【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

これまで注目されなかった公共施設の未来を考える


鳥取県本部/鳥取市役所職員労働組合・副執行委員長 宮谷 卓志

1. はじめに

 "公共施設(ここでは、いわゆる「ハコモノ(建物)」を示す)"は何だろうか。
 私たち地方自治体で働く者にとって、公共施設は"働く場"である。
 また、私たちが地域に戻り、住民に戻れば、公共施設は"公共サービスを受ける場"もしくは"直接利用する場"となる。
 この町に生まれ、義務教育を受け、図書館で受験勉強し、公務員となった。今度は我が子を保育園に預け、オフタイムには体育館で汗を流し、休日は家族で公園や観光施設に向かう。地域行事で公民館を使い、年老いた祖母は福祉施設に通っていた。
 私たちの身の回りに数多く存在し、"どこの町にも当然あるべき存在"となっている『公共施設』が大きな転換期を迎えている。
 労働組合が、「(公務)職場を守り、良質な公共サービスを提供していく」と簡単に言っても"国も地方も財源は限られている"という現実から目を背けてはいけない。自治労組合員も"転換の必要性"を理解し、中長期的な視点で財政運営をチェックするためにも、これまでとは違う視点を持ち、"まちづくり"に関わっていく必要があるのではないだろうか。本レポートは、「公共施設の更新問題」への対応について、鳥取市における取り組みを紹介することを軸に、自治体職員として、一住民としてどのように考えていくべきか問題提起するものである。

2. "公共施設の更新問題"ってなんだ?

鳥取市における人口推移・推計

 学校や公営住宅など、公共施設の多くは、1970年代以降の高度経済成長期に集中して建築・整備された(もちろん道路・橋りょうなどの「インフラ」も同様)。それから数十年が経過し、公共施設の多くが建替えや大規模改修といった"更新"が必要な時期を迎えつつあり、多額の出費が予想されている。さらにこれらの施設は建築時期が集中しているから、当然、更新時期も集中することになる。世界でも稀な経済成長を果たした日本は、世界でも類を見ないスピードで訪れる「公共施設の更新に対応する必要があるということになる。
 また、今後、日本全体で人口は激減する。少なくなる人口で、公共施設を更新する財源をねん出する必要がある。簡単に言うと、「国や自治体は、減る収入(税収)でたくさんの支出をする」というギャップを解消しないといけない。
 さらに、世界でも有数の高齢社会となっている日本は、扶助費など福祉に係る費用が増大している。経済情勢から見ても、国・地方ともに、全ての施設の更新経費をねん出できる財政状況にないというのが普通の見解である。これが"公共施設の更新問題"と呼ばれる国・地方が抱える共通の課題である。


3. 鳥取市における人口減少と公共施設のバランス

年齢構成の変化

 国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、日本の人口は減少を続け、鳥取市の人口は現在の20万人弱から、2040年には15万人台となる。これは、高度経済成長期以前の規模であり、鳥取市は市町村合併(2005年に9自治体が市町村合併した)前の数値となる。数字だけ見ると、合併した8自治体の人口規模がいなくなる。
 また、人口は数だけでなく、その構成も変化している。超高齢社会となり、15~64歳までの生産人口に属する1人で、若年層と高齢層の一人役を支える必要があると言われている。しかし現実的には、16~22歳も大部分が学生であり、生産人口に支えられる立場である。そう考えると、私たちの子どもたちの世代は、高齢者(私たち)をおんぶし、我が子を肩車しながら生きていくことになる。
 一方で、公共施設は増加の一途をたどっている。変化する住民ニーズに対応するため、新しい施設の整備が求められ、利用されなくなった施設も取り壊されずに「他用途への転用を検討」とされつつ課題が先送りされている。
 果たして、このままの行政運営を続けていて大丈夫なのだろうか。


4. どのシナリオを選択するのか、住民と共通認識を図る

 ほとんどの自治体で財政状況が厳しく、施設の修繕費を十分に確保できない状況にある。施設は、刻一刻と崩壊に向けて進んでいる。昨日まで使えた施設の壁が突然、剥がれ落ちる可能性もある。「あなたの大事な人が、いつもの体育館でいつもどおりバレーをしていて、急に天井が落ちてきて命を落とす……」。有り得ない話ではない。施設は建ててから劣化し続けていて実際に色々な施設の不具合や事故が起き始めている。
 では、全ての施設を新しく更新すれば問題はないのか。きれいな施設で住民も満足するだろう。イマの世代はいいかもしれないが、子や孫の世代には財政破たんを迎えるかもしれない。長期的な視点を持ち、計画的なまちづくりをしなければ、公共施設(ハード面)や公共サービス(ソフト面)の質だけでなく、職員の給与水準も地まで落ちる。
 私たちは、イマこそ思い切った変革を求めて取り組む時期ではないだろうか。
公共施設の整備には、地元要望や財政状況、政治的判断といった様々な条件があったと想定される。こうした公共施設の一つを見直すだけでも、そこには"既得権益"や"事なかれ主義"、"先送り""私利私欲"など、取り組みを阻害する要因は数多くある。
 しかし、これを乗り越えていかないと「自分たちの住む町を守ることはできない」ということを認識し、各自治体は決断することが求められている。

