【レポート】

第39回静岡自治研集会
第6分科会 災害に強いまちづくり ~みんなで守る いのちとくらし~

 2022年4月23日土曜日に発生した知床遊覧船海難事故は7月28日現在、犠牲者14人、行方不明者12人を数える近年まれに見る大規模な事故となっています。事故の影響は自治体職場にも波及し、様々な分野における対応を求められることとなり、災害対応業務における課題も浮き彫りとなりました。
 現在も対応が続く事故対応の経過を報告します。



知床遊覧船海難事故を振り返って
―― 災害対応への課題 ――

北海道本部/斜里町職員労働組合連合会・書記長 川島 雄司

1. はじめに

(1) 事故の概要
① 発生日 2022年4月23日(土)
② 発生場所 斜里町知床半島沖カシュニの滝付近
③ 事故内容 知床遊覧船所有の遊覧船「KAZUⅠ」が乗客乗員26人を乗せ行方不明となる。
 その後沈没した船体が発見される。
④ 被害状況 死亡14人 行方不明12人

事故現場の位置

カシュニの滝

2. 経 過

(1) 事故当初の対応
 事故当初の対応は海上保安庁から消防へ通報があり、水産担当課長はウトロの救難所に向かい、海上保安庁、北海道警察等による捜索が開始された。町は夕方に災害対策本部を設置し、町内ウトロ(斜里町漁村センター)が拠点となった。翌24日(日)早朝には行方不明者が発見される。並行して遺体安置所としてB&G海洋センターの受け入れ準備を実施した。同日には11人が発見、死亡が確認された。その後、28日(木)に3人が新たに発見されたものの、残る12人は行方不明のままとなっている。職員が担った役割は以下のとおり。
① 対策本部
 漁村センターにおいて国土交通省、海上保安庁、北海道警察、自衛隊等関係機関との調整
② 家族対応
 家族が滞在するウトロの宿泊施設における家族対応、説明会会場の漁村センターや遺体安置所への送迎
③ 発見された行方不明者の受け入れ、遺体安置所の運営
 発見者の町立国保病院における受け入れ、遺体安置所における被害者家族等の受け入れ、献花対応
④ 捜 索
 事故現場付近の地上や、船からの捜索に参加
※ この間、対策本部や遺体安置所となった施設は一般利用を制限していた事から、一部の町民から一般利用を早期に望む声もあげられた

海洋センターに事故直後から多くの献花が寄せられた

(2) 現状の対応
 事故から3か月が経過し、現状の対応は以下のとおりとなっている。
① 対策本部
 本部を漁村センターから総合庁舎に移動した。海上保安庁等の拠点は網走市に移動
② 家族対応
 家族への説明会をオンラインにより開催し、町長をはじめ幹部職員が対応
③ 遺体安置所
 遺体安置終了後も献花対応が続いている。6月6日(月)から総合庁舎玄関において対応

庁舎に移設した献花台

3. 事故の対応から

(1) 予期しえない事故
 これほどの死者が発生する事故が起こることは個人として想定していなかった。斜里町防災計画においては海難事故に対応しているが、実施機関は役場と漁協となっており、対象は漁船を想定したものとなっている。遺体安置に関しても記載はあるが、詳細な準備の手順までは示されてはいない。
 やむを得ないことではあるが、初動においては物品、車両等の調達、人員配置等スムーズに進まない場面があった。また、他官庁の動きに振り回される状況や対応すべき業務の多さからも、身体的、精神的負担が大きくなった。

(2) 職員の負担
 今回の事故は非常に痛ましい事故であり、被害者が全国各地に及んでいたことから、その対応も困難な状況となった。被害者家族は突然の事故を受け入れることができない状況で非常に困惑し、怒りの感情も抱えていたことは想像に難くなく、送迎や安置所においても接するにもかける言葉もない状況であった。
 保健師は安置所において家族に寄り添う役割を担い、精神的な支えとなった一方で負担も感じていた。他の職員も普段携わることのない業務に昼夜を問わずあたり、通常業務も並行して行う状況となった。

(3) カスタマーハラスメント
 災害対応には多くの職員があたるなか、理事者及び管理職の多くはウトロや海洋センターで対応にあたる中、総合庁舎では全国各地から殺到する電話対応に苦慮していた。当初は事故に関して町に対する苦情が多く、長時間にわたるものや、職員の殺害をほのめかす、家を燃やすなどの脅迫まがいの暴言を浴びせる事例も見られた。経験のある職員が不在のなか対応しなければならない場面もあり、職員も落ち込んでしまう事例があった。

(4) 男女の仕事
 事故が起こった4月下旬は非常に肌寒く、寄せられた献花も痛みが進まない状況であったが、花束のまま置いておくと当然ながらしおれてしまう。そこで、何かできないかとの思いから花束を活け替えて少しでも長く保存することとした。
 当初、資材が限られていたことから女性職員が中心となって空のペットボトルを束ねて上部を切り、鉢の代わりとするなどアイディアを出し、苦慮しながら海洋センターのロビーに献花を集めた。その後は町内のお花屋さんからの申し出もあり、鉢及び花の活性剤の提供や、管理方法の支援を受けながら花の管理を続けた。庁舎に献花台が移った現在は男性職員を含め、自分にできることをしたいとの思いから職場ごとに日替わりで管理を担当する体制になっている。

(5) コミュニケーション不足
 長く続いているコロナ禍において、職場ではコミュニケーション不足が生じており、業務における情報伝達が課題となっていた。当局の交渉においても問題として提起しており、閉塞感があり、風通しの悪い職場で人間関係の問題も散見される状況となっていた。
 今回の事故対応において、事故対応に部署の垣根を越えて全庁体制で対応してきた。2021年より導入したコミュニケーションツールを活用しており、PCのほか携帯電話にアプリケーションを導入することにより、チャット機能で職員間のやり取りができ、同時に多数の職員に伝達することもできるため非常に有益であった。普段の業務では接することのない職員同士のつながりが生じたことは、職場環境の改善の面における収穫となった。

(6) 今後に向けて
 長時間労働をせざるを得なかったことによる身体的な負担、事故対応にあたる精神的な負担、緊急時における情報伝達のあり方に関して、検証をしていかなければならない。組合においては役員が中心となってなかまへの声掛け、聞き取りをしながら情報収集にあたってきた。事故対応の検証は、部署単位で状況を振り返る機会を設けて集約することを当局に提案しており、取りまとめが進められている。

4. むすびに

 事故から3か月以上が経過した現在も対応は継続しています。献花台には現在(7月28日)までに1,548件の献花が寄せられており、現在も週50件程度となっています。
 この間、斜里町労連に寄せられた北海道本部、網走地方本部をはじめとする組合員の皆様からの温かい励ましに心からお礼申し上げ、報告とします。