【レポート】

第39回静岡自治研集会
第6分科会 災害に強いまちづくり ~みんなで守る いのちとくらし~

 2020年度、情報システム課で統合型GISという地図情報を複数部署で共有するシステムの導入業務を担当しました。その業務にあたり、1つ前の支所職場での日常的な業務や2018年の豪雨災害で経験した「地図を使用した情報共有」の体験が、新しいシステムの導入と災害時の情報共有方法の構築に役立ちました。



統合型GISを活用した災害時の情報共有について
―― 災害時も普段と同じアプリケーションを使用する ――

広島県本部/尾道市職員労働組合 守本 桂子

1. はじめに

 GIS(ジー アイ エス)とは、Geographic Information Systemの略称で日本語では地理情報システムと訳されます。統合型GISとは、地方自治体で使用する地図データのうち、複数部署(都市計画、道路、下水道、農地、固定資産など)が利用するデータ(道路、街区、建物、河川など)を共用できる形に整備し、統合して維持管理することで、庁内横断型のデータ共用を可能にする仕組み(システム)のことをいいます。
 2020年度、私は当時所属していた尾道市情報システム課で、統合型GISという地図システムの導入業務を担当しました。新しいシステムの導入業務に当たり、1つ前の職場、向島支所しまおこし課での日常的な業務や2018年に起きた豪雨災害の経験がとても役に立ちました。

2. 支所の業務

(1) 尾道市 向島
 向島は本州と橋でつながる周囲約28kmの島です。人口2万人を超え、大手コンビニ3社と24時間スーパーや、私立の中高一貫校と公立中学校が2校有り、一般的にイメージする「島」よりも暮らしやすい地域です。向島町と向東町の2つの町からなり、向東町は1970年、向島町は2005年に尾道市に編入されました。


(2) 向島支所しまおこし課しまおこし係の業務

 2017年4月~2020年3月までの3年間、私は向島支所しまおこし課しまおこし係で勤務していました。尾道市は主要な支所が4つ有りますが、向島と本庁の距離が近く、道路の維持管理は本庁職員が対応することになっており、向島支所は土木技師が配置されていません。
 「しまおこし係」では、町内会長さんから聞いた地域のお困り事を本庁に伝える、「島と本庁の間にある何でも屋さん」といった感じの業務を主に行っていました。
 道路に穴が開いていると聞けば、地図とメジャーとカラーコーンを持って現地に行き、写真を撮って本庁の維持修繕課に「市道○○号線に縦○×横○×深○cmの穴が開いているので埋めてください」と連絡します。私は主事ですが、少しだけ土木技師みたいな業務を任せてもらいました。
 また、2016年豪雨に関する復旧状況について住民から問い合わせを受けることが有りました。そんなときは、当時の紙の台帳をめくり、状況を確認した上で「2016年8月○日、受付番号○番、ゼンリン○ページの水路の復旧工事は現在どのような状況ですか?」と、本庁に問い合わせることも有りました。

(3) 支所は防災の拠点
 年に一回、島内の公園や校庭に、土のうを作るための真砂土を補充する業務が有りました。台風が近づけば、住民が、支所で備蓄しているブルーシートや土のう袋を受け取りに来ました。ブルーシートや土のうを渡すときは、地図を広げてどこにどのように使用するか聞き取りを行いました。「自宅から近い真砂土の配置場所」についての問い合わせもよくありました。豪雨と大潮が重なる時は、冠水する道路に「通行止め」の看板を置きに行き、排水ポンプの管理をしている近隣住人に対応について連絡しました。避難所が開設されると支所に備蓄している食料や毛布を配布して回りました。

(4) 田舎の島で起きた大事件
 話が少し横道にそれますが、2018年4月、向島は全国を騒がせる事件がありました。四国の刑務所から脱走した受刑者が、盗んだ車で橋を渡り、本州手前の向島に潜伏する、という事件です。
 この時、あちこちの部署にメディアからの問い合わせが殺到しました。島の基本情報はしまおこし課に、取材の依頼は広報に、人口は市民課に、事件の与えるお祭りへの影響は観光課に、子どもの安全は教育委員会に、犯人が潜伏しているとおぼしき空き家については建築課に、島の植生は農林水産課に、といった具合です。突然、予告なしに、経験の無い業務が押し寄せてくるのは災害に似ているところが有ります。メディアもどこの課が何の情報を持っているのか分らないため、ついでに業務外の質問をしてきます。私は、メディアからのお問い合わせについて「その件については○○課へお問い合わせください。」と答えながら、これは私以外も電話対応に苦戦しているはずだ、と考えました。そこで、島の基本情報と、それまでにあったメディアからの質問をまとめて、庁内で使用しているグループウェアで「グループメッセージ」という形で記事にしました。それから、あちこちの課に電話をかけて「そちらでメディア対応をしていたら情報共有したいのでグループメッセージを送っても良いですか?」と伝えました。この時、全職員に公開する「掲示板」ではなく、特定の職員だけが見る事ができる「グループメッセージ」にしたのは、全員に公開される事で活発な議論が生まれにくくなる事を心配したためです。この事件で私は、課をまたいだ横の情報共有の難しさと必要性を意識するようになりました。

