【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第5分科会 発信しよう地域の農(林水産)業 つながろう生産者(地)と消費者(地)

 観光資源としての中山間地域の現状や里山の災害防止機能等の役割に着目し、中山間地域を残していくためにはどのような方策があるかについての考察。



残していけるか故郷の風景
―― 中山間地域・小規模集落の今後 ――

大分県本部/大分県職員連合労働組合

中山間地域の役割・魅力

 私たち日本人のふるさとであり原風景である「中山間地域」には、多様な自然生態系や美しい風景、伝統的な文化が残されており、農山村は食料生産だけでなく自然環境や国土保全など多面的で公益的な役割を果たしている。
 しかしながら、その多くの地域で過疎化や高齢化が進行し、コミュニティー機能が低下しており「消滅」の危機に直面している集落(限界集落)も少なくない。

1. 日本の風景・癒しの風景=観光資源

 観光地として有名な久住や阿蘇には、訪れる人々を魅了し感動を与える草原の風景がある。これは長年に渡り実施されている野焼きにより維持されているものである。しかしながら、高齢化・過疎化の進行により、この野焼きが実施できなくなった地域や、5年後・10年後も続けていくことができるのか不安を抱きながらなんとか毎年実施できているという地域が少なくない。
 阿蘇では阿蘇デザイン会議が中心となり、ボランティアの手により実施されており、久住の稲葉牧野組合でも域外からのボランティアによりなんとか維持できている状況である。
 他にも例えば、北海道を代表する観光地の一つであり、多くのポスターや映画、テレビコマーシャル等に使われ全国に知られている美瑛の丘の上のパッチワークの風景がある。これは、様々な作物が季節ごとに丘の畑を彩り、まるで縫い合わせた一枚の布のように見えることから呼ばれるようになったものだ。また中山間地域の傾斜地にある水田風景「棚田」(千枚田)は、稲を育てながらダムの役割も果たし日本の国土を守ってきた。そしてその風景は人々の心に潤いと安らぎを与えてきている。これらは農家の人が、農業を営むことにより創られているものであり、農業人口の減少と共に姿を消していくのではないかといわれている。

2. 山と里の境界としての役割

 アニメ映画「となりのトトロ」に象徴されるノスタルジックなイメージのある里地里山(人里近くに存在する山を中心に、隣接する雑木林や竹林・田畑・ため池・用水路など)であるが、これは人々が生活していく上で様々な関わり合いを維持してきたことにより保たれてきたものであり、国土全体の約4割の面積を占めている。
 しかし、近年、過疎化・高齢化の進展等により、里山に人の手が入らなくなり、人間の圧力が低下し、山と里の境界があいまいになってきている。
 このため、農地への侵入が容易になったことや、えさ場や隠れ場所となる耕作放棄地が増加していること、また、収穫後の残った作物をそのままにしたり、集落内の放置果樹園等の増加により、全国的に中山間地域を中心に野生鳥獣による農林水産業被害が深刻化している。
 さらにその被害は農村地域から住宅地にまで広がってきている。
 また里地里山の荒廃は、資源供給機能、生物多様性保全機能、水源涵養・防災機能、環境保全機能も失われることによる環境悪化や災害など人々の生活に大きく影響してきている。

3. 治水効果(水源涵養地域)による災害防止

 里地里山は森林として、また畑や水田(特に棚田)として高い貯水機能(水源涵養機能)を持ち、土砂流出や洪水を抑制してきている。
 かん養(涵養)という言葉は、辞書によると、「自然に水がしみこむように徐々に養い育てること。」であり、「森林が水資源を蓄え、育み、守っている働き」という意味である。
 コンクリートで固められた都会では、降った雨のほとんどは、土にしみこまずに、すぐに下水道を伝って川から海に流れ出てしまう。これに対して、森林では、降った雨はまるでスポンジにしみこむように、ゆっくり木々の間から土の中にしみこんで、地下水に蓄えられ、少しずつ川に流れていく。大雨が降ってもすぐに川があふれず、日照りが続いても川の水がすぐになくならないのは、このためなのである。
 また、雨水は、森林にしみこむ間に、自然の力でろ過されると同時に、自然のミネラルが溶けこんで、きれいなおいしい水になる。飲み水をはじめ、農業用水や工業用水など人間の暮らしに欠かすことのできないきれいで豊かな水はこうしてできているのである。まさに森林は、自然の「緑のダム」なのである。

