【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

 水道事業を取り巻く環境は厳しく、「人口減少に伴う水需要の減少」「水道施設の老朽化」「深刻化する人材不足」など直面する課題に対応するため、2019年10月に改正水道法が施行された。水道事業の現状と将来予測を分析した上で、質の高い水道事業の提供と持続可能な水道事業を実現するための手法として、「広域連携」と「コンセッション方式による官民連携」の2つに絞って考察した。



質の高い水道事業を持続させるために必要なこととは?
 

三重県本部/質の高い水道事業の提供と持続可能な水道事業の実現ワーキンググループ

1. はじめに

 水道事業を取り巻く環境は厳しく、「人口減少に伴う水需要の減少」「水道施設の老朽化」「深刻化する人材不足」など直面する課題に対応するため、2019年10月に改正水道法が施行された。
 改正内容のポイントとして、「広域連携」と「コンセッション方式による民間委託」(以下コンセッション)が挙げられるが、特にコンセッションについては、水道料金の決定など経営の根幹に係る権限を民間企業に委譲することから、海外や県外の事例によると賛否が分かれる状況となっている。
 ワーキンググループにおいては、水道事業の現状と将来予測を分析した上で、質の高い水道事業の提供と持続可能な水道事業を実現するための手法として、「広域連携」と「コンセッション方式による官民連携」の2つに絞って考察した。

2. 水道事業の現状と将来予測

 日本の水道は、1887年に横浜市で国内最初の近代水道が整備されて以来、130年に渡る歴史の中で、生活や経済活動に欠かせない社会資本として定着し、2019年時点における給水人口は1億2,377万人、普及率は98.1%となっている。蛇口をひねれば直接飲用できる安心で安全な水道水は、世界に誇れる水質と言えるが、人口減少や節水機器の普及により給水量及び料金収入が減少し、水道事業の経営環境が悪化している。
 また、コロナ禍における家庭や事業者支援として、水道料金の支払猶予に加え、全国の3割の自治体で減免や減額が実施された。この財源を国の交付金ではなく施設の更新費として積み上げてきた費用から捻出した自治体もあったことから、更に厳しい経営状況となっている。
 県内においても、同様の状況があり、特に中山間で集落が点在する地域など、条件不利地域の水道事業は、水道料金だけで経営することはできず、一般財源からの基準外繰出によって支えられている。
 このような状況から、「老朽化した管や施設の耐震化が進まない」、「職員数が減少し技術の継承ができない」といった問題があり、水道管の漏水や濁水、異臭味などの事故も全国的に発生している。

図1 有収水量の推移(出典:厚生労働省)


図2 管路の経年化率と更新率の推移(出典:厚生労働省)


図3 水道事業における職員数の推移(出典:厚生労働省)


図4 三重県自治体の水道事業の状況

3. 水道法改正の概要

 2019年10月に施行された水道法改正の概要は以下のとおりである。

(1) 関係者の責務の明確化
① 国・県・市町は、水道基盤の強化に関する施策の策定・推進・実施に努める。
② 県は、市町間の広域連携の推進、市町は水道基盤の強化に努める。

(2) 広域連携の推進
① 国は、広域連携の推進を含む水道基盤を強化するための基本方針を定める。
② 県は、基本方針に基づき市町の同意を得て水道基盤強化計画を定めることができる。また、広域連携を推進するため市町を構成員とする協議会を設けることもできる。

(3) 官民連携の推進
 地方公共団体が、水道事業者としての位置づけを維持しつつ、水道施設に関する公共施設等運営権を民間事業者に設定できる仕組みを導入する。

(4) その他
 施設の維持・修繕や水道施設台帳の整備、水道施設の計画的な更新およびそれに係る収支見通しの作成・公表などに関して改正された。

図5 広域連携の形態図

4. 広域連携の意義とメリット・デメリット

 広域連携には①用水供給事業や受水末端事業等を統合する「事業統合」②認可上、事業は別であるが経営主体を1つとする「経営の一体化」③維持管理業務や事務処理等を共同実施(共同委託等も含む)する「管理の一体化」④取水場・浄水場・水質試験センター・緊急時連絡管等を共同施設として保有する「施設の共同化」など様々な形態がある。

(1) 広域連携の形態について
 以下の表は、その代表的な形態をイメージ図としてまとめたものである。

図6 広域連携の形態のイメージ

 