3. 2018年の広島県豪雨災害

(1) 2018年の支所の災害対応
 尾道市では2018年7月の豪雨災害で市内全域が断水するなど甚大な被害がありました。発災時、支所の職員は泊まり込みで被災状況の受付対応を行いました。
 当時の受付のオペレーションは次の手順で行われました。
① 住民から電話で被災状況の電話連絡が入る。
② 聞き取り表、被災箇所に印をつけた住宅地図、公図を本部にFAXする。
 (聞き取り表は紙でしたが、後で問い合わせがあった時に検索できるよう、エクセルに転記しました。)
③ 状況に応じ土木課・維持修繕課の土木技師職員が現地調査、対応を行う。
 支所の業務は②までですので、通報を受けた被災場所が、いつ、どのような対応をされたか支所では把握できませんでした。しかし、災害で一番の激務を引き受けている土木職場に、のんきに「あれって、今どうなってますか?」など、軽はずみに聞いてはいけないような気がしていました。ですので、住民には「本部には連絡しています、順番に対応していますのでもうしばらくお待ちください」としか答えることができませんでした。
 そんな状況の中、地図を使った情報共有について2つの感動する出来事が有りました。

(2) 地域住民の助け合い
 尾道市は2018年7月7日から断水になりましたが、友人の別府くんは7月8日にはSNS上の情報をまとめ、給水所と銭湯の地図を作成し「印刷して近所のお年寄りに配ってください」と呼びかけを行いました。彼の発信をきっかけに、井戸、コインランドリー、公衆トイレ等の情報がグーグルマップ上に集約されました。「みんなが困っている時は、知らない誰かの助けになりたい」と思う住民の優しい気持ちと、費用がほとんど発生していないシステムと、住民活動の自由さと機動力の高さに感動しました。
 別府くんの「SNSで集まった情報を印刷してお年寄りに配る」というアイディアはその後、一般社団法人コード・フォー・ジャパンの活動として、2019年の千葉水害でも活用されたそうです。


(3) 東広島市の対応

 発災から数日後、県内自治体の対応についてのネットニュースを見つけました。東広島市が通行止め情報をグーグルマップを使ってインターネット上に公開したというものです。7月13日の記事です。私はこの記事を読んでとても感動しました。グーグルマップという一般的なアプリケーションを使用している事と、その対応の早さに驚きました。住民から通行止め情報について問い合わせを受けていましたが、一時的に通行止めになっている場所が今どうなっているのか把握できていない私は、とてもうらやましいと感じました。

 

4. 地図を使った情報共有の面白さ

(1) コロナ禍で作った市内のテイクアウトマップ
 別府くんの作った災害情報マップや東広島市の通行止めマップの件をきっかけに、地図をつかった情報共有の面白さを認識するようになりました。
 2020年の3月頃、私はグーグルマップを使って、趣味で市内のテイクアウト情報をまとめた地図を作成しました。
 きっかけは、新型コロナウィルス感染拡大です。当時、多くの飲食店が店内での提供ができなくなり、代わりにテイクアウトを行うお店が増えていました。そんなとき、カフェを経営している友人が、近所の飲食店のリストを作り、誰か地図にしてくれないかな? とSNSで発信したのを読んだのがきっかけです。隙間時間にスマートフォンにお店の情報を入力するだけで、大した手間ではありませんでしたが、多くの方に地図を利用してもらえました。


(2) 市道路線網図のデータ化
職員の内部では、市道路線網図の共有も行いました。
当時、尾道市の職員はデジタウンというゼンリンの電子住宅地図を使用していました。デジタウンはパソコン1台につきCD1枚が必要で、それぞれのパソコンが独立しています。デジタウンの「ユーザー図形」という機能で地図に書き込みができ、誰かが作成、保存した書き込みデータを別の人が読み込み表示させることができました。
支所から土木職場へ業務を引き継ぐときは、路線名を伝える必要があります。向島支所では旧向島町の路線図データを読み込み、常に地図上で路線名を調べることができました。向島の半分は向島町、もう半分は向東町ですが、路線図データはなぜか向島町しかなく不便に感じたため、本庁の土木技師に「向東町の路線図データもいただけませんか?」と聞いたところ、他のエリアの路線図データは存在せず、デジタウンの路線データは合併前に向島町職員が作成したもので、本庁職員も路線図データを欲しがっていることが分りました。
そこで、会計年度任用職員にお願いして、尾道市のホームページにPDFで掲載されている路線網図を全てデジタウンに書き込みしてもらう事にしました。地図上にマウスで1つ1つ路線を書き込んで行くため大変な作業でしたが、この時作成したデータは土木職場で大変喜ばれ、現在、尾道市で使用している地図システムにも引き継がれています。