4. おいしい水においしい米

 「名水あるところに名酒あり」、「おいしい水のあるところにおいしい食あり」とよく言われている。日本全国の名水の地には、ほとんどといっていいほどおいしい日本酒の蔵がある。日本酒の成分のうち80%は水でできており、水がおいしくなくては、おいしい日本酒にはけっしてならないからであり、おいしい水が素材のおいしさを引き出すからでもある。また、清水は希少水生生物の大切な棲みかでもある。
 しかし、土地利用の変化(都市化、涵養地となる田んぼの転作など)により、年々水源となっている地下水の量が減ってきている。
 また、森林伐採のために広範囲の土壌が侵食され、川に大量に流れ込んだ土砂により川の水が汚濁されるとともに、生活排水や工場排水により水は汚染されてきた。これにより、重要な生活用水が周辺の人々から奪われただけでなく、複数の河川系の生態系が破壊され、複数の魚類が絶滅の危機に立たされ、海洋の珊瑚礁までもが失われている。

今後のめざすべき方向

 これまでみてきたように、日本で生活をしていく上で中山間地域の役割は重要で、また日本人の心のよりどころとしても欠かせない資源(観光面でも)であるが、しかし今その地域は消え去ろうとしている。
 そのことは自ずと環境悪化を招き、自然が崩壊し、食の面においても人々の生活を脅かしていくことは確実である。 
 私たちは今、この日本の将来にこの豊かな自然を維持し、残していかなければならない。現在に生きる私たちがこの事前を崩壊させることは、子や孫達を犠牲にしてしまう。私たちが日本の将来、人間の将来に子孫の繁栄を願うのであれば、今考え行動しなければならない。
 この故郷の風景をどうしたら残していけるだろうか。

(1) このまま中山間地域が崩壊の道を進んでも
① 既存の農地の荒廃と併せ空家も増加し、猪や鹿などの害獣の住みかとなり、平地部の農地や集落への被害が拡大する。
② 農地の荒廃によるダム効果の喪失と河川や道路の荒廃によって、下流域に大規模な水害を引き起こす可能性が増す。また河川や道路の管理を行政が行うこととなれば、県・市町村の財政負担が大きくなる。
③ 荒廃した農地や空家、河川や道路は景観を悪くし、観光ルートに悪影響を及ぼし観光面においても影響を与える。
④ 4割強の耕地面積と4割弱の農業産出額の中山間地域の農業の衰退は、日本の食料受給率の大きな低下となり深刻な食料事情を余儀なくされる。
⑤ 中山間地域の人口減少は、その周辺都市の経済悪化を招き、大都市への一極集中が一層進行し、過疎エリアがさらに拡大していく。
  しかし、中山間地域が崩壊したとしても、居住エリアが限られ、荒廃した中山間地域がそれなりの自然風景となって落ち着き、将来に渡ってはその風景が新たな日本の風景となるのではないだろうか。
  災害も頻繁に発生しながら復旧し、その繰り返しで自然と落ち着いてくるのではないだろうか。水源機能も山々が無くなるわけでなく拡大するわけで、それなりに維持されるのではないだろうか。
  食料自給率も企業参入などにより施設園芸の技術が進歩し、年間通して各種農作物が機械的生産され自給可能となっていくのではないだろうか。そして価格も高止まりで安定していくのではないだろうか。現在の農産物の価格は市場によって決定されており生産コストが無視された状態に問題があるため、企業的経営によって流通面も改革され是正されるという見方もできる。
 居住地、工業地、農地、原野、山林・森の新たなスタイルが形成されるのではないだろうか。そんな風に考えて行くと、中山間地域の問題は今住んでいる住民の生活を守ることだけで良いのかもしれない。

