【自主レポート】

第35回佐賀自治研集会
第13分科会 自治体からはじまる地域教育へのチャレンジ

 坂井市が運営する教育施設であるみくに龍翔館を紹介します。みくに龍翔館が行っているイベント・取り組みにより坂井市の歴史・文化に触れてもらい、学びという観点から地域住民とのつながりを深めています。また、取り組みに対する意見・感想をもとに、今後のみくに龍翔館の教育施設としてのあり方や課題を探っていきます。



地域に求められる社会教育施設とは?
―― みくに龍翔館の歴史・文化教育に関する取り組み ――

福井県本部/坂井市職員組合

1. 施設の概要

みくに龍翔館の外観

 坂井市三国町は九頭竜川の河口にあって日本海に面していることから、古くから越前国の玄関口としての役割を担い、物資が集散し人々が往来する港町として大いに栄えました。その地理的条件や歴史的な背景の中で育まれた三国ならではの独特な文化を紹介し、学術的な研究によって位置づけ、歴史・文化遺産を一堂に集めた博物館として建設されたのが、「みくに龍翔館」です。 その外観は西ヨーロッパの洋館のようで、今では三国を代表するランドマークとして親しまれています。
 みくに龍翔館は、木造5階建8角形というユニークな形状の小学校「龍翔小学校」(明治12年~大正3年(1879年~1914年))の外観を模して復元して建設されました。「龍翔小学校」はオランダ人技師エッセルのデザインによるともいわれています。三国地区全体を見渡すことができ、白山を遠望し坂井平野を眼下に見下ろす緑ヶ丘の高台に鉄骨鉄筋コンクリート造で完成、1981年11月に開館しました。当館は、港町である三国町の自然・歴史・風土について紹介・展示する郷土資料館であり、教育施設として、現在は坂井市が直接運営しています。
 常設展は1階から4階まで、湊町や北前船関係の資料を中心に、自然・考古・歴史・民俗・文学の各部門を設けた総合的展示構成で、約2万点の資料を収蔵しており、三国の歴史・文化シンボルとしても親しまれています。2006年3月、三国町・丸岡町・春江町・坂井町の四町が合併して、福井県内では福井市に次いで2番目の人口規模をもつ「坂井市」となりましたが、これにより、みくに龍翔館も坂井市唯一の公立博物館として、館独自のさまざまな活動を展開するとともに、年に数回の企画展と特別展を開催し、地域住民の学びの場としての機能はもちろん、県内外にまで坂井市の歴史・文化を発信する福井県北部の中核的な博物館としての役割も担っています。

★「この博物館には三国の全てが詰まっている」がコンセプト★

【本館1階】    

 玄関から入った正面中央の吹き抜けに、博物館のシンボルとして、ベザイ船5分の1模型を展示。それを囲むように「三国の自然」「三国のあけぼの」のコーナーがあります。

 
和船の巨大模型がお出迎え
各時代の考古資料を展示
 

【本館2階】    
 「三国湊の変遷」では古代から近代までの歴史を語り、「三国湊のにぎわい」では北前船に関する資料を集中的に展示紹介し、「港の文化」では港町に花咲いた工芸技術の粋を集めた美術資料を並べ飾っています。「港の変貌」では明治から現代までの移り変わりを写真資料でご覧いただきます。  
   

三国湊のにぎわいの様子を描いた絵図


【本館3階】    
 三国と関わる文学者を紹介した「三国と近代文学」と港町ならではの生活文化を実物大のジオラマで展示した「三国のくらし」のコーナーが多くを占め、ブロック展示として「龍翔小学校とエッセル」「内嶋コレクション」があります。  
   

衣・食・住をテーマとした年代物の民具類

【本館4階】
 トリックアートコンペの入賞作品を常設展示しています。ベランダからは360度のパノラマで白山から日本海までの景観を一望できます。

2. 取り組み内容

 みくに龍翔館では施設の概要に述べたとおり、三国の歴史・文化に関する資料を常設展示しています。資料収集のため資料の受け入れも積極的に行っており、2006年に4町が合併し坂井市となってからは三国の資料だけではなく、坂井市から福井県に関する資料まで幅広く収集し展示することで、地域住民や県内外からの来館者の学びと教育の場としての役割を果たしています。また、下記のような企画展や特別展を開催および講演を行い、坂井市に関連する人物や事物の歴史・文化をさらに深く掘り下げて紹介しています。

