【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第7分科会 ワークショップ「自治研」 楽しく学ぶ自治研活動

 越前市には変わった課があります。それは『越前建設ナノブロック課』。『課長』は現在34歳、課員は若手のみで8人。業務内容は『ふるさと越前市・福井県の魅力を世界にPRすること』『子どもたちに作る(創る)喜びを伝えること』。勤務時間は平日夜と土日祝日。ただし、給与や手当は一切支払われません。まさか今問題となっているブラック企業? いえいえ、当課はブロック企業です。いったいどんな職場なのでしょうか?



越前建設ナノブロック課
―― ただのブロック遊び? それとも…… ――

福井県本部/越前市職員組合・越前建設ナノブロック課・課長 石本 雄祐

1. はじめに

(1) 2つの肩書
 私は越前市職員である。所属は建設部都市計画課、職名は主査。しかし私にはもう一つの肩書がある。残業のない平日の夜と土日祝日、私は『課長』に昇格するのだ。所属は越前建設ナノブロック課、課員は8人(2014年6月20日現在)。私の課の業務は『ふるさと越前市・福井県の魅力を世界にPRすること』そして『子どもたちに作る(創る)喜びを伝えること』である。

(2) ナノブロックとは
 ナノブロックは日本の玩具メーカー、株式会社カワダから販売されているブロック玩具である。最小単位のブロックが4mm×4mm×5mmと極小であるため、他のブロック玩具と比較して作品をより小さく、リアルに作ることが可能である。価格も手頃で、商品のパッケージも小さくできるため、近年では観光地において『ご当地ナノブロック』がお土産物として販売されている。一例を挙げるとディズニーリゾートやUSJ、ハウステンボスといったテーマパークではキャラクターを再現したキットがパーク内で限定販売され、人気を集めている。

2. 活動のはじまり

(1) 33歳で課長就任
 私は子どものころ、ブロック遊びが大好きだった。数年前、たまたま立ち寄った雑貨屋でナノブロックに出会い、ブロック熱が再燃。自分の作った作品を見てもらいたいという思いから趣味でブログを始めることになった。
 ただ、ナノブロック関係のブログやHPは数多く、私よりも遥かにレベルの高い作品を作る人(ビルダー)は大勢いる。他のビルダーと同じような作品を作っても面白くないし、勝ち目はない。どうしようか……。
 そこで私は考えた。「思いっきりローカルなブログにしよう。作品のモチーフは越前市や福井県にゆかりのあるものを中心に。もしかするとそこから越前市のPRに繋がるかもしれない。」
 そしてブログのタイトルは『越前建設ナノブロック課』に決定。ブログ内で私は『課長』を名乗ることにした。越前建設という架空の会社があって、私はナノブロック課という部署の課長という設定である。
 2013年6月1日、越前建設ナノブロック課のブログが始まり、私は33歳で課長に就任した。

(2) 『きくりん』のブロック化
 こうして始まった私のブログ、内容が地味(?)なだけに当初は一日のアクセス数もわずか10前後。ブログにはコメント欄もあるが反応も少なく、7月8月は本業が忙しくてなかなか更新もできなかった。それでも時間を見つけて、越前市に関わりのあるマスコットキャラクター『きくりん』、越前市に本社があるローカル私鉄『福井鉄道』の車両、越前市の鳥である『コウノトリ』といったモチーフを選び、作品をアップし続けた。
 ここできくりんについて少し紹介させていただきたい。きくりんは越前市が誇る秋の風物詩、日本三大菊人形の一つ『たけふ菊人形』の公式マスコットキャラクターである。きくりんは着ぐるみも製作されており、越前市の各種イベントにも出没していることから、越前市内ではそれなりに認知されている。しかしいわゆる『ゆるキャラ』としての全国的な知名度は低いというのが実情である。
 私は子どものころから親しんでいるたけふ菊人形を全国の人に知ってもらいたい、娘も大好きなきくりんの知名度をなんとか上げたいと思い、きくりんをブロック化することにした。丸っこく愛らしい姿を四角いブロックで再現するのは大変だったが、試行錯誤を繰り返し、なんとか2013たけふ菊人形の開幕前に完成させることができた。2013年9月17日未明のことである。

(3) 若手職員からのアイデア
 2013年10月のある日、私は職場の若手職員の飲み会に出席した。仕事とは関係のない有志の集まり。しかし、当然のことながら話題はわが街『越前市』のことになる。建設、福祉、教育、観光……様々な部署から集まった若者たちが熱い意見をぶつけ合う。皆、立場は違えど「越前市を何とかしたい」という思いは同じであった。
 そこで私は自分が作った『ブロックきくりん』を披露した。実はこの日まで私は自分のブログや活動のことは職場では一切秘密にしていた。「ブロックで市のPR? ただの遊びだろ?」「そんなことをしている暇があったらもっと仕事をしたら?」と言われることが怖かったのだ。だが、自分と同世代の彼ら(彼女ら)ならば理解してくれるかもしれない。そう思って恐る恐る見せてみると……
 「石本さん! これ面白いですよ」「可愛い! 菊人形会場でお土産物にできないかな?」と肯定的な意見が相次いだ。観光課できくりん公式ツイッターを担当している職員はその場で写真を撮ってつぶやいてくれた。
 そして広報課の職員からこんなアイデアが。「石本さん、きくりんの作り方を子どもたちに教えられませんか? もし可能なら、自分が公民館とマスコミに情報を投げ込みします。」

