【レポート】

第39回静岡自治研集会
第9分科会 SDGs×生活×自治研

 鳥海山・飛島ジオパークは、2016年9月に日本ジオパーク委員会(JGC)(※1)の認定を受けて以来、2021年に行われた4年に1度の再認定審査においても活動が評価され再認定を受けている。秋田県と山形県にまたがる鳥海山・飛島ジオパークの地域における役割と将来像の考えを踏まえたうえで、ジオパーク活動の現状と課題についてレポートする。



ジオパークの地域における役割と将来像
―― 鳥海山・飛島ジオパーク活動のこれから ――

山形県本部/酒田市職員労働組合・調査自治研究部 庄司 雄介

1. はじめに

(1) ジオパークとは
 ジオパーク(Geopark)とは、地球や大地を意味するGeoと公園を意味するParkを組み合わせてできた造語であり、ヨーロッパで誕生した地質遺産などの保全と活用を図るプログラムである。2004年にヨーロッパと中国が中心となって「世界ジオパークネットワーク」(GGN:Global Geoparks Network)が設立され、2015年にはユネスコの正式プログラムとして採択された。(※2)
 地球科学的意義のあるサイトや景観が保護、教育、持続可能な開発のすべてを含んだ総合的な考え方によって管理された、1つにまとまったエリアのことを表す。
 活動理念としては地域住民が主体となって、ボトムアップの活動を進め、活動を進める地域同士がネットワークとしてつながり、経験や知見を共有し、知恵を出し合って、持続可能な社会の実現をめざしている。
 2021年4月現在ジオパークとして認定されている数は、日本を含む世界44カ国169地域がユネスコ世界ジオパークとして認定されており、日本からは、洞爺湖有珠山、糸魚川、島原半島、山陰海岸、室戸、隠岐、阿蘇、アポイ岳、伊豆半島の9地域が登録されている。世界ジオパークとして登録されるには、ユネスコの基準を満たす質と活動実績を有していることが条件となる。

(2) 鳥海山・飛島ジオパークについて
 山形県・秋田県にまたがる活火山「鳥海山(ちょうかいざん)」と、鳥海山の西方約30kmにある「不思議の島 飛島(とびしま)」を含む「鳥海山・飛島ジオパーク」は2016年に日本ジオパークに認定された。そして、2021年に行われた4年に1度の再認定審査においても活動が評価され再認定を受けている。「日本海と大地がつくる水と命の循環」をテーマに、鳥海山の溶岩と岩なだれによって作り出された景観や日本海と鳥海山が生み出す水の恵みを感じられるほか、飛島の大地の歴史と文化を楽しめる「海」と「山」、「島」のジオパークである。
 また、構成市町村として山形県側は「酒田市」と「遊佐町」、秋田県側は「にかほ市」と「由利本荘市」の3市1町で構成している。構成市町村の職員と研究員で構成される鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会(以下推進協議会)を組織しジオパーク活動全体の統括やエリアをまたぐ事業などを行っている。事務所を「にかほ市観光拠点センターにかほっと」内に設置し3市1町の行政職員が各1人配属されているほか研究員3人を採用し活動している。
 筆者は2019年酒田市交流観光課に配属後酒田・飛島エリアのジオパーク業務を担当。その後2021年に鳥海山の麓である八幡総合支所地域振興係に配属しジオパークや鳥海山を活用した観光振興に関する業務を行っている。

図1 鳥海山・飛島ジオパークの位置


図2 鳥海山・飛島ジオパークのロゴマーク
図3 鳥海山・飛島ジオパーク鳥瞰図のタペストリー

ジオパーク活動を推進する酒田市交流観光課が入る市役所6階で展示している。左下が本土から約39km離島の飛島。


図4 鳥海山

  図5 飛島(舘岩からの眺め)
 

2. ジオパークが地域でめざす役割とジオパークがめざす地域の将来像

(1) ジオパークが地域でめざす役割
 地域住民が自分たちの地域に誇りを持ち地域と住民の一体感を強化していくために歴史と現代社会における地域の地質遺産の重要性について住民意識を高める役割や、地域・観光振興面で地域の地質資源を保護しながらジオツーリズム(※3)を通じて新たな収入源を生み出し、革新的な地元企業や新しい雇用、質の高い研修の機会を創出していく役割を担うことをめざしている。