(1) 主な企画展(2011~2013年度)
① 明治から伝えられたもの
  当館の収集・調査の成果報告をかねて、明治期から昭和戦前期に坂井地域で発行された新聞をとりあげた【「みくに新聞」と坂井の地方新聞】、坂井農業高等学校に引き継がれている松平試農場旧蔵書をとりあげた【松平試農場とその蔵書】の2コーナーに分けて展示。

② トリックアート作品展
  みくに龍翔館の外観モデルとなった龍翔小学校の設計者G・A・エッセルの息子であるA・C・エッシャーはトリックアート作家として有名だが、当館が所有する過去のトリックアートコンペ入賞作品一覧のなかから、いくつかを選び第1期と第2期に分けて展示。
   
③ 小野忠弘展
  青森県弘前市に生まれ、その生涯のほとんどを三国で過ごし雑誌『LIFE』(1959)でも「ジャンク・アート世界の7人」に選ばれた現代美術作家・小野忠弘(1913~2001)のジャンク・アート13点を展示。
   
④ 真宗信仰につどう人びと~坂井市域の講・道場~
  真宗門徒の地域における組織である「講」や、真宗の絵像や名号を安置し、地域門徒たち講中の日常的な信仰活動の場となった「道場」について紹介し、移管された「寄安道場関係資料」(坂井市指定文化財)をはじめ、関連資料を展示。

⑤ むかしの学び舎写真展
  みくに龍翔館や坂井市内小学校などに残る、明治時代から昭和30年代にかけての小学校・幼稚園・保育園の古写真および絵葉書などを、大正時代に自発教育を実践したことで名高い三国小学校の授業風景写真などもまじえて紹介、展示。

(2) 主な特別展(2011~2013年度)
① 天下人の時代と坂井~戦国武将の息吹と足跡~
  織田信長・豊臣秀吉・徳川家康その他の戦国武将および中・小領主たちについて、その周辺の古文書や絵画など戦国期から安土桃山・江戸初期までの坂井市・あわら市域の関係資料を、初公開のものや、改めてその存在が確認されたものを含めて一堂に展示。

② 藩校・私塾・寺子屋と近代教育への歩み~坂井市域の教育史から~
  江戸から明治という近代教育への移行期を中心に、寺子屋、丸岡藩の藩校だった「平章館」、三国湊の「三国郷学所」など、城下町・湊・農村において様々な教育の形態が見られた、坂井市域の近代教育への歩みについて紹介するとともに、関連資料を一同に展示。

③ 本多成重丸岡入城400年記念 本多成重と丸岡藩
  初代丸岡藩主の本多成重が丸岡城に入城して400年目を記念して、成重ゆかりの品々を含めた「本多家資料」(国立歴史民俗博物館蔵)や、新たに発見されたものも含めて、成重や丸岡藩主本多家に関連する市内外の歴史資料を展示。
(3) 主な講演等(2011~2013年度)
① 柴田勝家の越前支配
② 大庄屋からみた江戸時代の越前
③ 越前・若狭における藩校の開設と丸岡藩
④ 三国湊の女流俳人歌川~その時代と周辺~
⑤ 本多氏の丸岡領支配
⑥ 丸岡城の魅力~縄張り・天守・瓦~

講演の様子

(4) その他取り組み
① 職場体験学習
  市内の中学生を対象に、展示・寄贈資料の整理の手伝い、展示替えの手伝い、館内清掃など、みくに龍翔館の仕事を体験してもらいます。
② 博物館実習
  大学生を対象に実施し、実習生は企画展・特別展の準備に従事、関係会議の資料作成の手伝いなどの仕事に携わります。
③ 各種団体・機関からの依頼による活動
  坂井市の歴史・文化についての講演等、各種研究会に出席するなど、市内外に学芸員・研究員を派遣しています。

