【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

住民自治と市職自治研


三重県本部/松阪市職員組合

1. はじめに

 2021年11月26日、松阪市職員組合(以下、市職。)は第52回自治研集会を実施しました。
 市立鎌田中学校内に設置されている地域交流センターを会場に、組合員42人が参加しました。また、連合三重松阪多気地域協議会が推薦する松阪市議5人(会派:市民クラブ)にも参加いただきました。
 テーマを「地域交流センターの役割と住民自治協議会について」とし、松阪市の新しい地域づくり組織である「住民自治協議会」と地域づくりについての講演とワールドカフェというグループワークの手法の体験を行いました。住民自治協議会は、従来の住民協議会と地区自治会連合会を一本化し、松阪市条例(2021(令和3)年4月施行「松阪市地域づくり組織条例」)に位置付けられた新しい地域づくり組織です。(詳細後述)
 私たち市職員は担当部署の業務で精一杯の日々ですが、自治研活動を通じて市の中心的な地域づくり組織について認識を深め、市役所の業務について幅広い視点を持つことを目的としました。
 この集会に至るまでの松阪市職の自治研活動も振り返りながら、取り組みについて報告します。

2. 松阪市について

 三重県松阪市は2005年1月1日に1市4町(松阪市・嬉野町・三雲町・飯南町・飯高町)が合併して、新「松阪市」となりました。三重県の中央に位置し、東は伊勢湾、西は奈良県と接しているため、特に東西に長く50㎞もあります。面積が623.58km2で東京23区と同程度の広さがありますが、7割は山林となっています。
 全国の多くの自治体と同様に人口減少が進んでおり、合併直後の2005年の16.8万人をピークに減少に転じ、2022年に16万人を下回りました。死亡数が出生数を上回る自然減と転出超過は続く見通しで、今後は人口減少が加速し、2045年の推計人口は12.7万人で2022年より3.2万人減、高齢化率は39.0%で8.7%増という推計です。(国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(平成30(2018)年推計)』より)
 職員組合に関しては、旧市町すべてに職員組合があり、自治労に加盟をしていました。幸いにも競合組合はなく、市町合併時に組合も合併しました。合併以降の集中改革プランにより職員数が大きく減少したこともあり、現在の組合員数は1,000人弱となっています。

3. 市職自治研の経過

 本レポートで報告する自治研集会が第52回となっているように、市職では市町合併前から長年にわたり自治研集会を実施してきました。かつては自治会連合会や商店街組合など地域のさまざまな団体にも参加を呼びかけ、20年ほど前までは宿泊を伴う大きな事業でした。親睦の場も含めた、地域の学習と交流の場であったのだろうと思われます。テーマは中心市街地の活性化、市町村合併、介護保険、防災など自治体にまつわる折々のもので、大学教授や県職員、消防士、テレビ局社員や商社役員などさまざまな方に講演をいただいたり、パネルディスカッションや行政の現場からの報告などを行ってきました。
 しかし、宿泊廃止、外部参加者の減少、市当局からの補助金廃止などの変化や、市職として事業の意義に関する意識の低下など継続性の問題もあり、10年ほど前には組合員向けの講演会になっていました。さらに、2014年9月の集会以降、事業自体が停止してしまっていました。
 事業の復活は2019年でした。
 2月23日、4年半ぶりとなる第50回自治研集会は、組合員のみを対象としましたが33人の参加により実施することができました。三重地方自治研究センターに出向していた市職組合員が「住民協働と市職員の役割」と題して活動報告を行い、合わせて松阪市が住民自治の現場で推進していたファシリテーションスキルを体験するためのグループワークも行いました。
 企画の段階から単に事業を復活させるだけでなく、従来の講演会という参加者が話を聞くだけに終わっていた形式から、参加者が意見を交わしあえる参加型の形式を基本として準備をしてきました。
 その理由は、松阪市の将来像にあります。大幅に人口が減少していく見通しがあり、行政サービスの在り方は変化をしていかざるをえません。人口減少とはいっても当面の間、減少するのは働く世代であり、税収や人材の減少は差し迫った課題です。人口減少に比例して行政サービスが減少すれば問題はありませんが、高齢化が一層進む中で行政サービスへの需要は増加することが容易に想像できます。市役所単体としての資源が減少していくならば、必然的に住民協議会が担う役割が大きくなっていかざるをえず、住民協議会の運営の手法を市職員が担当部署ではなくとも知っていることは、市全体として利益になることと考えました。
 この企画の基盤となったのが、松阪市の住民自治担当部署によるファシリテーション研修でした。
 松阪市では2013年に協働の地域づくりを推進するため、三重県と連携してファシリテーション研修を8回にわたって実施していました。老若男女、いろんな立場から参加者が集まり、笑顔がいっぱいで楽しく地域づくりについて語り合う、というイメージを持つことは難しいと思いますが、この研修ではそういった従来のイメージを覆す仕組みを実践も交えて学びます。「気楽に、楽しく、中身は濃く」語り合える地域の仕組みづくりのための人材育成研修でした。住民協議会役員や市職員のほかに、県・他市職員、大学生、社会福祉協議会、民間企業社員などさまざまな立場の人が参加していました。
 このファシリテーションスキルを住民自治担当部署で経験した職員が市職役員にいたことが集会実施の大きな力となりました。当日のグループワークでも進行役となり、参加者は各グループで市職イベントとしてやってみたいことを和気あいあいと考え、住民協議会で実際に取り入れられている手法を体験することができました。

