【レポート】

第39回静岡自治研集会
第1分科会 自治研入門 来たれ、地域の新たな主役

国法によって策定要請される自治体計画の実態と問題点


大分県本部/中津市自治研究センター・事務局長 大塚 正俊

1. はじめに

 国が自治体に作成を義務付けている行政計画が乱立している。
 そこで2022年5月、内閣府は自治体の自由度を高める地方分権改革の一環として、各省庁に計画削減を検討するよう要請し、7月にも内容を公表、12月には行政計画見直し方針を閣議決定するとしている。
 さらに、6月に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2022(2022年6月6日閣議決定)」第4章の「4.国と地方の新たな役割分担」において、「国が地方自治体に対し、法令上新たな計画等の策定の義務付け・枠付けを定める場合には、累次の勧告等に基づき、必要最小限のものとすることに加え、努力義務やできる規定、通知等によるものについても、地方の自主性及び自立性を確保する観点から、できる限り新設しないようにするとともに、真に必要な場合でも、計画等の内容や手続は、各団体の判断にできる限り委ねることを原則とする。あわせて、計画等は、特段の支障がない限り、策定済みの計画等との統合や他団体との共同策定を可能とすることを原則とする。」(本文P34)旨が明記され、計画策定の抑制を示唆している。
 そこで、今回、中津市における行政計画の策定の実態とその問題点について、検証を行ってみた。

2. 国法によって策定要請される自治体計画の実態

 法律によって市町村に策定が要請されている計画のリストについては、先行研究(※1)を参照し、その315の計画について、検証を行った。
 なお、市町村に策定が要請される計画は法律に基づくものだけではない。現実には、政省令、通知、補助金要綱などにおいて、国から自治体に策定を要請されるものがある。これらの実態はわかりにくく、自治体全体の問題として網羅的に把握されている例はない。そこで、本集計は法律に基づいて市町村に要請されている計画だけを取り上げたものである。
 中津市総合政策課に対し、リストにある「計画書の有無」、「無しの場合の理由」について照会を行い、回答を頂いた。
 2022年4月1日現在、315の計画のうち、3つの計画(他の法律へ引き継がれた計画1件、法律が廃止された計画1件、2重掲載の計画1件)が効力をなしていない(資料1)
 資料1では315の計画を「義務」「努力義務」「できる」で分類している。先行研究(※1)では、「義務」とは法律文で「ねばならない」「ものとする」とされているもので、「努力義務」とは「努めるものとする」、「できる」とは「することができる」とされているものである。ただし法律の文面ではこれらにあてはまらないものも見られる。この場合には実質的にどうなのかを判断して分類している。
 315の計画のうち、中津市で策定されている計画は88である。計画なしの理由は、該当事業・区域無し、策定要件に該当しない等の「策定の必要なし」が193計画、「策定中・予定」が4計画、「検討中」6計画、「他の計画と統合して策定・予定」が21計画となっている(資料2)
 最近の傾向として、児童福祉法における「市町村整備計画」や都市の低炭素化の促進に関する法律における「低炭素まちづくり計画」など、他の計画と統合して策定される計画が増えてきていることが読み取れる。
 一方、策定されている計画は88と少なくも感じるが、「行政計画の増加が業務負担増となっている。」という実態が明らかとなった。
 中津市では、行政計画の策定にあたってはコンサルに丸投げするのではなく、自前で策定することが原則(人口推計等のトレンド調査は除く)としていることが、業務負担増に直接つながる要因の一つといえる。
 また、行政計画の中に、実効性が薄い(補助金の支給要件となっているため策定している)計画が存在していることも明らかとなった。
 近年、補助金・交付金を活用するために、法に基づいて新たに計画を策定することを要件としている制度が増えている傾向にある。自治体の既存の計画・方針に加えて、各省庁の施策ごとに計画が乱立することで、策定事務だけでなくフォローアップの事務負担も増加している。
 例えば、「まち・ひと・しごと創生法」と「地域再生法」の関係において、「まち・ひと・しごと創生法」では、「市町村まち・ひと・しごと創生総合戦略」の策定を市町村の努力義務としている。市町村は策定した戦略に基づいて実施する事業に地方創生推進交付金を活用することができる。実質的な事務では、交付金を活用しようとする事業ごとに、地域再生法に基づく「地域再生計画」を策定し認定を受け、「交付金実施計画」を作成し交付金を受けるというスキームになっている。「市町村まち・ひと・しごと創生総合戦略」、「地域再生計画」、「交付金実施計画」と計画が重複し、それぞれにフォローアップも必要となる。

3. 市独自の行政計画の実態

 地方自治法で義務づけされていた「総合計画」が任意策定に変更されたが、自治体では国の法律に規定されていない行政計画を多数策定している例もある。中津市では、行政改革プランや公共施設管理プランなど、市で抱える行政課題の解決のため18の独自計画(資料3)が存在している。
 国の補助金交付の前提となる計画も含まれているが、行政運営の基本指針を定めた重要な計画も多数あり、必要不可欠な計画といえるものが多い。それらの計画の改定や検証作業に多大な事務量が発生するのは致し方ないが、職員にとっては大変な作業である。

4. まとめ

 以上、中津市の実態を簡潔に検証してみたが、いまや自治体の計画策定については全体的な見直しと体系的整理が求められており、国の適切な対応を期待したい。




(※1)今井照「国法によって策定要請される自治体計画リスト」『自治総研』515号(2021年9月号)。