【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

 新型コロナウイルスで落ち込んだ地域経済を回復させることを目的に、新ひだか町にゆかりのある名馬のトレジャーホースカード109種類を作成し、馬好きな人をメインターゲットに、新ひだか町内の飲食店や宿泊施設などを利用した方に配布することで、地域活性化・景気回復と併せ、ひだかの宝である「馬」のPRにつなげた取り組みを紹介します。



新ひだかトレジャーホースカードで地域経済を救え
―― 馬は、ひだかの宝物。 ――

北海道本部/自治労新ひだか町職員組合

1. はじめに

(1) 北海道日高郡新ひだか町ってどんな町?
 北海道にある新ひだか町は、2006年(平成18年)3月31日にそれまでの「静内町」と「三石町」が合併して誕生した町です。北海道日高管内の中央に位置し、国立公園化が予定されている日高山脈を背に、雄大な太平洋を望む緑あふれる自然に恵まれたまちであると共に、日高管内の行政、産業、経済、そして文化の中核都市です。
 道内でも比較的温暖で冬の降雪量が少ない「涼夏少雪(りょうかしょうせつ)」の町として知られ、畜産に適しており、古くから馬産地として位置付けられてきました。

(2) 全国屈指の馬産地、新ひだか町
 新ひだか町は国内最大の軽種馬産地として全国的にも知られています。全国の軽種馬生産の約8割を占める日高管内にあって、当町はその3割を有し、町内農業生産額にあっては、約6割を占め、農業の中でも基幹的な産業となっています。
 当町の観光地である「二十間道路桜並木」は、1872年(明治5年)、北海道開拓使長官・黒田清隆が日高の地を訪れた際、野生馬が群れをなしているのを見て、積雪が少なく野草の多い日高地方が産馬改良には最適の地であると判断し、現在の独立行政法人家畜改良センター新冠牧場が、宮内庁所管の新冠御料牧場であった1903年(明治36年)に造成されました。当時は中央道路と言われていた幅二十間(36m)・延長約8km(直線で約7km)という雄大なこの道は、いつからか二十間道路と呼ばれるようになりました。
 その後、同牧場を視察する皇族方の行啓道路としてこの地に桜が植栽され、100年以上たった今も圧巻の風景で訪れる観桜客を魅了しています。

2. 『馬』で地域経済を救う

(1) ホースカード事業のはじまり
 新型コロナウイルスで落ち込んだ経済を活性化させるため、2020年(令和2年)9月、日高管内の日高町で「軽種馬牧場関係者」や「門別競馬場関係者」、「道内外の多くの競馬ファン」に対し、町内の飲食店・温泉施設を利用してもらおうと、日高町地場産品推進協議会(事務局・日高町商工観光課)が『HIDAKA HORSE CARDS(ヒダカホースカード)』を作製し、配布を開始しました。大好評となったこの企画は、2021年(令和3年)に第2弾が実施されました。
 ※ 日高町は、北海道が主催する地方競馬(ホッカイドウ競馬)が行われる門別競馬場を有しており、新ひだか町と併せて日本でも有数の馬産地である。

 2021年(令和3年)には、滋賀県栗東市が市制施行20周年記念事業として『馬カード』を作製し、12月から配布を開始。そして、2022年(令和4年)3月から、新ひだか町が『新ひだかトレジャーホースカード』を作製、配布を開始しました。
 ※ 滋賀県栗東市は、日本に2箇所しかない日本中央競馬会(JRA)のトレーニング・センターを有していることから「馬のまち」として知られている。

(2) 新ひだかトレジャーホースカード
 新ひだか町では、日本中央競馬会(JRA)や地方競馬で活躍した、新ひだか町に縁のある109頭の馬のカードを作製し、町内の飲食店や宿泊施設などを利用された方に『新ひだかトレジャーホースカード』の配布を2022年(令和4年)3月下旬から開始しました。
① 利用してゲット
 新ひだか町の飲食店や温泉施設等で1,000円以上利用された方につき、トレジャーホースカードを1枚プレゼント。宿泊施設は1泊につき1枚プレゼント。取扱店舗は新ひだか町内の飲食店・宿泊施設等105ヶ所。
② 泊まってゲット
 新ひだか町内の5つの宿泊施設で実施する「新ひだかトレジャーホースカード宿泊プラン」を予約し、宿泊すると、トレジャーホースカード1枚と肌触りが心地良いオリジナルタオルをプレゼント。
③ 投票してゲット
 トレジャーホースカードとなった109頭の馬の中から、お気に入りの1頭を選び投票すると、抽選で豪華特産品が当たる。投票箱設置個所は「新ひだか観光情報センターぽっぽ(旧静内駅)」「道の駅みついし」。
 Twitterでも実施。

