【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

 誰もがいつかくる「もしもの時」について、あなたが元気なうちから話し合う「人生会議」のきっかけとして、自分の最終段階について意思表示ができるように、家族だけでなく医療・介護関係者も同席した上で話し合うことを一般的なものにしていくことが重要であると考え「もしもシート」を検討した。



そうだ 人生会議してみよう
―― 「もしもシート」を作成し、
自分の最終段階について意思表示ができるように ――

三重県本部/地域と医療を考えるワーキンググループ

1. はじめに

 日本社会は、急速に高齢化が進み、2025年には、最も人口が多い団塊の世代が、75歳以上の後期高齢者になります。高齢者の増加に伴い、医療、介護、福祉サービスへの需要が高まる一方で介護職の人材不足が起こり、介護難民となる高齢者も増えると考えられています。
 また、20世紀初頭に比べ少子化も進み、さらには地域社会での人間関係も希薄になってきている現代では、周囲や子どもの世代へ大きな負担をかけないように、人生の終わりの準備を考える人も増え、「終活」という言葉が2012年の新語・流行語大賞でトップテンに選出されるほど社会現象として広がりを見せました。
 しかし、厚生労働省の「人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書」(図1)によると、自らの人生の最終段階に関しての医療について家族等や医療介護関係者と「詳しく話し合っている」または「話し合ったことがある」と回答した割合は2008年が48.1%、2013年は42.2%、2017年には39.5%となっており、最近では減少傾向であると考えられます。
 その時は突然やってきて、本人や家族は、現状を受け入れられないまま矢継ぎ早に、例えば、告知をどうするか? 延命治療を望むのか? といった多くの選択を迫られます。命にかかわる病気やケガは、誰にあっても、いつ、どこで起きてもおかしくありません。
 加えて未だ全容が見えない新型コロナウイルス感染症は、無症状であっても他人への感染能力があり、いつでも、どこでも、誰にでも感染のリスクがあり、重症化する恐れもあります。事実、著名人が新型コロナウイルスに感染し、身内が本人に会うこともできないままこの世を去ってしまったことは、世間に大きなショックを与えました。このことからも、自分の最終段階について意思表示ができる時に、家族だけでなく医療・介護関係者も同席した上で話し合うことを一般的なものにしていくことが重要であると考えました。

2. ワーキンググループでの考察

(1) 行動が伴わない現状……
(人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書より)
(人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書より)
 先の調査(図1)によると、家族や医療・介護関係者と人生の最終段階における医療・介護について話し合うことには64.9%の人が「賛成」である(図2)のに対し、実際に行動に移す人は40%に満たず、まだまだ少ない現状があります。当ワーキンググループでは、現状の把握とその要因について議論をしました。
 まず、まだ人生の最終段階について考えること自体がタブー視されている風潮が根強く残っていることが考えられました。医療・療養に関して話し合うきっかけとなる出来事は「自分の病気」や「家族などの病気や死」が高い割合を示しています。(図3)
 できれば起こって欲しくないこれらの出来事をきっかけに人生の最終段階について考えるという認識が現実的には高く、どうしても負のイメージがつきまとっていることがうかがえます。

(2) 書面の作成だけでは十分ではない現状も……
 2017年三重県地方自治研究集会にて、在宅医療や終末期医療に関わる関係者の視点を入れたエンディングノートを提案しましたが、必要と考えられる情報を網羅したことから、全て書くことに時間を要することや金銭に関する個人情報も記すものとなっていたため、利用が進まない一因になっているのではないかと考えられました。さらに、たとえ自分自身で意思決定ができなくなったときにどのような医療を受けたいかなどをあらかじめ記載した書面(事前指示書)を記載していたとしても、医療の現場では「特にその書面は用いていない」との回答が半数を超えており(図4)、ただ、書面を作成しているだけでは十分でないことも示されている一方で、人生の最終段階における医療の充実のために必要なこととして、「人生の最終段階について話し合った内容の関係者間での共有の仕方」が医師、看護師、介護職員のいずれの職種でも最も高い割合である(図5)ことも報告されています。このことから、しっかり話し合いをした自分自身の思いを代弁できる人(キーパーソン)の存在が重要であると考えられます。
 キーパーソンや関係者が「あの人なら、こんな時、こう考えるだろう」とあなたの気持ちを想像し、医療・介護関係者にその情報をうまく伝えるには、普段から話し合いを繰り返すことが有効だと考えられます。また、繰り返された十分な話し合いが、「いざ」という時にあなたの大切な代弁者の心の負担を軽くすることにもなります。

