【レポート】

第39回静岡自治研集会
第8分科会 自治体DX最前線 ~今考える、地域のためのデジタル化~

 東海村では、第6次総合計画で掲げた「新しい役場への転換」の具体策として「とうかい"まるごと"デジタル化構想」によるDXを強力に推進している。
 本稿では、基礎自治体の中でDXによる組織変革を仕掛けている立場として、その取り組み過程と結果を報告する。



東海村が仕掛ける自治体DX
―― とうかい"まるごと"デジタル化構想で導く
新しい役場への転換 ――

茨城県本部/東海村職員組合 佐藤 洋輔

1. 「新しい役場への転換」という組織課題

 東海村は、2020年3月に「未来を担う人づくり」「魅力あるまちづくり」「安心して暮らし続けることができるまちづくり」を柱とした東海村第6次総合計画を策定し、この計画に力強く盛り込まれた取り組みのひとつに「新しい役場への転換」がありました。「新しい役場」とは、これまでの行政サービスの形質や職員の働き方・意識を抜本的に変革するということです。
 私は縁あってこの「新しい役場への転換」の具現化を、2020年4月から担当することになり、DX・デジタルトランスフォーメーション=「新しい役場へのトランスフォーメーションの具現化」と定義し、その具体策を盛り込んだ『とうかい"まるごと"デジタル化構想(通称「まるデジ構想」)』を11月に策定しました。本稿では、まるデジ構想の概要と主な取り組みについて紹介したいと思います。

【とうかい"まるごと"デジタル化構想(通称「まるデジ構想」)】

2. スマートサービスの推進

 まるデジ構想は3つの柱から構成されています。まず1つ目は「スマートサービスの推進」です。行政手続きをデジタル化することで「行かない」「書かない」窓口を実現するとともに、ICT活用による住民の利便性を向上させる施策です。様々な取り組みがある中で、今回はオンライン申請ができる環境整備とYouTubeでの情報発信について紹介します。
 オンライン申請について、村では茨城県の「いばらき電子申請・届出サービス」を利用していましたが、オンライン申請ができる環境を整備している手続きは、2つ程度の状態でした。そこで、2021年5月に、全27課の手続きを279個洗出し、これらに「S(7月までに整備)」「A(12月までに整備)」「B(可能であれば整備する)」「C(オンライン申請に適さないもの)」という優先順位をつけ、各課へ同サービスの使用方法をレクチャーしながら環境整備作業をしてもらい、年度末にはS及びAの84手続きのうち、74手続きについてオンライン申請ができる環境を整備することができました。オンライン申請は、自宅で手続きができるので住民にとってメリットがあるほか、オンライン申請が増えることによって手続き情報が電子化され、職員はRPAやExcelなどを活用し作業の効率化を容易に図ることができるなど、期待される効果は非常に高いです。しかし、現状では、オンライン申請ができる環境整備をしたものの、オンライン申請の利用率は非常に低い状況にあります。システム自体のUI(ユーザーインターフェース)に課題もあり、今後は、新システムの検討も含めて、オンライン申請の利用率を上げる取り組みが必要だと考えています。
 YouTubeでの情報発信については、まるデジ構想策定前の2020年5月から村公式チャンネルを使って私単独ではじめました。東海村の予算や目玉事業、税金や保険、特産物や公共施設のPRなど、東海村に関わるものであれば何でも解説する5~10分程度の動画を作成し、配信しました。特に、新型コロナワクチン接種の予約方法やスマートフォンで確定申告を行う方法を解説する動画は、高齢者でもわかりやすいということで、担当課でも活用されたほか、住民の方々にも好評をいただきました。これまで50本程度の行政情報を配信し、また、保育所・幼稚園の先生たちも園児対象の動画を配信したこともあって、配信当初47人だったチャンネル登録者数は約2年で1,140人まで増加しました。地方自治体にとって、動画による情報発信は今後必須となる確信を得て、2022年度は動画の作成技術(企画、撮影、編集等)をもった職員の育成にも取り組むこととし、組織全体で動画による情報発信を強化していく予定です。
 その他にも、窓口でのキャッシュレス決済導入やAIチャットボットの導入など様々な取り組みを実施しています。

【YouTubeで行政情報を発信】

3. スマートワークの推進

 まるデジ構想2つ目の柱は「スマートワークの推進」です。ICTを活用した業務量削減と働き方改革を実現させる取り組みです。ここでは、BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング:業務変革)による業務量削減の取り組みを紹介します。
 図は2021年度に実施したRPAやExcelマクロを使った業務量削減の結果で、7業務について作業時間を607時間削減しました。2020年度にも2業務について439時間削減しているので、2年間で1,046時間削減していることとなります。業務量削減の手段としては、RPAやマクロを活用しましたが、取り組みに当たっては業務内容や業務フローを可視化して再構築するBPRという手法を用いました。全課から改善したい業務を募集し、ヒアリングにて業務フローを可視化した上で、RPA等に代替できるものは代替し、新しい業務フローを構築していく手法で取り組みました。ヒアリングした業務は87業務を数えましたが、実際に業務量削減に繋がったのは9業務でした。役場全体では、少なくとも4,000を超える業務数があると推測されるので、それらを1つ1つ可視化し、削減効果の高い業務から集中的にBPRに取り組んでいくことができれば、より効果的・効率的な業務量削減に繋がるのではないかと考えました。

