見直しで何とか実質収支を確保している状況です。また、民主党政権下で増額された地方交付税の恩恵も受けたといえます。

決算
年度
歳入
総額
歳出
総額
積立金
取り崩し額
実質
単年度収支
財調基金
残高
減債基金
残高
地方交付税
総額
2004 54,715,456 53,350,412 2,351,089 87,170 2,828,224 571,786 18,509,444
2005 50,594,818 49,170,337 1,370,000 ▲1,042,365 2,078,692 578,904 19,975,059
2006 52,493,455 51,093,678 1,220,000 ▲142,225 1,508,963 449,006 19,491,041
2007 49,153,940 48,286,093 1,134,570 ▲789,934 1,262,435 150,002 19,072,527
2008 47,414,992 46,383,737 897,000 ▲641,659 602,420 136,010 19,165,376
2009 49,378,943 48,439,533 656,693 1,214,035 236,200 19,702,780
2010 51,872,667 50,893,836 654,730 1,864,577 154,547 21,006,636
2011 49,611,118 48,633,267 516,976 2,225,080 154,614 21,760,397
2012 47,610,118 46,750,708 41,674 2,405,618 54,642 21,665,579

(3) 公立保育・幼稚園の法人化
大仙市の位置(大仙市HPより)
 そして、もう一方で公立保育・幼稚園の合理化に矛先が向けられました。合併前の旧大曲市は、大曲保育会という市が関与して設立した社会福祉法人が保育園を経営しており、公立の保育園はありませんでした。他方、旧大曲市以外の7町村は公立保育園が設置されており、まさか合併2年目で法人化の話が出てくるとは思ってもいませんでした。
 2006年4月には公立保育・幼稚園、特養・老健などの施設の法人化推進チームが庁内に設置され、法人化の検討が始まりました。しかし、最初から旧大曲市の手法を倣った新設社会福祉法人への経営移行を前提としたもので、「民間でできるものは民間へ」の行革の流れそのものでした。
 当局説明では「持続可能な経営形態」、「非正規臨時職員の正規職員化」などの大義名分を口にし、職員には10年間の移行期間中に身分移行を促すものでした。
 法人化にあたって、①10年以内は派遣で公務員の身分のまま勤められる、②5年以内に移れば整理退職扱い、③希望により一般職への職種替え、など、少しでも条件を良くしようという当局の姿勢はありましたが、当初は賃金水準が明らかにされないまま、法人化説明会や職員の意向調査が行われ、職員は「法人化ありき」の流れの中に取り込まれていきました。
 「保育士になったのはその仕事が好きだからでしょう」、「今はいいが、高齢になったら子どもを追って走れますか」、「事務職に入るより自分のしたい仕事をした方がいいじゃないですか」など、職員に対する個人面談では配慮を欠く発言も多々あったようです。
 市職員組合は、県本部と共に職員への学習会や施設を超えた交流を行い、法人化に対し抵抗しました。しかし、議会特別委員会で法人化計画にGOサインが出され、「これまでと保育は何も変わりません」という説明に、保護者からも反対意見がなく、計画は着々と進められています。

2. 認定こども園への給食提供

みどり幼稚園前景(大仙市HPより)

 そして、2013年4月から、仙北地区の認定こども園 みどり幼稚園への給食が、市の方針により、仙北学校給食センターから提供されることになり、現場が大混乱しました。
 もともと合併以前から仙北学校給食センターでは幼稚園児に対して小中学校と同じメニューでおかず給食を実施していました。法人化されたみどり幼稚園が2013年4月から認定こども園に衣替えすることが決まり、当初、園の施設を改修して自園調理する計画もありましたが、これまでの実績や市の財政事情を踏まえ、園外からの持ち込み給食が決定されました。
 センターの学校栄養士からは、認定こども園に給食を提供する場合、次のような問題点があげられました。
① センターは平日稼働のため、土曜日の給食は困難であること
② おやつはカップヨーグルトなどの簡易なモノしか出せないこと
③ 乳幼児のアレルギー管理が難しいこと
④ こども園は長期休暇がないため、施設メンテナンスに大幅な変更が必要であること
⑤ そもそも、学校給食に支障のない範囲で提供できるとの市の規則の範囲を超えていること
これらを解決するために
① こども園の給食管理をする栄養士を配置すること
② 施設の整備と学校給食への支障を最小限にする体制を確保すること
などを、給食センター所長に要望しました。

