【レポート】

第39回静岡自治研集会
第4分科会 多様性が尊重される社会にむけて

 性の多様性に関する取り組みが全国で広がっている。2018年の土佐自治研以降の越前市役所、越前市職員組合、丹南市民自治研究センターでの取り組みについて報告する。



はじめよう、性の多様性(LGBTQ/SOGI)に
関する取り組み
―― 越前市での取り組み part3 ――

福井県本部/越前市職員組合 緒方  祐

1. はじめに 

 自治研レポートを書くのは、3回目になる。最初に書いたレポートでは、越前市の紹介として伝統産業、3大グルメの紹介をした。いま付け加えるなら、越前市は絵本作家かこさとし氏の出身地であることだ。武生中央公園「だるまちゃん広場」や屋内の子ども広場の「てんぐちゃん広場」など、かこ氏の絵本がモチーフとなった場所がいくつかある。更に、越前市は、紫式部がただ一度、都を離れて暮らした場所であり、2024年には、紫式部を主人公にした大河ドラマ「光る君へ」が放送される。同年に新幹線が開業予定であるので、全国の皆様、注目の越前市に是非足を運んでいただきたい。
 2016年の宮城自治研「東京でもない大阪でもない地方でのLGBT ―― 越前市でのLGBTの取り組みとこれから ―― 」、2018年の土佐自治研「性の多様性と人権 ―― 自治体の取り組みと私たちにできること ―― 」(※1)、この2つのレポートが私が越前市で性の多様性に関する取り組みを始めた頃からのレポートとなっているので、経緯についてはそちらを参照されたい。2020年の青森自治研では、全国自治研では初の性の多様性にフォーカスした「第4分科会 多様性が尊重される社会に向けて」が開かれる予定だったが、コロナ禍により分科会は中止になってしまった。2022年静岡自治研では、「多様性が尊重される社会にむけて~LGBTQ+に寛容な社会のために~」という分科会が設けられる。今回、報告者として参加させていただく予定だ。
 2019年には人権や男女共同参画などを扱うダイバーシティ推進室に配属された。今回のレポートでは、今まで報告してきたそれぞれの団体でのその後の取り組みに加え、ダイバーシティ推進室として取り組んできた内容についても報告する。また、このレポートの文末には、参考にした資料やホームページのリンク等も掲載しているので、そちらもご覧いただきたい。なお、このレポートでのLGBTQは性的マイノリティの総称として使用している。

2. 越前市役所ダイバーシティ推進室での取り組み

 私は、大学生の頃に「行政窓口での配慮のない対応に傷ついた」「自治体の職員に理解がない」という当事者の声を聴き公務員になって内部から変えていきたいと思い自治体職員になった。入庁して5年間は総務、福祉関係の部署だったが、6年目に人権の担当部署のダイバーシティ推進室に配属された。
 それまでも、行政が主催の講演会やイベントに参加していたので、行政として取り組むことで多くの人がLGBTQについて正しく知ることに繫がり、当事者の自己肯定感に繋がることや、適切な相談場所に繋がることができることは実感していた。行政として取り組めることは沢山ある。やる気に満ち溢れていたが、問題があった。それは予算だ。予算が無い中で、どうやって工夫しながら取り組んでいくかが課題であった。

(1) ホームページへの掲載
 予算が無い中でどの自治体とも同じレベルの取り組みができるのは、ホームページの掲載である。市のホームページに「LGBTについて」というページは既にあったものの、言葉の説明程度の簡単な内容だったため、まずは内容を充実させることを考えた。他自治体のホームページの掲載例、書籍などを参考に内容を作成した。現在は、「LGBTQ、多様な性について」(※2)というタイトルとし、内容に変更があれば都度修正している。市には専門の相談窓口がないため、外部の相談先を複数掲載している。近年ではLINE相談窓口を行う団体も増えてきている。LINE相談(※3)は、電話へのハードルが高い子どもやユースの利用が高いそうだ。
● ホームページの掲載項目
「LGBTQ、多様な性について」「性のあり方を考える4つの要素」「LGBTQ(性的マイノリティ)とは」「SOGI(ソジ)とは」「今日からできること」「相談機関」「これまでの越前市の取組み」「啓発リーフレット・動画」「関連リンク」