5. 施設に対するイメージを"見える化"

 鳥取市では、決断することとした。「公共施設白書」を作成し、公共施設の現状や課題を「見える化」したのである。白書の中には、行政・施設利用者・地域住民にとって見たくなかった、伏せておきたかったデータが数多くあったと思う。例えば、
① 10年後には、建築後30年以上となる施設が全体の7割にのぼること
② 市町村合併前に整備した集会施設が、他地域と比較して突出している地域があること
③ 利用者がほとんどいない文化施設における利用者1名にかかる公費の多さ
④ 民有地に整備された施設に支払われている賃借料の多さ
⑤ 地区体育館と学校体育館に加え、総合体育館も並んで整備されていること
⑥ 現在の公共施設を維持し続けるために必要な更新費と、現在、公共施設に充てている費用との差額が年間18億円以上になること(それが50年続くため1,000億円近くの不足)
など、他にも多くあるが、こうした現状と課題を住民・議会と共有するために策定した白書であり、「公共施設を見直していく必要がある」という共通認識を図る資料である。

施設の老朽化(見込み)


 公共施設は、自治労組合員も働く場でもあり、"見直し"は慎重に検討する必要があるが、鳥取市職労においては、"見直しを図らないと財政破たんにつながり、組合員も職場、自治労運動も守ることができない"という認識にある。
 他自治体では、"見直しに反対"という姿勢を取る組合があると伺っているが、鳥取市職労は、自治研究の一環として「公共施設の更新問題」を取り上げるなど、この問題に対して真っ向から立ち向かっている。労使一体となって取り組まなければ全てを失ってしまうのではないかという危機感の中、日々検討を行っている。


6. 施設は減らすが機能は残す

 公共施設は、公共サービスを提供する場、または住民が直接利用する空間として設置されている。公共施設の見直しには、まずどういった住民ニーズがあるのか、どういったサービスを提供する必要があるのか、を考える必要がある。
 その次の段階として、サービスを提供するために、施設(建物)が必要なのかどうか、を考えることになる。人口も減り、高齢者が増え、ICT(情報通信技術)が進歩する中、サービス提供のあり方を見直す時期ともいえる。
 この段階で施設が要らないと判断された場合、用途転用や民間譲渡を考えることとなる。中には取り壊して土地を売却することもあるかもしれないが、ここで大事なことは「とりあえず残しておこう。無償貸与で使ってもらおう。」という選択をどれだけ選ばない状況にできるかだと思う。施設が残っていれば、地元からは「勿体ないから貸してほしい」「地域のために活用したい」という話もあると思うが、それであれば地元所有にしておく必要がある。そうしないと施設の維持修繕や管理費、場合によって更新経費も必要になるからである。目的を失った施設を保有することは負債を抱えているのと同じかもしれない。
 一方、施設が必要と判断された場合、直接自治体が保有すべきか、民間から借り上げるか。また、必要となる施設の規模はどの程度か……など考えることとなる。もっと言えば、サービスの提供主体が自治体なのか民間なのか、という点も考えていく。
 このようにサービスを維持しつつ保有施設の総量をいかに減らすかに着目しながら、段階的に整理する必要があると考えられる。こうした取り組みは、住民・議会・組合との調整が必要となってくる。
 少し厳しいかもしれないが、自治体は公共サービスを提供することが目的で設置されており、公共施設を維持しても、必要な公共サービスを維持できないようであれば既に自治体ではない。
 鳥取市では、今後、「公共施設の最適化に関する基本方針」を策定する予定としている。
 その方針の中には、施設量を減らす目標値の検討がなされているが、施設にかかる費用は施設の延床面積に比例することから、目標設定は重要となる。財源確保の考えとして、歳入を増やすのではなく、歳出を減らしつつ、公共サービスを維持しようというものである。
 そのための手法としては、施設の複合化や統廃合など、様々な手法があるが、個別の計画は基本方針の策定後、議論を重ねる予定としている。

