【論文】

第35回佐賀自治研集会
第3分科会 人口減少にともなう自治体・地域のあり方

 現在、国において、「道州制ありき」の議論がなされ、経団連などからも新たな国の在り方として、道州制が提言されている。また、都道府県の一部からも「地域主権」「地方分権」が叫ばれる中、道州制について賛同の意見が出されている。
 しかしながら、平成の大合併を経験してきた地方からは、賛同の声が少ない、むしろ反対の声が大きい現状がある。
 この様な中、具体的な道州制モデルを提起し、出てきた課題について整理したものである。



2025年道州制モデル


宮崎県本部/宮崎市議会議員 徳重 淳一

 はじめに、この「2025年道州制モデル」は、国の概要が定まっていない状況で私案として整理したものであり、確定したものではありません。
 従って、これからの道州制議論の一つのモデルとして、課題も提起しておきますので、各組織内で討議して頂きますようにお願いいたします。

1. 道州のモデル(10道州)

2. 国・道州・基礎自治体の役割

 国の役割は、国際社会における国家の存立及び国境管理、国家戦略の策定、国家的基盤の維持・整備、全国的に統一すべき基準の制定に限定。
 具体的には、①皇室、②外交・国際協調、③国家安全保障、治安、④通貨の発行管理及び金利、⑤通商政策、⑥資源エネルギー政策、⑦移民政策、⑧大規模災害対策、⑨最低限の生活保障、⑩国家的プロジェクト、⑪司法、民法・商法・刑法等の基本法に関すること、⑫市場競争の確保、⑬財産権の保障、⑭国政選挙、⑮国の財政、⑯国の統計及び記録など
 道州は、基礎自治体の範囲を越えた広域にわたる行政、道州の事務に関する規格基準の設定、区域内の基礎自治体の財政格差などの調整を担う。
 具体的には、①広域の公共事業(大型河川、広域道路、空港港湾の整備・維持、通信基盤、生活環境整備など)、②科学技術・学術文化の振興、対外文化交流、高等教育(大学相当以上)、③経済・産業の振興政策、④地域の土地生産力の拡大(林野・農地の維持)、⑤能力開発や職業安定・雇用対策、⑥広域の公害対策、環境の維持改善、⑦危機管理、警察治安、災害復旧、⑧電波管理、情報の受発信機能、⑨市町村間の財政格差の調整、⑩公共施設規格・教育基準・福祉医療の基準の策定など
基礎自治体  基礎自治体は、地域に密着した対人サービスなどの行政分野を総合的に担う。
 具体的には、①住民の安全安心、消防、救急、②社会福祉(児童福祉、高齢者福祉など)、保育所・幼稚園、③生活廃棄物収集・処理、公害対策、保健所、④小中高等学校、図書館、⑤公園、都市計画、街路、住宅、下水道、⑥戸籍、住民基本台帳および⑦地域振興にかかわる産業・文化行政全般など

3. 道州制の基本的な組織体系イメージ

道州制導入前後の国と地方の組織体系イメージ図
(九州市長会資料より)

(1) 組織の変更点
① 上の図では、国、九州府双方ともスリム化しているため、国の機関や都道府県で働く職員の人員削減が基本に考えられています。
② 本省以外の地方出先機関で働く職員は、道州府の機関に移行することとなります。
③ 県は、道州府に移行する職員と基礎自治体に移行する職員とに分かれます。

(2) 組織変更での問題点
① 国、都道府県においては、国鉄がJRに移行していった時と同じような差別が行われる事が予想されます。身分移管の手続きや、所属していた互助会や退職金等の積立金、借入金などの精算。新たな組織内での格付けや給与なども大きな問題点となります。
② 道州府、基礎自治体においては、職員が寄り集まるため、新たな主権争いが起こることになり、同じ職場で働く職員達が連携して業務遂行できない状況が予想されます。
③ 労働者の組合の問題としては、これまでの各組合の運動の密度と支持政党が異なるため、統一的な労働運動が出来なくなってしまう状況が、予想されます。

4. 数値で観る、道州制のモデル

道州 区域毎(10道州)基礎データ

10道州 実施後データ

5. 宮崎での基礎自治体モデル

(1) 基礎自治体
 宮崎県は、2025年の推計人口が約101万人のため、人口30万人で割り振ると、地域性を考慮して県北、県央、県南の3基礎自治体として再編できます。以下仮称名で表示します。
① 仮称 宮崎市(みやざきし)  面積  870km2  人口 402千人 旧宮崎市に本庁舎
② 仮称 諸県市(もろかたし)  面積 2,525km2  人口 304千人 旧都城市に本庁舎
③ 仮称 日向市(ひむかし)   面積 4,339km2  人口 303千人 旧日向市に本庁舎

