【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第6分科会 セーフティネットとしての公共交通

 近年、大都市圏を中心として、公共交通分野ではICカードによる乗車券の導入が進んでいる。IC乗車券は公共交通機関だけの利用にとどまらず、様々な分野での利用が可能なことから、公共交通の利便性だけでなく、市民のライフスタイルをも変える可能性を持っている。また、乗降にかかる時間を短縮できることから、交通渋滞の緩和、バスの定時運行などの効果も期待できることから、ICカード乗車券の導入を検討するべきと考えている。



松江市周辺(地方)の公共交通における
ICカード導入推進について

島根県本部/松江市職員ユニオン・交通支部 松本  健

1. はじめに

 公営交通を取り巻く環境は、近年、交通分野では、ICカード乗車券の導入により乗車券購入や現金支払いの煩わしさがなくなり、移動性が向上している。特に電子マネー機能を搭載した携帯電話やICカード乗車券が発行されるようになり、交通機関だけでなく、ホテルやレストラン、あるいはショッピングなど、様々な分野でのサービスの利用が拡大している。今や、携帯電話や電子マネー機能付きICカード乗車券は、交通サービスの利用形態だけでなく、消費者のライフスタイルをも変えようとしている。今後、様々な分野で、広く共通利用できるICカード・システムが整備・拡充されつつあり、また全ての公共交通機関が参画した広範囲な料金収受システムが構築されれば、より便利な交通社会の実現が可能となると思われる。このようなICカード乗車券は、公共交通の利便性の向上につながるだけでなく、市内の観光周遊や地域観光の振興、まちづくりにも寄与することが期待できる。
 現在、松江市の公共交通の料金支払いのシステムは事業者により異なっており、またバス事業においては、バスカードリーダー(磁気カード)の老朽化や業者の撤退により故障時の改修が困難な状況になりつつある。今後、昔のように定期券と現金授受に戻るか、ICを導入するかにより松江市の公共交通事業の発展や観光振興に大きく左右するものと思われる。

2. 松江市内の公共交通料金支払いシステムについて

 現在、松江市の公共交通は鉄道・バス・タクシーがあり、その支払いの方法は様々である。共通の支払い方法といえば現金払いだけで、オレンジカード・定期券・バスカード(磁気カード)・チケット・1日乗車券など各事業者共通で使用できるものは一切ないのが現状である。
 バスカード(磁気カード)についてはしまね共通バスカードの利用が島根県内を運行するバスで共通使用できるが、ほかの公共交通や県外のバス業者での利用はできない。

3. バス、鉄道にICカード共通乗車券システムを導入することの効果について

(1) 利用者便益に係る効果
 ICカード共通乗車券システムを導入することにより、小銭を用意することなくスムーズな乗降が可能となるほか、乗り継ぎ割引等の設定が容易となることで利用者サービスの充実が図られる。さらに、バス事業者間、バス・鉄道・タクシー間で共通化することで市内の交通機関を1枚のICカードや携帯電話で利用できるようになるなど、利用者の利便性が大きく向上することが期待できる。

(2) 業者便益に係る効果
 乗務員が現金を扱うことが少なくなるため集金等の経費節減や事故防止に繋がるとともに、乗客の乗降データ(日時、停留所等)がすべて記録されるため、日々の運行管理に活用できるだけでなく、データを蓄積することにより、より的確な運行計画を作成することができるものと期待される。

(3) 社会的便益に係る効果
① 道路交通混雑対策の効果
  ICカードの導入によりバスの利用者の乗降がスムーズになることでバスの停車時間の短縮が期待され、バス運行のスピード化が図られるほか、パーク・アンド・ライドとの連携を進めることによりマイカーからバス利用への転換を図ることで交通渋滞の緩和が期待される。

【交通系ICカード導入による一人当たりの乗降時間短縮効果】
現金等利用時の一人当たりの乗降時間:約2.67秒
交通系ICカード利用時の一人当たりの乗降時間:約1.78秒
(札幌市の実証実験結果より)

② 環境対策の効果
  交通渋滞による地球温暖化物質である二酸化炭素の排出や大気汚染物質である窒素酸化物や粒子状物質の排出等環境問題も課題となっているが、渋滞緩和や公共交通機関へのシフトによる自家用自動車の縮減により、環境の改善が期待できる。また、ICカード乗車券は繰り返し使用が可能であることから、従来の整理券方式や磁気カード乗車券と比較すると資源の有効活用(リサイクル化)に資することが期待される。
③ 中心市街地の活性化の効果
  中心市街地の空洞化が問題となっているところであるが、ICカードを導入することにより乗り継ぎ割引などの利用者利便を向上させ、中心市街地へのアクセスの改善を図るとともに、共通ポイント制導入やクレジットカードとの提携による商店街や大型店舗との連携を図ることにより、中心市街地の活性化が図られることが期待される。