(3) ホースカードによる効果
 主に、競走馬ファンをメインターゲットに『新ひだかトレジャーホースカード』の配布を開始しましたが、一番初めに反響があったのは、意外にも町内の軽種馬関係者の方々でした。自分の牧場の馬のカードを当てようと、何度も飲食店に足を運んでくれる方や、当たったカードをSNS等にアップしてくれる方など、楽しんで集めていただいているようでした。
 また、町内には不可能だと思われた109種類のカードをコンプリートするツワモノが現れ、話を聞いてみると「カードを集める」ということに魅力を感じている方もいらっしゃいました。
 トレジャーホースカードは、殿堂入りした名馬やJRA重賞で活躍した名馬などランクによって文字のデザインカラーが変わり、一枚一枚封入され、開封するまでどのカードが当たるかわからないことから、「カード収集」という幼少期に多くの方が経験した収集魂に火を付けることに繋がったようです。
 事業PRのために始めたTwitterには、開始早々多くの競馬ファンや馬好きの方がフォローしてくれ、「推しの馬のカードをゲットできた」などの喜びの声や、逆に「コロナがなかなか収まらず直接町に行くことができない」などの悔しい気持ちを知ることができました。
 また、ホースカードを取扱う店舗からも「カード目当てに来店してくれる方がいて嬉しい」との言葉を多くいただきました。
 当初は「本当にこのカード目当てに人が来るのか?」と半信半疑の事業者も多くいたと思いますが、「札幌から毎週来てくれる夫婦がいる。」「常連が毎日嬉しそうにカードをもらっていく。」「この事業をやってくれてよかった。」などのあたたかい話を聞くこともできました。
 2022年(令和4年)3月下旬に始まったこの事業ですが、同年5月には約半分の店舗でカードの配布が終了しており、同年6月末を目途に事業は終了しました。

3. 『馬』を活用したPRについて

 軽種馬産業は当町の基幹産業であり、繁殖牝馬に種付け(交配)することを仕事としている種牡馬は、非常に高額で数千万円から数十億円の価値をもった馬も少なくありません。馬を扱う牧場は、特有の生活リズムや、守るべきルール、繁忙期などがあり、知らずに現地入りしてしまうと、厚意で見学させてくれている牧場に、多大な迷惑をかけてしまうことも十分に考えられます。
 観光目的で牧場を経営しているわけではないため、見学に際しては最低限のルール&マナーを遵守していただく必要があるほか、見学ができない牧場もあります。
 よって、軽種馬関係施設や牧場等を「観光地」にすることはできませんが、『新ひだかトレジャーホースカード』を通じて新ひだか町が「日本一の馬産地」であることを町内外にPRできたほか、新ひだか町を訪れた方には、多様なジャンルの飲食店や宿泊施設などが街中に多くあることを知っていただけ、当町の地域活性化につながったと考えています。
 サブタイトルにある「馬は、ひだかの宝物。」
 馬も人と同じく、それぞれ個性があり、私たち人と同じ生き物です。そして魅力があるからこそ、人々は応援するのだと思います。私たちは馬産地のこの町で働く職員ですが、もっと多くの人に馬の魅力を伝えることで地域活性化に繋がると考えています。
 近年注目を集めている、障がいを持つ方への精神機能と運動機能を向上させ社会復帰を促すことを目的とする「ホースセラピー」や、身体バランスの強化やストレスの軽減に効果がある「乗馬」など、人間には生み出すことのできない様々な効果が「馬」にはあります。だから私たちは「馬」に無限の可能性を感じ、共に生きているのではないでしょうか。
 この『ホースカード』事業はさらに広がっており、2022年(令和4年)7月からは日高管内の平取町で『BIRATORI CHAMPION HORSE CARD(びらとりチャンピオンホースカード)』の配布が開始される予定です。
 いずれは『ホースカード』を活用し、馬産地のPRから地域活性化に繋がるような仕組みを構築し、日高管内が競馬ファンや馬好きの聖地として盛り上がっていければよいと思います。
 新ひだか町にとって、「馬」は地域活性化に繋がる、最大で最高のカードなのかもしれません。