【レポート】

第39回静岡自治研集会
第7分科会 まちおこし ~持続可能な地域づくりの取り組み~

ユースワークから若者の地域参加を考える
―― 若者文化発信事業での取り組みを通して ――

京都府本部/公益財団法人京都市ユースサービス協会職員組合
京都市東山青少年活動センター・チーフユースワーカー 冨田 千裕

1. はじめに

 1980年代から1990年代前半に生まれた世代をミレニアル世代、1990年代後半から2010年代に生まれた世代をZ世代、そしてその次の世代がアルファ世代と呼ばれています。インターネットの普及が飛躍的に進んだ時代に育ち、コミュニケーションツールの一つとしてSNSを活用しています。「いまどきの若者がわからない」そんな声を耳にしますが、いつの時代にも、当時を生きる若者がいて、彼らがはぐくんだ文化があります。今の若者がはぐくむ文化とは。この場を借りて、若者文化発信事業の取り組みについて報告し、若者の地域・自治活動への参加や世代間交流の促進を考えるきっかけになれば幸いです。

2. 公益財団法人京都市ユースサービス協会とは

 1988年3月に、青少年の自主的な活動の振興を図ることにより、京都市の青少年の健全な育成に寄与することを目的に設立されました。青少年が市民社会の担い手として成長するために、社会参加と自主的な活動の機会を提供し、必要な支援を行っていくことが「ユースサービスの理念」です。ユースサービス協会は、その理念に基づきながら、京都市など関係行政機関、青少年団体、青少年の育成に関わる人たち、そして何より青少年自身と協力し合いながら、事業を展開しています。
 現在では、京都市が設置している7ヶ所の青少年活動センター、子ども・若者総合相談窓口、中学生学習支援事業、社会的養護自立支援事業の4事業を指定管理者として一体的に運営しています。また、青少年育成支援団体とのネットワーク形成や、「ヤングケアラー」などの新たな潜在的若者ニーズに関する先取り企画の検討や事業実施、ユースサービスの普及など、指定管理業務に限らず、様々な事業に取り組んでいます。さらに、厚生労働省と京都市からの委託を受け、職業的自立に向けた支援を行う京都若者サポートステーションの運営も行っています。

3. 青少年活動センターとユースワーカー

 青少年活動センターは、青少年の福祉の増進、健全な育成及び自主的な活動の促進を目的に、京都市が市内7ヶ所(北・中央・東山・山科・下京・南・伏見)に設置している公共施設で、前身は勤労青少年ホームでした。1997年よりユースサービス協会が運営を行っており、1998年から「地域交流」「スポーツレクリエーション」「創造表現活動」等、それぞれのセンターテーマに沿った事業を展開しています。ここでいう「青少年」とは、京都市内在住、もしくは通勤・通学先のいずれかがある13歳から30歳までの方を指します。各青少年活動センターには、若者支援の専門職員であるユースワーカーを配置し、青少年を対象にした事業の実施や、自主的な活動のための施設提供、相談支援などを行っています。ユースワーカーは、イギリスをはじめヨーロッパ各国で養成が取り組まれ、国家資格となっている国もあります。日本でも、各地でユースワーカー養成が行われており、京都では、2006年から大学院での養成プログラムを始めた他、ボランティアや関連する仕事の中でユースワークを担う人材を育てる独自のユースワーカー資格取得のプログラムも始めています。また、多様な視点・分野から青少年育成を考える必要があるため、各分野の専門家に青少年育成やユースワークの視点の必要性の働きかけも行っています。立命館大学との共同研究において、10年来の研究協議のまとめの1つとして、日本各地の実践者や研究者、若者自身、関心を持つ方たちの経験・知見に基づいた加筆修正を経て精査していく土台になるものとして「ユースワークの定義(京都版)」を提案しました。
 「ユースワークは、若者を子どもから大人への移行期にいるすべての人と捉え、若者が権利主体として自己選択と決定が保障される自由な活動の場を若者とともに形成し、若者及び若者と関わる大人やコミュニティ、社会システムに働きかける実践である。」(ユースワーク養成研究会版2021.11より一部引用)

