【レポート】

第39回静岡自治研集会
第3分科会 高齢者に優しい各自治体・地域の取り組み

 2025年には団塊の世代が全て後期高齢者となります。また、8050問題や高齢者虐待などわが国には解決が困難な課題が山積しています。特に2025年問題について、人口の年齢別比率が劇的に変化して「超高齢化社会」となり社会構造や体制が大きな分岐点を迎えます。本レポートでは様々な困難を抱えた人々が地域で自分らしく生きていくために行政は何をしなければいけないのかについて提言します。



福祉拠点の整備
―― 日本一の福祉のまちをめざして ――

北海道本部/函館市役所職員労働組合

1. はじめに

 昭和の古き良き時代にあった3世代同居や近所の人々が互いに声を掛け合い助け合って生きていた時代は過去のものとなっています。今日においては、核家族化が進み、独居高齢者の一人寂しく歩く姿を見かけることが多くなり、都市部においては隣人が誰なのか把握することも難しい。
 それぞれの世帯で起きている解決困難な問題は表面化することなく、当該家庭内で抱えてしまい、どんどん深刻化していき、より困難さを増してしまう向きがあります。
 また、今社会問題となっている8050問題を引き起こす原因は、日本社会の風潮や文化が原因になっていると諸外国から指摘されています。日本社会は統一性や周囲との一体感を重視しており、異質者に冷たい傾向が強いです。さらには、日本では欧米と比べて自己認識を助長する教育が行われないことから、引きこもりなどの社会に溶け込めないことを「恥」と感じやすい環境があります。このように、周囲や社会と協調できない自分を否定してしまった結果として、引きこもりになってしまうと言われています。このように日本には一朝一夕に解決できない問題が多岐に渡っており、行政が積極的に世帯に関わっていくことが求められ、そこで住んで暮らしている人々の生きづらさを取り除き、少しでも幸福度を高めてもらうために行政は何をしなければいけないのかについて提言します。

2. 2025年問題

 2025年まであと3年を切りました。いわゆる「団塊の世代」800万人全員が75歳以上になります。団塊の世代は、第1次ベビーブームの時期に生まれ、様々な分野で日本の成長を牽引してきました。この世代が75歳以上を迎えることで、総人口1億2千万人のうち後期高齢者の人口が2,180万人に達します。
 それに伴って認知症を患う人の数が2025年には700万人を超えると言われています。これは65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症に罹患する計算となります。認知症高齢者の数は2012年の時点で全国に 462万人いるとされており、10年間で1.5倍にも増えることになります。

(1) 地域包括ケアシステムの充実
 高齢者が暮らす地域で、可能な限り残存する能力を活かし、自立した生活を送ることができるよう、医療、介護、日常生活支援などが包括的に確保される体制・ネットワークづくりの充実が必要です。「地域包括ケアシステム」は国を挙げて行政が注力していくことが求められています。

(2) 介護人材の確保
 劣悪な労働環境による介護職員不足が指摘されていますが、介護職員の充実を図るためにいくつかの策を継続的に講じていく必要があります。
① 介護離職者に対する復職支援(給付金の支給、子育て中でも働きやすい勤務体制の構築)
② 大学や専門学校の介護職希望者に対する普及、啓発活動
③ 外国人労働者の受け入れ