(2) 展 示
 啓発展示を行う場合、展示パネルの内容を一から考えること、予算が無い場合はきちんとデザインされたものを作ることは難しい。そこで、他自治体や団体等の公開されている資料を活用させていただいた。越前市ホームページ「LGBTQ、多様な性について」(※2)のページの「これまでの越前市の取組み」に講演会や展示内容を掲載している。
 展示と一緒に、啓発冊子も配布している。それも他自治体等の資料を活用させていただいている。また、LGBT嫌悪に反対する国際デー(5月17日)、プライド月間(6月)、人権週間(12月4日~10日)などLGBTQ+に関連する記念日に合わせると展示を行いやすい。

【これまでに展示した資料】
資料タイトル 作成機関
・多様な性について考えよう~性的指向と性自認~
・いろいろな性について考えよう~だれを好きになる? あなたの性別は?~(※4)
法務省
LGBTの困りごと(※5) 大阪市淀川区
性の多様性への理解を広めるための啓発ポスター(※6) 大阪府立大学
人権啓発ポスター(※7) 愛知県
わかりやすい世界人権宣言(※8) アムネスティ・インターナショナル日本
LGBTQ当事者の声(※9) YouTuberかずえちゃん

【配布物】
資料タイトル 作成機関
保護者向けリーフレット「LGBTってなんやろか?」(※10) 大阪市淀川区
人権啓発ポケットブック(※7) 愛知県
性は虹色のグラデーション LGBTを知るためのハンドブック 愛知県岡崎市
LGBTと医療福祉(改訂版)(※11) NPO法人QWRC
りんごの色~LGBTを知っていますか?~(※12) 大分県
トランスジェンダーのリアル(※13) 「トランスジェンダーのリアル」制作委員会
にじいろ子育て手帳(※14) NPO法人虹色ダイバーシティ
 このほかにも、近年では市民向け、企業向け、医療機関向けなどの啓発ガイドブックを作成している自治体が増えている。デザインも凝っており、市民の方も手に取りやすいものになっている。

展示風景

(3) 児童生徒向けの出前講座、教職員向け研修
 小中学校の学習指導要領では、2017年の改訂の際に多様な性のあり方について盛り込む声が高まったが、残念ながら学習内容は盛り込まれていない。「教員のLGBTsに関する意識調査」(※15)では、授業に取り入れた経験があるかの問いに対して、同性愛については「ある」は14.1%、「ない」は85.2%で、性同一性障害についても「ある」は15.0%、「ない」は84.2%であり、ほとんど授業で扱われていないことが分かる。また、出身養成機関で学んだことがある教員は12.4%で、同性愛について間違った理解をしていることもあり、「同性愛や性同一性障害についてよく知らない」「教える必要性を感じる機会がなかった」等の理由で授業に取り入れられない。しかし、子どもたちが、自分がLGBTQであるかもしれないと気づいた年齢は低い傾向がある。たとえば性別違和のある男子の場合には、25%は小学校入学前に自覚があり、約半数が小学校卒業までに自覚したと回答した調査もある(※16)
 LGBTQと自覚したときや、周りと違うかもと感じた時に、ネガティブな情報ではなく、正しい情報に触れることができるか、相談したいと思ったときに周りの大人や友達に相談できるかが重要であるし、また、当事者ではなくても性のあり方に限らず様々な違いを大切にできる子どもになってほしいという思いから2020年から、希望する小中学校へ出前講座を実施している。
 講師は、2020年度はNPO法人ASTA(※17)をリモートでお呼びし、2021年度からはにじいろi-Ru(アイル)(※18)のお2人をお招きし対面で授業を行っている。両団体とも、学校での児童生徒向けの講演の実績が多数ある。この講座を受けたことで、学校が安心して過ごすことのできる空間になって欲しいと思う。
 また、男女共同参画センターやダイバーシティ推進室主催で教職員や子どもに関わる大人向けの研修も実施している。越前市内の全小中学校へ外部講師を派遣し、全ての子どもたちに話すことはできないし、たとえ1時間だけ講師の話を聞くことができたとしても、残りの364日の学校生活で安心して過ごせるかどうかは先生たちに懸かっている。
 第2次越前市男女共同参画プラン改訂時に実施した市民意識調査ではLGBTQの方々の生活をしやすくしていくために、どのような取り組みが必要だと思うか、10項目の中からあてはまるものをすべて選択してもらった。そのなかで「児童・生徒などへの学校における教育の充実」は、多くの人が選択した項目であった。当事者や、支援団体の方の話でも、学校の先生たちが正しく知ってほしいという声はよく聞かれる。
 研修会は教育委員会主催ではないので、例えば全教員に受講してもらうことや、各学校から必ず誰かが参加してもらうなどの強制力がないことが課題であるが、少しずつ先生たちにも性の多様性への理解が広まってほしいと思う。

開催年月 教職員向け研修テーマ 講師
2020年1月 学校で配慮と支援が必要なLGBTsのこどもたち 宝塚大学 日高庸晴教授
2022年1月 性の多様性から「じぶん」について考える。~誰もが排除されない社会をめざして 子どもたちとの出会いからみえてきたこと~ にじいろi-Ru
2022年8月
(予定)
LGBTQ+の子ども達にとっても安心な学校へ Proud Futures(※19)

小学校での出前講座の様子 教職員むけ研修会の様子(リモート開催)

(4) 講演会
 2020年度から市民向け講演会を年に1回開催している。

2021年1月 「はじめて学ぶLGBT ~聞いてみよう 知ってみよう~」
講師:NPO法人ASTAの皆さん(10人)
内容:LGBTや性の多様性に関する基礎知識の後、当事者・当事者の親・ALLYによるライフヒストリーとグループワークを行った。講師はリモートで参加。参加者はリモートと対面のハイブリッドで開催した。
2022年3月 「なろっさALLY LGBTQ+の困りごと」
講師:YouTuberかずえちゃん、仁愛大学織田暁子准教授
かずえちゃんからは性の多様性に関する基礎知識と、困りごとの実体験を、織田暁子准教授からはLGBTQの困りごとについての講演。講演会後半には、参加者からの質問に答えた。
2022年6月 「従業員36,000人 JALで自分らしく働く ~日本初LGBTQ ALLYチャーターを飛ばした理由~」
講師:日本航空株式会社東原祥匡氏、YouTuberかずえちゃん、越前市職員組合書記長三好拓朗氏、コーディネーター:仁愛大学織田暁子准教授
第1部は東原氏のJALでのダイバーシティや性の多様性に関する取り組みについての講演。第2部は自分らしく働くための企業での取り組み、最初の一歩を踏み出したときの経験などのトークセッション。

