【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

 東日本大震災は、2万人を超える死傷者と行方不明者、40万人もの避難者を数える未曽有の大災害となった。また、巨大津波により起こった東電福島第一原発事故により、全町民避難や自治体機能の移転など、今なお筆舌に尽くしがたい厳しい状況が続いている。
 震災から3年余が過ぎ、復興再生が進むものの、放射能汚染・資材不足・機材不足・労力不足などの複合的要因から、復興予算を生かし切れていない現状も報告されている。
 このレポートは、被災自治体の財政が震災前後でどのような変化があるか、問題点は何かをまとめたものである。



避難自治体「楢葉町」財政の現状


福島県本部/楢葉町職員組合・福島県地方自治研究所

1. はじめに

 平成23年(2011年)3月11日、午後2時46分、東北太平洋沖を震源とするM9.0の巨大地震は、日本での観測史上最大の巨大地震となり、大津波により沿岸部を中心に未曽有の被害をもたらした。大津波は福島第一原発をも容赦なく襲い、4基の原子炉は想定されていない全電源喪失状態に陥り、燃料棒が解け落ちるメルトダウンという史上最悪の原発事故となった。原発事故は、過去、人類が経験したことのない未曽有の放射能漏洩を招き、自治体機能の移転や住民全員の避難が長期化するなど、地域の産業・地域コミュニティ・生活基盤など全てを破壊した。
人口・歳入・歳出の推移
 さて、その中の一つである楢葉町は福島第二原発の立地町であり、東側を太平洋岸に面し、西側を阿武隈山系に挟まれた穏やかな気候の地域である。人口は約8千人、103km2の面積を有し、町内には肥沃な農地、木戸川の水産資源、Jヴィレッジ、東電福島第二原発がある。原発事故後、半径20km圏内のため会津美里町へ全町避難、その後いわき市に再移転し現在に至っている。当初、警戒区域指定であったが、平成24年8月10日に避難指示解除準備区域に変更、立入りのみが可能となっている。
 全町民避難は、4年目に入り、避難先自治体と連携をしながら、将来展望が見えない中でも住民サービスの維持に全力をあげているが、5月29日町発表の帰還時期については、当面平成27年春をめざすとし、そのための条件整備を急いでいる。


2. 大震災前後の予算の変化

(1) 歳 入
 表で明らかなように、自主財源である地方税の大幅落ち込みによる地方交付税の増、加えて震災復興特別交付税措置、震災関連事業交付金増により、平成21年度と平成24年度比較で5,123,103千円増、約2.04倍の歳入規模である。

自主財源と依存財源

 自主財源は平成21年度3,038,454千円から平成24年度3,792,949千円で754,495千円(24.83%)増、財源全体のうち自主財源が占める割合は、61.7%から37.8%と大きく減少している。これは震災復興関連交付金・事業補助金が増えたことに起因する。平成23年度からは自主と依存の割合が逆転している。

 特徴として言えるのは、これだけ依存財源が増えているものの、平成24年度での類似団体の自主財源比率が28.6%に対し楢葉町は37.8%であり、平成23年度から依存財源比率が異常に伸びているものの、これでも依存率は類似団体よりかなり低い。

歳入内訳の推移
 地方税、地方交付税、国庫支出金、地方債のうち、地方税は大幅減、地方交付税は震災復興特交で天文学的な数値で増、国県支出金は交付税同様に震災に関わる国県からの交付金の増、地方債は復興に関する交付税等の伸びに反比例して減少している。また、その他の収入が増加しているが、これは震災復興への寄付金である。
 地方税は、平成21年度と平成24年度比較で、主たる税である「市町村民税・固定資産税・軽自動車税」の3税で885,975千円(-39.70%)減、地方税全体では、925,063千円の大幅減(-39.57%)である。
 この要因は、避難のために申告ができない町民が多数いること、申告後課税されても減免措置になるため、収納された地方税収入のほとんどが、法人への町民税と固定資産税である。つまり東京電力らの収納である。
 
地方税の内訳推移

普通交付税・特別交付税・震災特別交付税の推移

 地方税減収に反比例し、交付税は1,834,288千円増、比較で17.2倍と大きく伸びた。
とりわけ、復興特別交付税が大きく、平成24年度では1,946,988千円の地方交付税総額の85.8%、1,671,355千円が交付されている。