(2) ジオパークがめざす地域の将来像
 鳥海山・飛島地域では、人口減少・少子高齢化問題、地球規模での経済・産業構造の変化への対応、地方財政の健全化、地方経済の長期低迷、地方産業の長期停滞・空洞化、中心市街地の求心力の低下と過疎化など、様々な課題を抱えている。このようななか、本地域では地域の財産を守り伝えようとする住民の主体的なジオパーク活動によって、地域を元気にしていくための将来像としては以下の6点を掲げ活動を推進している。
① ふるさとを知る
 鳥海山と飛島の成り立ちやその恵みをジオサイトとして、地域住民や来訪者に紹介していく。鳥海山に降る雨雪が山体内部に深く染み込み、数十年の時を経て大地や日本海に再び溢れ出す。本地域には、このような「水と命の循環」という営みが脈々と繰り広げられてきた。この自然の営みを理解することは、地域に生きる私たちの原点を知ることである。地域の発展は、住民の「本当にここに住みたい」という強い意志の醸成が必要で、その第一歩が「ふるさとを知る」ことであり、ジオパーク活動の根幹を担う部分である。
② ふるさとを共有する
図6 ジオパークの役割と地域の将来像
(鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会HPより抜粋)
 鳥海山・飛島ジオパークエリアは、鳥海国定公園区域と日本海を含む広大なエリアである。鳥海山・飛島ジオパークエリアが抱える様々な課題の解決とめざすべき地域の将来像の実現に向けて、自治体の垣根を越え一丸となって取り組んでいる。自治体単体で行われている行政活動を広域化することにより、スケールメリットが発揮され、人と情報が行き交うことにより、様々なアイディアや手法をも共有することができる。これにより、単体自治体のまちづくりの限界を超え、環鳥海山の一体感を醸成できる。
③ ふるさとを守る
 鳥海山と飛島、日本海が持つ愛すべき自然や景観、歴史と文化を守り引き継ごうとする活動に関わることによって、一人ひとりの住民が自信と誇りを持って暮らすことが可能となる。
④ ふるさとの賑わいを創る
 地域振興はジオパーク活動の軸となる活動である。日本経済の低迷、産業の空洞化、経済のグローバル化への対応は、ジオパーク活動を通じて、既存の産業の磨き上げをはかるとともに、教育旅行や来訪者の新たな掘り起こしによる交流人口の拡大、ジオパークに取り組む地域が持つ安全で安心できるブランド力を生かした食の活性化を図り、自立的な経済圏域をつくることへつなげることができる。具体的な取り組みとしてジオパークを楽しみ、ジオの恵みを活かした地域の産業振興をはかる鳥海山・飛島ジオパーク認定商品「ぺろっと 鳥海山・飛島 ~たのしくおいしいものがたり~」がある。

図7 鳥海山・飛島ジオパーク認定商品制度
「ぺろっと 鳥海山・飛島
~たのしくおいしいものがたり~」

  図8 認定商品「季節の彩りランチ」
 
(鳥海山・飛島ジオパーク推進協議会HPより抜粋)
⑤ ふるさとを伝える
 ジオパーク活動に取り組むことにより、ふるさとを伝えることができる「ジオガイド」を養成する。このジオガイドは、地域の成り立ちをテーマに基づいたストーリーを組み立てて来訪者、地域住民に伝えることができる能力を養う。「伝える」とは、後世に今を正確に伝えることができる能力で、伝承により今を未来につなぐ役割を担い、その能力が地域に普及することにより、活発な地域情報の発信が可能となる。
⑥ ふるさとの災害に備える
 悠久の大地の営みは、住む人々の命と地域の活動を何のためらいも無く根こそぎ奪う時がある。現代社会においても、この大地の営みを止めることはできず、過去の大地の営みは、記憶装置として多くの痕跡をこの地に残している。今後起こりうる災害の規模を推測し、私たちの生命と築いてきた財産、伝承されてきた文化や歴史を守ることが可能となる。

3. 酒田・飛島エリアの活動の現状と課題

 前述のとおり、ジオパークが地域でめざす役割や地域の将来像を達成するためにも、行政だけでなく住民が主体となった活動に取り組む必要がある。現在活動の中心を担っているのが認定ジオガイドであるため、ここでは主に酒田・飛島エリアでのジオガイドの活動の現状と課題について述べる。

(1) ジオガイドの会とは
 ジオパークを多くの市民や観光客に知ってもらうために活躍する人々がジオガイドである。2015年6月より開講した「ジオガイド養成講座」は、初級編(初年次)と上級編(2年次)からなり、上級編を修了することで鳥海山・飛島ジオパーク認定ジオガイドとなる。上級講座は酒田・飛島エリア、遊佐エリア、にかほエリア、由利本荘エリアの4エリア毎にあり、認定もエリア毎行う。2022年4月現在全エリア合わせて68人の認定ガイドが在籍している。(内、酒田・飛島エリアは46人)
 認定ジオガイドで構成する「鳥海山・飛島ジオパークジオガイドの会」(以下ガイドの会)は、主にエリア毎で活動を行っており、それぞれ役員を選出し活動内容等決定している。また、日常の活動としては有料でのガイド業務、推進協議会が企画する事業への協力、学校等への出前講座対応など行っている。

