【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第12分科会 地域包括ケアシステムの構築

 近年、地方の公立病院を取り巻く環境は厳しいが、重要なことの一つは、『住民が必要な医療サービスを安定して提供すること』であると思われます。そんな中、松江市立病院はさらなる医療サービス充実のため、『がんセンター』設置の構想が上がっています。導入に際して、医療格差、病診連携、交通の便など様々な課題がありますが、より良い『がんサービス』を提供できるよう関係機関と連携していかなければならないと考えています。



より質の高い医療サービスの提供をめざして
―― 松江市立病院がんセンター設置に向けて ――

島根県本部/松江市職員ユニオン・病院支部 今井  孝

1. 地域医療を取り巻く現状

 近年、地方の公立病院を取り巻く環境は厳しさを増し、深刻化する医療従事者の不足、財政の圧迫などにより、地域医療は崩壊の危機に瀕しており、公立病院のあるべき姿が問われています。そのような状況で、医療の場で公立病院に求められていることの中でもっとも重要なことの一つは、『住民が必要な医療サービスを安定して受けることのできる環境を確保し続けること』であると思われます。

2. 当院の担う医療

 松江市立病院は、病床数470床(一般病床416床、精神病床50床、感染症病床4床)、地域がん連携拠点病院として、がん診療・相談支援・緩和ケアなど当院の特色でもある医療や、全国で唯一県庁所在地に原子力発電所を持つ松江市にとって災害医療の中心的な役割を担うなど、民間病院では困難な医療を提供してきています。

3. 当院のがんセンターのあり方

 現在、日本人の2人に1人が「がん」に罹患し、3人に1人が「がん」で亡くなっているといわれ、まさに最大の国民病となってきています。そこで国は、がん対策の一層の推進を図るため、がん対策基本法を施行しました。この中の、がん対策推進基本計画においては、「がん」の予防及び早期発見の推進、地方と都市部のがん治療格差の解消(がん治療の均てん化)などを挙げました。その結果、各地にがん拠点病院が整備され、日本中のどこでも同じようなレベルのがん治療が受けられるようになってきてはいますが、いまだにがん治療における『治療格差』があるのが現状です。また、「がん」の罹患率は加齢とともに増加する傾向にあるため、高齢化が進んでいる当地域の特色と併せると、現在よりも『高度』な『がん治療』を提供することは、より多くの市民に対する公共サービスを充実させることができると思われます。そのような中、より質の高い公共サービスを提供するため、当院では、2014年度中の開設を目途に『がんセンター』を設置する構想が上がっています。現在のがん治療のキーワードの一つとして、抗がん剤治療のみ、放射線療法のみ、腫瘍の外科的切除のみといった単独の治療ではなく、各診療科の専門医、看護師、薬剤師、放射線技師、その他の医療従事者などがチームを組んで、がん医療を提供する、『集学的治療』が挙げられると思います。当然、『集学的治療』には、人的要素が欠かせないため、年々深刻化する医療従事者の不足を踏まえると、建物や設備ももちろんですが、がん医療を安定して提供していくために、人材育成に係わる財源を充分に確保していく必要があると思われます。また当院は、新病院に移転した際に、『保健・医療・福祉の連携の中核施設』となることを掲げ、病院とは同じ敷地の別棟に『保健福祉総合センター』を設置し、その中の業務の一つとして、がん検診を行っています。「がん」はその特性上、症状が出てから医療機関を受診した場合には、がん検診と比べて、進行した「がん」が多く見つかる一方で、がん検診は健康な人を対象にしているため、そういう人が見つかった場合は、一般的に早期がんである可能性がとても高いといわれています。早期であれば根治できる可能性は非常に高く、治療も軽いものですむため、患者さんにかかる身体的負担、経済的負担や時間は少なくすみます。その点、当院の特色として、検診から診断・治療・緩和ケアまでを同じ医療機関で行えるメリットは今後も継続して提供していく必要があると思われます。しかし、がん治療の進歩に伴い、今まで入院でしか行えなかった治療が、外来で行えるようになった影響で、通院で「がん」を治療する患者が増加しました。それは、がん治療が、『病院内完結型』から『地域完結型』へと移行してきていることの表われであると思われます。今後は、他のがん診療連携拠点病院、開業医、介護・福祉施設などとの連携をさらに強化することにより、市民にとってより質の高いがん治療を提供できるのではないかと考えています。

4. がんセンター設置に向けて(松江市交通局との連携)

 また、がんセンターの機能上、現在よりもさらに遠方や中山間地域から患者が当院を受診することが想定されます。そこで問題となるのが、当院への交通アクセスです。県内の他の病院(島根大学医学部附属病院、島根県立中央病院、松江赤十字病院)は最寄りのターミナル駅(出雲市駅、松江駅)からおおむね2km(徒歩25分、自動車5分)圏内に集中しているのに比べ、当院は約3.5km(徒歩45分、自動車10分)と遠距離に位置しています。当院の玄関口にはバスターミナルを構えているものの、バスの便は多い時間帯でも1時間に3本程度となっており、所要時間も20分で病院から松江駅間を繋ぐものもあれば、30分程度かかる便があるのも現状です。がんセンター設置に向けては、バスの便数の増加、所要時間の短縮など、さらなる患者サービスの向上を目標に、同一単組である松江市交通局などとも連携を行う必要があると思われます。