【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

 地域課題や行政課題を考える取り組みにワークショップを取り入れた江津市職員労働組合の自治研活動について、2019年・2020年・2021年の取り組みの様子と、人材育成の取り組みについてレポートします。



ワークショップで進める自治研活動
―― 発見、気づき、可視化のワークショップで組合員の人材育成とつながりを意識した取り組み ――

島根県本部/江津市職員労働組合 植田 紘司

1. はじめに

(1) 江津市の概況
① 市の概要
 現在の江津市は、2004年10月1日に隣接する旧桜江町と1市1町の合併により誕生しました。島根県の中央部よりやや西寄りに位置し、面積は268.24km2のまちです。平均気温が15度と温暖で、年間降水量1,500mm前後、積雪はほとんどなく温和な気候で、中国地方随一の大河江の川が日本海に注ぎ込む河口に位置しています。古くは江の川河口の港として、江戸時代には北前船の寄港地として栄えました。都野津層と言われる良質な粘土層に恵まれていることから、日本三大瓦の一つ、石州瓦の産地としても知られます。「来待(きまち)色」と呼ばれる赤瓦は1,200度以上で焼成されることで、寒さに強く、耐久性に優れ、全国に流通しています。市内には赤瓦の町並みが広がり、地元のアイデンティティーになっています。万葉歌人・柿本人麻呂ゆかりの地として知られ、人麻呂とその妻「依羅娘子(よさみのおとめ)」にまつわる歌の伝承があります。
 このように往来と商いが盛んなまちだったことが、開放的で来る人をオープンに受け入れる土地柄につながっていると言われています。夏はおよそ6万人の人出でにぎわう山陰屈指の花火大会「江の川祭り」が、秋には勇壮で華麗な「石見神楽」の舞いが地域を沸かせます。
② 市の人口推移
 江津市の人口は、昭和22年(1947年)の国勢調査人口の47,057人をピークに年々減少し、特に昭和35年(1960年)から昭和45年(1970年)の高度経済成長期には国勢調査のたびに10%前後の人口が減少しつづけ、平成22年(2010年)の国勢調査では、島根県内8市の中で最大の減少率でした。
 この結果をうけて、定住対策が市の最重要課題となりました。折しも、過疎地域自立促進特別措置法の改正により江津市が全域過疎地域に指定されたこともあいまって、定住対策を加速させ平成27年(2015年)の国勢調査では人口減少率が4.78%まで改善しています。
③ 市が抱える課題
 行政としては、江津市ビジネスプランコンテストによる起業人材の誘致や、地域コミュニティの推進など特徴的な地域振興の取り組みとともに、近年の、企業誘致の成果と相まって、人口社会減の傾向が緩やかになるなど、地域の課題解決に資する取り組みに一定の成果もみえてきています。
 一方で、市にある総合病院の赤字問題をはじめ、医師・看護師不足、十分とは言えない救急医療体制、全国的に課題となっている地域包括ケアシステム構築へ向けての諸課題など、地域医療に関する多岐にわたる問題への対応が当市の大きな地域課題となっており、地域の安心・安全を脅かす大きな障壁として横たわっていました。
④ 江津市労働組合の概要
 江津市は職員総数261人、労働組合員数は232人で、例年10月から体制が変わり、賃金確定闘争、春季生活闘争、人員確保闘争を経て、途中で体制を次年度へ引継ぎながら再び賃金確定闘争へと入っていきます。執行委員長を筆頭に、副委員長が2人、書記長1人、書記次長2人、財政部長が五役となります。そして執行委員が11人の計18人の執行体制です。執行委員を組織部、賃金対策部、厚生部、教宣部、自治研部と役割分担し、それぞれ日々の取り組みを行っています。

2. 活動を進めるための考え方

(1) 目標の設定
 江津市職員労働組合執行部は2021体制において、組合員の人材育成を念頭に置いた取り組みを行うことを初回の五役会議で協議のうえ決定しました。そのなかで、「江津市の現状を理解し、広い視野で行政課題に取り組む職員の育成につながる機会を労働組合が創出して、人材育成を図りながら、職員間のつながりを再構築する。」こととし、新入組合員への説明会及びワークショップと、全組合員を対象とした連続の研修会を企画することになりました。

(2) これまでの経緯
 江津市職員労働組合では、これまでもワークショップを用いて自治研活動を進めてきました。
① 2019体制での取り組み
 2019体制では地域医療の課題をテーマにワークショップを行い、地域医療課題の解決に資するあるべき取り組みの姿についてまとめました。
 ア 第一回ワークショップ 2018年12月11日 22人参加
 イ 第二回ワークショップ 2019年1月15日 18人参加
 ウ ワークショップで出された意見と当日の様子

