【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第5分科会 発信しよう地域の農(林水産)業 つながろう生産者(地)と消費者(地)

 瀬戸内の多くの島しょ部地域は、柑橘産業の低迷や高齢化による後継者不足に悩まされ、自治機能自体も低下する傾向にあります。このような中、広島県呉市豊町では、地域自治会が主体となり、行政と住民の協働による町づくりに取り組んでいます。本レポートでは、過去5年間にわたって島しょ部地域での体験を通じて学んだ地域の現状や課題を基に、地域活性化に資すると考えられる方策をまとめます。



島しょ部地域の活性化をめざして
―― 呉市豊町に学ぶ ――

広島県本部/自治労広島県職員連合労働組合・呉支部

1. はじめに

 大長みかんの産地として知られる広島県呉市豊町は、潮待ちの港町"御手洗(みたらい)"として内海交通の要所として栄えていました。しかし、近年は柑橘産業の低迷や高齢化・過疎化等により、大変深刻な後継者不足や自治機能の低下に悩まされています。
 こうした中、2008年11月に豊島大橋(県道 豊浜蒲刈線)が開通し、「とびしま街道」が完成したことにともない、島を訪れる人も多くなりました。これを受けて豊町でも、特産品作りや直売所等の新たな取り組みが始まるなど、島の地域振興や活性化に向けて大きな気運が盛り上がっていきました。
 一方、私たち広島県職員連合労働組合呉支部(以下「呉支部」という。)の組合員は、呉地域において行政職員の一人として仕事をしていますが、自分の仕事以外での地域住民とのかかわりはほとんどありませんでした。そこで、地域現場での体験を通じて、この地域のことを仕事以外の視点から確認し、地域の中で今何が行われ何が必要とされているのかについて学ぶため、2009年度に呉支部が主体となって行う自治研活動を立ち上げました。
 自治研活動は、住民主体で町づくりを展開している豊町御手洗自治会の取り組みや、島の特産でもある柑橘産地の現状や課題についての学習から始めることとし、また、呉支部の自主福祉活動についても「とびしま街道日帰り体験ツアー」と銘打った呉市豊町での体験学習を中心とした家族交流事業を企画し、支部自治研活動につながる事業として取り組みました。
 本報告では、過去5年間にわたり模索し続けてきた呉支部自治研活動について、活動経過等を取りまとめるとともに、これまでの取り組みの中から見えてきたことや、自治研活動参加者の感想等の中から、島しょ部の地域振興や活性化のために役立ちそうなことを整理して、取り組み報告とします。

2. 呉市豊町での体験活動

 呉市豊町において、島の基幹産業である柑橘産地の現状や課題、住民主体のまちづくりについて学ぶため、農業体験や地元の活動家の方と交流を図りました。また、この活動を通して、支部自治研活動の方向性を模索しました。

(1) 活動の概要
① 開催状況
  2010年2月~2014年3月に9回実施、延べ参加者:66人
② 場 所
  呉市豊町大長、御手洗、沖友地区
③ 主な活動内容
 ア 農業体験
 イ 島内状況の見学
 ウ 地元活動家との交流会
 エ 豊町御手洗自治会の取り組み調査

(2) 農業体験
 豊町には傾斜地一面に段々畑が作られ、みかん畑になっています。「耕して天に至る」といわれた大長のみかん畑では、その急傾斜地で行われる柑橘農家の労働の大変さを理解するため、農業体験を行いました。どの圃場も急傾斜のため機械化は困難で、足場の悪い状況の中、無理な体勢で作業をしなくてはなりませんでした。これらは経験したことの無い作業であり、農家の方の苦労を身をもって体験しました。
 これまで体験した具体的な作業内容は次のとおりです。

 

改植準備作業

① 改植準備
  お世話になった圃場では、毎年優良品種の苗を購入し品種更新を行っています。3月下旬の改植の前に、木の伐採や草刈を行い、植え穴を掘りその準備を行いました。また、成木樹に苦土石灰を施用しました。
② 高接ぎ(たかつぎ)更新樹の枝の整理
  高接ぎ更新を行っている園において、不要となった枝(力枝)の整理を行いました。窮屈な姿勢での作業のつらさを実感しました。
③ 収穫体験
  柑橘の収穫を体験しましたが、高いところにある実の収穫には、脚立を使用しないと収穫できないなど、大変な作業であることを実感しました。また、「泥げし」と呼ばれる土を固めて積み上げた急傾斜地の圃場では、圃場の中を移動することも一苦労であることを実感しました。

商品とならない果実

④ 収穫期を過ぎた果実のもぎ取り作業
  大長では深刻な労働力不足により、あちこちの圃場に出荷時期を過ぎても収穫できなかった果実が残っており、放っておくと木が弱るため、もぎ取り作業を行いました。せっかく育てたミカンを捨てなければならない農家の方の無念さを思うとつらい作業でした。

