【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

 東日本大震災は、巨大地震による液状化現象や地盤沈下および地震動によって発生した大津波により、広範囲にわたる壊滅的な被害をもたらしました。広島県職連合土木建築協議会では、東日本大震災後、三度に渡り被災地を訪れ、現地での視察やボランティア活動を行いました。本レポートでは、被災地を訪れた経験を踏まえ、限られた財源のもとで、今後の危機管理対応として何が必要か、現状の何を変えるべきなのかを考えます。



東日本大震災から防災と危機管理を考える


広島県本部/自治労広島県職員連合労働組合・土木建築協議会

1. はじめに

 2011年3月11日に発生した東日本大震災は、私たちの防災や危機管理に対する認識を大きく変えさせる転換点となりました。危機管理については、震災以前にも想定される規模の災害から生命と財産を守るために、ハードとソフトの両面で様々な検討と対策が実施されてきましたが、今後は、これまでの想定を超える災害に対しても、いかにして生命を守り、被害を最小限にとどめるかが課題となります。
 防災・減災という視点で考えれば、ひとたび災害が発生しても被害を増大させないための防災施設の整備や災害に耐えうる構造物の建設・改築そして補強といったハード対策と、様々な情報提供や日常的に行う防災訓練などのソフト対策が必要となります。また、危機管理という視点で考えれば、ハザードマップの作成や迅速かつ広域的な支援・情報伝達体制の構築が必要となります。
 広島県は、地理的要素から土砂災害危険箇所が日本一多い県であり、異常気象や地震などに伴った災害がいつ発生してもおかしくない状況です。そのためには日頃からの災害に対する準備を怠らず、県民全体で自助・共助・公助による備えが重要となります。
 広島県職連合土木建築協議会では、東日本大震災後、三度にわたり被災地を訪れ、現地視察やボランティア活動を行いました。本レポートでは、被災地を訪れた感覚を基に、私たち自治体土木職員の視点で今後の危機管理として何が必要か、現状の何を変えるべきなのかを考えます。

2. 現状と課題

表1 東日本大震災の被害状況
発生日時:2011.3.11 14時46分
震源及び規模:三陸沖牡鹿半島の東南130km付近
マグニチュードMw9.0
人的被害 死者 15,883人
行方不明 2,671人
負傷者 6,145人
震災関連死 2,688人
建築物被害 全壊 126,458戸
半壊 272,191戸
一部損壊 741,684戸

(1) 東日本大震災の被害
 東日本大震災では、巨大地震とそれにより引き起こされた液状化現象や地盤沈下により、広範囲にわたりインフラ・ライフライン等に被害が発生しました。さらに、この地震により発生した大津波は、人的被害や建物被害など太平洋沿岸に壊滅的な被害をもたらしました。また、海岸部のみならず、河川を遡上し流下した津波が河川堤防を越えて内陸部にまで甚大な被害をもたらしました(表1)。

(2) 大震災で見えてきた課題
 従来の災害対策の多くは、水害や土砂災害に対する治水・斜面対策構造物の設置や土木構造物の耐震補強、インフラ整備など、想定される災害を防ぐためのハード対策が主体でした。東日本大震災の発生により、国が絶対安全と言い続けてきた原子力発電所や、誰もが安全だと思い込んで避難所に指定された学校や公民館、堤防等の防災施設までもが被災し、多くの住民が危険にさらされることとなり、想定外の災害にはハード対策による防災だけでは限界があるということが改めて突き付けられました。また、多くの県にまたがるような広域的な災害に対する体制についても整備ができておらず、災害対策を担う自治体自身が壊滅的な被害を受けた場合に災害対応が機能不全に陥るという問題も露呈しました。
 今後は、従来のハード面のみに頼った防災対策だけではなく、減災等の考え方を取り入れた対策が必要になってきます。大震災以降、国の中央防災会議、復興構想会議等において様々な議論がなされ、社会資本整備審議会・交通政策審議会計画部会における緊急提言では、「災害に上限なし」という認識のもと、「人命が第一」としてハード・ソフト施策を総動員する「多重防御」を防災・減災対策の基本とすることが確認されています。
 広島県は、土砂災害危険箇所が日本一多い県です。いつ・どこで大きな災害が起こっても不思議ではありません。土砂災害は人命を奪う災害であり、深夜に発生すれば二次災害の危険性もより高く、緊急時に避難する方法やルートを確認しておくなど、普段からの防災意識がいざという時に役に立ちます。一部対策が始まっているところもありますが、身近な危険に対しての備えはまだまだ十分とは言えない状況です。
 また、被災者にとっては復旧が完了するまでが災害ですが、時間の経過とともに、マスコミ報道の状況を含め、私たち自身の関心が薄れているのが現状です(表2)。このことは、2010年7月に広島県北部で発生した庄原豪雨災害でも、同じ県内でありながら現状を把握している方は少なく、身近な課題と言えます。「災害を忘れない」ことが、次の災害に対する備えになります。広島県では、これまでも大きな災害を経験していますが、その経験と反省を生かした、防災計画の策定が求められています。

表2 復興の現状
  発災時 復興状況(2014.3) 進捗状況
避難者数 約47万人 26.7万人 57%
ガレキ処分 1,750万t 1,663万t 95%
海岸施設 471地区 72地区 15%
河川施設 2,115箇所 2,113箇所 99%
交通網(復興道路) 570km 209km 37%
交通網(鉄道) 2,350.9km 2,079.7km 88%
交通網(港湾) 131箇所 106箇所 81%
農地 21,480ha 13,470ha 63%
※出典:復興庁『復興の現状』(2014.3.10)

