【レポート】

第39回静岡自治研集会
第3分科会 高齢者に優しい各自治体・地域の取り組み

 職域拡大による少数分散配置や、団塊の世代の保健師の退職などから世代交代が進み、これまで培われてきた保健師活動の継承が難しくなっています。保健師および管理栄養士としての資質向上や地域保健活動の充実のためには、新任期・中堅期が獲得すべき能力を獲得でき、自治体の保健活動を引き継いだ自己成長をはかることが不可欠です。そのために必要な要素を全保健師・管理栄養士の実体験調査を通じて検討しました。



保健活動の維持・伝承と新任期・中堅期の人材育成
―― 全保健師・管理栄養士の実体験調査を通して ――

大分県本部/竹田市職員労働組合 渡邉 法恵・首藤 理恵・木津 史恵

1. はじめに

 地域における保健師の保健活動は、地域保健法や「地域保健対策の推進に関する基本的な指針」により実施されてきたところであり、地域保健対策の主要な担い手として役割を果たしてきました。近年、地域保健を取り巻く状況が大きく変化してきたことから、2013年に指針が大幅改定され、地方公共団体に所属する保健師について専門的な知識に加え、連携・調整に係る能力、行政運営や評価に関する能力を養成すべく、体系的な人材育成を図っていくことが求められるようになりました。
 それらの流れをふまえて、竹田市においても2017年1月に「竹田市保健師人材育成マニュアル」を策定し、保健活動を行う保健師および管理栄養士がマニュアルを基本として活用していくことで、保健師および管理栄養士としての資質向上や地域保健活動の充実につなげています。

2. 人材育成の取り組み

 2020年度からゆずり葉の会(管理職)、次世代の会(40歳以上のプレ管理期および中堅期)、若手の会(40歳未満の中堅期および新任期)を立ち上げ、会毎にテーマや年度到達点を決めて取り組んでいます。各会の取り組みは隔月実施している人材育成会議で共有し、相互に助言を行っています。
 また、年に2回統括保健師と個別面談を実施しており、人材育成マニュアルにおける「保健師に求められる能力一覧表」(別添 表1 以降、一覧表)に基づいた各期に求められる能力チェックリストに沿って自己評価及び統括保健師からの他者評価を行い、個人目標の明確化を図っています。
 自己評価において、若手の会から「各時期に獲得すべき能力を獲得したくても経験する場がない。」「どのようなことをすれば学べるのかわからない。」「自分自身が獲得すべき能力にどの程度到達できているのか判断が難しい。」などの声があり、日々の業務の中で主体的に育つことが難しい実態も見えてきました。
 職域拡大による少数分散配置や、団塊の世代の保健師の退職などから世代交代が進み、これまで培われてきた保健師の活動の継承が難しくなる中で、新任期・中堅期が獲得すべき能力を獲得でき、竹田市の保健活動の維持や伝承をはかるための方法を若手の会で検討し、竹田市の全保健師・管理栄養士14人の実体験からの学びについて調査を行うことにしました。

3. 実体験からの学び(成功・失敗体験)について調査

 調査は自記式アンケート方式で行いました。自分が経験したことだけでなく、他者の体験も含めた成功体験や失敗体験の中から得た学びを経験時期(年数)に分けて記入してもらいました。また、上司や同僚からの助言・サポート内容も記入してもらいました。
 アンケート調査から得られた全205のエピソードを、一覧表を基に、どの期(新任期、中堅前期・後期、プレ管理期、統括期)のどの能力区分に当たるかをカテゴリ化しました。
 求められる能力における分類時期と経験時期(表2)を比べると、新任期、中堅期において能力以上の学びを記載している割合が26.3%ありました。また、中堅期以降において経験時期以前の能力についての学びを記載している割合が、19.0%ありました。
 能力別(表3)でみると、ヘルスプロモーションを実現する能力から社会資源開発能力までは、中堅期までに経験し、学びを得たと記載されており、求められる能力一覧に沿った結果となっていました。

表2 もとめられる能力における分類時期と経験時期(年数)