(2) 中山間地域を維持し、故郷の風景を残して行くことができるか
① 残して行くための課題
 ア 中山間地域の農林水産業を維持・継続できるか。
 イ 中山間地域の住民が所得を得て生活を維持・継続できるか。
 ウ 新たな中山間地域の形態はあるか。
 エ 中山間地域を維持できる、地域特性を活用した新たなビジネスはあるか。
② 新たな農業経営への提案
 ア 地域内での循環経済
   人口減少社会に突入し、右肩上がりの成長が望めない状況の中にあっては、地域内での経済循環を図っていくべきではないだろうか。
   その一つは、地産地消の推進(地域で生産されたものをその地域で消費することであるが、最近では地域で消費されるものを生産する「地消地産」を唱える人もいる)である。国では、地域で生産されたものを地域で消費するだけでなく、地域で生産された農産物を地域で消費しようとする活動を通じて、農業者と消費者を結び付ける取り組みであり、これにより、消費者が、生産者と『顔が見え、話ができる』関係で地域の農産物・食品を購入する機会を提供するとともに、地域の農業と関連産業の活性化を図ることと位置付けている。
   産地から消費するまでの距離は、輸送コストや鮮度、地場農産物としてアピールする商品力、子どもが農業や農産物に親近感を感じる教育力、さらには地域内の物質循環といった観点からも、近ければ近いほど有利である。また、消費者と産地の物理的距離の短さは、両者の心理的な距離の短さにもなり、対面コミュニケーション効果もあって、消費者の「地場農産物」への愛着心や安心感が深まることになる。それが地場農産物の消費を拡大し、ひいては地元の農業を応援することになるのである。
   さらには、高齢者を含めて地元農業者の営農意欲を高めさせ、農地の荒廃や捨て作りを防ぐことにもなり、地場農業を活性化させ、日本型食生活や食文化が守られ、食料自給率を高めることにつながっていく。地産地消の主な取り組みとしては、直売所や量販店での地場農産物の販売、学校給食、福祉施設、観光施設、外食・中食、加工関係での地場農産物の利用などが挙げられる。
 イ 労働力の確保
   若年労働力の流出が続く中山間地域において労働力を確保するためには、定年者の農業への就労が有効ではないだろうか。統計的な動きからみても、農業、農村では高齢化が進展しているが、農業が高齢者の定年やリストラ後の就業の受皿及び高齢者の能力・意欲に応じた就業の場となっている。新規就農者は、農業生産や地域の活性化に重要な役割を果たしており、就農相談窓口では、定年退職後の就農希望者等の相談が増加している。今後は、全国で676万人(本県38万人)と突出して多い団塊の世代(1947~49年生まれ)が地域農業・農村の新たな担い手として大いに期待される。
   また、定年退職後、子育てからも手が離れ自由になる時間を故郷で過ごす地元出身者のUIターンにも期待したい。小規模集落では、集落から都市に出ていっているいわゆる他出子に集落の応援団になってもらう取り組みを行っている所もあり、将来的には定年後のUターンに期待したい。

(3) まとめ
 中山間地域の主産業である農業や林業は、現状においても土地条件が良くても所得が低く、専業で生活することは厳しく新たな発想での事業展開が必要である。
 また、現在住んでいる住民も高齢化し、買い物や病院など自立した生活は厳しく、住み続けるためには外からのサポートが必要である。中山間地域地域は既に自立し再生するだけの経済力もマンパワーも無くなっている。そのため自立し住み続けながら地域を残して行くためには行政サポートは不可欠となっている。
 しかし、現状をそのまま残すことは無理であり、それぞれの地域での周辺の都市と連携した新たな中山間の在り方を行政と地域住民が検討しながら対策を講じることが必要である。ただ、かなりのスピードで多くの中山間地域の集落が限界集落となりそして荒廃した集落となり手遅れな状態となってきており、早急な対策を講じなければならない。
 今回の研究結果を踏まえ、今後は地域・集落を特定した対策を検討し、継続性や収益性など具体的なシミュレーションを行いながらより深掘した研究を進めて行きたい。