7. 縦割り行政からの脱却

 今後、鳥取市では公共施設のあり方を考えていくが、そのためにはこれまでの慣習を打ち破る必要があると思っている。自治体が持つ財産は、「ヒト」「カネ」「情報」「モノ」と言われ、これらの限られた財産を有効活用して公共サービスを提供している。
 鳥取市の場合、「ヒト」は職員課が配置し、「カネ」は行財政改革課が配分し、「情報」は情報政策室がシステム管理している。しかし「モノ」にあたる公共施設は、各所管課が保有し状況を把握している。
 これは、公共施設が各設置目的に応じて整備されており、整備にかかる補助金や予算費目等の関係から各所管課管理という現在の状況となっている。このやり方には、施設に関する責任の所在が明確になるという利点もあるが、横の連携が取れず、情報の一元化もできにくいという面もある。
 仮に新たなサービスを提供する必要が生じた場合、所管課は、新たに施設を整備することを考えるかもしれない。ここで横のつながりがあれば「イマ使っていない施設があるから使っていい」「建替え予定の施設があるから複合した施設にしよう」など、さまざまなアイデアが考えられるだろう。
 縦割り行政も重要であるが、縦横の連携が取れた体制を構築することで、よりよい自治体運営が実現できるのではないだろうか。

モノについても横のつながりを

8. 公民連携の必要性

 こうした公共施設のあり方を見直していくうえで、自治体(行政)だけの取り組みでは限界があると思われる。
 鳥取市においても、廃校となった小学校を民間企業に貸し出して植物工場に活用していただく、施設の空きスペースを郵便局に貸し出すといった取り組みを展開し、成果を挙げているが、様々な形で民間企業(事業者)や住民との連携することが、公共施設の生きた使い方につながると思われる。
 ここで重要なことは、公と民でWIN-WINの関係を築くことにあると思う。公が持つ施設(ハード)という財産と、民が持つアイデアやノウハウという財産を上手く融合させることが必要である。
 横浜市では、公衆トイレのネーミングライツ(命名権)を買った事業者が、その対価としてトイレの修繕や管理で返すという例があった。これは、資金的に潤沢でなかった事業者からの申し出によって実現したもので、事業者は自社が持つ技術でネーミングライツを得たのである。一方、自治体はトイレにかかっていた経費を削減することができた。
 こうした公民連携は、きっかけや発想も大事であるが、公と民が何を持ち、何を欲しているかをお互いに知る必要があると感じた。今後、こうした取り組みを研究し、情報発信することで、鳥取市においても民からの提案を受け入れる体制を検討していきたいと考えている。

廃校となった小学校の一部を植物工場として活用。
障がい者の雇用創出や税収の増にもつながっています。

9. 地方から始まった見直しの動き

 こうした公共施設を見直す取り組みは、各地方自治体で研究がなされ、全国の自治体で連絡会も結成されている。国と違い、住民に近い公共施設を持っており、住民と直接対話する機会が多いのが地方自治体である。
 だからこそ先進自治体と言われるようになった10年以上前から「公共施設の更新問題」に気づき、ゼロから研究を開始し、真剣に取り組んできた。その結果が全国に波及しつつあり、鳥取市もその波に乗るため必死にもがいている状況である。
 この動きに追随するように、国は取り組みを始め、国土交通省のインフラ長寿命化計画に続き、本年4月に総務省がやっと「公共施設等総合管理計画」の策定を全ての地方自治体に要請した。笹子トンネル天井板崩落事故といった大惨事で議論が加速したかもしれないが、地方自治体の取り組みや各方面の有識者の意見が、この取り組みを後押ししているものである。(それにしても国の動きはかなり遅いと感じてしまう。)

10. 将来に負担を先送りしない

 「公共施設の更新問題」を語れば、大多数の方は「公共施設を見直そう」「施設を減らして経費削減しよう」など、施設の縮減に肯定的な意見が出される。鳥取市におけるモニター調査でもそうなっている。しかし、個別の施設名が出た途端に「なくなっては困る」「なぜ減らすのか。反対する」といった意見が出てくる。
 減らす対象となる施設には、減らす理由・原因がある。しかし、市民の施設への思いは強い。その気持ちも理解できる。こうした『総論賛成・各論反対』をどれだけ減らせるか。それが「公共施設の更新問題」に取り組むカギになると思われる。
 そのためには、市民、議員、自治体職員の意識を変えていくしかない。
 地元や議員にとっても"自分の地盤を豊かにするために整備した施設"という思いも当然あると思う。しかし、「"施設があるから豊か"という考えからどう脱却していくか。」という根本をどこまで共有できるか。鳥取市はこの部分を強く取り組んでいる。
 どんなに素晴らしい「公共施設見直し・縮減計画」を策定しようと、市民の理解が無いと進まないし、進めたとしても納得いく"まちづくり"には程遠い。
 地方自治体は、住民のために存在するのであり、まちづくりの判断は住民にある。この前提を踏まえつつ、私たち自治体職員は、住民と共通理解を図り、住民と共に中長期的に見て正しい判断をしていくことが重要である。
 鳥取市に暮らし続けるため、子や孫の世代に胸を張って"まち"を引き継いでいくため、「公共施設の更新問題」を先送りせず、イマ取り組む必要がある。
 この取り組みの中で、労働組合はどう関わっていくか。組合ができることは何か。組合=組合員=自治体職員である。地方自治体の労働組合であればもっと踏み込んでもいい取り組みではないだろうか。