【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第12分科会 地域包括ケアシステムの構築

 我が国においては、「国民皆保険制度」を採用することにより、世界最高レベルの平均寿命や医療水準が維持されてきた。しかしながら、少子高齢化の進展により高齢者医療費の増加は続き、同様に医療保険財政を担う若年世代の負担も年々増している。
 この世界に誇れる「国民皆保険制度」を将来にわたり持続可能なものとするため、高齢者医療費と費用負担の観点から考えてみたい。



国民皆保険
―― 高齢者医療費と費用負担の観点から、
持続可能な医療保険制度の在り方を考える ――

佐賀県本部/多久市職員労働組合

1. 日本における公的医療保険制度

(1) 「国民皆保険」の達成
 日本で最初の健康保険制度は、大正11年に制定され昭和2年に施行された職域の被用者保険であり、これは、鉱山などの危険な業務に従事する労働者の組合から始まった労働者本人のみを対象とするものであった。
 昭和13年には、国民健康保険法が制定されるものの、戦後においては自営業者や中小零細企業の被用者など、国民の約3割が無保険状態であり社会問題となっていた。
 その後、昭和33年に国民健康保険法が全部改正され、また、市町村などが運営する国民健康保険制度が整備されたことにより、昭和36年に「国民皆保険」が達成された。

 【日本における「国民皆保険制度」の特徴】
  ・国民全員を公的医療保険で保障。
  ・医療期間を自由に選択できる。(フリーアクセス)
  ・安い医療費で高度な医療を提供。
  ・社会保険方式を基本としつつ、皆保険を維持するため、公費を投入。

(2) 公的医療保険の運営主体について
 「国民皆保険」達成後の運営主体としては、市区町村などが運営する地域保険、企業などが運営する被用者保険、全ての75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度などに区分されているが、加入する保険にかかわらず、同じ医療には同じ保険が適用されることから、全国どこででも平等な医療が受けられるよう制度設計されている。
 ※ 地域保険 ……(国民健康保険、国民健康保険組合)
 ※ 被用者保険……(協会けんぽ、組合健保、船員保険、共済組合等)

【各保険者の比較】

(厚生労働省HPより)

(3) 高齢者に係る医療保険制度について
 「国民皆保険」の達成により全国民的には平等といえる医療保険制度が確立したところであったが、一方で、世代間の公平性が確保されるには至っていなかった。例えば、受診機会が少ない若年世代と受診機会が多い高齢世代とでは所得に占める医療費負担に大きな差が生じることとなり、高齢世代の負担軽減が課題となった。
 そのような中、昭和48年の老人福祉法改正により、老人医療費無料化(老人医療費支給制度)が実現した。これにより、高齢世代の負担は大きく改善されることとなったものの、受療率が上昇し老人医療費は急激に増加したため、特に高齢者が多く加入する国民健康保険の財政は非常に厳しいものとなった。
 このことから、昭和58年の老人保健法施行、平成14年の健康保険法等の改正などにより、高齢世代の患者負担の引上げや老人保健制度に係る対象年齢の引上げが実施され、高齢世代に負担を求める改正が行われた。
 その後、平成20年4月に(前期・後期)高齢者医療制度が施行され、高齢世代と若年世代における費用負担の明確化が図られた。また、65歳から74歳の高齢者の偏在による保険者間の負担の不均衡を調整する仕組みも導入され、保険者間においても負担の公平化が図られた。

【老人保健制度と後期高齢者医療制度の違い】

2. 高齢者医療費と費用負担

(1) 増加する医療費
 下の図は、75歳以上の方が加入する後期高齢者医療制度に係る医療費と費用負担の動向である。このグラフからも分かるように、今後も医療費の上昇が続くことは明らかである。
 平成23年度においては13.4兆円、これは、1人当たり医療費でみると約91万円となっており、また、平成20年度からの推移では、率にして約4.5%、毎年約5千5百億円程度伸びている。これが、平成27年度では16.9兆円、さらに、団塊の世代が75歳になる平成37年度には、約28兆円の医療費が推計されているところである。
 このように、今後も医療費の上昇が続くとすれば、当然その負担すべき費用の全てが上昇することとなり、このままでは、いずれの負担者もその負担に耐えられず、医療保険制度そのものの維持が困難となることが危惧されるところである。