(2) 広域連携のメリット・デメリット
① メリット
・事業基盤の安定化、経営資源の共有化が可能。
・各水道事業体がもつ水源や浄水場等の施設統廃合により、施設更新に伴う費用が削減でき、水道料金上昇の抑制が可能。
・組織拡大により、効率的な人材育成・技術継承が行える。
 (研修会等(職員研修・給水装置講習会)の協働開催が可能)
・規模の拡大に伴い、業務の共同化や民間委託の範囲拡大など効率的な運営が可能。
・広域連携の整備に厚生労働省の生活基盤施設耐震化等交付金や、総務省の普通交付税措置等、国の財政措置が利用できる。
② デメリット
・三重県は市町ごとに社会的環境(北部は経済活動が盛んで比較的人口減少が穏やかであるが、南部は人口減少が著しい)や、地形的環境(細長い地形に加え、河川や山地等により水源や給水区域が細かく分断されている)、水道料金体系や経営環境が大きく異なっているため、施設の統廃合などのハード面の広域化、事業統合などを実施しにくい。
・水道料金体系を1つに統一するには構成団体全ての合意が必要となり、料金改定についても構成団体全ての合意が必要となるため、調整が困難となる。

(3) 広域連携の導入状況
① 事業統合(垂直型統合)の例
【岩手中部水道企業団】
 北上市、花巻市および紫波町内の約84,000世帯に水道水を供給する一部事務組合。2013年10月11日に設立し、2014年4月1日から事業を開始した。
 ※ 水道企業団とは、地方公共団体の事務をほかの地方公共団体と共同で処理するために設ける一部事務組合で、水道、ガス、電気事業など地方公営企業の経営に関する事務を共同処理する場合、これを「企業団」という。
② 事業統合(水平型統合型)の例
【秩父広域市町村圏組合】
 秩父地域の1市4町(秩父市、横瀬町、皆野町、長瀞町、小鹿野町)は1970年、地方自治法に基づく特別地方公共団体(一部事務組合)として「秩父広域市町村圏組合」を設立し、消防やごみ処理、福祉保健などの事務・事業を共同で処理していた。2016年4月からその共同処理の1つに水道事業を加え、給水人口約10万人に水道水を供給している。
③ 管理の一体化の例
【四万十町・阿見町・須崎市】
 四万十町、阿見町、須崎市では2012年4月から水道料金システムを共同利用(共同委託)することで、委託費用を削減した。
 ※ 須崎市は自治体情報セキュリティにおける考え方の違いにより2016年度末に脱退。
④ 管理の一体化(シェアードサービス)の例
【かすみがうら市・阿見町】
 かすみがうら市、阿見町では2015年4月から水道料金等徴収業務(受付・開閉栓・検針・調定業務等)を共同で発注することで、委託費用を削減した。

(4) 広域連携の意義と展望(まとめ)
 水道事業の広域連携は、経営基盤の強化をはかり、将来にわたり水道サービスを持続可能なものとする有効な手段の1つであると考えられる。従来までの水道広域化のイメージである「事業統合」の他、あらゆる広域化の可能性について、積極的に検討していく必要がある。
 また、本県の水道事業の統合については、過去の平成の大合併において69市町村が29市町に再編されたことに伴い、水道事業についても事業統合がされている。しかし、その合併は水道事業の広域化を主眼とした統合ではなかったため、住民から理解を得て水道料金を統一化し、真の事業統合に至るまで10年以上の時間を要することとなっている。
 このことをふまえ、更なる広域連携を進めるには、上記の水道料金の問題の他、地形的環境条件や財政状況、施設整備水準など自治体間の格差が大きいことから、関係する自治体全てにメリットがある施策でなければ困難であると考える。
 そのため、広域連携の取り組みについては、それぞれの市町の水道事業者に判断をゆだねるのではなく、国・県・市町が一体となり、地域の事情に応じた具体的な取り組みを検討・協議し、「共同研修」「資器材の協働備蓄」など協力できることから進めていくことが重要である。

5. 官民連携(コンセッション等)の現状とメリット・デメリット

 水道事業における官民連携手法には様々な形態・方式がある。以下の表は、その類型と内容をまとめたものである。

図7 各官民連携手法と民間事業者の実施する主な業務範囲(出典:厚生労働省)
 
 ここでは特に、2019年に施行された改正水道法において規定されたコンセッション方式(地方公共団体が水道事業の認可を返上せずに民間事業者への運営権の設定が可能となった)について考察をする。