基礎自治体の区割り
注:各年10月1日現在の人口を2010年10月1日現在の市町村の区域に合わせて組み替えた数値。

(2) 区割りでの問題点
① 人口割合で再編したが、西都市や新富町などでは、日向市などの本庁舎より、宮崎市の本庁舎が近くなるなど、住民目線からすると行政サービスの低下に繋がります。
② また、日南市や西都市など、買い物等の生活経済圏が宮崎市に有ることを考えると問題点が多い区割りとなっています。

(3) 基礎自治体再編による旧市町村への行政サービス
① 平成の大合併と同様に各市には、本庁舎のほか、旧市町村に総合支所を設置されます。
② 総合支所(公助)の下に中学校単位ほどの地域自治区(互助)を設定し設置し、その下に自治公民館(自助)が組まれます。
③ 住民の声は、自治公民館、地域自治区などから総合支所、本庁と伝えられますが、時間を要すること、地域独自の細やかな要望等への対応が困難になることなどの問題点が出てきます。
④ そのため、地域自治区にも基礎自治体の職員の配置が必要となり、その地域自治区独自に使える予算も与え住民ニーズに応えられるように整備する必要があります。
⑤ 旧市町村時代には、財源不足で対応できなかった、上下水道等インフラ整備が実施可能となります。
⑥ 財源は、中心となる自治体に賄ってもらう事になるため、元々負債残高の多い自治体にとっては、更に負債残高を増やすこととなります。

(4) これまで、県が行ってきた広域的な業務
 (ア)総合交通対策、(イ)基幹輸送体系の整備促進、(ウ)県税・地方法人特別税の徴収、(エ)防災救急ヘリコプターの運営、(オ)広域医療体制の充実、(カ)消防学校、(キ)医師・看護師確保対策、(ク)食肉衛生検査、(ケ)感染症対策、(コ)環境汚染対策、(サ)計量検定業務、(シ)農商工連携、(ス)貿易の振興、(セ)労働委員会、(ソ)人事委員会、(タ)職業訓練・技能検定試験、(チ)企業立地・誘致、(ツ)観光誘致、(テ)宮崎ブランド、(ト)農業後継者育成、(ナ)植物防疫・病害虫防除、(ニ)漁労調査、(ヌ)家畜伝染病対策、(ネ)国県道、1級河川の整備、(ノ)空港の整備、(ハ)発電用ダムの建設・経営、(ヒ)県立病院の経営、(フ)県立高校の運営、(ヘ)高校卒業程度認定試験、(ホ)文化財の保護
 これらが、今後、道州政府や基礎自治体に分配されますが、宮崎独自の防災救急ヘリの運営などは、道路交通網の未発達な宮崎独自の事業であり、宮崎牛などの宮崎ブランドは、各基礎自治体が連携して対処する必要が出てきました。
 さらに地域経済では、ゼネコンや商社など、これまで、県内に出先事務所を設け、県に届け出すれば、県内全域で仕事ができ、建設工事などの入札にも参加できました。
 しかしながら、道州制となれば、州都に事務所があれば、九州全域が対象となり、地方に事務所を設ける必要がなくなります。これは、地方にある支店や出張所等の職場が無くなる事を意味しているため、地方では、就労先の減少とこれに伴う経済的な損失も大きくなっていきます。

6. まとめ

① 今回の道州制モデルは、財源の事を考慮せず作成しましたが、道州区域毎の基礎データでも判るように、総生産額でも道州間の格差が大きくなっており、九州のような貧乏な地域は、予算確保のためには、裕福な道州に頼る事となります。これまでも、東京電力が、東北の福島県に原子力発電所を建設稼働させていたように、金で無理難題を貧乏な地域に押しつけ解決するような構図がさらに出てくる事が想定されます。
② 国、県、市町村が、それぞれ分離合併を行い、国、道州、基礎自治体に組織再編しますが、道州、基礎自治体では、エリアが広くなったうえに、職員数では減少する事になります。
③ 政府が考えている道州制導入の目的は、歳出削減が主たる目的である事は明白です。
④ 国は、「外務」、道州は、「内務」、基礎自治体は、「住民サービス」と言った役割分担を明確にしています。
⑤ 強行採決された「特定秘密保護法」や憲法改正をせず「集団的自衛権の拡大解釈」を行うなど今の政権が行っている政治は、国民を守るための政治でなく、国の体制を守るための政治体制(今の政権が政権を維持するため)に考え方が変わっているように思います。
⑥ これから、道州制導入が決定すれば、国や地方自治体には、人員削減が提示され、今の行政改革以上の厳しい攻撃が予想されます。特に現業部門や公営企業法適用職場においては、民間委託や独立行政法人化などの動きが加速する可能性があります。
⑦ 平成の大合併では、合併した町村の住民から、「知っている役場の職員が居なくなった」、「役場に行っても話ができる人がいない」など、住民と行政の間に大きな溝ができています。
  暖かみのある今の行政サービスがさらに低下する、この道州制が、実現しないように、取り組む必要があります。みんなで、団結して取り組みましょう。