4. 「ユスカル(若者文化発信事業)」について

 京都市ユースサービス協会では、センター協同事業として、2018年度より若者文化の発信事業「ユスカル」に取り組んでいます。「ユスカル」とは「ユース・カルチャー(若者文化)」の略称です。若者が面白いと感じていることや、表現したい・発信したいことを公募し、社会や地域に向け発信しています。企画立案の段階から青少年が参画しており、若者に対する"見方"が変わることや、若者を応援してくれる"味方"を増やしたいという彼らの想いから「若者のミカタ」を全体テーマに設定しています。文化の意味や内容が多岐にわたる点、また、若者の嗜好がどこにあるのか、どういう若者文化が生まれつつあるのかを発掘しながらイベントを形づくっており、若者の興味関心に合わせて取り組む内容を考えています。

5. ユースワークと若者の地域参加

 初年度は、「イベントのプロデュースに興味がある。」という若者が集うところから企画がスタートしました。若者のやりたいことと地域社会をつなぐ役割として、ユースワーカーが若者と一緒に考えながら、若者の活動発信や市民・地域に向けたイベントを開催しました。コロナ禍になってからは、「活動発信をして仲間を増やしたいけど、発表の機会がなくなった。今は動画配信もできるが(撮影・編集等の)技術がない。」「深く学びたいのに、オンライン授業のため一方的に聞いているだけ。」といった若者の孤立が懸念されるような声を聞くようになりました。このような状況下でも、若者文化は常にはぐくまれており、感染防止対策の観点から、動画制作とウェブ上での発信や、来場者を分散させるため展示会の開催に切り替え、各分野の専門家に参画してもらいながら、事業を実施しました。動画制作では、映像制作の専門家が参画し、どんな活動発信動画を作りたいか、どのように撮影したらどんな風に見えるのか、展示会では、アーティストと地域をつなげることで事業のプランニングを行っている専門家が参画し、来場者の視点から考える展示方法や、何を誰にどんな風に見せたいのか等を、参画した若者とコミュニケーションを取りながら進めてもらうことで、単なる活動発信ではなく、希薄化していた他者との関わりや出会いの機会にすることができました。また、各分野の専門家に参画してもらうことや、一方的に進めるのではなく、青少年育成の視点を持った関わりを専門家に求めることで、若者にとってもより意味のある学びの場とすることができます。私たちユースワーカーは、若者と地域社会をつなぐことで、若者の持つ可能性を最大限に広げることができます。

6. まとめ

 私たちユースワーカーが、若者との関わりの中で大切にしていることの一つに、若者の主体性を尊重することがあります。大きなイベントを開催するだけであれば、イベント業者が行えばいいことです。私たちユースワーカーは、若者の声を拾い、彼らの可能性を最大限に活かせるようにするにはどうすればいいのかを考え、それがユースワーカーのやりたいことにならないように注意をしながら、彼らと関わり、一緒に考え、一緒に作り上げることを念頭に置いています。地域活動や自治活動において、若者の参画促進を行う中で、地域が取り組みたいことと若者がやりたいことのバランスを取り、一緒に考えるところから始めていただければと思います。

7. 引用・参考

・京都市情報館・青少年活動センターの概要
https://www.city.kyoto.lg.jp/hagukumi/page/0000002392.html
・公益財団法人京都市ユースサービス協会定款
http://ys-kyoto.org/wp-content/uploads/2011/08/65e430940da225e5a8087a019d4045ad.pdf
・公益財団法人京都市ユースサービス協会令和4年度事業計画
http://ys-kyoto.org/wp-content/uploads/2011/08/bf1e71eca71cfd161102e40836b9548a.pdf
・公益財団法人京都市ユースサービス協会・協会について
http://ys-kyoto.org/about/
・京都若者サポートステーション
http://ys-kyoto.org/support/