【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

 約10年前に新潟県阿賀野川にて生息が確認された特定外来生物ウチダザリガニ。調査により、生息数の増加、生息地域の拡大が確認されています。本レポートではウチダザリガニを含めた特定外来生物の説明と取扱い、今まで取り組んできた活動を説明し、今後の展望について提言します。



特定外来生物ウチダザリガニの駆除と活用
―― お尋ね者をきっかけに ――

新潟県本部/阿賀町職員労働組合・主任保育士 五十嵐洋祐

1. はじめに

 新潟県東蒲原郡阿賀町は、新潟県の東部、福島県と接して位置する、人口9,965人の町です。飯豊山(いいでさん)や御神楽岳(みかぐらだけ)を代表とする多くの山々に囲まれており、豊富な森林資源、そして大河・阿賀野川と清流・常浪川(とこなみがわ)の流れによる恩恵も多く得てきました。古くから水上・陸上交通の要所とされた歴史があり、その名残として「阿賀野川ライン舟下り」やJR磐越西線が運行されています。新潟・福島間を走る「SLばんえつ物語号(C57)」の路線地でもあるため、景観の美しさから多くの人が訪れます。
 そんな、「緑と水の街」で生活し保育士として働いている私は、趣味の魚釣りが高じ新潟市の水族館「マリンピア日本海」などからの要請を受け、魚の採捕や図鑑作成の手伝いなどを行っています。その活動の中で約10年前、「阿賀野川に特定外来生物『ウチダザリガニ』が生息しているかもしれない」という話になり、さっそく友人と共に調査を行い、阿賀野川での生息を確認しました。
 ザリガニが海外で食材として流通していると聞いたことがあったので、試しに食べてみると非常に美味だったことから、生息数の調査の要請(必要性)と「私は料理が趣味」ということもあり、本格的に調理をしてみたいという気持ちから活動をスタートしました。
 調査により年々、生息数・生息水域が拡大していることが分かり、本格的な駆除の必要性、駆除を継続するにはどうしたらいいのか、駆除するだけではなく命としてどう扱っていくかなど様々なことを考慮しながら進めていきました。
 次第に活動が認知されはじめテレビやラジオ、観光協会などにも取り上げてもらえるようになったことで「特定外来生物について知り、自然環境に興味を持ち、駆除活動を行い、命としてありがたく頂く。」この活動が多くの人々に理解してもらうことで特定外来生物を取り扱うモデルケースとして阿賀町を知ってもらえるのではないか、子ども達、保護者をはじめとした様々な人たちが自然と触れ合うきっかけになるのではないかと感じ活動を進めています。本レポートでは、特定外来生物について、今まで行ってきた活動、これからの展望などを提言します。

2. 特定外来生物とは

 特定外来生物とは外来生物(海外起源の外来種)であって、生態系、人の生命・身体、農林水産業へ被害を及ぼすもの、又は及ぼす恐れがあるものの中から指定される生物です。生きているものに限られ、個体だけではなく、卵、種子、器官なども含まれます。
 例: 魚類  ブラックバス類(オオクチバス、コクチバス、ブルーギル等)
   両生類 ウシガエルなど 爬虫類 カミツキガメなど 哺乳類 アライグマなど
   昆虫類 アルゼンチンアリ、セアカゴケグモなど 植物 オオキンケイギクなど約1,200種

オオクチバス コクチバス ブルーギル
ワニガメ ウシガエル アライグマ
セアカゴケグモ オオキンケイギク

3. 特定外来生物法について

 特定外来生物の取り扱いについて以下の取り決めがあります。

・飼育、栽培、 ・運搬(生きたまま移動させる)、 ・保管、・輸入、
・野外への放出、植栽、は種(種をまくこと)、 ・許可を受けていないものに対しての壌土など


 罰則(一例)

分 類

行為(対象:特定外来生物)

罰則(懲役または罰金)

個 人

法 人

輸入関係

許可なく輸入した場合

3年以下または
300万円以下

1億円以下

許可なく輸入した場合
(※未判定外来生物)

1年以下もしくは
100万円以下

5千万円以下

販売関係

許可を受けていない者に対して
販売や配布をした場合

3年以下もしくは
300万円以下

1億円以下

飼養関係

許可なく飼養等した場合
(販売・配布目的)

3年以下もしくは
300万円以下

1億円以下

許可なく飼養等をした場合
(ペット等の目的)

1年以下もしくは
100万円以下

5千万円以下

偽りや不正をして飼養等の許可を受けた場合

3年以下もしくは
300万円以下

1億円以下

放出関係

許可なく野外に放ったり、植えたり、
まいたりした場合

3年以下または
300万円以下

1億円以下


4. 今までの活動

 最初はあくまで個人的な活動として料理をして楽しむ程度だったのですが、SNSで公開したところ、大きな反響をいただくことができ、仲間と共に「阿賀町ザリガニクラブ」(A,Z,C)を結成、ウチダザリガニを「奥阿賀ロブスター」と名付け活動を継続しました。
 次第に活動が認知され始め、講演会依頼や水族館展示の特別採捕依頼、元 阿賀町地域おこし協力隊 堀口 一彦氏(現 阿賀まちづくり株式会社 代表)と協力してテレビ出演やイベントとして「奥阿賀ロブスターパーティー」(O.L.P)を2年連続で開催し好評をいただきました。
 2021年、2022年とコロナ禍の影響で中止になってしまいましたが、開催を熱望する声を多くいただいているので、コロナ収束の目途が立ちしだい再開したいと考えています。
 そのほかにも今年(2022年)8月21日には新潟県観光協会からの依頼を受け阿賀町オンラインツアー「特定外来生物ウチダザリガニを学びおいしく味わう奥阿賀ロブスター堪能ツアー」を執り行う予定です。
(レポート作成時8月10日)


テレビ放映時の様子

講演会&イベントポスター

奥阿賀ロブスターパーティー(O.L.P)での様子

奥阿賀ロブスター調理例

・昨今のアウトドアブームや「池の水をぬく」などのテレビの影響か、「外来生物」という言葉が今まで以上に浸透しています。
 テレビなどのメディアではセンセーショナルに取り上げるがあまり、楽しい、美味しいが先行してしまう危険性を感じます。
 もちろん「楽しい」や「美味しい」をきっかけとすることが悪いわけではないのですが、その中で「命を無駄にしない」「特定外来生物や身近な環境について知ってもらう」ということを理念に置きながら『奥阿賀ロブスターパーティー』及び「阿賀町ザリガニクラブ」の活動を継続していきたいと考えています。

5. 今後の展望

 阿賀町には豊かな自然が残っており、それが魅力の一つとなっています。しかし、その自然の楽しみ方が分からない、伝えていくことができていないのではないかと私は感じています。
 今まで行ってきた活動や保育士としての仕事を通し、自然の中で遊ぶ子どもたちの興味津々で生き生きとした様子がありながら保護者からは「自然で遊びたくてもどうやっていいかわからない」という意見も聞きました。
 奥阿賀ロブスターはあくまできっかけとして、阿賀町が誇る豊かな自然の素晴らしさ、尊さを伝えるために、さまざまな人たちや機関、施設などと協力し、これからも活動を進めていきたいと思っています。