【レポート】

第39回静岡自治研集会
第3分科会 高齢者に優しい各自治体・地域の取り組み

 西東京市職労は、「市民の多様なニーズに応える良質な公共サービスに向け、市民との協働を強めよう。」という方針を掲げ、活動を展開、2014年には、西東京自治研センターを結成しました。市民の力に依拠した自治体改革、市民とともに学び活動する人材育成が求められているという問題意識からです。活動のきっかけは、北海道自治研。これまでの活動を踏まえ、人と人との繋がりを大切にした労働組合、自治研活動の役割を考えます。



―― 地域と繋がり、まちを創る
西東京自治研センター ――

東京都本部/自治労西東京市職員労働組合・西東京自治研センター・理事長 後藤 紀行

 2014年11月14日「西東京自治研センター」設立準備会を立ち上げ、西東京自治研センター結成で大きく踏み出しました。あの日から8年が経過しました。
 設立準備会では、市民団体、他の自治研センター等関係機関の皆さんに参加頂き、以下の内容の設立趣旨を説明し決意表明しました。
 「行政には、コーディネート役が求められます。質の高い公共サービスの実現に向け職員が現場で汗をかき、共に議論し考え、地域の力を繋げていくという協働のまちづくりの実践を重ねていくことが『最後まで地域で暮らしていきたい』と感じるまちづくりにつながります。私たちは、政策提言できる能力、地域の中で責任をもって地域づくりに参加していく能力を高めていく必要があります。そのために、西東京自治研センターを発足すべき準備会を結成します」
 これは、市民の力に依拠した自治体改革、市民と共に学び活動する人材育成が求められているという問題意識からです。
 あれから、8年。西東京市職労、西東京自治研センターは、西東京市の進める、環境自治体、ワークライフバランス労使宣言、健康応援都市、子ども条例の制定等のまちづくり、政策実現に一定の影響力と役割を担ってきたと自負しています。
 毎回、自治研集会では、レポートを作成してきました。私たちの実践を自治研集会でのレポートを振り返り、これまでの活動を総括するとともに、今後の展望について考察します。

1. 第32回(2009年)「北海道自治研」は、活動の契機
―― 「まちの里山」東大農場が残った ――

 私たちが自治研活動を始める契機となった「まちの里山」東大農場は、市内中央部にあります。東京大学がこの農場の移転を計画したのが2003年3月。これを受けて、アースデイの活動をしていた西東京市職労および環境団体が結集して、「東大農場の緑を残す市民の会」を結成、農場存続運動を展開、運動の成果として、2007年農場移転中止が決定しました。市民活動の成功事例として、活動の背景と市民力、その中で求められた公務員像について、まとめたレポートは、見事、北海道自治研で第9回優秀賞を受賞、集会で活動報告しました。
 このことは、市職労、市民団体に自信と勇気を与え、その後の市民協働の活動を後押しすることとなりました。
 市職労の活動方針の軸になる「市民の多様なニーズにこたえる良質な公共サービスに向け、市民との協働を強めよう」という方針は、この活動を踏まえ、つくられました。市民、行政の協働活動のシンボルとして、オオタカも発見される豊かな自然、自治研集会でのトロッコ探しの努力も実り、半世紀前のトロッコと線路が復活した「農場博物館」は、私たちの誇りです。「環境自治体づくり」に関する取り組み、市民団体等との繋がり、連携は、『アースデイ』等の活動を通じ、現在も継続しています。

2. 第33回(2010年)「名古屋自治研」
―― 「西東京市ワークライフバランス労使推進宣言」で進めた働き方改革 ――

 名古屋自治研では、男性の育児休暇取得等ワークライフバランスの取り組みについてレポートしました。
 西東京市は、21世紀最初の都市型合併で、2001年1月21日に誕生、究極の行政改革といわれる合併に伴う人員削減の中、働き方改革に取り組み、10年目には、労使で「ワークライフバランス労使宣言」を締結しました。
 特定事業主行動計画で「自分が変わる」「まわりが変わる」「上司が変わる」「どこから変わる」を合言葉に、ワークライフバランスを職場に根付かせるとともに、社会全体に広げることも宣言し活動してきました。
 私自身このような取り組みがきっかけで、次女が生まれた2005年10月に産後24日間、西東京市の職員として初の育児休業を取得することができました。
 今では、後輩の男性職員が、当たり前のように、育児休業を取得する職場風土ができ、大変うれしく思います。私たちは、子育てにとどまらず、介護やスポーツ地域活動などと仕事を両立する多様な生き方、働き方を後押ししてきました。結果として、職員として働きながら、パラリンピックに2010年・2018年と出場する組合員を輩出することもできました。
 この流れは、2016年3月31日には、「健康な職場環境を目指す健康市役所」宣言を労使で締結、2017年5月には、市長、組合委員長、管理職が、「健康」イクボス、ケアボス宣言をするというように発展し進化しています。「ワークライフバランスを通じ、働き方生き方について、労使で学び、実践し、地域に広げる」私たちが、労働組合として果たしてきたひとつの社会的役割の成果だと思います。
 私自身、地域に関心を持ち、PTA活動、おやじの会等の活動に参加し繋がることで、生き方が変わり、人生が豊かになりました。貴重な財産です。介護と育児のダブルケアをする職員も増えています。
 ワークライフバランスについて、地域で広げていく活動はとっても重要です。おやじの会、PTA等地域で活躍する職員も確実に増加しました。職員が『地域デビュー』しやすい環境づくりが進んだのも大きな成果だと思います。