電源三法交付金の割合推移

 国県支出金のうち、電源供給施設自治体への交付金に電源立地地域対策交付金等のいわゆる三法交付金がある。国県支出金は21年度と24年度対比では2,725,206千円増(2.92倍)となっている。うち三法交付金比較では、207,532千円増(1.25倍)と微増している。全体の伸びは復興関係であるが、三法交付金は依然として東電1F2Fが現存しているため事故以前の水準となっている。
 支出金が2.92倍と大きく伸びているが、主な内容は8回分の復興交付金である。楢葉町には、帰還事業分と効果促進分を合わせた19事業、2,076,473千円が交付され、防災集団移転促進事業、造成宅地滑動崩落緊急対策事業、災害公営住宅整備事業、住宅建設物安全ストック形成事業、津波シミュレーション計画策定事業などがある。

(2) 歳 出
 歳出全体では、5,654,578千円増、3.39倍の伸びである。

性質別経費推移

 性質別では、4年間で大きく変動した項目に絞って見てみると、物件費が21年度も24年度でも同水準である。同様に他を年度比較すると、繰出金は2.48倍に拡大する。積立金でも8.64倍に膨らんでいる。災害復旧費は復旧復興に関わっての増で、集中的な財源投入が見て取れる。

 一方、扶助費は生活必需品支給等の災害救助に関わる経費で1.9倍増、補助費は3割減で、避難のため通常事業補助が縮小したためと言える。
 普通建設事業費が減少しているが、これはインフラ復旧を災害復旧事業で実施したためである。

目的別内訳推移

 目的別では、避難している影響が表れており、衛生費・農林水産費・商工費で「-29.29%、-29.95%、-46.47%」と、24年度が21年度水準より相当落ち込んでいる。これは通常の政策展開ができない現状を示している。総務費は、復興交付金等積立金が増加したものが主で年度比較は4.21倍、民生費は見舞金支給事業等で1.53倍、労働費は緊急雇用対策事業で9.04倍、教育費は仮設校舎整備事業で23年度比較では増加している。

3. 財政指標分析

(1) 標準財政規模・基準財政収入額・基準財政需要額
 標準財政規模は、通常収入される経常的一般財源規模を示すもので、標準税収入額等に普通交付税を加算した額。基準財政収入額は、普通交付税の算定に用いるもので、自治体の財政力を一般財源ベースで把握するため通常税収のこと。同需要額は、合理的かつ妥当な水準における行政執行するため、財政需要の項目ごとに費用単価を求め算出する。
標準財政規模・基準財政収入及び需要額推移

 標準財政規模と比較した予算規模は平成21年度で1.7倍、類似団体が1.3倍と比べ大きい。24年度も楢葉が3.6倍に対し類似団体は2.0倍と比べ極めて大きい。これは震災復興予算が類似団体をはるかに超えて措置されていることであり、今後のインフラ等のランニングコストが増大したときに、現在同様の財源確保がされるかは懸念される。

(2) 実質収支・単年度収支・実質単年度収支
 歳入決算額から歳出決算額を単純に引いた額が「形式収支」。形式収支から翌年度に繰り越すべき財源を控除した額を「実質収支」といい、単年度収支は、その年度中に発生した黒字又は赤字をいい、当該年度の実質収支から前年度の実質収支を差し引いて求める。実質単年度収支は、単年度収支に地方債の繰り上げ償還額と財政調整基金への積立金を加え、積立金取り崩し額を差し引いたものである。

実質収支・単年度収支・実質単年度収支の推移

 実質収支を累積と見れば良好な黒字で、類似団体比較でも平成24年度で20倍の値。単年度収支も同様で、財政の安定さを示している。実質単年度収支は2か年で赤字だが、これは繰上償還分を見送ったのと財調基金の大規模取崩が要因である。

(3) 財政力指数
 財政力指数とは、各自治体財政の力を示す指数で、基準財政収入額を基準財政需要額で除して得た数値の過去3年間の平均値。財政力指数が高いほど自主財源の割合が高い。