(5) にじいろ階段・にじかべ
① にじいろ階段
 2021年12月の人権週間に合わせて、「越前市役所にじいろ階段」と題して6色の越前和紙を使用し、庁舎内の中央階段を虹色にデコレーションした。このにじいろ階段は、ダイバーシティ推進室と越前市職員組合(以下、越前市職)との共同企画だ。中央階段は市役所で一番市民の方が来庁する窓口の目の前にある階段で、多くの方の目に留まる場所だ。その場所に、にじいろ階段を設置することで、市民にこれまでの取り組みについて知ってもらい、越前市が「どんな性のあり方でも尊重する」というメッセージを伝えられたらと考え実施した。
 この「にじいろ階段」の取り組みは、2021年1月、兵庫県明石市役所が複合施設「パピオスあかし」の正面階段で実施していた。当初は1ヵ月の期間限定だったが、常設を望む声が多く寄せられ同年11月からは常設になっている。明石市の取り組みを、SNSを通じて知り、いつか越前市で実現出来たら良いと思っていたが、許可、手法、予算など、どう進めていけばよいか分からなかった。そこで、越前市職の自治研推進委員会委員長に相談してみたところ「どうやったらできるか」を一緒に考え、色々な人に掛け合い、相談から3日後には実現可能となった。
 設置などの作業には、自治研推進委員会のメンバーやダイバーシティ推進室の職員だけでなく、委員会以外の組合員や性の多様性について発信している福井県出身のYouTuberのかずえちゃん、ALLY(アライ、LGBTQの支援者、理解者の意味)を増やす取り組みをしている市民の方、地元の仁愛大学の学生などにも声をかけ一緒に取り組んだ。なんだか楽しそうだと思い、軽い気持ちで参加したという職員も、この企画をきっかけに、LGBTQのを取り巻く問題に関心を持ったと話してくれた。
 このにじいろ階段が設置されると県内の新聞社やテレビ局などからの取材があり、テレビで放送されたり、新聞記事がYahooニュースに掲載されたり、毎日新聞の記事にいたっては英語版になり、全世界に発信されたりもした。また、にじいろ階段をきっかけとしてFM福井のラジオ番組のコーナー「FUKUI SDGs compass」(※20)に呼ばれ、ダイバーシティ推進室の性の多様性に関する取り組みを発信することに繋がった。
 それ以外にも、かずえちゃんが完成までの過程を動画でYouTube(※21)にあげてくれたり、にじいろ階段を見に来てくれた人がSNSで発信してくれたりと、たくさんの方がにじいろ階段のことを発信してくれた。県内だけでなく、日本中の人たちに、この取り組みを知ってもらうことができた。
 また、にじいろ階段を見に来た方からは、「普段は市役所に来ることはないが階段を見に来た」、「にじいろ階段を見て、越前市が様々な取り組みをしていることを知った」、「期間限定でなく常設にして欲しい」、「市役所がこのような取り組みをしていると多様性を認めてくれている安心感がある」などの声を頂いた。窓口で直接声を届けてくれる方もいた。
② にじかべ
 2022年6月には今立総合支所が入る複合施設の「あいぱーく今立」の壁を虹色に彩る「にじかべ」を行った。世界各地でLGBTQ+の権利や文化、コミュニティへの支持を示す、6月の「プライド月間(Pride Month)」(※22)にあわせて実施した。この取り組みは、にじいろ階段の盛り上がりを見て、今立総合支所の地域振興課の職員が今立地区でも盛り上げたいと発案した。あいぱーく今立には階段がなく、どの場所を虹色にするか、壁を傷つけないためにはどう貼ればよいかなど、試行錯誤した。にじかべは、市のほか越前市職、市民団体のなろっさ ALLYえちぜんも協力して作り上げた。なろっさ ALLYえちぜん(※23)は、にじいろ階段の取り組みに参加した市民の方が中心となって結成された市民団体である。にじかべにも、階段同様に越前和紙を使用し、縦2.5m×横7mの超巨大6色のレインボーフラッグを作成した。この取り組みも反響は大きく、テレビ局や新聞社からの取材があり、NHK全国ニュースでも放送された。
 市内の小学校では、このにじいろ階段をヒントに、プログラミングを学んだ生徒が、学校の階段の手すりにLEDを設置し6色に光らせるなど、性の多様性への理解に関する取り組みが様々な場所で広がりを見せた。2022年2月には、高知市役所でにじいろ階段が実施された。全国で虹色の風景が広がると良いと思うので、にじいろ階段やにじかべなど、取り組みを真似ていただければと思う。