(人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書より)
(人生の最終段階における医療に関する意識調査報告書より)

3. 厚生労働省が進める新たな視点 「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」から「人生会議」へ

(出典:厚生労働省)
 緊急時または病状が悪化し、本人が意思表示できなくなる場合に備え、人生の最終段階の終末期にどのような医療やケアを受けるかを、事前に家族や医師などと話し合いを重ねる過程を指す「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」について、すでに欧米で取り組みが進んでおり、本人が望む医療やケアを実現できるとして厚生労働省は、2018年3月14日には、ACPの概念を踏まえた「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」をまとめました。
 ガイドラインでは、本人と医療・ケアチームと十分な話し合いを行い、本人の意思決定を基本とした上で、医療・ケアを進めることが最も重要であり、さらに、本人の意思は変化しうるものであるため、その都度、自らの意思を示し、本人との話し合いが繰り返し行われることが重要であると記載されています。
 2018年11月30日に厚生労働省は、その普及・浸透を狙い、「人生会議」という愛称で呼ぶことを決めました。「そろそろ人生会議してみよう」と日常会話になることが期待されます。

4. 当WGからの提言

 「人生会議」は、2019年の啓発ポスターの発行中止という騒動による思わぬ余波によって、耳にした人もいますが、その意味やめざしているものについての認知度は決して高いとは言えません。また、いくつかの自治体で取り組まれている「エンディングノート」の啓発では、作成や配布にも多くのコストがかかるため、多くの自治体では取り組みづらいことや、実際に取り組んだ自治体でも、その取り組みが一過性であると考えられます。
 そこで、当ワーキンググループで、様々なエンディングノートを参考に、人生会議(ACP)のスムーズな導入や、エンディングノートと人生会議の連動につながるよう、記載しやすく、さらに啓発のために配布しやすく、お薬手帳などと同時に携帯しやすい簡易版人生会議ノートの作成に取り掛かり、人生会議用「もしもシート」を作成しました。また、医療機関でも有効なものとなるよう救急医療の現場での活用という視点も考慮しています。

5. おわりに

 人生の最終段階について、話し合ったことがない理由としては、「話し合うきっかけがなかったから」の割合が最も高いという結果も出ています(図6)
 わたしたちは、作成したノートのネーミングにも工夫を凝らしました。気軽に、前向きに、手に取りやすく、日常生活の当たり前のものと根付くことを期待して「もしもシート」と名付けました。
 いつかくる「もしもの時」について、あなたが元気なうちから話し合う「人生会議」のきっかけに、この「もしもシート」が役割を果たすことを願います。

6. 地域と医療を考えるWG研究員体制

 座  長  寺 西 良 太  三重県総合医療センター労組
 委  員  若 林 さおり  亀山市職員組合
 委  員  宮 田 由紀子  志摩市職員組合
 委  員  植 田 充 芳  伊賀市職員労働組合
 委  員  柏 原 祐 吾  名張市職員労働組合
 委  員  中 川 貴 司  三重県職員労働組合
 委  員  扇 田 靖 之  三重県職員労働組合
 委  員  川 面 博 哉  玉城町職員組合
 委  員  谷 口   卓  志摩市職員組合
 委  員  辻   幸 則  伊賀市職員労働組合
 委  員  石 原 知 枝  自治労三重県本部
 事務局長  河 俣 敦 士  伊勢市職員労働組合
 事 務 局  田 端 早 苗  自治労三重県本部

7. 研究会の開催状況

(1) 第1回ワーキング
① と き 2020年7月16日(木)
② ところ 津市・アストプラザ

(2) 第2回ワーキング
① と き 2020年9月16日(水)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター

(3) 第3回ワーキング
① と き 2020年11月18日(水)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター

(4) 第4回ワーキング
① と き 2021年1月20日(水)
② ところ 津市・アストプラザ

(5) 第5回ワーキング
① と き 2021年3月24日(水)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター

(6) 第6回ワーキング
① と き 2021年5月19日(水)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター