【論文】

第39回静岡自治研集会
第3分科会 高齢者に優しい各自治体・地域の取り組み

 全国で唯一の自治体が設置したボランティア養成機関である「公益社団法人金沢ボランティア大学校」に3年間派遣された経験を基に、ボランティアの現状や行政とボランティアの関係について現状分析を行い、課題や展望を考えていきます。また、1996年に「広がれボランティアの輪」連絡会議が出した提言について、四半世紀を経てどの程度実現されているのかを見ていきます。



行政とボランティアのあり方
―― 金沢ボランティア大学校の事例から ――

石川県本部/金沢市役所職員組合 中西 真久

1. はじめに

(1) 公益財団法人金沢ボランティア大学校とは
① 沿 革
 平成の時代に入り、市民のボランティア意識は急速に高まっていきました。そして、ボランティアを通して相互に理解し、ともに生きる社会をつくりたいという人々が増えてきていました。
 そうしたなか、多様化するボランティアに必要な基礎知識や技術を身につけて、ボランティアとして活動できる人を養成するため、1994年7月8日に全国の自治体で初めて「社団法人金沢ボランティア大学校」が設立されました。その後、公益法人制度改革により、2012年に公益認定を受け「公益社団法人金沢ボランティア大学校」として現在に至ります。
 第1期入学式が1994年9月3日に行われて以来、多数の人が本大学校で学び、さまざまな分野でボランティア活動をしています。

<金沢ボランティア大学校の校章(シンボルマーク)>
校章は、人の心を象徴するハートが二つ重なり、お互いに支えあって生きることの大切さを表現しています。また、これが新しい力となって大地に響いていくことを表現しています。カラーは、真心や活力をイメージさせるピンクとしています。

② 学習内容
 第1期の開校時は「地域活動(昼)(夜)」、「生涯学習(昼)(夜)」の4コースでスタートしましたが、毎年学習内容等の見直しを行い、コース数も増加し、現在は8コース(「子ども・子育て」「福祉」「歴史遺産」「国際交流」「文化」「観光」「環境」「地域づくり」)となり、1年間で25回の講義を行っています。
 講義内容は、座学中心から現地での実習を中心に見直しを行っており、実践的な講義となるように工夫しています。また、金沢ボランティア大学校と同時期に設立された"金沢観光ボランティアガイドの会「まいどさん」"は観光コースを修了することが入会条件となっており、金沢市の観光ボランティア養成の中心的存在となっています。
~各コースの概要~
[子ども・子育てコース] 子どもと関わり、子育てを支援するボランティアに
 子どもを取り巻く現状についての理解を深め、子どもの可能性を伸ばせる環境づくりを、実践の紹介や現地学習を通じて学びます。
[福祉コース] 高齢や障害のある方に寄り添うボランティアに
 福祉に関する問題についての理解を深め、介護などの生活支援を、知識の習得や福祉施設での実習を通して学びます。
[歴史遺産コース] 金沢の文化財保護・活用に貢献するボランティアに
 建造物や史跡など歴史遺産に関わる活動を、実例の紹介や現地見学を交えて学びます。
[国際交流コース] 多文化共生社会を支えるボランティアに
 海外との往来が再開されるまで、異文化を理解するための基礎知識や世界の中の日本について学びます。
[文化コース] 金沢の文化に貢献するボランティアに
 美術館や図書館などでの活動を、現地見学や実習を交えて学びます。
[観光コース] 金沢の心を伝える観光ボランティアに
 ガイドに必要な知識と心構えを、「まいどさん」による現地案内を中心に学びます。
[環境コース] 金沢の豊かな環境を次世代につなげるボランティアに
 身近な環境から地球温暖化や自然保護に関する活動を、現地見学や実習を交えて学びます。
[地域づくりコース] 地域コミュニティやまちづくりを支えるボランティアに
 豊かな地域づくりに関わる活動を、実例の紹介や現地見学を交えて学びます。
③ 入学者・修了者数
 第28期(2021年度)までに入学者数6,291人、修了者数5,145人となっており、多くのボランティア人材を輩出しています。

(2) ボランティア活動の状況について
 平成初期のボランティアの実態は、女性7割、男性3割といわれる状況であった。若者の参加が少なく、ボランティアの高年齢化が各地で問題とされ始めていました。そうした中、停滞気味であったボランティア活動に大きなインパクトを与え、社会的評価を飛躍的に高めたのは、阪神・淡路大震災と福井県三国沖における重油流出事故でのボランティアによる救援活動です。これらの災害には数多の若者たちもボランティアとして積極的に参加し、大きな力を発揮し、ボランティア活動が一躍クローズアップされました。
 その後、2011年3月11日に発生した「東日本大震災」は、未曾有の大規模災害となり、被災した人々を支援するため、多くのボランティアが被災地で活動し、復旧に寄与するとともに、人とのつながりを改めて考える機会となりました。(東北3県ボランティア活動者数 約142万人:2015年1月31日現在災害ボランティアセンター調)
 それ以降、さまざまな分野において、ボランティア活動がさらに拡大、多様化することが想定され、これをリードしていくボランティア・コーディネーターやアドバイザーの必要性が高まりました。
 そして令和の時代に入り、急速に少子高齢化が進展し人口減少時代を迎える中、社会的格差の拡大や地球規模での環境問題への対応等新たな課題が生じています。こうした課題の解決に向けて多くのボランティア団体や市民活動グループが日々活動を続けてきましたが、新型コロナウイルスの感染拡大という予期せぬ事態が世界中に広がってしまいました。これにより、多くのボランティア団体や市民活動グループはその活動の機会を失い、あるいは活動そのものを休止せざるを得ない状況になりつつあります。

2. 行政とボランティア

(1) 金沢ボランティア大学校での事例
 冒頭に記載した通り、金沢ボランティア大学校は金沢市が設置した法人であり、市と緊密な連携をとりながら運用されています。そのため、ボランティア大学校の修了生についても市の支援を受けることができるよう様々な取り組みを行っています。例えば、市民活動センターと連携し、ボランティア大学校修了生が組織したボランティアグループがスムーズに活動できるよう、専門員のコーディネートを受けたり、市民活動センターの会議室等を無償で利用できるような支援を行い、円滑なボランティア活動を行うことができるようにしています。
 また、そのボランティア活動を通じて、市の施策である「市民活動団体等の活動の活性化及び地域コミュニティの充実」につなげ、お互いにメリットのある取り組みとなるような事業になるよう工夫しています。
 そして、市の各種イベントについても受講生・修了生からイベントボランティアを募集し、積極的に協力しています。
 ただ、市のボランティアに対する認識は経費削減の要素が強く、ボランティアと共にイベントを盛り上げていくという観点より、予算の必要のない無償のスタッフといった扱いに思われており、市とボランティアとの間で認識の差が大きくなり、トラブルに近い事態に陥ることもあります。そのため、市の担当者は無償の労働力という観点から脱却し、共にイベントを成功に繋げていくパートナーとしての認識を強めていく必要があります。少なくとも、ボランティアに予算が必要ないといった考えは捨て、交通費や弁当程度の手当はして欲しいと考えています。
 そうした中、成功しているボランティアもあります。金沢マラソンボランティアです。マラソンボランティアは交通費・弁当の支給はありませんが、「一緒にマラソンを盛り上げていく雰囲気づくり」「マラソンを一緒に楽しめる環境づくり」「次回の団体ボランティア優先出場枠の設定」といったボランティアをしてみたくなる様々な仕掛けを講じているだけでなく、「丁寧な説明がある」「市のボランティア担当者が明確」といった基本的な部分も押さえていることが成功している要素ではないかと思います。実際にボランティアをした方に聞いてみても「楽しかった」「次回もしたい」といった前向きな意見が多く聞かれました。


(マラソンボランティア説明会)

(マラソン受付準備ボランティア風景)