(1) コンセッション方式について
 コンセッション方式とは、高速道路、空港、上下水道などの料金徴収を伴う公共施設などについて、施設の所有権を発注者(公的機関)に残したまま、運営を民間事業者が行う枠組みのことをさす。民間事業者は、公共施設利用者などから利用料金を直接受け取り、運営に係る費用を回収するいわゆる「独立採算型」で事業を行う。既に空港事業などで導入されているが、今回の水道法の改正により、水道事業において最終的な給水責任を地方公共団体に残した上でのコンセッション方式の導入が可能となった。
 「独立採算型」事業では、民間事業者が収入と費用に対する責任を持ち、ある程度自由に経営を行うことができる。例えば、利用者の数を増やすことによる収入の増加や、逆に経営の効率化による運営費用の削減といった創意工夫をすることで、事業の利益率を向上させることが可能である。

(2) コンセッション方式で考えられるメリットとデメリット
 水道事業においてコンセッション方式を導入した場合、様々な効果や影響がもたらされると想定されている。主に財政負担、人材育成と技術継承、事業運営・サービスの質等の観点から、メリットに繋がるという考えや逆にデメリットになるという懸念まで様々な意見が挙げられている。それぞれ主なものについて詳細を以下に示す。
① メリット
 ア 事業運営の効率化
  民間事業者が運営するため、直営方式に比べて運営の自由度が高く、民間のノウハウや創意工夫により効率的な事業が期待でき、トータルでの経費削減に繋がるとされている。
 イ 公共職員の補完
  経験豊富な技術職員の定年退職等により技術力の維持が困難となりつつある中で、民間事業者の技術力を確保し、公共の施設の管理・運営を行うことにより、公共職員の補完が期待できる。
 ウ 事業機会の拡大・新規産業の創設
  民間事業者の公共という新たな分野の参入が可能となり、事業機会の拡大・新規産業の創設につながる。
② デメリット
 ア 利用料金の値上げ
  民間が資金を調達する方式では、高金利となり調達コストが高くなる場合がある。また、施設を民間が保有する方式ではこれまで発生しなかった公租公課が発生する。これらコストの増大により、水道料金の値上げにつながる恐れがある。
 イ サービスレベルの低下
  民間事業者として効率性を求めることが最優先された結果、採算が見込めない投資が実施されなくなる、水質が悪化する等、運営サービスレベルの低下につながることが懸念される。
 ウ 行政職員の技術力の低下
  行政職員の育成や技術継承等、技術力の低下が懸念される。行政が何らかの形で継続した関わりを持つ仕組みにする必要がある。
 エ 調達事務の煩雑化
  導入検討調査、要求水準書等の書類作成、事業者の選定及び契約事務等、最終的な発注に至るまでに従来に比べて長い期間と膨大な事務量を要することになる。
 オ 運営方式の検討のための根拠となるデータの不足
  国内ではまだ導入済の事例がなく、運営方式として一般化されていないため、水道事業者によってサービス向上や業務効率化が見込めるか検討を十分行う必要がある。

(3) コンセッション方式の導入状況
 現在フランス、イギリス、ドイツ、アメリカなどの様々な国で、上下水道事業における民間事業者への売却、民間委託、コンセッション方式が導入されている。
 一例として、フランスの水道事業においては、長年に渡り、コンセッションをはじめとした民間活用が行われている。その割合は近年ほぼ同水準で推移しており、2009年から2015年の間において、事業体ベースで31%、給水人口ベースで概ね60%前後の割合となっている。また、運営形態移行に関する実態として、2010年から2015年の間で水道事業の運営方式の変更が行われた数は、「再公営化したケース」と「コンセッション等の民間活用に移行したケース」で、いずれも68件となっている。パリ市の水道事業が2010年に再公営化された事例においては、要求水準が不明確、透明性の不足、モニタリング体制の形骸化といった契約内容やスキームの不備がその主な要因と考えられている。
 国内の、水道事業において導入が完了している都道府県や市町村は、現時点においてまだないものの、検討を行った事例あるいは導入を進めている事例について詳細を以下に示す。
① 静岡県浜松市
 2018年4月に、下水道事業で全国初となるコンセッション方式(運営委託方式)を導入した。施設の所有権を自治体に残したまま、運営を民間事業者に長期間(今回は20年間)委ねる。市が運営する場合と比較して20年間で約86億円のコスト縮減効果を見込んでいる。
 水道事業においても、2017年に「コンセッション導入可能性調査」を実施した結果、当該方式が有効であるとの結論に至り、より具体的な導入に向けて検討を進めてきたが、その過程において市民や議会の理解が充分に得られていないことを理由として、2019年1月から現在に至るまで、コンセッション方式については検討も含め導入を延期している状態である。
② 宮城県
 上水道、下水道、工業用水道の3事業の運営権を民間事業者に売却するコンセッション方式「上工下水一体官民連携運営(みやぎ型管理運営方式)」の導入を進めており、2021年3月、優先交渉権者に水処理大手のメタウォーター等で構成する企業グループを選定した。20年の事業期間で約287億円のコスト削減を見込んでいる。
 2021年6月の県議会定例会で運営権を設定するための条例議案を提出し、可決された場合は厚生労働省の許可手続きを経て、2022年4月に事業を開始する予定となっている。
 このように導入に向けての手続きは着々と進んでいるが、事業者の選定に関わる話し合いや審査の内容がほとんど明らかにされていないことや、今後の情報公開に関する規定も未策定の状態となっていることから、事業の透明性の確保への懸念の声も一部であがっている。