3. 取り組みに対する住民の意見と今後の課題

(1) 取り組みに対する住民の意見と所見~アンケート結果をもとに~
① 企画展~トリックアート作品展~
  (アンケートの意見等)
  ・子どもの反応がよく、楽しみ喜びながら展示物を見て回っていた。
  ・大いに興味を持って見ることができ、もっと多くの作品の展示がみたいと思った。
  ・近年はトリックアートの募集はしていないようだが、また募集を再開すればいいのでは。
  ・どういうトリックがあるのかわからない作品もあったため、ひとつひとつの解説がほしかった。
  トリックアート作品展に対する満足度は高く、非常に好評でした。広告媒体による来館者だけでなく、たまたま来館したら開催していたというケースのほか、他のイベントと比較して家族連れ、子どもの来館者が多かったのが特徴でした。子どもにとって分かりやすくおもしろく感じられる展示の必要性を再認識できた展示となりました。
② 企画展~真宗信仰につどう人びと~
  (アンケートの意見等)
  ・大変参考になり、坂井地域に関係する宗教信仰の歴史について学ぶことができ大いに勉強になった。
  ・坂井地域および福井県内にはまだまだ多くの宗教に関する古跡があるため、対象や視点を変えながらこういった展示を今後も行ってほしい。
  ・解説する人がいなかったため、いまいち理解できない部分もあった。
  主に坂井地域に焦点を当てた展示であったため、地域住民による口コミや地元の新聞記事などの広告媒体で展示を知り来館したという市内からの来館者が多かったようです。また、地域の真宗信仰という若年者層には比較的なじみのないテーマだったためか、高齢者層の来館者が多くみられました。そういった来館者と交わされる質疑応答の内容も実に深く掘り下げられているものであったほか、地域に伝わる講や資料に関する新たな情報提供もあり、地域に定着しつつも常にその形態を変え続ける性質を持つ「思想」がテーマとなった本展示から、今後も資料やその記録の保存の観点から調査を継続する必要があることが認識できた意義深い展示となりました。
③ 特別展~藩校・私塾・寺子屋と近代教育への歩み~
  (アンケートの意見等)
  ・近代の教育について学ぶことができ、大変参考になった。
  ・あまり知らないテーマであり、今まで学ぶことのできなかった内容の展示だったのがよかった。これからもそういった観点から坂井市の魅力を紹介してほしい。
  ・展示した資料に関する映像などがあれば、もっと分かりやすいものになるのでは。
  「教育」が主題となっていたため、義務教育を受けている世代、子どもを持つ親世代から高齢者層まで、幅広い年齢層の来館者がありました。展示に先立って行った市内の小中学校を対象とした資料調査においては、対象となった小中学校からは快く協力を得ることができ多大な成果を上げることができました。その成果を協力していただいた小中学校でも披露し、小中学生の教育にも役立てることができました。

(2) 意見等から考える今後の課題
 開催するイベントにより、来館者の客層、年齢層が大きく変わります。トリックアート作品展などは子どもから若年者層の来館者が多く見受けられますが、歴史・文化といったテーマの展示となるとやはり高齢者層の来館者に偏る傾向があるようです。万人受けするテーマでの展示や講演というのは難しい課題であると思われますが、地域住民全体の社会教育施設としての役割を果たすためには、住民みんなに、さらに絞り込むと子どもたちといった若年層の人たちに学びを提供していく必要があります。幅広い層や若年層がよく訪れる展示に合わせ、分かりやすくみんなに興味を持てるテーマとした講演の並行開催、主に小中学生を対象とした出張授業の開催などを考えていきたいところです。
 また、坂井市の魅力を発信する基地としてもっといろいろな題材の展示をしてほしい、次の機会には異なったテーマの展示・講演に参加したいといった声や、参加した展示や講演についてもっとよく知りたいといった声もあることから、地域住民の学びに対する意欲は非常に強いものであることがうかがえます。坂井市の住民同士が学びを通じて人と人がつながりあうことができる地域自治だけにとどまることなく、坂井市内外にも広く情報を発信していくことで地域と地域がつながるための歴史・文化の発信地として、今後もみくに龍翔館は社会教育施設としての役割を果たしていきます。