3. 県の役割

 東日本大震災を受け、多くの県にまたがる広域的な災害に対する体制についても課題が浮き彫りになってきましたが、ここでは、災害が広島県内全域で発生した場合を想定した県の役割を検証していきます。

(1) 現在果たしている役割
 広島県全域にわたる土砂災害に対して、県としての役割は次のようなものが挙げられます。ハード対策、ソフト対策とも、災害発生前の準備段階から発生後の対応まで、情報共有は図っていますが、県、市町がそれぞれ個別に対応しています。

(2) 現状の課題
 まず、1点目の課題としては、老朽化する社会資本の維持管理の課題があります。
 厳しい財政状況の中、年々公共事業費は減少しており、新たな社会資本整備は遅延する一方で、過去に整備された維持管理対象施設は増加しており、施設数に応じた維持管理費が確保できていない現状があります(図1)。また、県の技術職員数の減少により十分な施設点検ができず、外部委託に依存せざるを得ない実態があります(図2)。さらに、施設点検においては、点検者により判断基準のバラツキがあることや、管理水準が未設定の施設があるなど、点検結果から修繕計画へ反映させることが困難な状況となっています。これらのことから、これまで災害対策の主体としてきたハード対策自体が徐々に困難になってきています。

図1 土木局予算における維持管理費の推移 図2 土木・建築職員数の推移

 2点目は、広域的な災害が起こった際の対応です。仮に県内の広い範囲で被災した場合には、県・市町とも災害箇所数が相当数に上ると予測されます。現状では、県・市町ともに、それぞれの管轄する施設・社会資本への対応が必要となりますが、県内の業務委託、建設工事請負業者数には限りがあり、災害復旧事業の迅速な実施が困難となることが予想されます。
 3点目は、各種の情報管理をしている部署が異なり、システム連携が困難な状況や、補完システムが不十分な状況があることです。
 4点目は、災害時の情報収集と伝達に関する課題です。広島県の職員数は減少しており、それと同時に組織再編により事務所管轄範囲は広域化し、長距離通勤者も多くなっています。これらのことから災害時の被災現場における迅速な初動対応が困難となっています。また、市町との連携において、大規模な災害発生時には市町も現場対応、住民対応でかなりの人員が必要となり、県が市町に求める被災状況等の情報収集が困難となっています。

(3) 今後の役割のあり方
 ここまで述べてきたように、東日本大震災を契機に、想定外の災害や広域災害への備えと人命を第一とするハード・ソフト施策により、防災・減災対策が求められています。しかしながら、限られた予算や人的資源の中で、これまでの県-市町が独自に対応する体制では、災害対応が困難になることが予想されます。県がこれまで行ってきた災害時の対応や災害復旧事業実施のノウハウを活用し、市町と共同で実施していくことにより、地域全体の安心・安全につなげていくことが必要と考えられました。

4. まとめ

 今後、大規模な災害等が発生した際には、県と市町といった行政単位の垣根を越えた連携・協力が必要となるのは間違いありません。その場合、いかに迅速かつ効率的に対応できるかが住民の生命と財産を守る鍵となります。
 そのために県が果たせる具体的な役割は次のとおりです。

(1) 県の技術力を生かした市町支援
① 大規模災害発生時に、技術者の少ない市町については、県と市町が合同で災害調査を行い、復旧工法等の助言を行う。
② 管理施設の維持管理に関する技術支援(共同点検)を行う。例えば、橋梁点検やトンネル点検を合同で行えば、管理水準の平均化が図れる利点もある。
③ 現在でも県管理区間と市町管理区間が近接する箇所は同一箇所として復旧工事を実施する場合があるが、その範囲を拡大し、災害箇所の規模によっては、県と市町が一体で復旧工事を行う。

(2) 県と市町の情報共有
① 大規模災害発生時に共同で情報収集を行う。情報収集センターを県と市町にそれぞれ設置するのではなく、県と市町の合同の情報収集センターを設置する。
② 建設機械や災害物資の備蓄状況等を共有し、必要なときに相互調整する。

(3) 県と市町の連携
① 大規模災害発生時には、県と市町の連携だけではなく、市町間の連携も必要となってきますが、その連携のイニシアティブを県がとる。
② 災害箇所の位置や規模によっては、県と市町が一括で復旧工事の発注を行う。

 以上のように、制度改正等の整理を必要とする内容もありますが、県と市町が連携・協力することで、より迅速かつ効率的に対応できることは多くあります。
 インフラ整備も進む中、アセットマネジメントの時代とも呼ばれていますが、広島県においても管理施設は年々増加しています。しかし、施設維持に係る経費と体制は横ばいとなっています。さらに、度重なる人員削減と所管区域の広域化により、県と市町が連携するための体制づくりはより厳しい状況となっています。
 今後、維持管理に係る経費確保とともに、災害に対しても県と市町が連携し対応できる体制づくりが不可欠です。

<復興状況>

南三陸町 2011.10.30   南三陸町 2012.11.18
 
気仙沼港 2011.10.30   気仙沼市 2012.11.18
 
気仙沼市 2011.10.30   気仙沼市 2012.11.18
 
雄勝町 2011.10.30   雄勝町 2012.11.18