【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第6分科会 セーフティネットとしての公共交通

 現在、名古屋市交通局では地方財政健全化法を踏まえ、2016年度までにバス事業の資金不足比率20%未満の達成をめざして、市営交通事業経営健全化計画に取り組んでいます。給与制度の見直しや給与カット、業務の見直しや委託拡大を柱に、労使一丸となった取り組みにより、この度、2013年度決算見込みで目標を下回る17.3%を達成する運びとなりました。本レポートではこの間の経過をご紹介しながら、今後の課題について提言します。



市営交通事業の経営健全化への道程と今後の課題


愛知県本部/名古屋交通労働組合 大原 拓士

1. はじめに

 2001年、小泉内閣の「改革なくして成長なし」「民間にできることは民間に」のキャッチフレーズの下、規制緩和により民間事業者が容易に新規参入できるようになり、各都市厳しい財政状況の中、苦しい経営を余儀なくされていた公営交通事業は、相次いで民営事業者への譲渡や管理委託、事業廃止に追い込まれていきました。さらに2007年、北海道・夕張市の財政破たんをきっかけに地方財政健全化法の制定が加速し、法の趣旨から、経営健全化基準(資金不足比率20%以下)を達成しなければ地方公営企業は存続が困難となりました。当時、名古屋市交通局は、モータリゼーションの台頭や少子化による人口減少などから、単年度収支での赤字が続き、累積赤字が年々増大する状況にあり、とりわけバス事業の資金不足比率が50%を超える当局としても何らかの手立てを講じる必要に迫られました。そこで有識者による経営健全化検討委員会の提言を受けながら、「バス事業の資金不足比率20%未満」の達成を最優先課題に経営健全化計画を策定し、地下鉄事業については、法に基づく経営健全化計画は義務付けられてはいませんでしたが、多額の累積資金不足を抱え、民営事業者と遜色のないコスト体質をめざしてバス事業同様に経営健全化計画を策定しました。紙面の都合上、計画のすべてを詳細にご紹介できませんが、名古屋市交通局の取り組みと成果の一端をご紹介し、名交へのご理解とご支援を賜りたいと存じます。

2. この間の経過

(1) 累積資金不足増加の主な要因
 市バスは乗車人員が減少しているにもかかわらず、サービスの大幅な低下をしないままに市民の移動手段を確保してきてしまったこと、地下鉄は過去の路線整備や新線建設に伴い発行した企業債の元利償還金の影響が大きかったことなどがあげられます。

(2) 経営改革の取り組み
 民営事業者と遜色のないコスト体質とする取り組み、お客様の満足度を高めるサービス向上への取り組み、積極的な利用促進・附帯事業の拡大の取り組みなどにより、市バス・地下鉄の経常収支を2010年度に黒字化するとした「経営改革計画(2006~2010年度)」を実施しました。結果、市バス事業は2006年度から連続で黒字化を達成、地下鉄事業は2008年度に黒字化を達成しました。

(3) 経営健全化への課題
 経営改革に取り組んだ結果、健全化に向けたスタートラインに立てたものの、このまま新たな施策を講じない場合の収支見通しは、市バス事業では、累積資金不足が2008年度105億円、2016年度には261億円と、健全化には223億円の縮減が必要。地下鉄事業では、2012年度で特例債制度及び経営健全化出資金制度の終了により2014~2016年度には資金手当てできない状況が発生、これを借り入れで賄うため資金手当債の残高が増加し実質累積資金不足が、2008年度2,375億円が2016年度には2,717億円となり、両事業ともこれまで以上の支出抑制策や収入増加策に取り組む必要性から、新たな経営健全化計画を策定することとなりました。

3. 経営健全化計画の概要

(1) 基本方針
 今後とも、市営交通事業として、健全な経営をめざし、お客様第一主義に基づき、市バス・地下鉄の一体的なネットワークにより、市民や利用者の皆様に、安全第一で、より安い費用で、より利便性の高いサービスを提供し、市民の移動手段としての役割を担っていく。

(2) 計画期間
 2009年度から2016年度までの8年間。

(3) 計画目標
① 路線・運行サービス水準
  バス・地下鉄ともに現行の水準を低下させない。(地下鉄桜通線・野並~徳重開業に伴う見直しを除く)
② 収支目標
 ア バス事業
   2016年度に資金不足比率を経営健全化基準(20%)未満とする。
   ※ 資金不足比率=累積資金不足額÷営業収益 2008年度は55.3%
 イ 地下鉄事業
   経常収支の黒字を維持し、実質累積資金不足額の増加を抑制する。