ズームすると路線名が表示される

5. 統合型GIS(地図システム)の導入業務

(1) 現在尾道市で使用している地図システム
 現在尾道市に導入している統合型GIS(地図システム)は2020年7月から試験的な運用を開始し、2021年から本格的に導入しました。システムの基礎になる地図は、地図を使用する課へのヒアリングの結果、表札の情報が記載されたゼンリンの住宅地図が良いと判断し、その中で一番安価に導入できる「ゼンリン住宅地図LGWAN」というLGWAN-ASPサービス(自治体専用の回線を使用したネットワーク経由で使用するアプリケーションサービス)が、庁内ネットワークの繋がっているすべてのパソコンで使用できるようになりました。
 「ゼンリン住宅地図LGWAN」はいろいろ有るアプリケーションの中で、次の特徴があると考えています。
・ゼンリン住宅地図を使うため高価(無料で使用できるGISはいろいろ有る)
・複雑な事はできないが、操作が分りやすく設計されているため、幅広い職員が使用できる


(2) 情報システム課での統合型GIS導入業務

 2020年度、私の所属する尾道市情報システム課では、統合型GIS(地図システム)の導入を検討していましたが、高価なアプリケーションを新たに導入するためには、どれほどの効果が期待できるかを精査する必要がありました。地図を利用している各課にヒアリングして回ったところ、災害時の情報共有で特に効果が期待できると判断しました。

(3) 従来の災害情報共有システム
 2019年から、災害情報共有のための独自のシステムが導入されていました。この災害情報共有システムでは基盤となる地図がGoogleマップになっていました。各課では(株)ゼンリンの住宅地図を日常的に使用しているため、災害対応の現場でも、共有システムの地図に入力し、ゼンリンの地図も印刷する、という二重の管理を行う必要がありました。

(4) 統合型GIS(地図システム)を活用した災害時の情報共有
 防災担当に統合型GIS(地図システム)が現行の災害共有システムよりも優れている点を説明したところ、とても乗り気になってくれ、消防や土木といった関係課を集め説明会を開いてくれました。従来の災害共有システムと新しい地図システムで、地図システムが優れている点はいろいろ有りますが、大きくは次の2点があげられます。
 ・地図システムは普段の業務で使用するため、緊急時に使い方が分らず慌てることが無い
 ・「災害共有システム」というパッケージでは仕様を変更するためには業者にカスタマイズを依頼する必要があるが、地図システムは職員のアイディアと工夫をどんどん反映させ使いやすく変更する事ができる

(5) 統合型GISを導入後の災害対応オペレーション
 統合型GIS導入後の災害対応オペレーションは次の通りになります。
① 予め、災害情報を共有するための「台帳」を作成する。(台帳の作成は、複数の職員がエクセルに書き込みを行い情報共有する際に見出しを作成する作業に似ています。)
② 住民から被災状況の連絡が入ると、住所や表札を使った検索機能で場所を特定し、位置情報を台帳に記憶させます。その他、聞き取り事項を入力します。
③ 消防職員、土木技師職員は通報の情報から緊急度の高い順に対応を行います。台帳の情報へ「未処理」から「対応中」「処理済み」などへ状況に応じ情報を更新します。
④ 統合型GISを立ち上げている全ての職員が、リアルタイムで通報状況を地図上で見ることができます。また、地図上へは「未処理」「対応中」「処理済み」のステータスにより色分けされた状態で表示されます。
⑤ 災害時に作成された台帳はそのまま復旧作業にも使用します。エクセルに吐き出すこともでき、県に補助金を申請する際にもそのまま使用できます。


(6) 地図システムに無い機能は他でカバー

 従来の災害情報共有システムでは避難所からスマートフォンを使って避難者の人数等を災害対策本部へ報告する機能が有りましたが、その機能は地図システムでは不可能なので、県と市町で共同利用している「電子申請システム」に置き換えられました。

6. 地図を使用した情報の共有

 現在尾道市では、様々な地図情報を自席から確認することができます。
 県が運営している「災害ポータルひろしま」からダウンロードした土砂災害危険箇所や高潮、津波、洪水の危険箇所、尾道市の避難所箇所を地図上に表示できるようにしており、危険度の判断や住民からの問い合わせ対応に役立ちます。その他、資産税課の保有している航空写真や現況地番図も必要な職員が自席で閲覧できるようになっており、災害復旧の調査に役立てています。


7. 今後の展望

 今後は、テレワーク用の端末を用いて、災害現場からタイムリーに台帳の更新を行ったり、GPS記録機能付きのデジタルカメラを用いて、被災箇所を撮影した写真を地図上に落とし込むなど、業務を広げる事ができると考えています。

8. おわりに

 統合型GIS(地図システム)を災害時の情報共有に使用する一番の利点は、普段から全ての職員が地図システムを使用することができ、いざという時に使用方法が分からず手間取ることが少ない事です。
 そもそもの統合型GIS導入の目的は、災害対応ではなく、全庁的な業務の効率化ですが、どんなに便利だとしても新しいアプリケーションが職員に浸透するためには、実際に操作し、使い方を覚える必要があり、なかなか時間がかかるものだと感じています。
 普段の業務で操作し、災害に備える。災害時に操作方法を覚え普段の業務に活用するという循環がうまれ、業務の効率化に繋がることを期待しています。