3. ネット上から現実の世界へ

(1) ブロックきくりん組立説明書の作成
 翌日、広報課の彼は私のところにやって来た。「石本さん、さっそくですが公民館からオファーがありました。11月中には開催しないといけないので、早速準備に入らないと」あまりの急展開にとまどいを隠せない。
 (実は彼こそが、越前市のB級グルメ『ボルガライス』を全国に売り出した『日本ボルガラー協会』の会長、ボルガチョフである。彼の活動については第34回兵庫自治研集会においてレポート報告されているのでご参照されたい。)
 急きょ開催されることになった『ブロックきくりん製作教室』。とにかく子どもたちに作り方を教えるものが必要だということで、私が図面作成と写真撮影、彼がそのデータを基にレイアウトするという分担で『ブロックきくりん組立説明書』を完成させた。そして依頼者である公民館主事と打合せを重ね、教室開催の準備を進めていった。


(2) ブロックきくりん製作教室
 2013年11月29日、越前市内の公民館で子どもたちの前に作業服姿の男が立っていた。「皆さんこんにちは。私は越前建設という会社で課長をしている石本といいます。私は昼は建物を作って、夜はブロックで何かを作っています。今日はみんなできくりんを作りましょう。」
 そして始まったブロックきくりん製作教室。全てがぶっつけ本番で、正直不安もあった。だが……結論から言うと大成功だった。最初のうちこそつまづきはあったものの、子どもたちの創造力は想像以上。あっという間にコツをつかんで、皆スイスイと組み立てていく。早く出来上がった子は遅れている子に教えてあげるという光景も見られた。取材に来たCATVのカメラの前で自分が作ったきくりんを誇らしげに見せる男の子。皆、凄く楽しそうにしている。
 全員がほぼ完成させた頃合いを見計らって、課長からのとっておきのサプライズプレゼント。入口から何か黄色く丸っこいものが入ってくる。「……あっ! きくりんだー」笑顔で駆け寄る子どもたち。そう、事前に観光課にきくりん派遣を申請していたのだ。
 最後にきくりんと参加者全員で記念撮影をしてブロックきくりん製作教室は終了。皆、ブロック遊びときくりんのことを大好きになってくれたと思う。

4. ブロック教室のその後

(1) 教室開催の反響
 教室の様子をブログにアップしたところ大きな反響があった。ブロックビルダーは皆、オリジナル作品を作り、それをアップして人の反応を見るのが喜びであるが、作品を真似されること(盗作されること)を嫌っている。ところが組立説明書を公開し、無償で作り方まで教えているビルダーがいたのだ。いったい誰が何のために? 越前市ってどこ? そもそも『きくりん』って何? SNSツールによって越前建設ナノブロック課の活動が広まっていった。

(2) 課員の増加
 第1回目のブロック教室を成功させたことは市内公民館主事の間でも話題となり、私のところには次々とオファーや問い合わせがあった。私と広報課の彼の2人だけでは負担が大きくなってきたため、市職内で仲間を募集したところ、先の飲み会メンバーを中心に数人が手を挙げてくれた。
 課員皆で事前準備や広報活動、教室当日の指導を分担し、2014年1月末までにブロック教室を3回開催。70人以上の親子が参加し、50体以上のブロックきくりんが作られた。

(3) メーカーとの協議
 ただ、あまりにも反響が大きかったため、ナノブロックの販売メーカーから私のところに連絡があった。「ナノブロックの商標権は当社にあるので、ブロック教室における営利活動(材料費のやりとり)は認められない。」ということであった。私は自分の活動とブロック教室の趣旨を説明し、メーカーの担当者と何度か協議を行った。担当者には私の活動が営利を目的としているものではないことは理解してもらったが、ライセンス契約等の諸問題をクリアすることは相当難しいことが分かった。
 私の活動に悪意はないが、だからといって関係者に迷惑をかけても良いわけではない。私はブロック教室の活動を当面休止することにした。その上で、私の活動がどこまで認められて、どこからがメーカーとして困るのか一つ一つ確認を行った。最終的には担当者にも「ユーザーの善意の行為をつぶすつもりはない。これからもブログや(商標権を侵害しない範囲の)活動は続けてもらっても構わない。」と言っていただくことができた。
 ブロック教室の休止は残念ではあるが、私の活動がメーカーも無視できないまでになっていたこと、そして直接話をして私の思いを伝えられたことは、活動を続ける上で自信にもなった。

