【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第2分科会 地方税財政と公共サービス

 2013年4月1日、臼杵市は「市民が幸せを実感できるまち」の実現をめざし、市民が主役のまちづくりを実践するための道標となる「臼杵市まちづくり基本条例」を施行しました。臼杵市はなぜこの条例を必要としたのか、また、施行されるまでの経過を報告し、そして今後どのように活かしていくかについて考察します。



臼杵市まちづくり基本条例について
―― 市民が幸せを実感できるまちをめざして ――

大分県本部/臼杵市職員労働組合 甲斐 崇臣

1. 「自治基本条例」の必要性

 「地方分権」が唱えられはじめて久しくなりますが、2000年の「地方分権の推進を図るための関係法律の整備等に関する法律(地方分権一括法)」の施行を契機にその流れは強まり、国と地方が対等の立場で対話のできるパートナーとなるべく地域主権改革が進められ、地方は自らの判断と責任でまちづくりを進めていかなくてはならなくなりました。
 また、少子・高齢化に伴う社会保障関係費の増加や若年層の都市部への流出といった従来からの課題に加え、地域のつながりの希薄化に起因する高齢者の所在不明や孤独死、家庭内暴力や児童虐待など、政策課題は多様化しています。地方が厳しい財政状況にある中、これら諸課題にきめ細かく対応していくことは極めて困難であり、まちづくりに関わる団体や法人をはじめとして、多くの市民による市政への積極的な参画を求めていかなければなりません。
 これまでの基礎自治体は、国によって策定が義務付けられている総合計画に基づいてまちづくりを進めてきました。しかし、これから市民の市政への参画をより一層促進し、協力してまちづくりを進めるためには、それぞれが担う役割を認識し、共有できるまちづくりのルール、「自治基本条例」が必要であるとの議論が深まっていきました。
 自治基本条例は、2001年に北海道のニセコ町で初めて施行されて以降全国的な広まりを見せ、臼杵市が本格的に策定に向けた取り組みを開始した2011年4月時点で、全国で200を超える自治体が施行に至っていました。一般的に自治基本条例は、自分たちのまちのことは自分たちで決めるという考えのもと、市民や行政などがそれぞれどんな役割を担い、どのように協力してまちづくりを進めていくかを条例化したものです。条文には人権尊重や市民総参加、協働といった基本原則、市民や行政などのそれぞれの役割と責務、行政手続きや意見反映の仕組みなどが定められています。地方自治法の規定や、これまで当然のように取り組んできたことも包含されるため、最終的にどの自治体の条例も似通った内容となり、また条例ができたからと言ってすぐに市民の生活が変わることも無いため、臼杵市においても制定の必要性について賛否両論がありました。
 しかし、まちづくりを行う上での役割や仕組みを市民総意で確認していくことや、策定を推進する中で市民が地域の課題に主体的に向き合う意識を醸成していくことが重要であるとの議論が高まり、臼杵市をあげて制定に取り組んでいくことになりました。


2. 条例制定の経過

(1) 取り組み方針
 自治基本条例案の策定にあたり、既に制定済みである全国の自治体へのアンケート調査や、取り組みを進めている近隣自治体への視察を実施しました。その結果、課題として意見が多かったのが、取り組み開始から施行までに膨大な時間と労力がかかるということでした。臼杵市としても、まちづくりを行う上での最高規範となるこの自治基本条例は、市民の声を十分に反映させ、一から作り上げていくことを想定していました。しかし、原案づくりの段階から市民の声を反映させることに取り組んだ自治体では「原案無しで市民に意見を求めることは非常に困難で、地域説明会でも反応が薄かった」「市民委員会の期間や回数などが負担になり、辞任する委員もいた」「長期に渡り議論を重ねたが、結局隣の自治体と同じような内容になったことに対し不満の声もあった」などの意見が多く、これらの意見をもとに庁内で検討を重ねた結果、臼杵市が全庁体制で原案を作成し、市民による検討が必要な事項を整理した上で、市民へ意見を伺っていくことになりました。

(2) 原案の作成
 前述の方針に従い、財政企画課で条例の骨子を整理し、各種政策分野の担当部課長等からなる自治基本条例庁内検討委員会にて原案づくりに着手しました。自治基本条例の性質上、どこの自治体も似通った条文になりやすく、条例の中身や構成について協議していく中で、臼杵市ならではの特色が出せるのかが大きな議論となりました。議論を深めていく中で、臼杵市として最も強調すべきキーワードとなったのが「地域コミュニティ」でした。臼杵市では地域振興協議会(※)への活動支援を中心に地域コミュニティの推進に力を入れてきましたが、この地域コミュニティとまちづくりの関わりをどうするかが大きなテーマとなり、その後市民を交え、改めて地域コミュニティの位置づけや役割を考えていくことになります。
 また、制定済みの自治体のアンケート結果や庁内検討委員会で出された意見をもとに、市民による検討が必要な事項を整理し、用語や条文の意図を詳細に説明した「検討シート」を作成し、効率的かつ効果的に市民の意見が反映されるよう入念な準備をしました。