 エ ワークショップの意見をもとに作成した課題解決のための取り組みのスキーム図

② 2020体制での取り組み
 2020体制では、会計年度任用職員を対象として、その制度の問題点や課題の洗い出しとともに組織化をねらってワークショップを行いました。当初、三回の実施を計画していましたが、コロナウイルス感染拡大の影響を受けて一回の実施にとどまってしまいました。
 ア 第一回ワークショップ 2020年2月26日 11人参加
 イ 第二回ワークショップ 2020年3月18日 中止
 ウ 第三回ワークショップ 2020年4月15日 中止
 エ 参加募集チラシと当日の様子


3. 活動の経過と今後の計画

(1) 活動の経過
① 江津市職員労働組合自治研部での検討(2021年1月中旬)
 2021体制の江津市職員労働組合執行部においてどのように自治研活動を進めるか、五役会議での議論をもとに、自治研部で企画を行いました。今期は人材育成をテーマに、新入組合員の組合加入説明会での「新人ワークショップ」と、全組合員を対象にいくつかの行政課題について、それぞれの担当からの説明をもとにワークショップをする「行政課題ワークショップ」を行うことにしました。
② 企画書の作成(2021年2月4日)
 今回の取り組みの目的が何なのか、そのためにどのようなことをするのかを文面に固めておくことが言うまでもなく重要なことです。自治研部ではまずこの企画書を作成し、執行委員会で確認しました。併せて、この講座のプロセスデザインを行いシートにまとめています。
 ア 作成したプロセスデザインシートとシートの説明

③ 新入ワークショップ(2021年4月10日)
 例年、新入組合員を対象に労働組合の意義や共済制度を伝えるために説明会を実施していました。今期は、ワークショップを取り入れて執行部を覚えてもらうことも含め、組合員としての心構えはもとより市の職員として、どのように業務に取り組んでいくのかを考えてもらう機会にしました。
 ア ワークショップの手法
  ・ファシリテーターが参加者へお題を出す。
  ・参加者は、お題に対して、自分の思う考えや感想等を手元のフリップに端的に記入する。
  ・参加者は、小グループの中で手元のフリップを見せながら自分の考えを共有する。
  ・以上を繰り返しながらグループ内での共感や新しい気づきを促進する。
 イ 実際に投げかけた「お題」
  お題1 今日の話で新しく知れたこと
  お題2 今日の話でみんなに聞いてみたいこと
  お題3 市役所の「思ってたのと違う」こと
  お題4 自分のなりたい公務員の姿
  お題5 そのために明日からできること

④ 行政課題ワークショップの講師依頼(2021年6月初旬)
 ワークショップのテーマとなる行政課題は五役会議や執行委員会等で意見のあったものを設定し、それぞれの担当者へ講師の依頼を行いました。今回の取り組みの目的である人材育成の観点から、ワークショップを受ける側だけでなく、講師として行政課題について説明する担当者もその対象といえます。説明するには、課題構造を明らかにし、プレゼン資料を作成しなければならず、実は説明を受ける側よりも学習が深まります。そうした視点ももちながら担当者へ依頼を行いました。

(2) その後の計画
 今後の行政課題ワークショップの予定(日程やタイトル等は変更の可能性があります)
① 第1回 (2021年6月28日)
  タイトル 江津市版 SDGs講座
       ~新しく総合振興計画に記載されたSDGsと世界の新しいスタンダード~
② 第2回 (2021年7月12日)
  タイトル 行政の常識 議会のしくみ
       ~本会議、委員会、全員協議会等の体系と議決までの合意形成のながれ~
③ 第3回 (2021年7月26日)
  タイトル 知ってたほうがいい? 介護保険
       ~各種介護保険サービスの紹介と介護認定のしくみ~
④ 第4回 (2021年8月10日)
  タイトル 最後のセーフティネット 生活保護
       ~生活保護の要件や制度の概要と江津市の現状~
⑤ 第5回 (2021年8月23日)
  タイトル 行政職員の基本 税金のしくみ
       ~そもそもの課税の仕組みと各種控除について~

4. まとめ

 労働組合は、要求・交渉によって組合員の処遇改善を実現していくことが重要であり、その存在意義でもあります。そして、要求・交渉の年間のスケジュールもかなりタイトなものです。その中で自治研活動は、ダイレクトに組合員の処遇改善に影響するものではありません。
 しかしながら、公務職場を担うわれわれ組合員は、担当業務に限らず地域の現状を知り、地域の理想を考え、そこに横たわる問題に目を向け、行政課題といわれる問題の解決のための取り組みを行いながら、地域をより良くしていかなければなりません。たとえ、現在与えられている業務が直接的に問題解決のための取り組みでないとしても、組織としてそこに向かっているという意識をもちながら、業務を執っていくことが大切だと思います。
 その意味で、当事者意識を持ってもらうための仕掛けや、自発的な行動を促すための仕掛けを自治研活動へ取り入れた今回の取り組みは至極、当然のものだと思っています。ワークショップでは、他人の意見からの発見と気づき、そしてみんなで作り上げた新しい考えの可視化が起こります。2019年の執行体制から始めた、このワークショップを用いたチャレンジをみなさんへ報告し、是非こうした取り組みを、取り組みの考え方を共有したいとの思いでレポートします。