【2021年度に実施した業務量削減結果】

 そこで、上記取り組みと並行して取り組んだのが、株式会社日立システムズ様とのBPR共同研究です。2021年5月から2022年2月までの間、3課を対象に、568業務の業務内容(作業時間含む)や業務フローを可視化し、その中から33業務について5,078時間の削減案を創出しました。この研究結果により、同じ手法を全課に用いれば、理論上52,000時間の削減案を創出できることが立証されたことから、共同研究を継続することとし、2022年度は全課を対象としたBPRを展開する予定です。ただし、創出した削減案を実行できなければ「絵に描いた餅」になってしまうことから、全庁的な実行体制や仕組みを構築することも共同で研究していく予定です。これらの取り組みは、人口減少社会を迎えた地方自治体が抱える組織課題に対するアプローチであるため、全国的にも注目されていくと考えています。
 BPRは、現在行っている業務内容や業務フローを可視化し、それを再構築することで業務量を削減し、生産性の向上や労働時間の短縮を実現させるものですが、「何のためにこの作業を行うのか」「目的を達成するために必要な作業は何なのか」を各職員が考え、課や部の枠を超えた職員間での対話を通して業務フローを再構築していくことで、職員や組織全体の意識改革が進むのではないかと考えています。職員一人一人が組織の目的や価値観をしっかり持ったうえで、デジタル技術を駆使してはじめて、デジタルによるトランスフォーメーションが実現できると考えているので、BPRはDXでめざす「新しい役場への転換」の土台のようなものです。
 その他にも文書管理システムの導入による行政文書のデジタル化やペーパーレス化、テレワークシステムの導入による職員の柔軟な働き方の実現なども並行して進めています。

【2021年度に実施した株式会社日立システムズとの共同研究結果】

4. デジタル対応社会の実現

 まるデジ構想3つ目の柱は「デジタル対応社会の実現」です。デジタル技術を駆使して便利なサービスを提供することができたとしても、それを利用できない住民が生じては意味がありません。そこで、喫緊の課題として取り組んでいるのが、スマートフォンの活用支援に特化した高齢者のデジタルディバイド対策です。
 2021年に村が実施したスマホ実態調査では、「前期高齢者のスマホ所有率は66%、うち33%が活用していない」「後期高齢者のスマホ所有率は43%、うち45%が活用していない」という結果がでており、村が推進するDXによるメリットを享受・実感してもらうためには、スマホを所有する高齢者の増加とスマホ所有者の操作スキルの向上が必要であると考えました。
 まず、スマホを持っていない高齢者を対象に、「シニア世代スマホデビュー応援事業」を2021年10月から2022年2月まで実施しました。この事業は、3Gフィーチャーフォン(通称ガラケー)を使用している高齢者がスマホを購入した際、指定のスマホ講座を受講することを条件に、購入費用を最大2万円助成する事業です。併せて、スマホ体験会を21回開催し、事業利用者の掘り起こしも行いました。
 また、すでにスマホを所有している高齢者には、民間事業者の協力や総務省デジタル活用支援推進事業を利用し、公民館や地域に出向いてスマホ講座を開催しました。その他にもちょっとしたスマホ操作に関する疑問を解消したいなどのニーズに応えるべく、東海村社会福祉協議会と連携したスマホ相談会も開催しました。毎回、スタッフで対応しきれないほど多くの住民が訪れることから、高齢者に対するスマホ活用支援のニーズは非常に高いことを実感しています。

【スマホ相談会"ぷらっとスマホ広場"】

 2022年度は、スマホ講座を拡充するとともに、役場やコミュニティセンターなどの公共施設にスマホ相談窓口を試験的に設置することを検討しています。同時に、地域での共助の輪を広げるため、住民のスマホサポーターを養成し、その方たちが地域でボランティアとして活躍していただく取り組みも展開する予定です。

 5. 今後のまるデジ構想推進に向けて

 2021年から本格的にデジタル化推進を開始し、まず、あまり手間がかからず利便性を実感できるツールをいくつか導入し、局所的な変化のインパクトを役場内に起こしました。現在は、これまでの業務フローや働き方、サービス提供の形をガラッと変えるデジタル技術を導入していく段階です。ただし、DXは、デジタル技術の導入が目的ではありません。それらをどう活用すれば住民サービスが向上し、地域全体の最適化につながるのか、その感性・考え方が一人一人の職員や組織に根付いたとき、役場はさらに上の段階に突入し、組織のOSがアップデートされ、「新しい役場」に「転換・トランスフォーメーション」することになると考えています。そのための戦略を描き、仕掛けていくことは、非常に高いプレッシャーもかかりますが、住民にとって暮らしやすいまちづくり、職員にとって働きやすくやりがいのある職場づくりの一翼を担っているんだという使命感のもと、これからも全力疾走で取り組んでいきたいと思います。