(2) 「広がれボランティアの輪」連絡会議の提言
 次にボランティアに対する行政の支援について考えてみたいと思います。実際にボランティアを行う方々への支援はどの程度行われているのでしょうか。
 まず、ボランティア活動について大きく分けて「災害ボランティア」と「それ以外」に区分けする必要があります。「災害ボランティア」については、過去の震災を経て行政側も経験の蓄積を行い手厚い支援体制が整っている自治体が多く、今回の考察からは除外します。
 「それ以外」のボランティアについては範囲が広く、自治体の担当部署も数多くなり担当者も置かれていないことも多いのが実情ではないでしょうか。
 そこで、「広がれボランティアの輪」連絡会議が1996年に作成した「行政とボランティア、NPOとのパートナーシップ、行政による支援のあり方に関する提言」を基に、四半世紀前の提言がどの程度実現されているのかを見ていきます。
① 行政とボランティア、NPOはそれぞれが独自の役割を持った対等なパートナーだという認識が必要である ――「対等性」
 対等性については、先述したとおり予算削減の方策と捉えている部署も少なくないのが現状と思われます。そのため、ボランティアに予算は必要がないという概念を取り払い、きちんと必要な予算を計上し、ボランティアに過度な負担を求めないことから始めていく必要があります。また、共にイベント(事業)を盛り上げていくという仕組みを作っていくことも大切です。
② ボランティア、NPOの活動はそれぞれの独自の目的・理念にもとづく幅広く、多元的なものであることを理解し、長期的な視野から種々の活動を支援することが必要である ――「多様性の受容と長期的な視点」
 多様性の受容については、行政側の意識も高まっており提言当時と比較し改善されているものと思われます。長期的な視点については、ボランティア終了後に行政へフィードバックする場が無いことが多く見受けられるので、反省会を行うなど行政とボランティアとの意見交換をすることで、イベント(事業)の見直し・改善が図られるとともに次に向けたステップアップにつながっていきます。
③ 行政はボランティア活動、NPO活動に対しては基盤整備・環境整備や仲介・支援型NPOを通じた間接的な支援を行う必要がある ――「間接的支援」
 提言にも記載されていますが、特に資金支援については行政の支援は特定の事業のボランティアに限定されることが多く、自由度が低いため、外部団体を仲介した支援が必要です。一部社会福祉協議会等で助成を行っていますが、広く周知されている状況とは言い難いため改善が必要です。
 金沢市が行っている間接支援では、「市民協働サポート保険」があり、市民活動やボランティア活動を対象に市が全市民を対象に加入しています。また、市民活動サポートセンターの会議室を無償で利用できる制度もあります。資金支援以外の支援については、徐々に行政の支援は広がっていますが、今後はさらに支援の幅を広げていく必要があります。
 金沢ボランティア大学校でも修了生を対象に活動室を無償で利用できるようにしており、多くの修了生のボランティアグループが利用しています。その際に様々な行政への希望や意見を頂くことが多かったので、ボランティアグループと行政の架け橋としての役割も重要だと考えています。
 提言はまだ多数ありますが、「協働・支援における考え方」に関する提言についてのみ見ていきました。

 1996年に作成された提言ですが、現在でも実現されていない項目も多く、今後更なる取り組みを進めていく必要があります。

3. まとめ

 今後ボランティア活動を発展させていくには、行政とボランティアグループの意思疎通が重要であり、ボランティアグループがどのような支援を必要としているかを常に把握しておくことが重要です。
 特に、新型コロナウイルスの蔓延により、ボランティア活動が低調となるだけでなく、これまで築いてきたボランティアの人的関係が希薄になっており、コロナ前の水準に戻すだけでも大変な労力と時間が必要です。
 金沢ボランティア大学校はボランティア人材の養成だけでなく、「仲間づくり」を重視して、ボランティアグループ結成や活動の支援を行ってきましたが、今後は更に人と人のつながりを重視した取り組みを行っていく必要があります。また、ボランティア現場と行政の中間に位置していることを最大限に利用し、両者の緊密な連携が構築できる環境づくりを進めていくことが重要です。

 ボランティアとは、だれからも強制されることなく自分の意志で行うものであり、提供するのは「時間」と「労力」に限られるべきです。そのため、それ以外のもの(資金や物的サポート)については、行政が可能な限り支援していくべきだと考えています。現在もボランティアを予算削減の手段と捉えている行政担当者も少なくないですが、 "ボランティア活動にも予算は必要""ボランティアと共により良くしていく"といった考えを浸透させていき、ボランティア活動を行うハードルを引き下げて、誰もがボランティア活動を気軽に行える社会をめざしていくことが重要です。



【参考文献】 金沢ボランティア大学校「学習要覧」