(4) コンセッション方式の意義と展望
 コンセッション方式には様々なメリットやデメリットが考えられる。特に経費や技術力継承等に関わる問題は、メリットとデメリットのいずれにもなり得る可能性があり、条例・方針による制約や契約等の取り決めにおける要求水準等でいかにバランスよくコントロールを行うことができるかがその成否に大きく影響すると考えられる。
 コンセッション方式は、厳しい状況にある水道事業を今後どうしていくかを考えていくための選択肢の1つであり、自治体ごとの状況を踏まえながら、最適な方法を検討して選択していくための要素であることにその意義がある。
 そのために、直営の場合や官民連携の場合等の多様な選択肢を比較し、それらのメリット・デメリットの分析や、数十年後を見据えたビジョン等、可能な限りあらゆる情報を提示した上で判断することが必要である。さらには、利用者となる地域住民が偏りなく状況を理解し、今後の選択に納得してもらえるような本質的な合意形成をはかっていくプロセスを経ることが重要となる。

6. まとめ

 広域化については、地域の事業体が互いの経営状況を含めて情報を共有し、職員組合との協議や住民を巻き込んだ議論の後に、広域化のあり方を決める必要があると考える。「水源を変えるのか否か」「市町村合併もあったのに更なる広域連携が必要なのか」「住民の理解が得られた計画となっているのか」などを議論し、将来、住民間で分断が起きないよう配慮することが重要である。
 民間委託については、個別業務委託からコンセッション方式まで幅広くあり、既に多くの事業体において、民間への業務委託が進んでいる。しかし、コンセッション方式については、経営の根幹に係る部分を数十年といった長期間に渡り民間企業へ委譲することから、海外での事例のように水質異常や料金の高騰、不透明な会計など、チェック機能が働かなくなる可能性があり、安易に導入してはならないと考える。
 水道事業における様々な課題を解決するためには、多くの関係者がそれぞれの立場で十分に意見を交わし、1つずつ課題を整理しながら解決策を見出すことが重要であり、間違っても国からの押し付けや民間委託ありきの風潮などにより、拙速に結論付けられるようなことがあってはならないと考える。

7. 質の高い水道事業の提供と持続可能な水道事業の実現WG研究員体制

 座  長  中 村 敏 章  三重県職員労働組合
 委  員  小 寺 洋 平  いなべ市職員労働組合
 委  員  床 呂 直 哉  松阪市職員組合
 委  員  奥 本 剛 広  名張市職員労働組合
 委  員  古 村 則 晶  木曽岬町職員組合
 委  員  佐 波 大 也  紀北町職員組合
 委  員  藤 枝 貴 則  菰野町職員組合
 委  員  中 村 修 穂  玉城町職員組合
 委  員  上 野 光 一  熊野市職員労働組合
 委  員  村 田   晃  東員町職員組合
 委  員  杉 本   淳  企業庁労働組合 ~2021.1
 委  員  平 澤 志 起  企業庁労働組合 2021.2~
 委  員  柳 原 雄 樹  三重県地方自治研究センター
 委  員  上 杉 知 明  自治労三重県本部
 事務局長  伊 藤 帆 高  津市水道労働組合
 事 務 局  森 口 貴 史  自治労三重県本部

8. 研究会の開催状況

(1) 第1回ワーキング
① と き 2020年8月11日(火)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター

(2) 第2回ワーキング
① と き 2020年9月11日(金)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター

(3) 第3回ワーキング
① と き 2020年11月11日(水)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター

(4) 第4回ワーキング
① と き 2021年1月27日(水)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター

(5) 第5回ワーキング
① と き 2021年2月19日(金)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター

(6) 第6回ワーキング
① と き 2021年4月15日(木)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター

(7) 第7回ワーキング
① と き 2021年5月17日(月)
② ところ 津市・三重地方自治労働文化センター