【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第8分科会 男女がともにつくる、私たちのまち

変わる公立保育所の役割
多様化する家庭を地域連携で支える

福岡県本部/水巻町職員労働組合 石田 由香

はじめに-存続運動から公立保育所の役割の見直しへ-

 水巻町は福岡県の北部に位置し、面積は11.03平方キロメートル、東は百万都市北九州市に隣接し、西には一級河川遠賀川が流れる南北に細長い町。街の中央部に標高100メートルの小高い丘陵地があり、周辺は平坦で低湿な沖積地で、平野の中央に曲川が流れている。秋には川のほとりに"町の花"である紅・ピンク・白のコスモスが咲き誇り、私たちの心を和ませてくれる自然に溢れた場所である。
 このような自然に恵まれた人口約3万人(2014年4月現在)のこの町には、現在公立保育所1ヶ所、民間保育所4ヶ所、計5ヶ所の認可保育所がある。水巻町には、元々3園の公立保育所があったのだが、2002年小泉内閣の「三位一体改革」の骨太方針が打ち出されたとき、全国でもいち早く「公立保育所の民間委託案」(1園廃園・2園民間委託という公立保育所全廃案)が提案された。
 現場保育士は2000年頃から、いずれ出されるであろう「保育所合理化案」への対抗策を議論していたので、この民営化案が出されたとき、即座に「これからの水巻町の児童福祉のあり方」という中長期的なプランを当局へ提案した。それは町に1園の公立保育所を直営で存続させ、行政機関との連携を強化していくというもので、その後一貫して"町内に1園残す"ことをめざして進めてきた。
 1園が廃園になり、もう1園が民営化されたとき、委託した保育所と公立保育所の保育内容の検証(第三者評価)が行われた。評価は民間との差があからさまにでるものとなり、民営化は足踏みとなった。第三者評価を3年間に2回受けたのだが、この経験は、自らの保育を検証し、保育士および保育所の資質を向上させる素晴らしいものとなった。この第三者評価の結果や保護者の反対運動により、現在、水巻町第二保育所が1園のみ、直営で存続している。
 「公立保育所を無くしてはならない」という考えは、「公立保育所の役割とは何か」という議論に発展し、自分たちの保育を見直し、先を見る目を持つよい機会となった。
 子どもを取り巻く環境は、時代の変遷とともに常に変化していくものである。その変化への対応は、ハード面でもソフト面でも、民間保育所で迅速に対応できるものは限られており、公立保育所で担っていかなければならない。財政的な問題や人的問題など様々なものと睨み合いながら、待ったなしの子育て支援を実践している。

1. 公立保育所が取り組む様々な特別保育-年末年始も含めた365日保育を実践-

 現在水巻町では、「第4次水巻町総合計画・後期基本計画」および「すくすく・のびのび子育てプラン」をもとにして、行政をはじめ地域、企業等を含む社会全体で将来を担う子どもたちが健やかに育つ社会、子育てに喜びや楽しみを持ち、安心して子どもを生み育てられるまちづくりをめざした施策を推進している。
 保育所では、通常保育とともに延長保育、乳児保育、休日保育などを行い、働きながら子育てをしている保護者が安心して預けられるように取り組んでいる。また、家庭で子どもを育てている保護者の緊急時やリフレッシュ時、単発の就労等への対応として一時的預かり保育にも取り組んでいる。
 直営保育所である水巻町第二保育所では、特別保育事業として、生後3ヶ月からの「乳児保育」、心身に障がいを持つ児を預かる「障害児保育事業」、在宅保護者の育児のサポートをする「一時的保育事業」、保育所の休日時の預かりをする「休日保育事業」を行っている。中でも休日保育事業は、日祝日はもちろん、年末年始を含む365日受け入れ体制を整えており、自園のみならず、町内の認可保育所を利用するすべての子ども達を対象として行い、今年で10年目となる。
 また、在宅保護者への支援として、保育所内に子育て支援センターを併設しており、在宅の親子に対する様々な支援を行っている。子育て支援センターでは「相談窓口」を開設して様々な育児相談や栄養相談を受けたり、「子育て広場」と称して、保育所の園庭も含めた親子で自由に遊べる場の提供をしたり、親子で参加できる親子あそび等のイベントを定期的に行っている。また、「ファミリーサポート事業」では、講習を受けた"まかせて会員"が支援を必要としている"おねがい会員"の子どもさんの預かりや送迎等の子育てサポートを行っている。