5. 広がる世界

(1) 季節のきくりんシリーズ
 ブロック教室が開催できなくなったため、私はもう一度原点に戻り『越前市や福井県にゆかりのある作品』の製作に力を注ぐことにした。幸いなことにブロック教室の件で越前建設ナノブロック課の知名度は上がっており、ブログ等に作品をアップした際の反応や広がりは各段に向上していた。
 特に私が力を注いでいるのが『きくりん』。ただし同じネタでは飽きられてしまうため、季節ごとにアレンジした『コスプレきくりん』を次々に製作している。2月は節分の『鬼きくりん』、3月ならば『雛人形きくりん』といった感じである。これらの作品は海外でも好評で、外国のユーザーからもコメントやメールが届くことがある。
 さらに私は作品を展示ケースにディスプレイし、市役所の総合案内に実物を展示させてもらうことにした。窓口に手続きにきた来庁者、特に子どもたちに楽しんでもらいたいという思いである。こちらも大変好評で、最近では新作を楽しみに見に来てくれる親子もいるそうである。


(2) 公式コンテスト入賞
 2014年3月末、朗報が届いた。私の作品がナノブロックの公式世界大会で優秀賞を受賞したというのだ。さらに受賞特典として、私が大会にエントリーした全作品が東京スカイツリーで開催されるナノブロックのイベントにおいて展示されることも決まった。
 エントリー作品には『きくりん』や『福井鉄道』も含まれていた。きくりんはブロック教室のトラブルもあり、本当に展示されるのか不安もあったが、2014年5月9日から11日まで、実際に展示していただくことができた。
 なお、イベントには3日間で6,200人を超える来場者が押し寄せ、マスコミ等にも取り上げられ大盛況だったとのことである。

(3) 新聞記事に
 公式大会での受賞は私の活動にさらに弾みを付けた。受賞の事実を投げ込みしたところ、新聞等のマスコミが私を取り上げてくれたのだ。(ここでも活躍してくれたのが広報課の彼。人の繋がりの大切さを実感した。)
 取材を受けたのは4社で、うち3社が全国紙。掲載は福井版のみという社がほとんどであったが、今はインターネット全盛の時代である。記事は紙面だけでなく、Web上でも公開されるため、あっという間にSNS上のナノブロックファンの間に広がっていった。これまでブログ上で『課長』とだけ表示されていた人間の正体が知れ渡った瞬間である。正直、気恥ずかしさもあるが、「市役所職員が時間外にここまでやるんだ!?」という(良い意味での)驚きもあったようで、越前市だけでなく市職員(公務員)のイメージアップにも繋がったのではないかと思う。

6. まとめ

 2013年6月1日にブログを開始してから1年、当初10/日前後だったアクセス数は50/日前後まで増えており、多いときには100/日を超えることもある。現在はブログだけでなく、ツイッターやフェイスブック等のSNSツールと連携しており、新作をアップすると直ちに情報が拡散、その反応が嬉しくて新作づくりの意欲となり……と良い循環を生み出している。『越前建設ナノブロック課』=『きくりん』=『越前市』という認知も広まり、市のPRにもある程度貢献できているのではないかと自負している。
 私はこの活動を通じて学んだことが2つある。まず第1に『公務員という立場は何かの活動を行う上で大変恵まれている』ということ。例えばブロック教室の開催。通常であればいい大人が「子どもにブロック遊びを教えたいんです」と言っても警戒されてしまうだろう。また、マスコミに投げ込みを行ってもそう簡単には取り上げてはもらえない。ブロック教室が実現し、新聞記事にもなったのは私が『公務員』という立場で、それだけで相手にとって信頼があったからだと思う。
 第2に『効果があるかどうか分からなくても、誰にも迷惑がかからないのであれば、やらないよりもやった方がよい』ということである。私の活動は言ってしまえばただのブロック遊びである。「そんなことをして何になるの?」という意見はあろうかと思う。しかし、それを面白いと言ってくれる人、喜んでくれる人もいる。越前市外、福井県外、日本国外の人にまで『きくりん』や『福井鉄道』を知ってもらえたというのは事実である。そして、私の活動で傷付いたり、不利益を被る人は誰もいない。(今のところメーカーとも節度を持った良い関係(Win-Win)を保てていると思う)私自身も趣味の延長として負担を感じることなく続けることができる。そうであるならば、『やらないよりもやった方がよい』のではないだろうか。

 私には今、目標・夢がある。それは『きくりん』がナノブロックの公式キット化されて『たけふ菊人形』会場で限定販売されることだ。たかだか人口83,000人の地方都市のイベントで実現できるはずがないと笑われるかもしれない。だが、大人だってたまには馬鹿な夢を見てもいいじゃないか。ただのブロック遊び上等。私は今晩も新たな『きくりん』のアイデアを形にするため、ナノブロックを手に頭を悩ませる。