(3) 島内見学
 島の状況を実感するため、呉市職員(豊町大長出身)の案内で島内の農道を巡り、島の状況を視察しながら、柑橘産地の現状と課題について説明を受けました。
 耕作に不便な場所から耕作放棄地が広がっている状況や、かつての柑橘産地の労働の厳しさ、開拓への執念を窺わせる圃場の見学を行い、柑橘産地の栄枯盛衰の歴史に思いをはせました。
 また、大長港北堀の雁木の保存や古石材の再利用の状況などについて見学しました。これらは、老朽化して放置されていたものが地元自治体職員らの提案によって復元・再利用され、新たな観光資源としても役立っていました。

(4) 地元活動家との交流会
 島に住み柑橘産業や町づくりに携わっている活動家の方と本音で語り合うため、柑橘農家や御手洗自治会の活動家の人たちと交流会を行い、島の現状や抱えている課題について様々な話を聞き、意見交換を行いました。
 2013年度には、これまで参加してこられた地元活動家の方を対象に、意見交換会の前にアンケート調査を行い、問題点の共有も行いました。
 毎回、地元活動家の方のパワーと情熱に圧倒されていますが、現実の厳しさにも直面させられます。自治研の視点からは、情報発信力の不足や、変革の方策や豊かなアイデアを実現するシステムの不在が目につきました。

(5) 豊町御手洗自治会の取り組み調査
 豊町御手洗地区は1994年に国から重要伝統的建造物群保存地区(以下「重伝建地区」という)に指定されました。これを契機に御手洗を少しでも良くしていこうと、住民有志が「重伝建を考える会」を発足させ、地域づくりの取り組みが行われました。豊島大橋開通を目前に控えた2007年には、御手洗自治会が主体となって町づくりの基本方針となる『御手洗マスタープラン』を作成したほか、2008年には、呉市の「ゆめづくり地域協働プログラム」に基づき、地域を包括する豊町地区まちづくり協議会が『地域まちづくり計画』を策定し、「地域協働型」のまちづくりを積極的に推進しています。
 私たちは、元御手洗自治会長の今崎仙也さんから、「重伝建を考える会」や独特の自治会組織を中心とした住民主体のまちづくりの取り組みについて話を伺い、御手洗の歴史的建造物や文化を多くの人に知ってもらう『みたらい通志』や『重伝建だより』の発行、御手洗を訪れる人を「おもてなし」するための住民主体の観光ボランティアガイドや声かけ運動、軒先の一輪挿し、町内美化など様々な取り組みについて学習しました。

町づくりの基本的な考え方
ⅰ 歴史、伝統、文化の情報発信基地としての町づくり。
ⅱ 来訪者にとって安全でわかりやすい町づくり。
ⅲ 町民が安全で暮らせる町づくり。
ⅳ 歴史的環境と経済環境が調和した町づくり。
ⅴ 私たちの町は私たちがつくるという気概で取り組む町づくり。

 御手洗自治会組織は、「町づくり」や「伝統文化」等の部会と御手洗自治会を構成する老人クラブや消防団OB会、重伝建を考える会等がマトリクス組織を構成し、それぞれの部会が各種構成団体と連携しながら、住民が主体となった取り組みを進めていますが、御手洗マスタープランでは、右に示す町づくりの基本的な考え方をもとに、「行政に要望すること」と「住民が主体となって取り組むこと」を明確にし、行政と住民が協働してまちづくりに取り組んでいます。
 また、この町づくりの基本的な考え方には、住民が主体となり、無理なく続けられる範囲で、自分たちが住みよい町を作っていくという志が現れています。御手洗地区でも、高齢化が進み、自治会機能が低下していますが、「助け合い・ボランティア」の精神を「出来るだけ」発揮して、「困った時は、お互い様」、「遠くの親戚よりも、近くの他人」を合い言葉として取り組んでいます。

※ 重要伝統的建造物群保存地区
  文化財保護法(昭和25年法律第214号)第142条に規定の伝統的建造物群保存地区の中で、その価値が特に高いものについて、市町の申し出に基づき文部科学大臣が選定した地区(第144条)。地区内の建造物や伝統的建造物群と一体をなす環境を保存するため特に必要と認められる物件の管理、修理、修景又は復旧について市町村が行う措置について、国が補助することができる(第146条)。略称「重伝建」
  「伝統的建造物群」とは、周囲の環境と一体をなして歴史的風致を形成している伝統的な建造物群で価値の高いもの(第2条)をいい、「伝統的建造物群保存地区」とは、伝統的建造物群及びこれと一体をなしてその価値を形成している環境を保存するため市町村が条例で定める地区(第142条)をいう。

3. とびしま街道日帰り体験ツアー(家族交流事業)の開催

 呉支部の家族交流事業として呉市豊町を訪ね、御手洗地区の重伝建地区の街並みや風光明媚な島の絶景を満喫するとともに、みかん(清見)狩りや品種の試食会などを通して島の特産である柑橘の魅力を直接肌で感じてもらい、豊町の現状について認識を深めてもらう取り組みとして行いました。