【医療費と費用負担の動向】

 【負担者について】
  ・窓口負担、保険料 → 高齢世代
  ・支援金、拠出金  → 現役世代、企業
  ・公 費      → 国・都道府県・市区町村(国民による税負担)

 

(2) 被用者保険の収支状況(医療分)
 医療費と費用負担の動向に続き、ここでは、被用者保険の収支状況を確認する。
 後期高齢者医療制度においては医療給付費の約4割を現役世代が負担しており、それぞれの保険者が社会保険診療報酬支払基金を通じ後期高齢者支援金として納付している。さらに、前述のとおり前期高齢者(65歳から74歳)の偏在による保険者間の負担の不均衡を調整する仕組みである前期高齢者納付金についても拠出している。
 次の表は、協会けんぽと組合健保の収支状況を表したものであるが、いずれの保険者も(前期・後期)高齢者医療制度への負担金が支出額の4割弱に達していることから、保険者財政を悪化させる要因となっており、財政健全化のため各保険者は保険料率の引上げなどで対応しているのが現状である。
 いうまでもないことであるが、その保険料を負担しているのは我々である。

【協会けんぽ】 (単位:億円)

 

H24
決 算

H25
見込み

H26
見込み

備 考

収入

保険料収入
国庫補助等
その他

73,156
11,808
163

74,486
12,194
203

75,211
12,538
180

<平均保険料率>
H25  10.00%
H26  10.00%

 

<前期納付・後期支援金の割合>
H24  36.11%
H25  36.66%
H26  36.06%

85,127

86,883

87,929

支出

保険給付費
前期高齢者納付金
後期高齢者支援金
その他

47,788
13,604
16,021
4,610

49,541
14,466
17,101
4,982

51,572
14,354
17,573
5,037

82,023

86,090

88,536

単年度収支差

3,104

792

▲607

準備金・別途積立金残高

5,054

5,847

5,240

(厚生労働省資料を参考)

【組合健保】 (単位:億円)

 

H24
決算見込

H25
予 算

H26
予算早期

備 考

収入

保険料収入
その他

68,781
1,275

71,062
1,146

72,982
1,173

<平均保険料率>
H24   8.34%
H25   8.64%
H26   8.86%

<前期納付・後期支援金の割合>
H24  38.45%
H25  38.37%
H26  38.56%

70,057

72,208

74,155

支出

保険給付費
前期高齢者納付金
後期高齢者支援金
その他

36,727
12,985
15,079
8,242

38,405
13,655
15,818
8,927

38,977
13,987
16,033
8,846

73,033

76,805

77,843

単年度収支差

▲2,976

▲4,597

▲3,689

準備金・別途積立金残高

32,133

(厚生労働省資料を参考)

3. まとめ

 国は、社会保障・税一体改革の中で、消費税引上げで生じる財源については社会保障の充実・安定化のために活用するとしているが、我々国民は、消費税で負担増を求められた上、更なる負担を保険料という形で継続的に求められていくことになる。
 このような中で、各保険者においては医療費適正化の取り組み(レセプト点検、重複頻回受診対策、ジェネリック医薬品啓発等)を実施しているところであるが、増加する医療費の規模と比較すれば大幅な財政状況の改善は見込めないのが現状であろう。
 我々が、将来に不安なく、安心して医療を受けられるためには、国民自らがこの現状を理解し、皆で助け合う医療とは何か、限りある医療保険の原資をどこに投入すべきなのか、これらを真剣に考える時期にきている。
 同時に、政治の場においてもこの問題から目を背けずに、真摯な議論が行われることを期待したい。
 私が高齢世代になったとき、「国民皆保険」が崩壊していないことを願うばかりだ。