(1) 混乱した現場
 しかし、給食センターと認定こども園を取り巻く組織の問題もあり、栄養士の要望はなかなか実現しませんでした。簡単に経過をまとめてみます。
① 2013年1月、給食センター所長に4月給食開始の具体的な協議をしないと間に合わないと訴えると、「法人が動かなくて困っている。学校栄養士としてできないことはしなくても良い」と指示された。
② 2月、こども園用の保管庫や少数食に対応するIHコンロを設置。こども園の衛生管理計画の作成や指導を学校栄養士に求められ、従来の業務に加え、こども園の業務が追加された。
③ 2月中旬、法人、こども園、市教委、センター職員の全体打ち合わせで、給食業務の委託内容が確立していないことや、法人と市の認識にズレが生じていることが判明。法人に3月からの栄養士配置をあらためてお願いした。
④ 3月、法人保育園の栄養士(他の施設)と打ち合わせ、こども園の要望に給食センターでは対応しきれない問題が多数あることが判明した。
⑤ 3月18日、法人から栄養士が配置された。が、現場に慣れるまで4月以降も学校栄養士が指導。
⑥ 4月から給食提供開始。現場の職員に支えられ事故なく進んでいるが、新たに土曜日の勤務が増えたため、シフトの変更や服務上の問題が発生した。

(2) 複雑な委託形態の給食センター
 なぜ、このように現場が混乱したのか。それは大仙市の給食センター業務が、複雑な業務委託によって成り立っていることが原因と考えられました。
 まず、給食センターは市教委の所管であり、当然予算の必要なものは市の査定と議会の承認を得なければなりません。認定こども園は市が関与して作った社会福祉法人大空大仙の経営です。そして、給食センターの調理員は業務委託している大仙市学校給食協会の職員です。大仙市、市教委、社会福祉法人、学校給食協会の四つの団体の交渉協議が必要ですから、当然時間と手間がかかるというわけです。
 現場の職員の指揮系統も複雑です。大仙市には7つの給食センターがあり、それぞれ「所長」、「栄養士」、「事務員」、「調理員」が配置されています。

 このうち、「所長」は常駐しておらず、市の中心にある総合給食センター所長が兼務しています。
 「事務員」は、総合給食センター以外は全て市の現業職です。本来は技能労務に従事すべきですが、伝票作成や文書作成、予算や施設管理など多岐に渡り、一般職同様の業務を任されています。しかし、表面上は事務補助で、監督者は常駐していない総合センター所長です。
 「調理員」は、市が調理業務を委託した大仙市学校給食協会の職員で、給食協会の指示で働いています。仙北のセンターにはこども園の給食を管理する栄養士が、社会福祉法人から配置されました。
 一つの施設に複数の立場の違った職員が、それぞれ別々の指示系統で働いていることになります。これでは万が一の事故や食中毒が発生した場合、常駐していない所長の下、安全・安心な給食を十分確保できると言い切れるでしょうか。