3. 8050問題

 80歳代の親が50歳代の子どもの生活を支えるという逆転現象が起きてしまっている問題です。問題の背景にあるのは子どものひきこもりです。ひきこもりという言葉が社会にではじめるようになった1980年代から1990年代は若者の問題とされていましたが、約30年が経ち、当時の若者が40歳代から50歳代、その親が70歳代から80歳代と年齢を重ねています。このような親子が社会的に孤立し、生活が立ち行かなくなる深刻なケースが目立ちはじめています。
 北海道においても悲しい出来事がありました。80歳代の母親と50歳代の娘の遺体がアパートの一室から発見されました。死後数週間が経っていたそうですが、警察によると2人の死因は栄養失調による衰弱死でありました。母親が先に亡くなり、娘はしばらく経ってから死亡していたことがわかりました。近所の人によると、双方とも医療や福祉などのサービスを受けることなく、娘は10年以上ひきこもりの状態で、買い物や食事の世話は母親が行い、他者との交流を避けながら暮らしていました。 
 社会との接点がないことが、悲しい結果に至る要因の一つになったと思われます。
 国の調査によりますと、同じようなひきこもり状態の人たちが全国で54万人と公表されています。しかし、これは39歳までで、40歳以上の方たちはカウントされていません。最近は自治体の調査で、40歳以上の方たちが半数を超えるという調査結果がでています。
 長期化し、高齢化していく引きこもりについて、その理由は現在の日本の社会構造にあると思います。
 学生時代の不登校の延長から、引きこもりの状態になり得るという状況はあると思います。
 また、一度レールから外れるとなかなか戻れない社会の構造もあると思います。官公庁や企業は人件費の抑制を目的に非正規や派遣者数を増大させています。その状況下では、職場環境がブラック化していき、そこで精神的に傷つけられ、あるいはものすごく働かされ、自分がこのまま職場にいたら壊されてしまうという危機感から、防衛策として引きこもる方たちが増えている状況もあると思います。
 更に、精神的疾患を起因とする引きこもりは一定程度存在すると思いますが、社会的ストレスで今の生きづらい社会から自分を守るために、あるいは尊厳を守るために引きこもる方たちが増えているような傾向にあると感じています。
 その他、家族そのものが社会や資源とつながっていないというケースがあります。必要な医療機関への受診をしていなかったり、要保護状態であるにもかかわらず生活保護申請をしていなかったり、障害者手帳の申請を行っていなかったりと自分の子どもが困難な状態にあるにもかかわらずそれを認めない親によって問題が表面化しないように隠されてしまいがちです。監禁状態と何ら変わらない状況で、子どもは今後どう生きていけばいいのかわからなくなっている状況もあると思います。
 何故、親は自身の子どもが困難な状況にあることを受容できないのでしょうか。引きこもることが恥だと親も思い込んでいるのかもしれません。
 自分らしく人生を生きることが何よりも大切なのに、それよりも他人との比較や評価でこうあるべきと考えてしまって、自身の子どものハンディキャップを恥ずかしいと感じてしまう。また、あまり周囲に知られたくないという感情の方が、生きることよりも優先されてしまうという現状があると思います。
 以上のように、就労することが大前提との考え方があって、親も子どもも働いていない自分はダメな人間と否定し、どんどん自らを追い詰めています。多種多様な生き方が当然ながらあって自己肯定感を高めていかなければ事態は改善しないと考えます。

4. 高齢者虐待

 2025年問題にも記載しましたが、日本は著しく高齢化が進み、高齢者虐待の問題が深刻化しています。しかも自宅や施設、病院など場所を問わずさまざまな現場で起きています。一口に虐待と言ってもさまざまで身体的虐待、介護等放棄、心理的虐待、性的虐待、経済的虐待があります。虐待に至る背景としては高齢者やその家族の病気、人間関係、社会環境などさまざまな要因が重なり合って発生してしまいます。高齢者が被害者でその家族が加害者と捉えてしまいがちですが、虐待には複雑な背景があることも知っておく必要があります。また、高齢者の病気の発症や悪化、介護する方の心身の不調などが虐待の引き金になることがあります。とくに、高齢者に認知症の症状があり、その家族に認知症への正しい理解がない場合は、大きなストレスから虐待につながってしまうことがあります。さらには、高齢者の介護のために離職や転職を余儀なくされ、経済的な困難から虐待に発展してしまうケースや、高齢者とその家族の性格の不一致や折り合いの悪さなどが要因となる場合もあります。
 核家族化が進み、「老老介護」のようにひとりにかかる負担が大きくなっています。そのような状況で介護が長期化し、疲れ果ててしまえば、誰でも虐待をしてしまう可能性があります。最近は男性による介護も増えており、不慣れな家事や仕事との両立、地域からの孤立などの問題を抱え、支援を必要としている場合も少なくありません。このように家庭内で起こる高齢者虐待には、表面化しにくく早期発見が難しいという特徴があります。高齢者虐待を未然に防ぐためには、近所同士で声をかけあい、高齢者とその家族が孤立しないように見守ることが大切です。
 また、虐待に関わる通報があった際、市区町村の高齢者虐待担当や地域包括支援センターは連携し事態の状況把握と改善に向けた取り組みをスピーディーに行う必要性があります。

5. 福祉拠点について

 これまで日本が抱えている社会問題について触れてきましたが、函館市ではこのようなさまざまな課題解決のため、市内10の日常生活圏域ごとに1か所ずつ配備され、「高齢者あんしん相談窓口」として定着している地域包括支援センターを、高齢者の問題に限らず、障がい、子ども、生活困窮、ひきこもりなど幅広い分野の課題に対応し、地域の方が気軽に立ち寄れる多機能型地域包括支援センターとして2022年4月1日から動き始めています。