3. 第34回(2012年)「神戸自治研」・第35回(2014年)「佐賀自治研」
―― 市民との協働から地域包括ケアを学ぶ ――

 「いつまでも地域で暮らし続けるために」をキャッチフレーズに地域の中で365日、24時間のサービスの必要性を発信、デイサービス、訪問介護、グループホーム等介護保険事業および配食事業等の活動を展開、2022年で20年目となるNPO法人サポートハウス年輪と協力し、福祉のまちづくり、東日本大震災支援活動を展開、その内容についてレポートしました。
 バザー、メーデー等での被災地の物販販売、災害時の体制づくりを学ぶための講演会の開催、連合の制度政策集会への参加、宮城県石巻市、石巻市社会福祉協議会、福島県相馬市のグループホームなどの福祉施設へ共に出向き、義援金等を届け、現地の職員等と学習と交流を深めてきました。
 災害時は、想定外のことが多く発生します。特に高齢者等福祉施設では、生命に関わることが次から次に起きてきます。想定外を想定内にする平時からの災害協定や訓練等の重要性、市、社会福祉協議会、企業、NPO、市民との連携、地域づくりの必要性を学ぶことができました。
 また、地域の一員としての活動に必要性を改めて感じ、市職労としても、「災害ボランティアサポートチーム」を結成、高齢者の地域の見守り活動をする「ささえ合いネットワーク」の登録団体にも登録しました。
 「地域包括ケアシステム」「災害対策」等を通じ、自治研センターが市民団体等との協働を推し進めていく必要性を学びました。市民、NPO等の市民団体と共にまちづくりを担っていく決意。このことが、2014年11月14日「西東京自治研センター」設立準備会の立ち上げに繋がりました。
 また、西東京市は、都市部ならではの急激な高齢化と単身世帯数の増加に直面しています。住み慣れた地域で人生の最期まで自分らしく暮らせるまちづくりのため、オール西東京で「フレイル予防」「地域包括ケアシステム」に取り組んできました。「健康」応援都市の実現を自治体戦略の基軸に位置づけ、健康都市連合にも加盟しました。
 まち全体の「健康」に向け、地域、住民が互いに支え合う「健康」応援都市をめざし施策を展開しています。
 オール西東京で進める『地域包括ケアシステム構築』に向け、私たち自治体職員には、何が求められているのか、労働組合として私たちになにができるのか、市内の実践報告を、佐賀自治研、土佐自治研と継続して報告しています。