(3) 市民の意見の反映と素案の作成
 原案及び検討シートの作成と並行して、市民の意見を反映させるためのアンケートを実施しました。アンケートの内容は、「市民」や「地域コミュニティ」の定義、まちづくりの主体それぞれの役割と責務、まちづくりを進めるうえでの基本原則といった、条例の根幹を成すものについて意見を求めるもので、2011年度は全地域での市政懇談会やまちづくり団体との意見交換会である「くるま座トーク」において市長自らが条例の目的や概要について説明し、その場に参加した方々を対象に調査しました。
 また、原案やアンケート結果などをもとに条例案の策定に向けた検討を行う委員会を設置するため、2011年9月に臼杵市自治基本条例策定委員会条例を施行しました。これを受け、有識者2人、経済団体やまちづくり団体等からの推薦者14人、一般公募1人の計17人を委嘱し、同12月に第1回の策定委員会を開催しました。策定委員会では、まずは自治基本条例の概要や原案について知ることから始まり、その中で気になったことや分からないことを各自提出してもらい、次回の委員会までに事務局が整理したものを報告するという方式をとり、原案の各条全てについて学んだ後、協議に移りました。また、早い段階で条例の策定時期の目安を示したことにより、委員の中にも目標意識が芽生え、毎回の協議に提案や意見を持って臨むようになり、効率良く深い議論が成されるようになりました。
 策定委員会での協議を深めていく中で新たに浮き出た課題や、さらに多くの市民の声が必要な事項については、2012年度の5月より各種団体の総会や会議、生涯学習教室さらには高校等にも訪問し、意見交換やアンケートを実施し、策定委員会の基礎資料としました。
 これらアンケート結果やパブリックコメントをもとに全10回に及んだ策定委員会において検討を重ね、可能な限り市民の誰が見ても分かりやすく親しみやすい条文作りを進め、最終的に「臼杵市まちづくり基本条例」と名付けられた条素案は2012年の12月議会に上程しました。

(4) 制定後の取り組み
 2012年12月議会で承認され、制定された臼杵市まちづくり基本条例ですが、大きな課題として残ったのが、この条例をいかにして市民の身近なものにするかということです。検討段階においても市報やホームページ等で市民への周知に取り組んできましたが、この条例ができたからといって生活に大きな影響があるわけではないため、市民の関心は高くはありませんでした。
 そこで、2013年4月1日の施行に至るまで、これまでの広報活動に加え、大きく3つの柱で周知に取り組みました。1つ目は条例のパンフレットの作成で、イラストを交えて分かりやすく条文の解説を行ったものを市内全戸に配布しました。2つ目は2013年3月3日に実施した条例の制定記念シンポジウムです。条例についての説明や策定委員などによるパネルディスカッションに加え、南三陸町からお招きした講師による実体験に基づく基調講演が行われ、東日本大震災からちょうど2年が経過した中で、多くの市民が地域防災と協働のまちづくりについて深く考える場となりました。そして3つ目が子どもたちへの周知です。市内の全小中学校を訪問し、先生方へ条例の趣旨説明や憲法学習・郷土学習の一環として子どもたちへの教育に取り入れて頂くことを依頼しました。また、条例のパンフレットを子ども向けの副読本として編集し、臼杵市の未来を担う子どもから保護者へ、そして地域へと広がっていくことを願い、配布しました。

3. これからのまちづくり

 このような経過により、2013年4月1日に施行された臼杵市まちづくり基本条例ですが、振り返ってみれば、これだけ多くの人々が関わって取り組んだことは、これまでの臼杵市において無かったのではないかと感じています。自治基本条例の策定はプロセスが大事であると言われていますが、策定委員会や事務局の職員だけが汗を流すのではなく、市長や議会、庁内においても各政策分野や専門分野の多くの職員が業務の枠を超えて力を添え、そして多くの市民の声が集まってできたこの条例は、「協働」の証であると思います。
 制定記念シンポジウムの終了後、策定委員と市長、職員による意見交換会を実施しましたが、互いに尊重しあえる大団円でした。策定委員の感想の中で「市民と行政が互いに力を発揮してこそ良いものができる」「市役所の方々の頑張りに負けず、これからも積極的にまちづくりに参画していきたい」と言った声があり、私たち自治体労働者にとって市民が一番の理解者になるということは、これほど心強いことなのだと実感しました。
 現在、自治体が抱える行政課題は多様であり、臼杵市においても今後多くの問題に直面していくことになると思います。そんな困難に直面した時にこそ、市民、市長、議員、そして職員がそれぞれこの臼杵市まちづくり基本条例を手に取り、条例前文に掲げる「不断の努力を惜しまない質素倹約の気風」と「どんな困難でも知恵と笑いで乗り切るユーモア精神を持ち合わせる臼杵人気質」をもとに英知を結集し、課題解決に向け協働で取り組んでいかなければなりません。
 臼杵市は今後も、臼杵市まちづくり基本条例の定着化に向けた周知活動を続け、みんなが役割を持ち、連携し、尊重しあいながら、臼杵に生まれて良かった、育って良かった、住んで良かった、働いて良かったと思えるまちづくりに取り組んでいきます。




※ 地域振興協議会……老人クラブや子ども会、PTA、消防団など、地域内にある様々な活動団体を一体的に捉え、様々な活動を通じてこれらの団体が世代や性別を超えて連携し、よりよい地域づくりをめざす組織。臼杵市では2009年より小学校区ごとに設立の推進及び活動支援に取り組んでおり、17地区のうち9地区で設立されている。

臼杵市まちづくり基本条例の全体像(構造図)