4. 松阪市における住民自治の取り組み

 松阪市の住民自治に関する取り組みについても紹介します。
 旧松阪市の時代から市内での地域内分権体制をつくることが研究されていました。市町合併後に広大な市域において地域の実情に即した課題対応の必要性などから、概ね小学校区をエリアとする住民協議会の設立が進められました。合併から4年後に新しい市長が誕生すると、それまでは希望する地区から設立していた住民協議会を、市内全43地区すべてで設立する方針となり、2011年度末には全地区(図1)で設立が完了しました。2016年3月には松阪市住民協議会条例の施行により、住民協議会が条例に根拠づけられました。
 住民協議会はエリア内の地域住民や、自治会、公民館、福祉会、民生委員など、地域づくりに携わる各種団体によって構成されており(図2)、住民協議会はそれらの団体等をつなぎ、地域課題解決へ向けて地域全体の意見をまとめる意思決定・協議機能と、取り組みを行う実行機能を有しています。総会で地域住民の承認を得て、各課題別に設けられた部会で事業が実施されます。(図3)
 松阪市では住民協議会が地域づくりの中核となるための自立サポートとして、地域担当職員の配置や住民協議会向けの研修を実施しています。また、事務員の人件費も含めた活動交付金のほか、コンペ方式で選定した事業に対する交付金の加算や、ふるさと納税を住民協議会へ寄附できる仕組み、企業からの協賛金で住民協議会と企業のつながりづくりもしています。
 松阪市住民協議会条例が可決された際、付帯決議として住民協議会のあり方や運営等における課題の解消に向け取り組むこととなり、住民協議会や自治会連合会等と協議を進めていくことになりました。
 各団体からの聴取や、各団体の代表者をメンバーとした検討会を経て、2020年4月に松阪市住民自治協議会設立準備委員会が発足、同年12月に松阪市地域づくり組織条例が議会で可決され(2021年4月施行)、新しい住民自治組織となる住民自治協議会が設立されることとなりました。同時に、松阪市自治会連合会が「松阪市住民自治協議会連合会」となり、自治会だけでなく各住民協議会の連絡調整を図る組織となりました。
 このことにより、住民自治協議会・自治会連合会・行政との関係において、行政窓口の一本化や、条例や協定による各役割の明文化がなされました。(図4)

