【レポート】

第39回静岡自治研集会
第3分科会 高齢者に優しい各自治体・地域の取り組み

 新型コロナウイルス(covid-19)により生活様式が変わり3年目となります。
 感染を抑えるために人同士の接触が抑制された状態が続いており、その影響はいまでも広がっています。
 ひた生活支援相談センター(生活困窮者自立相談支援事業)で対応して気づいたことをレポートします。



新型コロナウイルスと生活困窮支援制度について
現場から
―― 新たな相談者ニーズ ――

大分県本部/日田市職員労働組合 小田 雅宣

1. 生活困窮者自立支援制度とは

(1) 制度創設の経緯
① 経済構造の変化
 戦後日本の成長の中で大多数が就労でき、安心して働き続けることができるシステムが形成されていましたが、1993年頃から2005年頃までの就職氷河期と言われる時期を皮切りに非正規雇用者が増え、直近では全雇用者の4割が非正規雇用(総務省「労働力調査」2021)となっています。
 雇用状況はそのまま賃金格差としても現れており、平均年収は正社員で485万円、非正規では171万円と平均年収の差額は314万円になり、大きな差が生まれている状況です(国税庁「平成27年民間給与実態統計調査」)。
 こうした中で、社会保険や労働保険といった「第1のセーフティネット」の機能が低下し、安定した経済的基盤や職業キャリアを築くことができず、将来の見通しをもてない人々が増加していると言われています。
 また、経済的理由だけでなく、社会構造の変化も加わり、過疎の進む地方では地域コミュニティーの維持がむずかしくなり、一方、都市部を中心に、近所づきあいの希薄化が指摘されており、両地域で高齢者の介護問題、孤立死が社会問題となっています。
 このほか、ニートと呼ばれる通学、家事を行っていない若者無業者は約60万人、ひきこもり者を抱える世帯は約26万世帯にのぼります。
 生活困窮者の多くは上記のような課題を複数抱えるとともに、その背景にも複雑な課題を抱えた家族が存在している場合もあります。
 複合的な課題を抱える生活困窮世帯に対し、これまでの対象者を明確に定める福祉制度や支援システムでは対応できず、生活困窮者がますます孤立していくという状況もあったため、新しいセーフティネットとして2015年4月「生活困窮者自立支援制度」が実施されることとなりました。
 以降、ひた生活支援相談センターは、本制度のめざす目標である、①生活困窮者の自立と尊厳の確保 ②生活困窮者支援を通じた地域づくり を意識し、相談対応を行っています。

 「生活困窮者=お金の無い人」だけでなく、お金はもっていても、生活に困窮するケースが増えてきました。  社会保険や労働保険など雇用を通じたセーフティネットを第1のネット
 生活保護は第3のネット
 その間にある仕組みが第2のネットと呼ばれています。

2. 新型コロナウイルス(covid-19)

(1) 新しい生活様式
① 感染拡大防止のために……
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大を防止するためには、これまでと違う日常であることを県民一人一人が自覚し、「新しい生活様式」を取り入れていくことが大切です(大分県HPより)。
 「未知」の感染症に対し、人との接触を極力避けることを対策とした当初、学校は休校、高齢者世帯の見守り活動や地域活動が停止、そして就労環境も大きく変わりました。
 企業の収益が不透明になる中、大きく影響がでたのが「非正規雇用者」だったようです。
 勤務日数や勤務時間の減少から始まり、家族や近しい方が感染してしまうと2週間程度の出勤停止となりました。
 そして、それはそのまま給与に反映されたようです。
 今回の感染症において「濃厚接触者」もほぼ同様に、健康観察期間が設けられ、感染していなくても仕事に行けない状態になっています。
 ひた生活支援相談センターに来所する相談者の多くは、貯金ができるようには家計を管理しておらず、収入が減ると支払いも滞る状態になった方が多かったようです。
 すこし時間が過ぎるとパーテーションや通信環境等を使い、できるだけ人と接触しない状態でやれることはやってきていたものの、社会的に孤立しがちだった生活困窮者はさらに孤立を深める状況となりました。

 2022.7.6 大分県内の感染者数(大分県HPより)
 日田市は3,461人(同日付日田市HPより)
 ※ 濃厚接触者としての数字は確認できませんでした。
 おおよそですが、陽性者に対して検査数は5~7倍ほどで推移しているようです。
 ということは……

3. 生活を支えるための支援

(1) お金に困っているとき
① 生活福祉資金特例貸付
 「生活福祉資金貸付制度」は、低所得者や高齢者、障がい者の生活を経済的に支えるとともに、その在宅福祉および社会参加の促進を図ることを目的とした貸付制度です(全国社会福祉協議会HPより)。
 この制度に関しては、新型コロナウイルス感染症以前から社協が行っている事業で、金融機関や公的機関(国庫等)からの借り入れができない方、低所得者や障がいを持っている世帯を対象に、用途に合わせて金銭的支援を行う制度として実施していました。
 今回のコロナ禍においては、制度の適用条件を大幅に緩和し、「特例貸付」として実施されています(2022.8を期限としている)。
 特例貸付制度施行当初より非常に多くの方が利用しています。日田市でも10代から90代まで年齢層も幅広く申請がありました。
 特に単身世帯や母子世帯からの申請が多かったと感じます。
 また、フィリピンやブラジルといった定住外国人からの申請では、意思疎通、文書記入にとても気苦労があったそうです。
 今回の特例貸付で、現場職員は「どこまでがコロナウイルスの影響による減収といえるのか、判断が難しい」と関わった皆さんから声が出ています。
 そもそもコロナ禍以前より、家計管理ができていなかった世帯も「新型コロナウイルスにより~」との説明で貸付対象となるばかりか、申請においては郵送でも可能であり、これまで社協が行ってきた「貸付により関係性を生みだす」といった支援へ至らない状況にあることも気がかりです。
 世間では「公的アコム」と揶揄されたり「生活福祉資金の借り方~」などのノウハウ情報が溢れ、申請対応時に職員が、記入内容が不透明な部分を伺うと後日、苦情として意見が寄せられる等、職員の精神的負担も大きい状態になっています。