(1) 事業の概要

柑橘品種試食会

① 開催状況
  2009年3月~2012年3月にかけて4回実施、延べ参加者:182人
② 開催場所
  呉市豊町大長、御手洗地区
③ 活動内容(2011年度)
 ア 柑橘産地の現状と課題についての学習
 イ みかん(清見)狩り
 ウ 歴史の見える丘公園の散策
 エ 御手洗重伝建地区の散策
 オ 柑橘品種の試食会

(2) 2011年度の家族交流事業の状況
① 柑橘産地の現状と課題についての学習
  呉市職員から、かつては黄金の島ともいわれた「大長みかん」産地の移り変わりや厳しい現状、新たな取り組みなどについて、クイズを交えながら説明を受けました。
② みかん(清見)狩り
  「清見」のビニールハウス栽培を行っている圃場において、「清見」品種の特性や食べ方、収穫方法等を教わった後、参加者全員で試食をしながら収穫体験を行いました。
③ 御手洗地区の散策
  豊町観光協会に2人の観光ボランティアガイドをお願いし、2グループに分かれて、重伝建地区の散策を行いました。かつて豊町御手洗は、瀬戸内海を往来する船が、風待ち潮待ちに寄港した活気あふれる港町であり、今でも当時の建物や文化が数多く残っています。軒先の一輪挿しなど、地元住民の「おもてなし」の心遣いも伝わる町で、その素晴しさを実感しました。
④ 柑橘品種の試食会
  地元専業農家の本末さんが品種改良された「マリントパーズ」や、品種登録されたばかりの新品種を含め、25品種の試食を行いました。
  試食品種:はるか・せとか・甘平・マリントパーズ・たまみ・はるみ・清見・マイルド清見・不知火(デコポン)・津之輝・天草 等

4. 今後の取り組みの方向性

(1) 自治研活動から見えてきたこと
 呉支部では、5年間にわたり農作業などの体験活動や御手洗地区のまちづくりについての学習を重ねてきました。この活動を通じて、柑橘産業の現状や課題を肌で感じ取り、また高齢化・過疎化等により地域が抱えている課題について学ぶことができたのではないかと思います。
 これまでの活動から見えてきた、呉市豊町の活性化に資すると思われる方策を以下に示し、今後の呉支部自治研活動のあり方を考えるための道しるべとします。
① 地域の活性化に向けた取り組み
 ア 地域資源の有機的連携・活用
   豊町には豊かな自然景観や文化遺産が多く残されているので、これらに関係する地域・各種団体が連携して取り組みを行い、賑わいづくりや、島外からの人の呼び込みを行う。
 イ 情報発信力の強化による柑橘産業の振興
   インターネットやソーシャルネットの活用により情報発信力を高め、新たな地域ブランドの創出や産地直送システムの確立を行う。また、柑橘品種の試食会等を通じて、柑橘についての知識を広め関心を高めるための各種取り組みを行う。
② 援農ボランティアのシステム化
 ア 農家のニーズに合った計画的なボランティアの組織化
   農家のニーズを基に、援農ボランティアの年間計画を作成し、受け入れ窓口や体制を整備するとともに、援農マイスターの認定制度などにより、ボランティアの参加意欲を高める工夫を行う。
 イ 農家とボランティアがつながる援農のあり方の模索
   援農だけではなく、ボランティアの受け入れもボランティアと共同で行うなど、地元の負担を軽減しつつ、交流を深める方策の検討を行う。
③ 歴史遺産を生かした景観の保存と暮らしやすい景観の形成
 ア 「耕して天に至る」といわれたみかん畑の景観の保存
   歴史的遺産ともいえる段々畑を保全し、段々畑の下にある居住区域を災害から守るため、防災と景観との調和のとれた保存のあり方の研究を行う。
 イ 休園地、空き家の解消
   御手洗地区で行われている住民が暮らしやすい重伝建のまちづくりをヒントに、人が住み働いてこそ形成された景観であることを再確認し、休園地、空き家の貸借を促進するシステムづくりを行う。

(2) まとめ
 これまでの県職連合の自治研の取り組みは、補助機関である協議会組織を中心にして行われており、地域支部が主体となり、地域に入って自治研活動を行うことはありませんでした。そのため自治研に関するノウハウもなく、まずは地域に飛び込んで体験し肌で感じていくといった形で、模索を続けてきました。
 呉支部では、呉市内から通勤している組合員が少ないという事情から、ある意味第三者的な視点で冷静に地域を見ることもできたのではないかと思います。
 今後とも「島しょ部地域の活性化」を自治研のテーマとし、引き続き体験活動を継続しながら、職域を超えた観点から議論し、地域を活性化するために行政としてどのような方策が行えるか、呉支部としてできることを検討していきたいと考えています。