【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第10分科会 貧困・格差社会の是正とセーフティネットの再構築

 本稿は社会福祉協議会の相談を通して、住民との協働による地域づくりを進めていくために、社会福祉協議会の強みを生かし、現在のコミュニティに対応した事業展開をしていく必要があると述べている。
 なお、本稿に出てくる事例は個人が特定されないよう架空のケースを用い、倫理上の配慮を講じている。



住民との協働による地域づくりとは
―― 社会福祉協議会の相談を通して ――

島根県本部/松江市職員ユニオン・社会福祉協議会支部 三上 貴大・山野 裕子・山本 香織

1. 地方に暮らす高齢者について

(1) 子どもと離れて暮らす高齢者の想い
 普段の高齢者と関わる日々の相談業務において、ひとり暮らし高齢者あるいは高齢者夫婦世帯が増加している。また、子どもが県外など遠方に住んでいる相談が多い。高齢者は日々の生活の中でどのような想いを抱いているのか、事例を紹介したい。
 高齢者Aさんは妻と暮らしていた。県外に住んでいる一人息子は、日々老いていく両親を心配しているが、県外での生活があり、頻繁な帰省はできずにいた。Aさんは働き者で、地区の自治会の役など率先して引き受け、近隣住民から相談されることも多く、そんなAさんを妻が支え、協力して生活していた。
 少しずつ妻に物忘れの症状が出始め、今まで妻に任せきりだった調理などをするようになり、慣れていない家事をすることの大変さを感じていた。妻は認知症と診断され、徐々に進行していき、Aさんが目を離した間に姿が見えなくなることもあった。自分の帰る家が分からなくなり、地区内を歩いている妻を見かけた近隣住民が家まで連れて帰ってくれることもあった。時々息子が帰省していたが、県外での生活があり忙しくしていると思うと、Aさんは、「息子に余計な心配をさせたくない」という気持ちがあり、自分達の様子を十分に伝えることができなかった。
 頼るところがない、息子にこれ以上迷惑をかけられないという想いもあり、悩んだ結果、妻は施設入所となった。Aさんは何かあったときに息子に頼りたい気持ちと、迷惑をかけたくないという気持ちを抱えながら、今もひとり暮らしを続けている。

(2) 統計からみる高齢者の現状
 図1によると、島根県の2012年度の高齢化率は、29.9%と年々上昇している。山間部などでは40%を超える市町村もある。図2より、県庁所在地である松江市では、25.75%と4人に1人が高齢者である。そのうち一人暮らし高齢者は約1万人と高齢者全体の5分の1を占めており、高齢者夫婦世帯の割合も毎年上昇している。
 今後も高齢者の割合は上昇していき、子どもが県外で生活しているA夫婦のような高齢者も増加していくと推測される。老老介護やそれを支える地域住民も高齢化していき、地域を支えることが難しくなっていくと予想される。
 Aさんのケースのように、住み慣れた地域を離れたくない、都会へは行きたくないという思いから、子どもの住む県外への転居を提案されても、拒否する高齢者もいるだろう。何かあったときに近くに子どもがいない不安と、大切な子どもに迷惑をかけたくないという思いの中で葛藤しながら、日々の生活を続けている高齢者は多いのではないだろうか。

図1 年齢3区分別人口
(島根県政策企画局統計調査課:島根の人口移動と推計人口より)

図2 高齢者人口等統計表<<年次推移>>
(松江市:高齢者人口等統計表より)

2. 都会で暮らす若者について

(1) 親と離れて暮らす若者の想い
 地方においては大学進学を機に県外に転出、その後も、そのまま県外に住み続けるという若者も少なくないだろう。親は地方に、若者は都市に住むという構図になるとき、若者はどのような気持ちで日々を過ごしているのだろうか。日々の業務において対応した事例をもとに考えてみる。
 35歳のBさんは妻と息子、娘の4人で都会に住んでいる。Bさんは島根県の山間の町の出身で、役場に勤める父親、働き者の母、そして2人の年下の兄弟との5人家族の中で育った。高校卒業まで地元で過ごし都会の大学に進学。就職活動のときには地元に戻ることも考えたが、「地元に帰っても、大学で学んだことを活かせる就職先はないからなぁ。自分のやりたい仕事にチャレンジしたい」という気持ちが強く、大手メーカーに就職した。就職してからは、忙しいながらも充実した毎日を送っていた。
 今から2年前に母親がくも膜下出血で急死。65歳の父親ひとりでの生活が始まったが、父親は「自分のことは心配するな」と言う。しかし、地元の人からは「お母さんが亡くなったんだから、お父さんのためにも早く帰ってきて家を継いであげないと。B君は長男なんだし」と帰省するたびに言われるようになっていた。確かに父親ひとりでの生活は心配だったし、父親のことを想うと一緒に生活することが、今まで育ててもらった恩返しにもなるのだろうかとも考えていた。一方で、部下もできてきて、さまざまな仕事を任せられるようになってきた今の会社を辞めて地元に帰っても、その仕事に代わるものはなく、家族を養っていけるとも考えられなかった。何より、都会育ちの妻が不便な田舎での生活を続けていくことは難しいと思った。
 しかし、今後父親が誰かの助けが必要になったときにどうすれば良いのか、不安に思うようにもなった。父親のために何かしてあげたいという気持ちはあるものの、「地元に帰る」という選択しかできない自分に、罪悪感や葛藤を抱きながら今も都会で生活している。