2022.8マデ

4. 新たな相談者ニーズの台頭

(1) 制度利用の広がり
① 生活費用と仕事の費用
 これまで生活福祉資金に係る相談者は、その多くが雇用されている方でした。
 数は少ないですが農業を含む自営業の方の利用ももちろんありました。
 しかし、今回のコロナ禍における特例貸付では、フリーランス・ノマドワーカーと言われる働き方の方、派遣会社登録で働く方が目立ちました。
 この方たちについては、相談対応を行う際、コロナ禍以前の収入や生活の様子と、コロナ禍にある中での収入と生活の変化が比べにくいことがあげられます。
 こうした方の生活スタイルとしてミニマリストと言われる最低限の持ち物で生活していたり、数多く単発の仕事をすることで、必要な分の生活費のみを稼ぐ状態であったりするのですが、家計の収支を記録していない方も多く生活実態がつかみにくい状況でした。
 確かにコロナ禍で、仕事の数は大きく減っていますが、かといって生活が維持できていないわけではなく、特例制であっても「貸付」である以上、返済の目途が立つことも課題となりました。
 また、派遣登録で仕事をされる方の中には、短期間で住所地を変える方もおり、相談に見えられ話を伺うと住民票が他県の場合が多く、また、派遣期限が来ると住所地が変わるとのことでした。
 確かに、こうした場合は郵送申請できる仕組みの恩恵を受けますが、その後に続く生活支援制度の利用は難しくなり、結果、時間差で生活に困窮してしまうリスクを持っています。
 そして、特に相談対応に苦慮しているのが、高額な資機材や仕入れを伴う自営業の方でした。
 生活福祉資金という性質上、「生活」の部分の費用算出を行いますが、自宅兼作業場、店舗といった内容の場合、電気代だけで数万円、ガス、水道等合わせると制度上の貸付額では足りない場面が多くありました。
 困ったことに生活空間も同じくしているため、払わないとライフラインを維持できないこともあり、こうしたケースの相談支援は、多くの支援機関を頼りつつ行っています。

5. アフターコロナを見据えて

(1) 若者から高齢者まで相談支援につながる仕組みを
① デジタル化の進展と孤立させない工夫
 ひた生活支援相談センターの役割の1つとして、困りごとの分解と整理があります。
 多くの相談者は、困っていることを1つの事象として話が進みますが、私たちが一緒になって話を伺う中で本人と一緒に、細分化と振り分け作業を行っています。
 「支払いができない」との相談の場合、収入は、仕事の内容は、勤務状況は、環境や体調、家族の状況や支払い方法を分解していきます。
 分解した課題の優先順位や対応難易度を話し合い、取り組んでいけそうな部分から対応していただき、できた場合は次の段階へ、うまくいかなければ次の課題へと支援していきます。
 もちろんその他の関係支援団体へもご協力をいただいています。
 支援方法は伴走型と言われ、行動を無理強いせず、一緒に歩みを進めるような「つながり」を意識した方法となります。
 今回のコロナ禍において、オンラインコミュニケーションの活用は進みました。とくに若い世代はスマホをうまく活用しています。
 メールによる相談は、40才代以下の相談者から多く寄せられました。
 メールでのやり取り後の支援は、実際に面談をして行うのですが、今後はモニターを加えた形での対応も進みそうです。
 高齢者においては、自身でIT機器を使うことは難しいですが、現在はスマート家電も多く、声を発することで目的のアプリにアクセスすることも可能になってきました。
 制度紹介を含めた相談支援は、対応もやりやすくなるかもしれません。
 しかし、現状(2022.7)では、これまで対応してきたコロナ特例と言われる多くの制度は、申請期間が終わってきています。今後、従前の支援制度に戻る形となりますが、制度を利用するハードルは上がります。
 私たちの支援は、変わらないスタンスで取り組みますが、この2年間とは違った形の支援を行っていかなければいけないと感じています。

6. 変わる世界

(1) 世界的物価高、広がる格差など
① 生活不安を少しでも和らげる施策を
 コロナ禍から立て続けに、紛争が始まり、今後の生活をしていくうえで不安ばかりが大きくなっています。
 また、この時期は日本各地で、災害が心配されます。こうして、記事を書いている最中も、関東地方で大雨による河川越水と町中の浸水が報じられていて、水害を経験している身としては、本当に心配です。
 不安を感じる要素は、人それぞれになりますが、不安が続くと体調不良や精神的な不調を訴える方も多くなります。相談へ来られた方で、生活の立て直しを行う意思があっても、身体が動かなくなってしまっている方もおられます。ひとまずは、病院受診からとなりますが、こうなると自力での生活再建は、とても遠い道のりとなってしまいます。 
 また、私たちが支援をしていく中で「私たちの頃はこうだった」「努力が足りないのでは」「見通しが甘い」などの言葉も聞こえます。
 いま、支援をしていく中で、これまでの経験則を、支援を当てはめていくことができなくなってきています。 
 お金の価値、物資の動き、仕事の仕方、生活のスタイル、家族のあり方、国籍や信条など、めざすゴールや居場所が多様化しています。
 私自身、相談者に先入観を持って見ないよう努めていきます。
 「解決」をめざすのではなく、「つながる」を作るといいのかなと考えています。