【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第4分科会 地域から考える再生可能エネルギーによるまちづくり

 私たちのグループは、京都議定書の発効を契機に森林整備活動をスタートさせました。放置林と呼ばれ本来の機能を失った森林の再生に向けた活動は現在も継続しています。しかし同時に過疎化が進む中山間地域の活性化に向けた森林資源活用の方途についても考察を進めて来ました。
 高知県、足寄町、もくねん工房に続き、今年度は芦別市の事例調査を行い、4箇所の取り組みから見えてくるものを纏め、私たちのグループの最終報告とします。



地域内資源の活用で地域経済の活性化
―― 4箇所の視察・調査から見えて来るもの ――

群馬県本部/群馬県職員労働組合・マイナス3.9%実行委員会・代表 中村 博一

1. はじめに

 私たちのグループは、林業振興・森林資源の有効活用の方途を研究するため、2010年2月には高知県、2012年3月に北海道足寄町、2012年12月に埼玉県飯能市の「もくねん工房」、2014年3月に北海道芦別市をそれぞれ視察・調査しました。今回の発表で私たちの研究が終了することから、これまでの調査概要を簡単に纏め報告すると伴に、サブタイトルを「4箇所の視察・調査から見えて来るもの」とします。視点は、過疎化と人口流失に悩む中山間地の活性化のために「林業振興・森林整備は役割を果たせるか」と言うものです。

2. 地域内資源を活かした地域経済活性化

◆芦別市が導入したチップボイラー

 中山間地域の過疎化・人口流失は、産業が殆どなく生計を維持することができない点が最大の原因となっています。そうした地域にある資源と言えば、自然エネルギー(木質バイオマス・風力等)資源、水(清流・水力)資源、自然環境(観光等)資源などが考えられますが、私たちは自然エネルギー資源に着目しました。
 その理由は、地域に賦存する自然エネルギー資源(特に木質バイオマス等)を有効活用することで、産油国依存構造から脱却し、地域外に流失していた富を地域内に留め、地域を豊かにすることをめざした地域・町がヨーロッパで出現していることに注目したためです。
 デンマークの地域住民による風力発電事業は特に有名ですが、ドイツのユンデ、エンゲルスベルク、フィレースなどもバイオエネルギー村となり、エネルギーに関する限り「富の地域外流失」は全くなくなり、逆に「富の地域内流入」を実現しています。また、オーストリアのギュッシングでは同様に自治体・企業・住民の協力により1,100人の雇用創出を実現しています。
 こうした取り組みを参考に、今回視察・調査を行った北海道芦別市は、先進地域である北海道足寄町、下川町、滝上町、美幌町などの事例研究を踏まえて、木質バイオマスを活用した地域内経済の循環を目標に市と民間が共同で取り組みを開始していました。
 地域経済活性化の方策として、地域限定商品券の流通などもあちこちで企画・実行されていますが、「富」の地域外流失を少なくする効果はあるものの、産業を興し雇用を拡大することを通した過疎化・人口流失防止の効果は期待できません。その意味で、視察・調査した4箇所の取り組みは、地域内に賦存する資源(調査地域は何れも木質バイオマス)を有効活用することにより、地域経済活性化を図った事例として、過疎化・人口流失防止対策として大いに参考となるものと考えます。