(1) 現 況 
 従来の福祉制度は、血縁、地縁など確かなコミュニティの結束を前提としながら、主に行政機関の窓口や社会福祉協議会が各種相談の役割を担い、高齢者、児童、障がい者、生活困窮者など世代別、属性別の専門的支援として充実が図られてきました。
 しかし、近年、核家族化の進行、ひとり親家庭の増加などにより、家庭の力が弱まるとともに地域の共同体による支援力が低下しており、また、8050問題のように、世帯単位で複数分野の問題を抱え、さまざまな問題が絡み合って複雑化していることも多く、制度の狭間に陥り支援を受けられないケースや本人や家族がどこに相談してよいのか分からないようなケースも増加してきています。

(2) 目 的
 本事業は、このような背景を踏まえて、市民がより身近な場所で包括的な相談・支援を受けられる「福祉拠点」を整備することにより、社会的な孤立を防ぐとともに、公的機関をはじめとする既存の窓口と連携し、各種制度や社会資源へ柔軟につなぎ、個人・家族が直面する困難に適切に対処することを目的としています。
 また、福祉拠点を取り巻く社会資源の再構築や連携強化により、地域全体で支える力を取り戻し、地域社会への包摂を実現することをめざし、旧来の福祉からの転換を図ろうとするものであります。

(3) 事業の概要
① 福祉拠点
 現在、市内10の日常生活圏域ごとに1か所ずつ配備され、「高齢者あんしん相談窓口」として定着している地域包括支援センターを、高齢者の問題に限らず、障がい、子ども、生活困窮、ひきこもりなど幅広い分野の課題に対応し、地域の人が気軽に立ち寄れる多機能型地域包括支援センターとして福祉拠点化しました。
② 拡充する機能
 福祉拠点となる地域包括支援センターにおいては、現状の「高齢者あんしん相談窓口」としての機能に加え、高齢者以外の幅広い困りごとを支援するために、センター1か所につき3人程度を増員しました。
 また、すべての福祉拠点を自立相談支援機関に位置付けて、アウトリーチを含む早期の対応により、断らない相談支援を実施し、誰一人置き去りにしない地域社会の実現をめざしています。

6. まとめ

 高齢者を対象として長年支援にあたってきた介護保険法に基づく「地域包括支援センター」と、困窮者支援を通じた地域共生社会の実現に向けた地域づくりを基本理念とし、生活困窮者自立支援法に基づく全世代を対象として支援を行う「自立相談支援機関」を組み合わせることで、8050問題やダブルケア問題などへの包括的かつ早期の対応が可能となりました。
 また、障がい分野や児童虐待など、より専門性の高い支援については、急迫性等を踏まえ、相談を受けた福祉拠点の職員が、関係機関に速やかに報告するなど、既存の相談拠点との連携を強化することが重要です。
 各福祉拠点では、困りごとを抱えていても自ら相談することが困難な人の発見や、地域における支え手としての連携が期待される民生委員・児童委員や町会関係者の方々が、気軽に立ち寄り、福祉拠点職員との情報交換や相談を日常的に行えるよう工夫していますが、これには、困りごとが深刻化する前に早期に対応することや、支え手となる人も孤立させることなく福祉拠点がしっかりと支えるという狙いが込められています。
 福祉拠点が地域の人から頼りにされ、その役割を十分に果たせるかどうかは、福祉拠点を中心として、困りごとを抱えた地域住民のほか、その把握や支援に携わるすべての関係者が、これまで以上にお互いを支え合うことや、支援のネットワークを強化することが鍵となります。
 福祉拠点として整備された新しい地域包括支援センターを気軽に利用いただけるよう、市民の皆さんと共に支え合う関係づくりがとても大切です。
 本事業は開始から3か月が経過したところではありますが、初年度は周知・啓発を主体としており、その機能を十分に発揮させるまで、試行錯誤を重ねる場面も多いかと思います。この事業が時間の経過とともにありとあらゆる問題の解決に至った事例のノウハウが蓄積され、その結果として、市民の困りごとの解決に繋がっていくようにしなければならないと考えています。
 しかし、思うようには進まず、地域包括支援センターが矢面に立って対応を図る場面が多くでてくると思いますが、その対応の中で地域包括支援センターが気づいたことを行政が共有し、共に考えながら、支援策を作り上げることが重要であります。どちらかからの一方通行では到底解決するはずもありませんし、既存のサービスだけでは解決が困難な場合もあるかと思います。
 最後に、最大の目的は市民に還元することです。これからも「日本一の福祉のまち」をめざして、困難を抱えている世帯の親代わりとしてあらゆる関係機関の連携のもと本気で解決していくことが求められています。