(2) 統計からみる若者の現状
 島根県の2012年度の社会動態は、県外転入が12,382人、県外転出が13,869人で県外に転出している人の方が1,487人多い。しかも図3のように、その約6割は20代、30代の若年齢層である。他の年代の推移は大幅な変化はなく、若者の転出傾向は今に始まったことではなく、以前からの傾向で今後も続いていくことが予想される。図4で、県外転出の大きな理由として「就職」「転勤」等の仕事に関することが挙げられているように、若者が地元に住むか、県外に住むかにおいては仕事が大きな要因となっていることが分かる。
 地元に帰らない若者の中には、仕事のこと、家庭のことなどで地方に帰ることをあきらめる若者もいれば、地域の行事が多くて自由な時間がない、近くにお店や病院がなくて便利が悪いので帰りたくないと、自らの選択で都市に住んでいる若者もいるだろう。
 さまざまな理由により県外で暮らすことを選んだ若者にとって、当然親の生活も大事だが自分や家族の生活も大事である。地元の人から「何とかしなさい」と言われなくても、何とかしなくてはいけないことは若者自身が一番分かっている。しかし、地元に帰って親と一緒に生活するという、どうすることもできない選択肢しか考えられず、何もしてあげられないもどかしさや葛藤を抱きながら日々の生活を送っている人も多いのではないだろうか。
 「介護の社会化」を理念に介護保険制度が2000年に施行されたが、現実は家族による介護が基本で、制度だけで高齢者を支えることはできていない。さまざまな家族の形態がある今日においては、同居ありきの支援だけではなく、さまざまな方法によって家族や地域が高齢者を支えていくことを考えても良いのではないだろうか。

図3 年齢階級別県外転出者数の推移(島根県政策企画局統計調査課:島根の人口移動と推計人口より)
図4 移動理由別移動者数(島根県政策企画局統計調査課:島根の人口移動と推計人口より)

3. 現在のコミュニティとは

 これまで、地方に暮らす高齢者や県外で暮らす若者というそれぞれの立場からコミュニティの現状を考えてきた。事例にある家族に象徴されるように、社会全体においても少子高齢化、核家族化が進んでいる。戦後の国を挙げての経済成長をめざし、農村共同体以降「会社」という社縁でつながる時代から、その先にあるコミュニティは一体どのような形になるのだろうか(図5)。
図5 経済システムの進化とコミュニティ
(コミュニティを問い直す」より、一部加工)
 島根県をはじめとする地方では合併の影響により公共施設などの利便性が悪くなっている。加えて、老老介護や地域の福祉を支えるボランティアの高齢化が進み、自治会組織などにおいても「現在の活動を維持できない」という声がきかれる。一方で、その土地に愛着を持ち暮らす高齢者が少なくないのはどうしてだろうか。
 首都大学東京の山下准教授は、「限界集落」を家族や世代の視点から見れば別の風景が見える、と述べている。著書の「限界集落の真実」によると、日本の産業構造の変化に適応するため、農村にすむ高齢者世代、産業を支え都会に出た次世代というように家族は日本全国にほどよく分散しネットワークでつながっているという。その家族は、世代間で地域をすみ分け、それぞれに役割を持って暮らしている。つまり、限界集落に暮らす高齢者たちは決して孤立しているのではなく、広範囲に拡大したネットワークの中で、果たすべき役割を全うして暮らしていると解釈している。
 田舎に暮らす人々と接していると、そのたくましさに心を打たれることがある。不便さを受け入れながらもそこに暮らすことを選択する人々は、いまや全国に点在する家族と育ってきた歴史や「ふるさと」を慈しむ心、また経済成長では獲得し得なかった自然とともに生きる「豊かさ」を感じる心をもって生活しているのかもしれない。
 これからのコミュニティの姿は今なお模索中であるが、経済成長が必ずしも幸福に直結するわけではないということが様々な形で感じられ、多様な生き方を選択できる時代となったことは周知の事実だ。このような現在のコミュニティに対応する公共サービスとは、個人の多様な生き方をみとめ、そこから制度構築を考える視点が必要だと考える。また、多様さゆえに制度という画一的な枠組みの範囲に収まりきらない人々やその想いが増える時代に、「活きた制度・事業」にするためには、あらためて「住民と協働」し、仕組みを作り上げていくことも必要であろう。しかし、この「住民との協働」の手法は難しく、古くて新しい課題である。次章では、社会福祉協議会の支援を通してその手法や職員の資質について再考したい。

