【レポート】

第39回静岡自治研集会
第3分科会 高齢者に優しい各自治体・地域の取り組み

 山間へき地、過疎化で人口1,650人、高齢化率57%超えの私たちの地は、ニホンオオカミが最後まで生息した土地です。どこかで生き続けているかも知れないロマンを抱かせる地で、福祉でまちづくりを展開しています。高齢者・障がい者の介護施設を軸に、子どもの遊び場づくりやコーヒーハウスの運営、食事づくりに困っている方への配食弁当、移送サービスなど、地域の縁でつながり、福祉で雇用もつくるまちづくりを紹介します。



オオカミの里・縁でつながる福祉のまちづくり
―― 山間へき地で小さな賑わいを ――

奈良県本部/自治労奈良公共サービスユニオン・東吉野村まちづくりNPO 蛯原能里子・辻本 恵則

1. ニホンオオカミの話

(1) ロンドン自然史博物館に所蔵されている毛皮と頭骨
 ~ニホンオオカミは108年たっても色あせてはいなかった~
 1905(明治38)年1月の出来事、「猟師がニホンオオカミをかついでやってきた。イギリスから来ていた動物学者マルコム.P.アンダーソン博士にそのオオカミを8円50銭で売り渡した。」その場面となったのは、現在の東吉野村大字小川、当時の「鷲家口」。ニホンオオカミをめぐる議論は、生存説もあるものの学術的には、本村で確認された記録が日本で最後のオオカミと位置づけられている。
 2013年4月そのオオカミとついに面会してきた。明治の出来事が頭をかすめ、1万㎞離れたイギリスの地で出身地が同じ同郷の知り合いに出会ったかのような気分になった。まして、108年もの時間の経過の中で、「私が、そのオオカミを目の前にしている」今の時間が、なぜ、存在しているのか、不思議な思いであった。
 あれから9年が経過した今、オオカミの里は、人々のつながりを大事にして福祉でまちづくりをする地域であり、オオカミをシンボルにして自然保護を訴え、夢を育む地となりつつある。

2. オオカミの里・縁でつながる福祉のまちづくり


「近畿のマッターホルン」高見山のふもとにハートマークが浮き出る私たちの住む地
地元の写真家がドローンを使って2月に撮影したもの

(1) 家族のようにともに
 この東吉野村に移住して30年。当時小学校3年生であった長男が、山村留学で2年間、里親さんにお世話になったことがご縁で、3年目に家族6人(夫と子ども4人)で空き家を紹介してもらい移り住んだ。当時はまだ、3世代で暮らす家族の姿が村では普通に見られていた。年代の違う子らが公民館の庭で十数人集まり遊び、夏には川遊びの歓声。移住と同時に、私は村役場で保健師の仕事に就き、夫は60km離れた奈良まで毎日通勤していた。ご近所の皆様には、子育ても含めほんとうに何かと助けて頂いた。地域で見守り育てて頂いたといってもいい。
 現在、村は高齢化率57%。人口減少率の激しさでは全国で5番目という、「超・超高齢社会」を先取りしているこの村。「安心して子どもを産み育て、安心して老いることのできる村」には程遠いのだろうか。
 「誰もが顔見知りで、ご近所の助け合いは当たり前」の地域が、過疎と高齢化によりつながりは薄れ、さらにコロナ禍が追い打ちをかける中、孤独で不安な日々を送る人々が増えている。そしてそこには、かつて子どもたちがお世話になった人たちの姿がある。
 採算のとれない赤字路線を理由に、公共交通であるバス路線が次々と廃止されていく中、高齢者や障がいのある人たちの移動手段を確保しようと、17年前(2005年)に有志でNPOを立ち上げ、陸運局の許可を得、また役場との協議を経て、(過疎地)移送サービス事業を開始した。有志の多くは、村役場で自治労の労働組合に加入していたメンバー(OB・現役者)である。