財政力指数・実質収支比率・公債費負担比率の推移

 楢葉町は震災復興関連事業で平成21年度から24年度で、1.12→1.04→0.95→0.93と0.19下がっている。一方の類似団体は、0.35→0.34→0.32→0.30とほぼ横ばいである。減少幅は大きいことだけが目立つ。
 参考値として隣接の富岡町を見ると、0.92→0.89→0.86→0.85と若干の減少はあるものの、復興関連での交付金などが楢葉町と比較し巨額でないため減少幅は小さい。

(4) 経常収支比率、公債費負担比率、実質公債費比率
 経常収支比率とは、税などの一般的な財源を人件費や扶助費、公債費など経常的に支出する割合。

経常収支比率・公債費負担比率・実質公債費比率の推移

 平成21年度から平成24年度で5.8ポイント伸びている。これは前述のとおり地方税の大幅減に伴うもので、数字の上では財政の硬直化が指摘できる。逆に、公債費に充てられた一般財源の額がその財源総額に占める割合を数値としての公債費負担比率は3.8ポイント減少、借金返済に充てられた額が減っていることを示しており、政策的支出が増えていることの裏返しである。

 平成17年度から導入された実質公債費比率は、一般財源に対する公債費の割合で、震災後に大幅にその割合が減っているのがわかる。

地方債残高・財調基金・減債基金の推移

 地方債残高、標準財政規模臨時財政対策債の発行増により以前と比較して数値が高い。
 積立金残高は取崩型と果実運用型の合計額比較は、36.1億(2.2倍)増であり、このほとんどが復興予算関連。諸事情により執行が先送りされた財源で、交付税は財調、交付金は目的基金である。

4. 類似団体との比較

 類似団体比較では、隣接する地域の自治体比較が原発事故の影響を大きく受けていることから、中通り県北地方(県中央部)の人口規模1万人で典型的な「3割自治体」と比較してみた。
 数値は明らかに、震災以前も以後においても、財政的な厳しさを読み取れるのは圧倒的に類似団体である。その意味で、楢葉町が事業を展開するうえでの財政的な裏付けに問題はないと考えられる。
 ただ、避難指示の解除時期が明確に定まっていない現状では、町の帰町計画・復興計画・振興計画に基づいた事業展開は一部制限されている。
 類似団体が資材不足や人手不足に中にあっても、一定のスピードで復興と中長期的町づくりに推進できるのとを比較し、避難継続が復興の最大の障害であると言わざるを得ない。
 個別には特徴ある項目のみ比較した。
 歳入合計で平成21年度に6億ほど楢葉町が上回るが、平成24年度は32億と差が拡大する。国県支出金も同様に10億差が23億へと2倍差になる。
 地方交付税は楢葉町が19億少なかったものが5億差に縮まっている。
 以上の項目は、国等からの復興予算の配分規模がそのまま表れた格好だ。一方、地方税は21年度と24年度比較で、13億差から5億差に縮小する。
 これは言うまでもなく、楢葉町では避難による税の減免措置で東京電力収納分を除き、地方税が確保されないためである。なお、類似団体でも1.1億(9.9憶→8.6億)税収が落ち込んでいる。
 歳出合計は、21年度比較で楢葉町が類似団体より18億少なく、24年度では逆に18億多くなる。これは避難解除後の帰町に向けての各種事業が、同じ避難自治体の中でも相当大きく、当然類似団体より事業数が多いためである。
 性質別では、楢葉町がここ4年間で大きく変動した項目に絞って見てみると、物件費が21年度も24年度でも同水準である。同様に他を年度比較すると、繰出金は楢葉町で上回る額が1.6億から10.3億に差が拡大する。積立金でも楢葉町が上回り1.4億から19.5億に膨らんでいる。災害復旧費は24年度のみの比較で、3億強楢葉町が上回る。これらはいずれも復旧復興に関わっての増で、集中的な財源投入が見て取れる。
 一方、補助費は楢葉町が2.5億少なくなっているものが24年度では4.2億に差が拡大した。一概には言えないが、避難のため通常事業補助が縮小したための格差拡大と言える。
 普通建設事業費が楢葉町では減少しているが、類似団体では21年度の2.2億から6.2億へ約3倍弱に伸びている。これはインフラ復旧を災害復旧事業で実施した楢葉町に対し、類似団体は普通建設事業で実施したためである。
 目的別は、楢葉町は避難している影響が表れており、衛生費・農林水産費・商工費で24年度が21年度水準より相当落ち込んでいる。
 財政諸指標のうち、財政力を示す財政力指数は、楢葉町が1.12から0.93に若干弱まっているものの、類似団体(24年度町村平均0.39)は0.35から0.30へと下がっている。
 財政の弾力性を示す経常収支比率は、楢葉町が94.1から119.9に、類似団体は81.8から80.7で水準的には同じレベルといえる。起債制限を測る実質公債費比率は、楢葉町が11.6から7.4と大きく改善させているのに比べ、類似団体も17.4から11.1へと同様に改善している。
 最後に債務残高と基金額を見てみる。
 地方債残高は、楢葉町が25.5億から21.4億と4億残高が減少しているが、類似団体は52.2億が51.8億へと幾分減少しているものの、債務規模は楢葉町の2倍を超える。
 財政調整・減債基金と特定目的基金の合計残高は、楢葉町が29.7億から65.9億へ倍増しているが、類似団体(24年度町村平均36.6億)は14.6億から19.8億へ伸びているものの平均を大きく下回る。
 あえて俯瞰的な言い方をすれば、町の将来像を展望するためにも、余剰資金のより具体的な目的別基金の造成検討が不可欠である。