4. 住民との協働による支援とは

 はじめに、C町社協による地域支援の事例を紹介したい。約10年前、ある山奥のC町では若者の県外流出などにより過疎化・高齢化が進んでいたことから、ひとり暮らし高齢者の会を組織していた。多くの高齢者会員は農業を生業にし、国民年金で生活しているため、社協職員が県外に住む高齢者の子どもたちに寄付を募り、そのお礼に町の情報をおくる取り組みを考えた。その職員は県外で暮らしていた時期があり、その時に親の傍にいられないことに詫びるような思いを持って暮らしていたため、県外の子どもたちにも共感してもらえる取り組みになるだろうと考えた。そこで、社協の理事会やひとり暮らし高齢者の会員に提案したところ「子どもに負担をかけたくない」、「全員の子どもが寄付をしてくれるわけでなければ、肩身の狭い思いをする人も出てくる」、「親を人質にとっているように思う子どもはいないだろうか」などの賛否両論があり、結局、事業の実施を取りやめた。
 この事例は、住民と協働して事業をつくっていく難しさを教えてくれる。これは、会員の気持ちである「親ゴコロ」と、「子どもの立場」により近い専門職の思いが異なった事例である。事業の中止を決めた専門職は、「この事業を行うことで一人でもさみしい思いをする人が現れるのであればやめようと思った」という。「それに、住民が乗り気しない事業がうまくいくはずないしね」。最後は、住民の気持ちに寄り添い事業をとりやめた。
 このように、そこに住む住民と話し合いを重ねながら住民とともに必要な支援体制をつくるには時間と労力がかかり、またどう展開するか予想もつかないことが多い。しかし、住民の賛同を得て、住民にとって価値のある事業になるには、それを利用する人々の現状にあったカタチを模索する必要性がある。
図6 地域福祉の推進力
(「地域福祉をすすめる力」より抜粋)
 では、職員にはどのような姿勢が求められるのだろうか。全国社会福祉協議会によると、地域福祉の推進のためには、「地域の福祉力」と「福祉の地域力」の両面が必要だといわれている(図6)。「地域の福祉力」は文字通り、地域住民が自分たちで自らの暮らしを支える福祉力である。一方、「福祉の地域力」とは、専門職の中に求められる「地域に入り込み、地域の流儀に沿った地域を生かす力」である。これまでの専門職は専門援助のみをもって解決可能であることを強調するあまり、ややもすると地域のなかに潜んでいる「地域の福祉力」を軽視する傾向にあった。また、仮に認識し、その育成を図ろうとする場合においても、地域住民の土俵に乗ることなく、専門職の流儀でのみ対応してきたきらいがある、と述べられている。
 今、あらためて住民との協働を考えるときに「福祉の地域力」を身に付けた職員が必要となるであろう。社会福祉協議会は、日頃から地域住民とともに仕事をすることが多く、地域住民の声をきく機会が多い。例えば、相談に来られる住民やボランティアの声は毎日聞いている。そのため、それをもとに事業を実施・展開することが得意な組織といえる。もちろん、それは決して住民の言いなりになるということではなく、住民によって本当に必要な、実態に即した事業を行っていくという目的において、「福祉の地域力」を活かすことは有効である。また、事業を実施するときも住民のみならず、公共性の高い社会福祉協議会であればこそ、行政に地域の声を伝え、協働して事業を実施していくことも可能である。このような社会福祉協議会の強みを生かし、現在のコミュニティに対応した事業展開をしていく必要がある。もちろん、そのためには組合活動を通じた専門性をもった職員の確保や組織体制基盤も必要だ。
 協働とは、相手と「同化」することではなく、それぞれの役割を活かしながら、連携協力していくことである。それを改めて心に留めながら、社協の強みである「福祉の地域力」を生かし、日々の仕事に邁進していきたい。




【参考・引用文献】
 島根県政策企画局統計調査課『平成24年 島根の人口移動と推計人口』
 松江市『高齢者人口等統計表』
 広井良典(2010)『コミュニティを問い直す―つながり・都市・日本社会の未来』筑摩書房.
 山下祐介(2013)「人口過疎地域は消えてなくなるべきなのか-過疎高齢化・限界集落問題のゆくえと課題」『月刊福祉7月号』全国社会福祉協議会,40―43.
 地域の福祉力の向上に関する調査研究委員会(2007)『地域福祉をすすめる力~育てよう,活かそう「地域の福祉力」』全国社会福祉協議会.