3. 地域社会の活性化:仕事を創る

 過疎化・人口流失により疲弊する地域社会の活性化にとって最も重要なことは先にも述べたとおり「仕事を創る」ことです。そうした地域は第一次産業の地域ですから、そこでの産業基盤は農林漁業とそれに関連する産業と言うこととなります。食糧生産や林業の地域に調和し、豊富な地域資源を活かすことを考えれば、木質バイオマスや風力、清流などの自然エネルギーの活用による「仕事創り」は非常に有力な方策です。
 北海道大学ベンチャー企業として1999年に設立された株式会社NERC(ネルク:自然エネルギー研究センター)は、「地域産業・地域社会の再構築」を目標に活動を行って来たことで有名ですが、NERCの働きかけもあって、「エネルギーの地産地消」「自然エネルギー関連の生産工場」設立の動きが北海道の各地で始まっています。
 NERCの代表的な取り組みとしては、木質繊維断熱材生産工場、木質バイオマス燃料工場(木質チップ、木質ペレット、農業用廃プラ混合)、高性能ボイラー製造工場、スターリングエンジン製造工場、風力発電機製造などが挙げられます。
 地域経済活性化の方策として観光事業の展開や企業誘致などが簡単には行えない地域では、豊富に存在する自然エネルギーの活用は有力な選択肢と言えます。北海道で様々な自然エネルギー活用の取り組みが進んでいる背景には、こうした事情があるものと思われます。しかし、こうした事情は北海道に限らず全国に存在し群馬県内にも当然当て嵌まる地域があります。
 バイオマス燃料生産工場は、地域資源である林地残材や農業残渣物等を利用可能な加工する工場ですが、地域内でエネルギー化して、電力・石油代替エネルギーとすれば、地域外に流失して来た石油代等を地域内で循環させることができます。チップや木質ペレットの原料となる林地残材等は、どの地域にも豊かに存在しており、木質バイオマス燃料工場は、新たな産業として雇用を生み出し地域経済活性化に繋がるものと言えます。
 日本の1家庭の平均光熱費は、2006年総務省家計調査によれば、年間18万円程度とされています。ここに人口4,000人余り2,000世帯の町があるとすれば、それだけで3.6億円が過疎に悩む町の住民負担になっている訳です。仮にこの町がエネルギー自給率100%になるとすれば、殆どが大都市に流失していた3.6億円が町内で循環することとなります。自然エネルギーの活用は、地元経済に非常に大きな意味を持つことは明らかです。

4. 木質バイオマスには価格競争力があるのか

別表1:発熱量当たりの価格比較(林野庁)
  単位発熱量当たり価格
発電用一般炭 1.4
チップ(パルプ用) 4.5
A重油 6.4
木質ペレット 7.5
灯油 8.1

 高知県、足寄町、芦別市の取り組みは、一面では化石燃料の消費による温暖化を防止することに寄与するものですが、より大きな狙いは地域経済の活性化にあります。そして何れも石油の代替エネルギーとして地域に賦存する林地残材の活用を図るとしています。
 エネルギーの最終消費は、産業、家庭、業務、運輸の各部門で行われていますが、日本では熱利用が50%、輸送用燃料が27%、電力が23%と言われています。ここで注目したいのは、輸送用燃料は当面無理としても熱や電力には木質バイオマスの利用が可能だと言う点です。
 問題は木質バイオマス燃料に価格競争力があるかと言うことになりますが、別表1は林野庁が公式に発表している価格比較です。この結果からも分かるように暖房や給湯のためのボイラーに関しては、チップはA重油に対して比較優位にあり、チップボイラー等の普及により、化石燃料利用抑制(温暖化防止)、富の海外流失防止と富の国内循環を図ることが実現します。
 バイオマスエネルギー先進国のドイツの実例(出典:国民のためのエネルギー原論)を見ると、10年間で倍増した木質バイオマスの利用は、熱で10万GWhに達しドイツの全熱量需要の7%に相当すると言われています。仮に日本がこれだけの熱需要を輸入原油で賄ったとすると、輸入総額は1.5兆円になります(2011年7月の原油輸入価格1キロリットル5.7万円で計算)。日本の熱エネルギーのごく一部が石油から木質バイオマス等に代替されただけで、これだけの経済効果(1.5兆円が国内を循環する)が生まれることとなります。
 国内経済活性化、地域経済活性化のためには、知恵と工夫、努力と財源が不可欠とも言えますが、財源(原資)が脱石油にもあることが見えて来ます。勿論、こうした状況を政府が承知していない訳はない筈ですが、何故か日本のエネルギー政策には全く反映されていません。その理由を私たちのグループが把握できる故もありませんが、富の国外流失を防止すると伴に、雇用の増大と国内経済活性化に大きく寄与する政策が何故打ち捨てられているのかに疑問を呈さざるを得ません。