4. 第36回(2016年)仙台
―― 福島県新地町の復興に向けて「生涯学習フェスティバル」を支援 ――

 西東京自治研センターの活動に、東日本大震災の支援活動は、大きな影響を与えました。宮城自治研では、復興支援の活動をレポートするとともに、石巻の専修大学での分科会で活動報告、「地域の中で生まれた絆と生命を守る力」で第13回自治研奨励賞をいただきました。
 2011年3月11日の東日本大震災後、私たち自治労は、「被災者の支援・援護を行っている自治体職員・組合員の業務を支援すること」を目的に復興支援活動を展開しました。
 西東京市職労としても、4月10日から、組合員を派遣、支援活動を実施、具体的には、福島県相馬市の避難所での保健師の健康相談、心のケア、福島県新地町での避難所の運営、岩手県大槌町での被災家屋の片づけ、瓦礫の撤去等のボランティアを実施しました。
 地域住民の生命と健康を守り、不眠、不休で復興にあたる現地の職員を支えるという気持ちで活動しました。
 全国の仲間とともに、被災地の仲間を支える労働組合の社会的意義を実感した貴重な体験でした。とりわけ、現在も継続する福島県新地町との交流は、私たちに大きな学びと力を与えました。
 これらの経験で、私たちの組合活動も大きく進化したと思います。
 2011年11月に開催された芝久保公民館まつりでは実行委員会が、支援バザーを実施、翌年から「しんちまち生涯学習フェスティバル」の「復興支援カフェ」の運営支援等の活動が開始、2013年には、田無公民館まつり実行委員会も支援に加わり、市民と組合員が新地町へ訪問、大豆雛を仮設住宅の皆さんにお届けする活動、「えほんうたライブ」を図書館、児童館、保育園で実施、交流を深めました。
 2014年には、公民館の組合員、市民、総勢50人で参加。「絆音楽交流会」では、ウインズパストラーレ吹奏楽団、江戸前かっぽれ西東京道場の皆さんが笑顔と涙の感動的なステージを演出、新地町民と西東京市民の交流が、双方の生きていく力になっているのを感じました。
 2013年には、新地町生涯学習課長、2014年には、村上さん(語り部・被災した新地町旅館「朝日館」女将)に西東京市に来ていただき、防災についての講演と紙芝居をして頂きました。
 村上さんは、震災で140年続く旅館も家も全て流された当日の様子、避難所での暮らし、町や仮設住宅での様子、孤独死を出さないための取り組みなど映像を交えてお話されました。
 市職労の活動から、公民館活動を通じた交流に発展しました。
 交流の輪は広がり、さらに交流の絆が強まり私たちの財産となっています。西東京市にあるクリスマスローズ農場ふみやさんから、毎年寄贈頂いているクリスマスローズは、新地町の地に根を張り、毎年、東日本大震災の発生した3月頃花を咲かせています。
 地域のコミュニティーを再生する拠点としての公民館、災害時の役割も再認識することができ、活動の輪は、公民館から、児童館等様々な分野に広がりました。
 「生涯学習フェスティバル」を通じ、新地町の住民、職員と、西東京市職員、旭製菓さん、公民館利用者、クリスマスローズ農場ふみやさん等市民の交流は、9年を経過した現在も継続しています。
 また、西東京市民、職員が、自分事としてどのような防災対策をしていくのか交流し学んだ成果は、様々な活動、政策に結びついてきています。防災対策、まちづくりに確実に反映しています。
 私も、地元の小学校の避難所運営協議会の会長として、地域の皆さんと防災対策等地域活動をしています。

5. 第37回(2018年)土佐自治研
―― こども条例に向けた取り組み ――

 土佐自治研では、こどもの権利条例制定と具体的な取り組みについてレポートしました。
 2018年、西東京市は、10年間にわたる多くの方々の願いと努力が実を結び、念願の「こども条例」を制定しました。
 復興支援活動の中で学んだ防災への備えについて、西東京市の子どもたちに伝えたいという思いで、2015年、児童館において「若者たちの防災会議」を開催しました。特に、若者同士(大学生から小学生)が自分たちで、情報を共有し話し合い、共感と共同作業を通して、交流し絆を深めていきました。児童館職場の組合員が子どもたちと一緒に、被災した大学生をコーディネーターに迎えて、泊りがけで、会議が進められました。
 自分たちで地域の防災情報を調べ、実際に震災で被害にあった大学生たちから話しを聞き、自分たちができることについて意見を出しあいました。家族で逃げる避難所を決め必ず集まる待ち合わせ場所にする、など考えることは大人にも引けを取らない内容でした。
 この事業は、子どもの権利条例でも大切にしている「子ども参加」の視点で取り組みました。
 また、50周年を迎えた「こどもの発達支援センターひいらぎ」の発達支援の取り組みについて報告しました。
 障害児をもつ親の願いから「心身障害児小規模通園施設」として発足した「ひいらぎ教室」は、2022年4月直営を堅持して、障害を持つ子どもへの療育にとどまらず、広く地域に開かれた相談支援も担う拠点としての「児童発達支援センターひいらぎ」となりました。
 何度か、民間委託の話も出る中、業務の内容を踏まえ、人員体制等について、労使交渉するとともに、自治研として、今後の行政の役割について50年の歴史をまとめ、子ども条例の観点を踏まえ、施設の在り方について提言をしてきた成果だと思います。