にじいろ階段 before after

にじいろ階段の準備の様子

にじかべの準備の様子

にじかべ

(6) 性別欄の見直し
 行政文書(申請書、証明書、アンケートなど)の性別欄の見直しは、主に出生時に割り当てられた性別と性自認が異なっているトランスジェンダーへの配慮として実施されている。性別欄が「男・女」の二択であった場合に、性自認と一致しない性別を選択することへの抵抗感や、法律上の性別と見た目の性別が異なるために窓口で再確認されるなどで精神的な苦痛を感じる方もいる。また必要な公共サービスが受けられなかった事例や、性別情報が適切に扱われなかった場合に、トランスジェンダーであることが暴露される危険性もある。
 越前市では既に、採用試験での申込書からの削除、選挙の投票所入場券の性別表記の記号化、印鑑登録証明書の性別欄の削除などを行ってきた。しかしこれらはそれぞれの担当課で行われていたものであり、各課で所管している行政文書などの性別記載欄の有無や必要性については把握できていなかった。全庁的な見直しが必要と考え、手続きを進めた。性別欄削除の取り組みを既に実施している自治体から資料を頂いたり、ホームページで公開している自治体を参考にしたりしながら進めた。性別欄のある239件のうち市に変更の裁量がある113件について見直しを検討し、69件の性別欄を削除した。また、なぜ性別欄の見直しを行ったのかという点を職員が十分に理解していないと、別の機会に見直しを行った後に新たな文書で性別欄を設けられてしまうことがある。性別欄の見直しを一度実施したら終わりでなく、今後も定期的に趣旨を周知・紹介する必要もあると感じる。
 削除の必要性や、見直し方法、留意点などは後述する自治研作業委員会の報告書に、「行政手続き(届出、申請の性別欄)の見直し」の章があるので、そちらもお読みいただきたい。

(7) パートナーシップ制度導入に向けて
 2022年7月1日現在、全国で224の自治体がパートナーシップ制度を導入している(※24)。47都道府県のうち、県も含め1つの基礎自治体も導入していない県は、9県である。富山県、石川県、福井県の北陸3県は2020年までパートナーシップ制度が無い県だったが、石川県では2021年金沢市と白山市が導入し、制度無し県ではなくなった。越前市でも今年度(2022年度)に導入予定である。現在、準備中であるので、導入の経過については2年後の自治研で報告できればと思う。
 渋谷区、世田谷区で初めてパートナーシップ制度が導入されて6年以上経っている。支援団体にヒアリングする中で、「もはや、この制度をやる、やらないという問題ではない。やるのは前提として、そこからどう理解を広げていくかを考えて欲しい」という声をいただいた。今後は、パートナーシップ制度の導入と、導入して終わりでなく、導入を機に更に取り組みを広めることに力を入れたい。


渋谷区・虹色ダイバーシティ全国パートナーシップ共同調査
出典:虹色ダイバーシティ(※25)

3. 越前市職での取り組み

 越前市職でも、これまでと同様に、講演会や研修会に取り組んだ。前述した「にじいろ階段」と「にじかべ」にも、市との共同で取り組んでいる。

2020年1月 講演会 性的マイノリティの人権課題と最近の動向について
講師:宝塚大学 日高庸晴教授
2021年3月 保育士向け多様な性研修会(福井県本部主催)講師:にじいろi-Ru
2021年12月 越前市役所にじいろ階段
2021年12月 保育士向け多様な性研修会講師:にじいろi-Ru
2022年6月 あいぱーく今立にじかべ

にじいろ階段・にじかべは市、越前市職、市民の方々と作り上げた

 また、2021年1月から9月までは、「LGBTQ+/SOGIE自治体政策」がテーマの第38次自治研作業委員会(※26)に参加した。その内容は、「LGBTQ+支援、相談窓口設置」「パートナーシップ制度」「職員研修、住民への啓発」「当事者および当事者団体への支援、共同事業」「事業者への啓発と差別禁止の約款」「行政手続き(届出、申請の性別欄)の見直し」「教育委員会関係」「子育て施設における研修、保護者への啓発」「防災関係」「職員の労働条件について」など、様々な分野の政策について議論した。その内容は自治研ホームページに掲載されている。180ページほどあるが、政策のヒントになることは間違いないだろう。

4. NPO法人丹南市民自治研究センター(丹南自治研)(※27) での取り組み

(1) 講演会の開催
 2019年11月には、にじいろかぞく代表の小野春さんをお招きした。「同性パートナーと子どもを育てて~同性パートナーシップ制度から『結婚の自由をすべての人に』訴訟まで~」と題した講演会を開催した。小野さんは、「結婚の自由をすべての人に訴訟」(※28)(いわゆる同性婚訴訟)の原告でもあり、自身の経験や、LGBTファミリーの困りごと、同性カップルの権利平等への働きかけについてお話いただいた。