4. ICカードの今後の展開について

 交通系ICカードシステムについては、導入に際しての初期投資額は大きいものの、利用者、交通事業者ともにメリットのあるシステムであることから、今後も政令指定都市や地方中核都市からその導入は急速に進んでいくと考えられる。また、相互利用やICカードの特徴でもある多機能化についても進んでいくものと考えられる。
 相互利用が始まるのは、JR各社が発行する「Kitaca」「Suica」「TOICA」「ICOCA」「SUGOCA」、首都圏の私鉄などで利用できる「PASMO」、関西の私鉄などで利用できる「PiTaPa」、名古屋市交通局と名古屋鉄道の「manaca」、福岡市交通局の「はやかけん」、西日本鉄道の「nimoca」。全国の駅の半分近くとなる4,275駅とバス2万1,450台(2012年12月1日現在)がカバーされる。
① 2013年6月には札幌の地下鉄なども
  また2013年6月22日から、札幌市交通局の地下鉄と市電、JR北海道バス、じょうてつ、北海道中央バスの「SAPICA」が利用できるバス路線で、JR東日本のSuicaが利用できるようになる。全国交通系ICカードの相互利用が始まる結果、KitacaなどSuicaと相互利用対象のカードも同様に利用可能になる(SAPICAをSuicaなどのエリアで利用することはできない)。
  6月23日以降、相互利用エリアでは、特別な手続きなどは必要なく、
 ・自動改札機での入出場
 ・バス車載機での乗車と降車
 ・自動券売機などでのチャージ
 ・カードの利用履歴の表示、印字
 ・カードの残額を使って自動券売機などで切符を買うといったことが可能になる。

 ・対応する鉄道

ICカード
事業者
Kitaca JR北海道
PASMO 伊豆箱根鉄道、江ノ島電鉄、小田急電鉄、京王電鉄、京成電鉄、京浜急行電鉄、埼玉高速鉄道、相模鉄道、首都圏新都市鉄道、新京成電鉄、西武鉄道、東京急行電鉄、東京地下鉄、東京都交通局、東武鉄道、東葉高速鉄道、箱根登山鉄道、北総鉄道、舞浜リゾートライン、ゆりかもめ、横浜高速鉄道、横浜市交通局
Suica JR東日本、東京モノレール、東京臨海高速鉄道、埼玉新都市交通、伊豆急行、仙台空港鉄道
manaca 名古屋市交通局、名古屋鉄道、豊橋鉄道
TOICA JR東海
PiTaPa 大阪市交通局、近畿日本鉄道、阪急電鉄、京阪電気鉄道、南海電気鉄道、阪神電気鉄道、京都市交通局、神戸市交通局、大阪高速鉄道、大阪府都市開発、北大阪急行電鉄、水間鉄道、京福電気鉄道、静岡鉄道
ICOCA JR西日本、JR四国
はやかけん 福岡市交通局
nimoca 西日本鉄道
SUGOCA JR九州

 ・対応するバス

ICカード
事業者
PASMO 伊豆箱根バス、江ノ電バス横浜、江ノ電バス藤沢、小田急バス、小田急シティバス、神奈川中央交通、湘南神奈交バス、津久井神奈交バス、横浜神奈交バス、相模神奈交バス、藤沢神奈交バス、川崎市交通局、川崎鶴見臨港バス、関東バス、京王電鉄バス、京王バス東、京王バス南、京王バス中央、京王バス小金井、京成バス、千葉中央バス、千葉海浜交通、千葉内陸バス、東京ベイシティ交通、ちばフラワーバス、ちばレインボーバス、ちばシティバス、ちばグリーンバス、京成タウンバス、京成トランジットバス、京成バスシステム、京浜急行バス、羽田京急バス、横浜京急バス、湘南京急バス、国際興業グループ、小湊鐡道、相鉄バス、西武バス、西武観光バス、立川バス、シティバス立川、千葉交通、東急バス、東急トランセ、東京都交通局、東武バスセントラル、東武バスウエスト、東武バスイースト、東武バス日光、朝日自動車、茨城急行自動車、国際十王交通、川越観光自動車、阪東自動車、西東京バス、箱根登山バス、小田急箱根高速バス、日立自動車交通、富士急行、フジエクスプレス、富士急湘南バス、富士急山梨バス、富士急平和観光、富士急シティバス、富士急静岡バス、船橋新京成バス、習志野新京成バス、松戸新京成バス、平和交通、あすか交通、山梨交通、横浜市交通局、横浜交通開発
Suica ジェイアールバス関東、新潟交通
manaca 名古屋市交通局、名鉄バス、名鉄バス中部
PiTaPa 大阪市交通局、水間鉄道、しずてつジャストライン
nimoca 西日本鉄道、西鉄バス北九州、西鉄高速バス、西鉄バス佐賀、西鉄バス久留米、西鉄バス筑豊、西鉄バス大牟田、西鉄バス宗像、西鉄バス二日市、日田バス、昭和自動車、大分交通、大分バス、亀の井バス●電子マネーも

  PiTaPaを除く9種類のカードでは電子マネーの相互利用も可能。コンビニエンスストアなど全国約20万店舗で利用でき、出張先の駅の売店で買い物をする時などに便利だ。

5. おわりに

 交通系ICカードは、国内においては関東圏、関西圏という大市場においていまや爆発的な普及期を迎えつつあり、国内のICカードシステム市場においてもリーダー的な存在となりつつある。将来的には広く普及した交通系ICカードをプラットフォームとした、電子マネーをはじめとした新たなビジネスの展開も期待されるところである。交通利用者のみならず他業界にも好影響を与えることから、交通事業者によるその積極的導入に期待する。今後、地方での普及に向けた関係者や行政の努力を期待したい。