6. 第38回(2020年)サテライト東京
―― フードドライブ、COOL CHOICEの取り組み ――

 西東京市職員労働組合では、コロナ禍、生活困窮者・要支援児童等への食料支援及び食品ロスを削減し、ごみの削減、地球温暖化対策を図る目的で、市職員による初めての試み「フードドライブ」の実施、その内容について報告しました。
 西東京市田無公民館の講座「子どもの貧困に向き合う地域をつくる」の参加者たちが立ち上げたサークル"西東京わいわいネット"が2020年10月6日から2021年6月26日まで毎週水曜日の7時~8時、土曜日の3時~4時週2回合計73回行って来たフードパントリー(ひとり親や生活に困っている子どものいる人に食料を配布する)は、毎回100人近い利用者があり、会場の前に行列が出来、延べ4,847人の利用がありました。
 コロナが長引く中、仕事を失う人、こもりがちになる人が増え、フードパントリーの日を楽しみにしている人たちが増えていきました。
 会場の前を通る人たちから、募金をしたい、お菓子を寄付したい、家でとれた野菜を寄付したいなどの嬉しい声が寄せられました。
 パントリーを手伝いたいという学生も多く登場し「子どもや若いお父さん、お母さんにとって対面するスタッフは若い方が嬉しいに違いない」との判断から、メンバーはオープン前の準備や寄付を持って来てくれる人の対応に回り、利用者に対面して対応するスタッフは学生に任せるようになりました。
 市職労、自治研のメンバーは子ども用の手作りマスクや、上履き用の袋、手作りおもちゃやアクセサリーなど心のこもった温かい寄付を届けました。それを手にする子どもたちは本当に嬉しそうでした。
 クリスマスが近づくと市職労からクリスマスプレゼントとしてお菓子の詰め合わせを届けました。自治研のメンバー中心にサンタクロースやトナカイのぬいぐるみを着たおじさん、おばさんが来てくれて子どもたちにプレゼントを渡しました。
 わいわいフードパントリーは、子どものいる家庭への支援という目的を超え、オンライン授業で人と接する機会のない学生の参加や、道行く人たちの優しい寄付、お母さんやお父さんたちの癒しの場所となっていきました。
 2021年6月26日(土)に惜しまれながら幕を閉じたわいわいフードパントリー。コロナ禍、市民の動きに、自治研、市職労が俊敏に反応し、子どもを真ん中に置いて、温かいまちづくりを展開していくことの一歩が踏み出せた取り組みだと思います。
 現在も、西東京自治研究センターとして、こども食堂、フードパントリー支援を通年の取り組みとして実施しています。静岡自治研では、『コロナ禍で子ども支援に立ち上がる市民との協働 ―― 西東京市子ども条例の理念を活かすまちづくり ―― 』として、レポートさせていただきました。

7. 地域と繋がり、まちを創る西東京自治研センター

 私たちは、2015年12月、組合内に、西東京自治研究センターを設立。市民とともに福祉、災害環境等様々な分野で活動を展開、自治研集会の度に活動をレポートとして報告、活動を総括してきました。
 8年間を振り返り、環境、福祉、復興支援、災害対策、子ども支援、困窮者支援等市民、市民団体と共に活動する中で多くの事を学びました。
 第1に現場を知り、絶えず現場の声を聴くことの大切さです。
 日々変化するニーズを把握することの必要性を活動の中で再認識しました。労働組合の原点は絶えず現場にあります。
 第2に市民協働の実践の中で、市民と職員が繋がり、成長するということです。
 市民との活動の中で、生活感覚、多様性の受容、コーディネート能力といったスキルを学ぶことができたと感じています。
 第3に、今、行政に求められる役割についてです。
 市民ニーズを実現していくためには、様々な機関が有機的に連携していくことが必要となります。行政には、コーディネート役が求められます。災害時は、特に日常的に培った能力と関係性が問われると思います。質の高い公共サービスの実現に向け、人をどう繋げていくのか、そのための、感性と能力を高めていく必要があると思います。職員が現場で汗をかき共に議論し考え、「地域の力」「人の力」を繋げていくという協働のまちづくりの実践を重ねていくことが「最後まで地域で暮らしたい」と感じるまちづくりに繋がるということを学びました。
 第4に市民から市職労への信頼性の高まりです。
 活動のなかで、得られた信頼は、公共サービスを支える職員を守る力となります。
 第5に様々な立場を超え連携することで、多種多様な力、可能性は生まれてくると言うことです。
 市民、行政、市民団体、企業等の連携でそれまで想定できなかった活動が生まれてきます。
 第6は、政策提言のできる自治研究センターの必要性です。
 活動の中で様々な人、団体が繋がり必要性が明らかになった事項を政策に反映させるその力を自治研センターが持ち、地域を変える原動力になっていくことが求められています。
 福祉、子育て、環境、生活支援、被災地支援、産業振興、平和等様々な課題を市民、関係機関等とともに学び、活動し、まちを創っていくのも自治体職員である労働組合の社会的役割だと思います。「住んでよかった。」と思える西東京市を、市民とともに構築する拠点としての自治研センターにしていきます。