(2) ピンバッジ追加作成
 2016年に作成したALLYを表明できるレインボーフラッグの形のピンバッジは好評につき残り少なくなっていた。2022年、同じデザインで追加で作成した。ピンバッジは、講演会や丹南自治研が参加するイベントなどのほか全国自治研でも販売した。福井の方のみならず、全国の方が購入し活用していただいている。必要な方は、丹南自治研までご連絡を。

(3) 福井県へパートナーシップ制度導入への要望
 越前市は今年の2022年中には導入を予定しているが、越前市が導入出来ればそれでよいという問題ではない。福井県民全体で見れば、導入出来た自治体は良いが、県内どこに住んでも制度が利用できるようにするためには、県での導入が重要である。そこで、福井県内で性の多様性に関する活動を行っている6団体(ELLY福井、なっろさ ALLYいけだ、さばえ、ふくい、えちぜん、レインボー敦賀#ダイバーシティ)とかずえちゃんと共に福井県に対して要望書を提出した。主な項目は以下の4つである。県においても導入が進むことを期待している。
① 同性パートナーシップ制度の導入
② 同性パートナーシップ制度の申請により、利用できる行政サービスや施策の整理・周知
③ 県から基礎自治体への制度導入の働きかけ
④ 行政・医療・教育機関等における研修の実施とガイドラインの作成、関連団体への働きかけ

5. おわりに

 土佐自治研のレポートから4年間の取り組みの為、今回は盛りだくさんの内容となった。ダイバーシティ推進室に異動し、いかに予算をかけずにできるかということを考えていた。様々な自治体の人権担当者と話をしてきたが、「予算がない」という自治体がほとんどだった。そのような中工夫してやっていくものだと思っていたが、必要な施策に必要な税金を投入するのも、行政にしかできないことだと思う。人権に関する施策が後回しにされないためにも、予算を確保することが大切だと思う。
 最近の懸念は、SNSで急増しているトランスジェンダー女性排除・差別についてである。女性のスペースや安全を脅かす存在という根拠不明のデマや差別的な言説がひろがっている。そもそもトランスジェンダー当事者の数が少なく、トランスジェンダーを家族や知人に持つ人は少ないのでトランスジェンダーの実態を知らない人が多い。そのためデマをデマと判断することが難しくなっている。「trans101.jpはじめてのトランスジェンダー」(※29)というサイトがある。根拠不明のデマのファクトチェック(事実確認)の結果や正しい知識を発信し、ヘイトスピーチに対抗する情報サイトである。トランスジェンダーについてよく分からない人も、差別は防ぎたいけどよく分からないという人にもお勧めだ。福井県内で活動する団体にもこの課題について共有し、差別に対抗していきたいと思う。
 市、越前市職、丹南自治研でのすべての取り組みは一人では到底できなかった。多くの方が関わって実現できた。やりたくても勝手に「できない」と決めつけていては何も始まらなかった。やりたいことを周りに相談し、関わった人それぞれが知恵を出し合って実現することができるということを実感している。他の自治体で取り組んでいることなら、実現できる可能性は高いはずである。越前市で取り組めたことは、あなたの街でも取り組めるだろう。このレポートが、何か取り組みをはじめたい人のきっかけとなると嬉しく思う。何から始めればよいか分からない方は、連絡をいただければ、答えは出せないかもしれないが、一緒に悩むことはできる。これまでの自治研を通して、全国で取り組む仲間を見つけられた。今後も、全国の同じ取り組みをされている方と繋がり、活動を広げていきたい。