(3) 問題の認知と取り組み
 この仙北学校給食センターの混乱は、学校栄養士の過重労働の訴えが秋田県教職員組合にあり、明らかになりました。教職員組合では、施設の設置者が大仙市であり、中の事務職員が市職員であることから、問題解決の糸口を探るために大仙市職員組合の執行部に相談に訪れました。
 当時、給食センターをめぐる問題としては、ノロウイルス発生の集団発生に伴いその対応が議会でも大きく取り上げられ、現場職員の過重労働や安全衛生上の問題が想定されたものの、調理員が給食協会の職員で、直接組合員からも苦情が寄せられていなかったことから、市職員組合としては大きな問題として取り上げていませんでした。まして、教職員組合から相談がなければ、私立の認定こども園への給食提供が、学校給食センターから行われているということも知らないことでした。
 市職員組合執行部として、まずは学校栄養士の過重労働問題の実態を知るため、
① 協力議員を同席させた現状の聞き取り
② 市教委当局への協力議員を入れた要請行動
に取り組み、過重労働の実態は教委当局も承知していたことから、議員からの要請もあり一定の解決が図られました。
 しかし、過重労働の問題以外に、
① なぜ自園調理が退けられセンターからの提供になったのか
② 供給数が増加し学校給食センターの業務に支障が本当にないのか
③ 給食センターの運営が複雑すぎるのではないか
④ そもそも、3歳以上の乳幼児と中学生のメニューが同じで本当においしいのか
といった問題点が議論となり、行き過ぎた行革が根底にはあるとの視点から、自治労秋田県本部は機関紙「自治労あきた」に3回特集を組み、問題提起を行いました。

自治労あきた紙面より


(4) 成 果

 自治労秋田県本部と教職員組合は、それぞれ大仙市内に置く専従に対応を指示、協力議員を通して市教委への働きかけを行ったところ、2013年9月の定例議会に給食センター関係の予算が計上されました。
① 市が嘱託栄養士を採用するための予算
② アレルギー食専用の調理器具や部屋を整備するための予算
 これらは仙北学校給食センターでの問題を踏まえ、翌年度実施される太田学校給食センターでの給食提供を円滑に進めるため、責任の所在を市が認め、栄養士の採用を決めたもので、評価できるものです。
 仙北学校給食センターに配置された認定こども園の栄養士からも話を聞く機会がありました。現在は土曜日や小中学校が長期休暇中の給食と、毎日のおやつを担当し、学校給食に支障がないよう実施されているとのこと。メニューは同じだが、量や硬さなどこども園の栄養士がチェックし配慮されるようになりました。
 こども園のほうがアレルギーの子が多く、医師の指示でメニューを変えることもあり、調理員が二人増員され、摂食指導はこども園の先生が食べ方や手洗いなどを教えていました。
 責任者不在の問題については、総合センター所長と参事が、市の東部地区と西部地区のセンターを分担して担当するよう内部調整していました。
 労働組合が協力議員と連携し、問題解決を当局に要請することで、給食に対する責任を市が明確にしたことは大きな前進と言えます。

3. まとめ

 大仙市の給食業務の委託化は行革手法の一つであり、民間企業ではなく、市が関与した法人を活用する手法は、市長が時々口にする「身分が不安定で手当も無い臨時職員などの非正規職員を正規職員化したい」という考えを、具体化しているといえます。確かに民間企業への委託や指定管理より、身分の安定化が図れる場合もありますが、賃金は二段構造であり、同一価値労働同一賃金の理想には届きません。
 また、ノロウイルスなどの感染症にかかった場合、交替職員や勤務場所の確保など、ギリギリの人数で働く現場では解決しようもなく、それに対する国・県の支援は心許ないものです。
 行き過ぎた行革で、本来の"安全あんしんで""おいしく""成長過程に応じた食育指導"が求められる乳幼児期の給食に、地方財政問題が持ち込まれ、効率化という尺度が持ち込まれることはいかがなものでしょうか。もちろん現場の職員は、さまざまな創意工夫で、できる限り最善の方法を模索しています。しかし、限られた職員数で身分もバラバラでは、なかなか実現できないこともあります。
 人口減と少子高齢化が同時進行している秋田県。地方財政問題は喫緊の課題です。職員数は人口減少に合わせてさらに減らすことも考えられています。安全安心と財政問題が天秤にかけられないよう、知恵を絞って議論することが求められています。