表3 各期における経験した能力

4. 取り組みからの気づき、次に活かす取り組み

(1) 現行の専門職に求められる能力についての提言
 下記の内容について、庁内全保健師・管理栄養士および所属課の課長を含めた会議で報告し、共有を行いました。
① 業務管理能力
 新任期において、「先輩と一緒に事業を回した」「先輩にフォローしてもらい、振り返りを行った」などの体験から、業務管理や地区管理について学んだとの記載が見られました。現行の能力区分では新任期の業務管理能力は"自力で"管理できる記載になっていますが、実際の体験談からは、『自力の域には達しないが先輩のフォローの中で一端を実践すること』が新任期の学びになっていました。
 そこで、現行の能力一覧で新任期に求められているレベルは中堅前期であり、中堅後期以降も各期に沿ったレベルでの能力が記載されるとよいのではないかという見解を得ました。
② ポスト意識
 新任期において、「先輩の後をついていった」「先輩との語りの中で学んだ」などの体験から、事業の回し方・保健師(専門職)の在り方を学んだとの記載が見られました。現行の能力一覧では新任期にポスト意識の記載はありませんが、実際の体験談からは、管理職としてのポスト意識を持つその前の段階として『先輩の姿を見て専門職意識を高めること』が新任期の学びまたは学びを促進するものになっていました。
 また、プリセプター(新任期の指導者)の機能は「新人が主体的に学習するように関わること」であり、新任期が学ぼうとする姿勢を持つことは必須条件ではないかとの見解を得ました。

(2) 行政職員としても求められる能力・環境についての提案
 アンケート結果を集計していく中で、現行の能力に区分できない項目があり、それらを「一般行政職員能力」、「他職種の業務理解」、「報連相・チーム行動」、「協議するしくみ」、「まとめ・ふりかえるしくみ」、「職場環境・人間関係」、「異動・ジョブローテーション」、「特技・技術を生かす」の8項目に区分することを提案しました。
① メンバーシップ能力
 8項目の内、「他職種の業務理解」「報連相・チーム行動」「協議するしくみ」「職場環境・人間関係」の4項目については、課や組織の一員として課員の相互理解を深め、構成員として周囲に見える仕事をし、メンバーシップを発揮する能力として、求められているのではないかと考えました。現行の能力に示されている「調整能力、コーディネート能力」「組織横断的な能力」は自身が先導していく能力であることに対し、今回見いだされた能力はメンバーとして共働する能力として区別する必要があると考え、「メンバーシップ能力」という区分の必要性を感じました。
② ジョブローテーション
 アンケートには支所などにおける「保健師一人職場」の経験や事務職の方との協働についての経験の記載がみられ、それらが新任期、中堅期において能力以上の学びを経験することの背景となっていました。ジョブローテーションによって市の業務を俯瞰して流れを理解できるだけでなく、自身の担当する保健事業の展開にも好影響を及ぼすと考えられ、ジョブローテーションの必要性を再確認しました。

(3) アンケート調査結果を活かした自己評価
 「求められる能力を達成したと判断するためには何ができているといいか」「求められる能力を達成するために先輩方はこんな体験・経験をした」という点がわかるように能力区分別に「求められる能力」「具体的な内容」「体験・経験」を表で整理しました。具体的な内容にチェック欄を設けて、自分自身の達成状況を確認できるように、また未達成の項目ではどんな経験をすればよいのか自分自身が確認できるようにしています。実際に、2021年度の統括保健師との期末面談の際には、表を活用して自己評価を行っている様子もみられました。

5. おわりに

 保健師・管理栄養士の世代交代や一人保健師職場等で人材交流が難しくなる中、新任期・中堅期が獲得すべき能力を獲得でき、竹田市の保健活動を引き継いだ自己成長をはかるための方法を検討するため、今回当事者である新任期・中堅期が自ら主体的に取り組みを実施しました。
 人材育成においては各個人が主体的に自己成長に取り組むことが求められる傾向がありますが、今回のアンケートの中で新任期(またはすべてのステージ)において『育てられた経験』、そしてそこから生まれる『後輩を育てようとする姿勢』の必要性が感じ取れました。さらに周囲のサポート機能の十全・不全が事業の成功(失敗)にも影響していることが明らかになりました。
 今回は専門職種に特化した取り組みでしたが、専門職に限らず行政職員として新任期・中堅期が適切な能力を獲得することは、行政運営および各部署の施策・事業を良好に実施していくうえでも重要なことであると考えます。そのためにも、前述したような人材育成のしくみ・環境が不可欠です。

(別添)