(4) 経営健全化方策
① 人件費の抜本的な効率化
 ア 給与制度等の見直し
   ・企業職給料表(2)適用職員の企業職給料表(3)適用への移行 ・給与カットの継続 ・休日勤務手当の見直し ・特殊勤務手当の見直し ・夏季休暇の一部凍結
 イ 業務の委託化
   ・バス管理委託の拡大 ・地下鉄駅務業務の委託導入 ・バス車両整備業務の委託拡大 ・地下鉄車両保守業務の委託拡大 ・地下鉄運転業務の委託拡大 ・業務の再点検による更なる業務委託の拡大
 ウ 業務の見直し
   ・運輸現業職場における長短勤務の導入 ・地下鉄ホーム柵設置に伴う駅務関係職員の配置基準の見直し ・再雇用、嘱託職員の勤務体制の見直し ・地下鉄桜通線延長開業に伴うバス路線の再編成 ・業務の再点検による更なる見直しの実施
 エ バス関係職員の地下鉄配転
  ● 以上により、2010年度以降7年間の累計で、人件費をバス事業で284億円、地下鉄事業で51億円、合わせて335億円を削減する。
② 建設改良費の増加抑制
  ・バス車両や施設の長寿命化による投資抑制 ・地下鉄新路線整備の休止
③ 経費等の節減
  ・省エネルギーの推進 ・ICカードの導入 ・アセットマネジメントを踏まえた維持管理 ・外郭団体の整理統合 ・その他全般的な経費の削減
④ 利用促進策
  ・乗車券制度の改善 ・ICカード乗車券の導入、普及促進 ・高齢者を対象とした方策の実施 ・新規利用者獲得のための方策の実施 ・お値打ちな料金、乗車券のPR ・観光施設、各種イベントとの連携
⑤ 付帯事業収入の拡大
  ・既存媒体の活用による広告収入の拡大 ・顧客ニーズをふまえた新規広告媒体の開発 ・お客様ニーズをふまえた駅構内店舗の設置 ・ICカード乗車券の電子マネー機能の活用
⑥ 財政基盤安定化方策
  ・バスの公費負担ルールの継続 ・バス事業運営費負担金の充実
⑦ バス事業の資金不足縮減方策
  ・交通事業基金の活用 ・資産の売却 ・一般会計からの新たな支援要望
⑧ お客様サービスの向上
  ・安心・安全な市バス・地下鉄 ・快適で利用しやすい市バス・地下鉄 ・利便性の高い交通サービスの提供
⑨ 職員のモチベーション向上
  ・職員の努力・成果に報いる制度の導入 ・職員の能力開発 ・職員がいきいきと働くための職場づくり

4. 取り組みの成果

(1) 2014年度予算
 2014年度予算は、消費税率引き上げに伴う市バス・地下鉄の料金・手数料改定、人件費効率化策、地下鉄東山線の終電時刻の延長、市バス・地下鉄の運行に係る安全への取り組み強化等を考慮した予算編成とした結果、依然、両事業とも大幅な資金不足はあるものの、経常収支において、バス事業では8億円、地下鉄事業では38億円の黒字が計上されました。結果、バス事業の資金不足額は約31億円、資金不足比率は経営健全化基準を下回る16.1%が見込まれ、また、2013年度決算においては17.3%となる見通しで、2016年度に資金不足比率を経営健全化基準(20%)未満とする目標を3年前倒しで達成することが明らかになりました。決算確定後、速やかに健全化団体解除の申請を行う予定としています。

(2) 収支状況
① 市バス
 ア 経常収支  イ 資金不足額
② 地下鉄
 ア 経常収支  イ 実質資金不足額

5. 今後の課題

 経営健全化計画の最優先課題であったバス事業の資金不足比率20%以下については達成しますが、最終目標である資金不足及び債務超過の解消に向けて引き続き努力をしていかなければなりません。今後、消費増税によるコスト増、電力や燃料の高騰、市長や議会の動向など、想定外の要因によって計画に支障をきたすことも十分考えられます。そうした中、交通政策基本法が制定されたことは私たちにとって追い風となると期待をしていますが、さらに一歩踏み込んだ「移動する権利」を引き続き求めるとともに、そのために必要な財源確保のため政府・関係省庁対策に取り組む必要があります。また、公営交通事業の維持・存続のためには、議会対策をはじめ、今まで以上に政治との関わりが重要になることから、来るべき来春の統一地方選挙では、自治労組織内・安藤としき愛知県議会議員の再選はもとより、私たちと心を同じくする現職議員の再選、予定候補者の当選に向けて、名交は一丸となって取り組んでいかなくてはなりません。

6. おわりに

 当時、経営健全化計画に取り組むとした当局に対し、一組合役員として「本当にそこまで当局が追い込まれているのか。また、組合員にこれだけの計画を理解してもらい、やり切れるのかどうか」半信半疑であったと記憶しています。しかし、労使の信頼関係のもと、執行部の組合員に対する誠心誠意な対応と、当局との粘り強い交渉によって計画を実行に移し、この間、給与制度の見直し、その上での給与カット、合理化や効率化の名の下での労働強化など、私たちは汗をかき、血を流して計画に取り組んできました。結果的に計画を上回るペースで健全化は進み、今、バス事業の資金不足比率の目標を3年も前倒して達成するに至りました。この先、まだまだ苦難の道のりは続きますが、ようやく見え始めた、まさに灯火のような光ですが、この希望の光を決して消さぬよう、あらゆる手立てを講じて立ち向かっていくことをお約束し、また、自治労の仲間の皆さんのご支援をお願い申し上げ、終わりとします。共にがんばりましょう。