5. 非常に大きい自治体の役割

 3・11福島第一原発事故により、国のエネルギー政策は民主党政権下で一旦白紙とされ、根本的な見直が行われることとなりました。そうした中で2011年秋には、新しいエネルギー政策に不可欠とも言える「再生可能エネルギー促進法」(再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度)が成立し、国のエネルギー政策は大きく転換するかに見えましたが、政権交代により原発基軸と言う従来のエネルギー政策に戻ることとなり、今日を迎えています。
 しかし、「再生可能エネルギー促進法」の成立により、国の政策とは異次元で自然エネルギー活用の途は残されています。高知県、足寄町、芦別市の木質バイオマス活用は、何れも地域経済の活性化を目的とした自治体の積極的な取り組みにより推進されたものでした。埼玉県もくねん工房の取り組みは、木材事業者が困っていたバーク処理の打開策として推進されたものですが、埼玉県が決定的に重要な役割を担っていました。
 林地残材とそれを製品化したチップ、ペレット、バークペレットは、紙パルプ原料としてのチップを除けば、販売先即ち需要の目途が立たないため、有効活用が行われて来なかったものです。4箇所の視察・調査から分かったことは、当該自治体は、ここに着目し需要創出の手助けをすることを通して事業化に成功したことでした。
 一昨年の足寄町調査報告でも「2005年11月からペレット生産を開始したが、最大の課題であったペレット燃料の販売先の目処が立ったこと(町庁舎・消防庁舎・子どもセンター等でのペレットボイラー導入)が工場稼働の決め手となった。」点が担当者から強調されましたが、もくねん工房のバークペレットも埼玉県が仲介しペレットボイラーを温泉施設に導入できたことが事業化成功の決め手となったのです。
 地域経済活性化のための「地産地消」運動なども、地元で生産されるお米や野菜を学校給食で使う方針を決めた自治体の影響力が非常に大きなものとなりました。チップ、ペレット等の需要を創出した高知県、足寄町、芦別市、埼玉県の役割は決定的に重要でした。自治体の明確な方向性と「信用力」「行政力」を抜きには、4箇所での事業化の成功は語ることができません。自治体のヤル気と明確な方向性・位置づけが自然エネルギーの有効活用に途を開くものと言えます。
 高知県が取り組んでいる園芸用ボイラーの燃料を重油からペレットに転換する取り組みは、極めて野心的なものですが、別表2のとおり設置費用の面で克服すべき課題が多いと言えます。現状では県とJAが共同でペレットボイラーを貸与する手法が執られていますが、太陽光発電パネルと同様に、大量生産による安価なボイラーの製造が喫緊の課題です。
別表2: チップと重油のボイラー導入コスト比較
区 分 項 目 チップ
(150kW)
(万円)
重油
(150kW)
(万円)
設置経費 ボイラー価格 1,400 200
配管・建屋工事 1,100 800
運転経費 減価償却費 125 50
管理費用 40 30
年間燃料代 184 216
年間総費用 349 296
◆林野庁資料から転載
 足寄町や芦別市の取り組みは、町や市の関連施設へのペレットボイラー、チップボイラーの導入で需要を創出し事業化に成功し、一定の雇用創出や地域経済への寄与を実現していますが、更なる効果を得るためには市町関連施設外への木質バイオマス燃料利用拡大を行わなければなりません。
 もくねん工房の取り組みは、埼玉県の働きかけによりバークペレットの販売先を確保し、事業化に成功しました。全国の木材事業者にとって「ごみ」であるバークの処理は大きな悩みの種ですが、もくねん工房の事例を全国に普及させることができれば非常に大きな成果となることは間違いありません。
 最後に「林業振興・森林整備は役割を果たせるか」と言う原点に戻って総括すると、間伐や下草刈りなどの森林整備は、昔は優良木材の生産のためのものでしたが、今日では、水源涵養や国土保全、二酸化炭素吸収、野生動植物の環境維持など森林の多面的機能の重要性が明確となっています。ですから、従来型の林業振興政策から、それを含む森林の多面的な重要機能を維持・発展させる今日的政策(林業振興を含む森林整備、自然エネルギー活用等)への転換が求められていますが、今のところ具体的に展開されてはいません。
 しかし、前述のとおり木質バイオマスを自然エネルギーとして有効活用できれば、過疎化と人口流失に悩む中山間地の活性化に大いに貢献できることは確実であり、それを林業振興・森林整備と一体的に行うことが効率的であり有効ですから、国の政策がないとしても、それを補う自治体の政策(知恵と工夫と支援)と地域住民・民間事業者の協力で、過疎化と人口流失に苦しむ中山間地域の活性化に大きく貢献できると考えます。以上を結語として私たちのグループの研究発表とします。