2. 配慮を要する子ども・家庭への支援-障がい児保育の実践を活かして-

 昨今、保育所・幼稚園・小学校等の集団の中で、行動が気になる子どもや配慮の必要な子どもへの関わりについて取り沙汰されている。子育て環境の変化により、このような子ども達が増えていて、関わりや対応は、現場の保育士や指導者に大きな負担となっている。また、子育て機能の低下や保護者自身の問題により、家庭の中で十分な保育はできていかないケースも増加していて、支援を必要としている保護者や家庭が少なくない。今、このように「配慮の必要な子ども」や「支援の必要な家庭」への支援が、公立保育所の重要な役割のひとつになっている。
 当保育所がこのような子どもや家庭の支援に至った経緯には、長年培ってきた保育の土台がある。水巻町では1983年2月に「障害児保育実施要項」が告示され、早期から障害児保育に取り組んでおり、その経験や積み重ねた研修を保育の中に活かしている。このスキルに加え、地域関係機関との連携は、子どもや保護者を支える大きな財産となっている。公立ならではの保育の継承による土台や豊富な経験を活かし、公的立場を活かした関係機関との連携を強化することで、公立保育所の役割が見えてきた。

3. 保育所と地域関係機関とのつながり-相互に補い合いつつ、共同で見守る仕組みづくり-

 当保育所が連携をもっている機関は、子育て支援センター・児童少年相談センター(ほっとステーション)・母子保健センター(いきいきほーる)・児童相談所・医療機関(療育訓練・アレルギー対応等)・療育機関(療育相談・療育訓練・少人数グループ教室・言語訓練・嚥下訓練等)・町内の保育所(園)幼稚園・町内の小中学校・教育委員会・保幼小連絡会議(保育所(園)幼稚園・小学校との連携機関)・消防署・警察署・老人クラブなどがある。
 中でも密に連携をとっているのが、保育所に併設している「子育て支援センター」と保育所の向かいに隣接している「児童少年相談センター(ほっとステーション)」、「母子保健(いきいきほーる)」である。「子育て支援センター」では、育児相談の中で出てきた問題等について保育所と連携して対応したり、遊び場提供の中で発達の気になる子どもさんの早期発見をして、保育所や母子保健へつなげるなどの取り組みを行っている。「児童少年相談センター(ほっとステーション)」には、専門の相談員が常駐しており、0歳から19歳までを対象に虐待予防や要支援家庭の見守り、不登校児の居場所提供や学校との橋渡しを行っている。保育所に在所している要保護家庭の状況・情報の共有や家庭訪問、関係機関を集めての連絡会議等も行っており、保育所だけでは対応しきれない深刻な事例を共同で見守ったり、他機関へ繋げたりすることにより、急な対応や危険の回避、自立へ向けた支援への取り組みを行っている。また、「母子保健(いきいきほーる)」は、母子保健に特化した施設で、健康・仲間・安心づくりを中心に、健診や療育相談、赤ちゃん訪問、食育推進などを行っている。特に保育所との連携では、発達障がいが疑われるお子さんとその保護者を対象にとした療育相談や親子で参加する小集団でのあそびの教室などが行われており、保育所での対象児の関わり方の学びへと繋がっている。
 また逆に、それぞれの機関から保育所への要請が行われる場合もある。例えばいきいきほーるからの「集団健診で気になる子どもさんがいる」「保護者が異常に疲れている」などの通知を受けて、保育所を利用するケースなどがあり、ほっとステーションからは「虐待が疑われ母子分離が必要」とされた場合、当保育所の一時的保育の利用を促し、保育士の視点で発達を見て欲しいなどの要請がある。

4. 保育士のソーシャルスキルを高め、個々に寄り添う保育の実践を

 関係機関との連携は、保育士のスキルアップに大きな影響を与えた。配慮を要する子ども・家庭への支援に携わることで、保育士の視野が広がり、意識の高まりや向上心も芽生えた。実践や経験を重ねることは、配慮の必要な子どものみならず全ての子ども達への関わりにもつながり、個々に寄り添った保育ができるようになった。今では、臨床心理士の指導のもと定期的に「事例検討研修」を行っている。
 また、子育てに困っている保護者に対して「こういう関わりかたをすれば、子どもさんが生活しやすくなりますよ」など保育所から発信する機会も増えた。保育所と学校とがつながることで就学への橋渡しがスムーズにいくなどの成果も見えてきた。子どもを取り巻く社会事情はますます複雑化している。深刻な事例の増加にともない、今後は、保育士一人ひとりがより一層ソーシャルスキルを上げて行かなければならないと思う。
 少子・高齢化や都市化、過疎化、核家族化など人口構造の急激な変動や女性の社会参画の増加などによる社会環境の変化は、子どもたちの育ちと子育てに様々な影響を及ぼすと予測される。保育制度改革が行われ、子どもの置かれる環境は好転するのかもしれないが、厳しい社会環境の中で子どもの健やかな育ちを支えていくには、大きなエネルギーが必要だ。
 日々変化していく中で「保護者就労支援のための特別保育」「子育て支援のための保育士のスキルを活かした保育」、この両方を充実させることが公立保育所のセーフティネットとしての役割を果たしていけるものだと思う。
 私たち保育士は、子どもの心と体のサインに気づきながらも「仕事だから仕方ない」と保護者側の倫理だけで考えることなく、いつも子どもに寄り添うこと、子どもの代弁者になることを見失わないようにしたい。