【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第4分科会 地域から考える再生可能エネルギーによるまちづくり

 荒廃した山林を、住民自らの手によって木を切り出し、買い上げる仕組みを作り上げることで、山林の景観および生態系保全、地域経済の活性化、木質バイオマスの利用促進を図り、山林の景観や、地域の活性化に向けた、「せどやま」再生会議の取り組み報告。



芸北「せどやま」再生事業
―― 美しい里の景観づくりと地域活性化 ――

広島県本部/北広島町職員労働組合 頼政 孝治

1. 芸北「せどやま」再生事業とは

 木材価格の低迷などで荒廃した山林を、住民自らの手によって木を切り出し、買い上げる仕組みを作り上げることで、山林の景観および生態系保全、地域経済の活性化、木質バイオマスの利用促進を図る事業です。
 事業は住民グループの芸北「せどやま」再生会議(以下、再生会議と略す)が実施しています。

(1) 「せどやま」を取り巻く課題
① 木がお金にならない、売れない
② 林業の担い手がいない
③ 木を使う必要がない

(2) この課題を解決するために、
① 木を買い上げるしくみづくり
  少量でも安定した値段で木を買い上げるため、再生会議で木を扱う「せどやま市場」を運営し、1トン当たり6千円で買い取る仕組みを作り上げました。
② だれでも着手しやすい仕組みづくり
  誰でも安全に木の搬出が始められるように、各種研修会を開催しました。
③ 消費地の確保
  買い上げた木を、薪やシイタケのほだ木などに加工し、商品の生産と流通を促しています。
―等、各種取り組みを実施しています 

2. 山林の景観及び生態系保全

 北広島町は中国山地に位置し、面積の80%以上が森林です。豊富な森林資源を有しますが、国内木材価格の低迷により山の手入れを行う人が減り、山林の荒廃が進んでいます。荒れた山林を誰よりも憂いたのは地元住民であり、住民自らの手で自分たちの山を再生させようと活動し始めました。
 この活動の拠点となった芸北地域は、西中国山地国定公園を有する自然豊かな地域であり、本州最南端の湿原の再生保護活動や、草原の生態系保全のための山焼きなど、住民主体の生態系保全のための活動が活発な地域です。
 生態系保全への意識が高い地域において、荒廃していく山林に心を痛めない住民はおらず、この事業により山林の整備が進んだ結果、地域の景観が良くなったと再生会議以外の住民にとっても大変好評です。
 また、「せどやま」が適切に管理される事は、水源涵養、獣害防止、景観保全など里山の多面的機能を取り戻す事につながり、地域の生物多様性の保全の実現になります。

3. 地域経済の活性化

 木の買い上げには、芸北地域内でのみ使える地域通貨を利用しています。過疎化により売上が減少し、存続が危ぶまれている地域の商店での消費を促す仕組みになっています。石油エネルギーや量販店など町外に流出していた富を地域で循環し、地域経済の活性化につながる事業でもあります。

4. 木質バイオマスの利用促進

 近年、再生可能エネルギーの利活用が注目されていますが、地域に豊富にある木質資源を地域で生産活用し、地域で消費する事は、再生可能エネルギーの利活用として大変効率が良く、優れた取り組みであると評価されています。
 今後は、地域に有る町営温泉施設に木質ボイラーを導入し、石油由来のエネルギー利用から木質バイオマスへの転換を図り、エネルギーの地産地消をさらに進めていく予定です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2013年4月3日・中国新聞 オピニオン 『田舎流の「合理化」を探る』から抜粋
 

田舎流の「合理化」探る
「カネにならん」と見捨てられてきた背戸山(裏山)の落葉広葉樹を買い上げる試みが、広島県北広島町の芸北地区で始まった。引き換えに、地元の店で使える地域通貨「せどやま券」を渡す。音頭取りは地元のNPO法人・西中国山地自然史研究会。近藤紘史理事長(72)に狙いを聞いた。

―合言葉は「せどの木を出して晩酌を」だとか。
 軽トラもチェーンソーも、この辺りの家には大体そろっていますからね。裏山の掃除がてら切った木を持ち込んでくれたら1㌧当たり6千円で買い取ります、一杯やるくらいの小遣いになりますよ、という意味でして。高知の山で間伐材を買い上げ、地域通貨を渡している仕組みにそっくり倣い、キャッチフレーズもアレンジして使った。

―実際、缶ビールや焼酎に化けてるようですね。
 昨年10月の初日には丸太を積んだ軽トラが列を成し、2カ月ほどで計70㌧が持ち込まれた。地域通貨は地元の協力で商店や食堂、農機具の販売店、温泉、給油所などで使える。運転資金も広島県の補助で工面できた。ボイラーの燃料や薪に加工すれば採算が取れる。3年の補助期間中に、集めた木の販路に見通しをつけるのが課題です。

―「せどやま」というのは方言ですか。
 方言ではありませんが、最近ではあまり使われなくなりました。高度成長の頃までは、子どもが大学に行くなら、せどにある樹齢100年ほどの杉を3本も切りゃあ、入学金くらいにはなる。嫁入りさせるときはヒノキを30㌃分くらいと、見当がついたものだった。

―今回は、針葉樹の間伐ではなく落葉広葉樹ですね。
 ここらでは「マキ」と呼ぶコナラです。杉やヒノキと違い、切り株から自然と芽が生えて20年くらいたてば元の林に戻る。たたら製鉄の時代から中国山地では、そうやって山に手を入れてきた。近ごろ問題視されている「ナラ枯れ」は、そんな生業のリズムを断ち切ったがためと思えてならないのです。

―確かに裏山に竹やぶが迫る過疎地は珍しくありません。
 芸北では幸い、竹やぶこそないのですが、人里と山との境目がやはり曖昧になりつつある。
イノシシや猿、クマの出没が目立だしたのも、それが一つの理由。それに程ほどに木を切るからこそ日差しや風が入り、山野草が生え、昆虫や小動物がすむ環境も整う。生物多様性が保たれてきたのです。

―生物多様性が保たれるほど、人間社会も長持ちするという考え方でしたね。
 芸北の生活文化のシンボルが「せどやま」。山菜はもちろん背戸に入れば牛の飼い葉になる草から薪から、稲を干すハデ木の材と何でもある。冬は雪ぞり、夏は木馬と呼ぶそりで山から材を出す技術もかつてあった。廃れる寸前の遺産を見直そうという思いが根っこにある。

―高度成長以前の暮らしに戻ろうということですか。
 そうではありません。都市中心の、行き過ぎた浪費社会を正すためにも、山里暮らしのリズムをまず、私たち自身が取り戻したい。3.11の後、再生可能エネルギーに対する世の関心が高まっているせいか、まきストーブも普及し始めている。

―「息をのむほど美しい棚田」こそ守るべき国柄だと安倍晋三首相は環太平洋連携協定(TPP)への参加表明でも言い切りましたね。
 残念ながら棚田を守ろうという風潮は感じられません。農政は相変わらず大規模化、集約化が主流ですし。声高な「強い農業」も米国に負けるな、もっと合理化を―と無理強いしているように聞こえてならない。言葉の意味合いをはき違えている。

―どういうことですか。
 これだけ南北に長く、山野河海に富んだ日本列島なのに、一律の大規模化や集約化ということでいいのかどうか。それぞれの土地に合ったやり方がもっとあるはず。最近、こう思う。芸北を選んでくれて花が咲き、木々が育っているんだと。そう受け取れる風土がこの地にはある。個々人や地域が風土に合った生き方を考え直す、そんな田舎流の「合理化」を極めたいと思います。