【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第9分科会 平和と共生のために、自治体は……

 昨今、調査会社等による戸籍や住民票の不正取得が社会問題になっています。このレポートでは、不正取得の背景、また不正取得から人権を守る取り組みとして、玖珠町では2013年3月1日より導入されている本人通知制度を紹介し、その効果や意義等について検証を行います。



人権を守る取り組み
―― 玖珠町における本人通知制度について ――

大分県本部/玖珠町職員労働組合 後藤 智教

はじめに

 昨今、調査会社等による戸籍や住民票の不正取得が社会問題になっています。不正取得は、調査会社等が不正に個人情報を取得したことだけが問題ではありません。私たちの人権を侵害する目的で、あるいはこのような行為を人権侵害と意識せずに、戸籍や住民票の取得を調査会社等に依頼する人が存在していること、このことがこの不正取得事件の問題の本質です。
 不正取得は、私たちの人権に関わる問題であり、自分自身の人権を守るためにも、他人の人権を侵害しないためにも、私たち一人ひとりが人権意識を高めなければなりません。
 このレポートでは、不正取得の背景、また不正取得から人権を守る取り組みとして、玖珠町では2013年3月1日より導入されている本人通知制度を紹介し、その効果や意義等について検証を行います。

1. 戸籍・住民票とは

 戸籍や住民票は、パスポートの取得・土地建物の登記・車の登録等、日常生活の各種手続きに必要となります。
 戸籍には本籍地の他、出生・死亡・婚姻・離婚、養子縁組等に関わる内容が記載され、親族関係や居住の変遷等、個人の血縁関係を中心に様々な情報が管理されていて、戸籍の請求ができるのは本人、配偶者、直系親族となっています。
 住民票には住所・本籍地・氏名・生年月日・性別等に関わる内容が記載され、世帯構成等、個人の居住関係を中心に様々な情報が管理されていて、住民票の請求ができるのは本人、同一世帯員となっています。

<用語解説>
◆戸籍謄本(とうほん)・戸籍抄本(しょうほん)・戸籍の附票(ふひょう)
 戸籍簿に記載されている内容のうち、全員の写しをとると謄本。個人を特定して抜粋すると抄本になる。また、戸籍簿と共に作成される戸籍の附票には、戸籍簿作成時点からの住所すべてが記載されていて、住所の変遷が確認できる。
 電算化された戸籍の場合、謄本を全部事項証明、抄本を個人事項証明ともいう。

2. 不正取得について

 現在の法律では、行政書士や弁護士等の資格を持つ人は、職務上の必要性から他人の戸籍や住民票を請求することができ、この法律が悪用された事件が発生しています。
 特に、2011年11月には、東京都内の法律事務所が仲介業者を通じ、全国各地の探偵社や調査会社からの依頼を受け大量の戸籍謄本等の不正取得を繰り返した事件が発生しました。このことは、「プライム事件」として大きく報道されています。
 本人が知らないうちに、第三者が違法な方法で不正に取得している事件が起きているのです。

<用語解説>
◆プライム事件
 職務上請求書を偽造して、戸籍や住民票を不正に取得したとして東京都千代田区のプライム総合法律事務所の社長・司法書士・元弁護士・探偵社社長等5人が偽造有印私文書行使と戸籍法違反等の疑いで逮捕された。これまでに全国で1万件以上にのぼる不正取得が判明し、戸籍や住民票の個人情報の売買ルートの存在が明らかになっている。

3. 不正取得の背景

 では、なぜ不正取得が発生するのか? プライム事件では「依頼の8割から9割は結婚相手と浮気の調査」との証言もなされており、いまだに結婚等に際して相手の身元を調べるという動機が存在しています。同和地区の出身者かどうかを探り出すために戸籍が用いられようとした事件もあり、個人情報の売買の問題だけではなく、不正取得された戸籍や住民票が不正な身元調査に使われていることになります。
 このような背景から、現在においても同和地区住民や出身者に対する差別意識が根深く存在していることが分かります。
 今後も、本人が知らないうちに不正取得された個人情報が、結婚や就職の際の身元調査や高齢者世帯への詐欺、ストーカー行為などに悪用されることも考えられます。

<用語解説>
◆同和問題
 日本社会の歴史的発展の過程で形作られた身分的差別により、今なお、生まれ育った地域を理由に一部の国民が、結婚や就職などで不当な差別を受けるなど、憲法に保障された基本的人権が侵害されるという、日本固有の重大な人権問題。

4. 玖珠町での本人通知制度の導入

 不正取得が重大な人権侵害にもつながるという認識が広がるなか、その対策として、本人通知制度と呼ばれる制度を導入する自治体が出てきました。玖珠町でも2013年3月1日より導入しています。
① 本人通知制度とは
  戸籍や住民票を本人の代理人や第三者に交付した場合に、事前に登録した人に対して、その交付した事実を通知するものです。
② 登録の対象となる人
  ・玖珠町の住民基本台帳又は戸籍の附票に記録されている人(消除された人を含む) 
  ・玖珠町の戸籍に記載されている人(戸籍から除かれた人を含む)
③ 登録の方法
  玖珠町役場の住民課総合窓口係で所定の方法により登録ができます。
④ 登録状況
  158人 2013年7月9日時点

5. 本人通知制度の効果・意義

 本人通知制度の導入によって次の二点が期待されます。
① 代理人や第三者が、自分の戸籍や住民票を取得したことが分かるため、不正取得が早期に発見でき、早いうちに事実の究明が期待できること。
  通知された人はこの通知によってはじめて不正な個人情報取得、ひいては身元調査や人権侵害に対処することができます。このように本人通知は不正取得事件の真相究明と再発防止にとって大きな効果があります。
② 制度を導入したことにより、不正行為が発覚する可能性が高まることから、不正を抑止する効果が期待できること。
  制度を導入する自治体が全国に広がり、登録者が増えることで、不正取得に対する抑止効果がより高まることから、本人通知制度の導入や啓発を進めていくことが有効です。

おわりに

 不正取得は私たちの人権に関わる問題であるということが分かったのではないかと思います。
 誰にでも、戸籍や住民票を不正取得される可能性があります。同和問題をはじめとする様々な差別や人権侵害につながるこのような不正行為を防がなくてはなりません。
 本人通知制度を通じて多くの人に人権問題を身近に考えるきっかけにしていただき、他人の人権を尊重する、自分自身の人権が尊重される、そのような社会が実現されることを願っています。