(※1)自治研レポート
「東京でもない大阪でもない地方でのLGBT  ―― 越前市でのLGBTの取り組みとこれから ―― 」
https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/rep_miyagi36/01/0110_jre/index.htm
「性の多様性と人権  ―― 自治体の取り組みと私たちにできること ―― 」
https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/report/rep_tosa37/08/0806_jre/index.htm
(※2)LGBTQ、多様な性について(越前市ホームページ)
https://www.city.echizen.lg.jp/office/010/130030/lgbt.html
(※3)LGBTに関するLINE相談ができる団体をまとめたページ(一般社団法人にじーず作成)
http://24zzz-lgbt.com/j/line/
(※4)「多様な性について考えよう~性的指向と性自認~」「いろいろな性について考えよう~だれを好きになる? あなたの性別は?~」(法務省)
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00126.html
(※5)LGBTの困りごと(大阪市淀川区LGBT支援事業 公開資料)
 大阪市淀川区では、各自治体等で広く活用できるように作成した啓発資料をウェブサイトで公開している。
https://niji-yodogawa.jp/public-material/
(※6)性の多様性への理解を広めるための啓発ポスター(大阪府立大学)
https://www.osakafu-u.ac.jp/press-release/pr20180419/
(※7)人権啓発ポスター(愛知県)
https://www.pref.aichi.jp/soshiki/jinken/20161130.html
(※8)わかりやすい世界人権宣言(アムネスティ・インターナショナル日本)
https://www.amnesty.or.jp/lp/udhr/
(※9)LGBTQ当事者の声(Youtuberかずえちゃん)
 「LGBTQ100人カミングアウト2021 【 すべての人に結婚の自由を 】」の動画の出演者のメッセージをパネルにしたもの。
https://www.youtube.com/watch?v=1ueerfX_3kg
(※10)保護者向けリーフレット「LGBTってなんやろか?」(大阪市淀川区)
https://niji-yodogawa.jp/leaflet_for_parents/
(※11)LGBTと医療福祉(改訂版)(NPO法人QWRC)
https://qwrc.jimdofree.com/
(※12)りんごの色~LGBTを知っていますか?~(大分県)
https://www.pref.oita.jp/site/kokoro/lgbt-manga.html
(※13)トランスジェンダーのリアル(「トランスジェンダーのリアル」制作委員会)
https://tgbooklet.wordpress.com/
(※14)にじいろ子育て手帳(NPO法人虹色ダイバーシティ)
https://nijiirodiversity.jp/734/
(※15)教員21,634人のLGBTs意識調査レポート(宝塚大学日高庸晴教授)
https://www.health-issue.jp/teachers_survey_2019.pdf
(※16)LGBTの学校生活に関する実態調査(2013) 結果報告書(いのちリスペクト。ホワイトリボン‣キャンペーン)
(※17)NPO法人ASTA
https://asta.themedia.jp/
(※18)にじいろi-Ru(アイル)
https://nijiiroi-ru.jimdofree.com/
(※19)Proud Futures
https://www.proudfutures.org/
(※20)市民の皆さんと一緒に「意識」を変える~越前市ダイバーシティ推進室~(FM福井 FUKUI SDGs compass)
http://blog.fmfukui.jp/sdgs/?p=511
(※21)市役所の階段をレインボーに染めた #shorts(かずえちゃん)
https://www.youtube.com/shorts/dAm1HFXh18c
(※22)6月は男女共同参画月間・プライド月間です(越前市ホームページ)
https://www.city.echizen.lg.jp/office/010/130030/danjokyoudousankaku.html
(※23)なろっさ ALLYえちぜん
https://www.instagram.com/narossa.ally.echizen/
(※24)みんなのパートナーシップ制度
https://minnano-partnership.com/
(※25)NIJI BRIDGE(虹色ダイバーシティ)
 LGBT等の性的マイノリティに関する調査研究「データ」と、みんなが参加できる「アクション」を紹介するウェブサイト
https://nijibridge.jp/
(※26)「LGBTQ+/SOGIE自治体政策」(第38次自治研作業委員会)
https://www.jichiro.gr.jp/jichiken_kako/sagyouiinnkai/38-lgbtq/LGBTQ-SOGIE_jichitaitaisaku-color2203.pdf
(※27)NPO法人丹南市民自治研究センター
https://tannan-shimin-jichi.hatenablog.jp/
(※28)結婚の自由をすべての人に ―― Marriage for All Japan ――
https://www.marriageforall.jp/
(※29)trans101.jpはじめてのトランスジェンダー
 昨今トランスジェンダーについての様々な情報があふれています。このサイトは、普段トランスジェンダーを身近に感じていない人でも、情報の交通整理ができるように作られました。
https://trans101.jp/