5. 継続的な自治研活動へ

 2020年2月22日に実施した第51回自治研集会は、前年に復活させた自治研集会を途切れさせないことも重点でした。
 参加型という形式は変えずに、実施可能な内容とするため当時の執行部役員の業務経験も活かすことで検討を進めました。その結果、組合員52人が参加してHUG(避難所運営ゲーム)を行いました。
 全国各地で毎年のように自然災害が発生しており、松阪市では南海トラフによる巨大地震がいつかは必ず発生します。その際、市職員は経験したことのない環境下で業務にあたることになります。過去にも防災に関する自治研集会を実施したことがありますが、防災に関する学びに終わりはなく、参加者にとって有益な研修という観点も含めての事業となりました。
 しかし、第51回の後、新型コロナウイルスの感染拡大により市職事業も大きく停滞することとなりました。定期大会は書面決議、当局交渉は参加者を減らして執行部のみで対応など、組合員に活動を見てもらうことも難しい状況で、多くの参加者によるグループワークを基本とする自治研集会も企画検討はするものの、実施を延期することとなりました。
 そして、感染状況の波を見計らって2021年11月26日に実施したのが、冒頭で紹介した第52回自治研集会となります。
 2020年4月に建替えられたばかりの鎌田中学校には地域交流センターが新設されており、そこに配属された市職員に講師としての協力を得られたことで、会場も中学校とすることができました。これにより、組合員が普段の業務では見る機会のない住民自治の拠点を見ることができました。
 講演は「地域づくりはじめの一歩」と題して、住民自治協議会についての解説、行政の関わりやできること、地域の声を聴くことの重要性などの学習や、鎌田中学校区のコミュニティスクールについて学ぶとともに、施設見学も行いました。鎌田中学校は、校舎内をコミュニティ・ゾーン、コラボレーション・ゾーン、スクール・ゾーンに区分けし、子どもと大人が関わりあいながら学びあう学校として建設されました(図5)。市職員であっても学校施設担当でなければ目にする機会のない、従来の学校とは大きく異なる施設を直接見ることができました。
 施設見学後はグループワークにも取り組みました。ワールドカフェという手法で「学校と地域がともに学べる地域交流センターであなたがやってみたいこと」をテーマに、グループ間でも意見を共有しながら話し合いを深めました。
 グループワークには、地協が推薦する市議5人も各班に分散して参加してもらい、組合員とともに話し合いを行いました。この年の7月には松阪市議会議員選挙があり、定数28人に対し、地協推薦議員は改選前の3人から5人(現職3人・新人2人)に拡大することができていました。賃金労働条件が議会で決まる地方公務員にとって、市議との連携は欠くことのできないものであり、市職事業にも積極的に参加を呼びかけています。今回の集会のように、組合員が同じテーブルで市議と話し合いをする機会を重ねることで、顔の見える関係を作り出していきたいという目的もありました。

6. 今後の自治研活動

 近年の市職自治研集会の概要をまとめてみましたが、そもそも自治研、地方自治研究とは何かという根本を意識した活動であるかが肝心であると思います。グループワーク主体にしたことも松阪市の将来像を意識したことからであり、あくまでグループワークをすることが目的ではありません。
 しかし、単組における活動の中で自治研活動の優先順位はどれくらいのものでしょうか。組合加入対策や賃金労働条件等の交渉は最優先であるとして、共済推進、政策実現闘争、レクリエーション事業など多くの活動があります。さらに、自治体業務も年々多忙となってきており、ワークとライフのバランスを取りながら、組合活動までこなし、その中でより良い仕事を議論する余裕はないのが現状ではないでしょうか。
 市職でも自治研集会といっても、政策提言のような研究まで深く取り組むことは難しいのが現状です。
 しかし、組合員一人ひとりは機会があればそれぞれの日ごろの思いを表現することは可能だと、近年の自治研集会におけるグループワークは示しています。自由闊達な議論の場やその仕掛けを市職でも意識して取り入れていくことで、より良い仕事をすることにつながると思います。
 自治体職場が縦割り化・硬直化することは防ぎようがないかもしれませんが、仕組みやスキルを取り入れて明るく楽しく主体的な人材を育て、組織に新しい風を取り入れることができるのは組合ではないでしょうか。
 市職では、自治体を待ち受ける厳しい未来に立ち向かう自治研活動に今後も取り組んでいきます。

【図1】住民協議会エリア図および設立経過
【図2】住民協議会の構成団体例
【図3】住民協議会の組織例
出典:松阪市「住民協議会運営マニュアル」P.4、6、7
【図4】2021年4月の住民自治協議会の設立にあたり作成したリーフレット
【図5】鎌田中学校図面

コミュニティ・ゾーン(地域専用)

コラボレーション・ゾーン(共用)

○印なしはスクールゾーン

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