5. おわりに

 今回だけで十分な分析はできないが、町が町民の厳しい避難生活を支え、将来の町づくりのために手さぐりながらも節度ある財政運営をしていることは論を待たない。
 誰も経験したことのない避難自治体の運営は、行政と町民が置かれている現状認識を共有し、帰町までの生活再建準備と帰町後の生活再建施策では、行政と町民の認識のズレをできる限り小さくするのが肝要である。
 アンケート結果でも、40%の町民が帰町する意向があると同時に、35%が態度未決、25%が帰町しないと回答している。
 また、帰町する際に大きな問題となるのは、住環境の整備である。警戒区域指定が解除されるまでには、壊れた個人住宅は雨漏りなどで腐食・カビ・ネズミ被害により損傷や汚染が顕著で、ハウスクリーニングとリフォームは不可欠である。
 アンケートでも75%の世帯で住宅被害を訴え、その80%の世帯で修繕やリフォームをしないと住めないと回答している。ただ現状は、修繕・リフォームする工務店不足と労力不足により、他の自治体でも未だ「順番待ち」の状態でもあり、帰町するための条件整備の大きな障害になっている。
 これに対する町民からの苦情や要望も強く、産業・雇用・医療・福祉・健康・食・教育・交通・防犯・地域コミュニティなど、克服すべき課題は広範かつ困難性を極め、財政措置の在り様すら不透明である。さらに、これら私的財産保全に行政が資金投入できるのかも不明だ。
 また、次代を担う子どもたちをはじめ全ての町民が安心して暮らし続けられるよう、大規模医療機関の誘致や継続的な健康診査が重要だし、当面は公的仮設診療所の設置も要望として強く、これらの財源確保も課題としてあげられる。
 いずれにしても、大震災と原発事故からの復興再生は、誰も経験のない避難解除後の町づくり、心と心のつながりを取り戻す地域コミュニティの再構築など、阪神・淡路大震災や中越地震、三宅島全島避難をはじめとする日本が経験してきた大災害からの復興とは、全く異質の要素ばかりと言える。
 従って、前例にとらわれない「ヒモ付き財源の執行」を前提として、機動的で使い勝手の良い財源となるよう国県は配慮しなければならない。
 加えて、膨大な業務を処理する人的配置も不可欠であり、精神的・肉体的ダメージを隠し我慢する職員にも限界がある。機械的に財源を交付して被災自治体を縛り付けるような姿勢は、この災害の異様さ・異常さ・規模から現に慎むべきであり、地域全体が一つになりきれる環境づくりも国県の役割である。
 復興再生は楢葉町とそこに住む町民が主役でなければならない。