(2) 地域の課題に取り組む~暮らしに笑顔と安心を~
 さらに、12年前(2010年)には、介護保険事業のデイサービスやケアマネ事業、訪問介護事業を開始した。


築250年の古民家で介護保険事業を、

5年前、小規模多機能型居宅介護事業を開始。
 
 少しずつ、地域の人たちが通い始めてくれるようになり、ヘルパーの訪問先も増えてきた。ショートステイのできる施設が無く課題であったが、2017年、小規模多機能型居宅介護施設「あいの家多機能ホーム」のオープンにこぎつけることができた。
 これは、「通い・訪問・泊まり」サービスを組み合わせ、認知症や一人暮らし高齢者、介護を必要とする方々が、住み慣れた家や地域に留まって暮らすことを支える介護保険サービスの一つである。
 これに、毎日の暮らしに必要なあれこれを、安価で引き受け対応するサービスを加えていった。当初からの移送サービス、配食サービス(週1回)、お困りごと何でも「あいの手事業」(ごみ出し、電球交換、修繕、買い物、草刈り、剪定、家具の移動、話し相手など。コーヒーお茶ハウス(喫茶・軽食・カラオケ)営業。専門的な対応が必要であれば、紹介や斡旋を。役場や銀行などの手続き、相談は取り次ぎや代行も。
 スタッフは、20歳代から各年代にわたり、最高齢90歳の女性は、お茶ハウスでの接客や、ホームの朝食づくりにも携わる。
 親世代はサービス利用者として、「若嫁さん」や娘さん(息子さん)はスタッフとして、ケアや調理、送迎などの仕事に従事している。また、少子高齢化の地域にあって子どもの人数も少ないが、多世代の居場所として「子どもの遊び場」を介護施設敷地内に設置している。
 「あいの家」は、家族のようなもの。そして地域もまた、ともに暮らす家族のようにありたいと、心に描いている。


地域の居場所「コーヒーお茶ハウス」

地域の子どもたちの遊び場

(3) 高齢化率57%の地で最高齢90才のスタッフを始め、57人の雇用を行う団体に
 2006年に「東吉野村まちづくりNPO」を発足させ、2010年から介護保険事業所を軸にして地域の課題解決に取り組んできた結果、一週間に一日だけかかわる方も含め、57人の雇用を生み出している。
 「福祉でまちづくり」とは、子育て支援や雇用の創出、生きがいづくりも含めたまちづくりだと捉えている。


20才代、30才代で7人の職員、60、70才代36人在籍、平均年齢60.3才の職場だ。

3. まちづくりを通して「政治」にかかわる

(1) 地域住民の声を行政につなげる「官民の協働」を求めて
 2006年にまちづくりNPOを結成後、2010年に介護保険事業を開設したと同時になかまうちが東吉野村議会議員選挙に立候補し当選、4年前には、女性議員を誕生させ若者との接点となってきた。
 引き続き2022年4月に女性議員の後を受けて、村議会議員選挙に立候補、当選を果たした。地域の課題に取り組む運動と政治活動は切り離すことはできない。住民の声を反映させていく立場の確保は、自治労運動にとっても生命線であろうと捉えている。

4. まちづくりの「夢」を語り合う

(1) まちづくり座談会の開催を3年目
 参加者は、地域の若者30才代男性女性を含めた10人前後が2ヶ月に一回のペースでまちづくり座談会をこの3年間開催している。テーマは地域の課題、例えば災害対策、子育て支援、官民協働の体制づくりなど、「今、こんなことに悩んでいる」「話し合いたいこと」を取り上げ話題提供者となって懇談会を進めている。
 直近のテーマは、子育て家庭への支援について、一人親の仕事の際、子どもを一晩預かってもらう所はないのだろうか、家事援助をしてくれる仕組みはないだろうか、をテーマに懇談することにしている。みんなの知恵を絞れば、解決策の提案があるはず、夢を設定して語り合って実現していく座談会である。

(2) 地域に開かれた「みらい介護施設」の設計図を語ろう
 介護施設で働きやすいように職員住宅が確保され、子育て支援を語り合う集いの場がある。近くには、森と川子どもの遊び場と遊歩道があり、一周500mほどの旧伊勢街道と川沿いのコース。山間へき地の中の小さな賑わいがあって、介護施設に子どもの声が聞こえる環境づくりの実現をめざしている。
 「オオカミの里・縁でつながる福祉のまちづくり」図面を作成するため建築士会設計士8人が、既存施設改修部会と新設部会に分かれ、現地測量の実施、図面づくりに取りかかって頂いている。
 夢を語り続けることは、実現に向けて近づけることができると確信している。


ダムのないこんなきれいな川が地域にある。

きれいな川は遠望できる高見山から湧き出している。

5. 看取りをともに

 あいの家では、村内診療所や地域の病院から多くのスタッフの支援と連携のもと、看取りケアへの取り組みを始めている。
 「誰もが安心して老いを迎え、旅立つことのできる地域社会」に向けて、医療・介護・福祉・地域・行政等とのつながりと連携を図り、地域を包括するケアシステムを創りあげていきたい。