(2) 活動の現状
図9 ミニ飛島講座
(定期船とびしま2階デッキにて)
 
図10 飛島海岸遊歩道清掃・点検作業
 
図11 トビシマカンゾウ保全作業
 
図12 クロマツ林保全
(Save The クロマツ)
 酒田・飛島エリアのガイドの会が関わる活動については以下のとおりである。
① ジオガイドの派遣事業
 出前授業やジオツアーなど要望に合わせたジオガイドの派遣を行う。
② ミニ飛島講座開催
 ジオパークの一部である山形県唯一の有人離島飛島と本土側の酒田市を結ぶ定期航路事業所とガイドの会の連携事業。飛島行の定期船内(酒田発1便)にて、鳥海山・飛島ジオパーク認定ガイドが飛島のジオサイトなどの見どころを解説している。
③ ワンコインガイド
 前述②のミニ飛島講座後の飛島島内を大人ひとり500円、子ども(中学生以下)は無料で島内の見どころを認定ガイドが案内する。
④ 飛島海岸遊歩道清掃・点検作業
 ガイドの会有志で飛島に観光客が訪れ始める5月の大型連休前に、飛島の海岸遊歩道の清掃・危険箇所の確認を行っている。
⑤ トビシマカンゾウ保全
 飛島海水浴場もある小松浜において、酒田市所有の土地をトビシマカンゾウ(※4)の新たな群生地にするため2017年から島民と連携し保全作業を行っている。市広報で一般参加者を募集し定植地の草刈り、カンゾウの植え込み作業を行っている。
⑥ クロマツ林保全(Save The クロマツ)
 2019年から実施。NPO法人庄内海岸のクロマツ林をたたえる会(※5)を中心とした海岸林保全活動。参加団体として鳥海山・飛島ジオパークガイドの会、山形大学農学部、東北公益文科大学、酒田ロータリークラブなどが参加している。「庄内海岸松原再生計画」(※6)の基本方針である"多様な主体の協働による保全活動の推進"の実践活動として実施。

(3) 活動の課題
① 地域間・エリア間連携について
 鳥海山・飛島ジオパークは山形県・秋田県にまたがる3市1町の広域エリアで構成しているため、エリアそれぞれの特色を生かしながらの単体の活動は着実に進めてきているが、地域間・エリア間連携の活動については進んでいない現状がある。ジオパークの活動理念でもある「地域同士がネットワークとしてつながり、経験や知見を共有し、知恵を出し合って、持続可能な社会の実現をめざす」ことを達成するためにも、今後地域間・エリア間連携の活動が求められてくる。活動の主体となるガイドの会は認定ガイドの人数が増え、活動へ関わることができる人の母数は確実に増えている状況がある。また、少数であるが複数エリアの認定資格を取得し活動しているガイドもおり、エリア間・ガイド間での情報交換等は十分可能とみられる。
 地域間・エリア間連携の活動が増えにくい要因としては、ジオパークの見どころが地質学的なスポットとなることから市街地から離れたところに点在しているため線として活用しづらい点があげられる。
② ジオパーク活動の一般化
 現在ジオパーク活動に携わっているのは行政・教育関係者とジオガイドと限られている。また、「ジオパーク」のイメージが一般住民にとって専門的で敷居が高いと思われていることもあり、活動が広がらない現状がある。
 また、活動が広がらないもう一つの要因として、地域でのジオパーク活動がまだ商いとして成立していないため、企業等が参入しづらいこと、ジオパーク活動にかかる費用を助成する制度等がないことなどが考えられる。
 一方で、鳥海山・飛島ジオパーク認定商品制度「ぺろっと 鳥海山・飛島 ~たのしくおいしいものがたり~」では2022年現在、加工品、飲食店メニュー合わせて58品目登録されている。登録している企業とのつながりを深める取り組みも検討されていたが、制度を創設した推進協議会も行政職員で構成されていたため一歩踏み込んだ取り組みを推進できなかった。しかし、2022年3月に一般社団法人格を取得したため、今後新たな取り組み等に期待したい。

4. まとめ

 ジオパーク認定から6年が経過し、「ジオパーク」という単語は市民に周知されたが、実際の活動や意義について説明できる地域住民が少なく、地域住民がジオパークをまだまだ活用しきれていない現状がある。しかし、鳥海山・飛島ジオパークの再認定試験において「地域住民やステークホルダーの参加が着実に進んだ」との評価も受けており、ガイドの育成など着実に活動は前進していると感じる。地域間・エリア間連携やジオパーク活動自体の一般化など課題は多くあるため、これまでの活動で培った経験や関係者が連携し課題解決に向けて取り組みを着実に進めていくことで、地域住民の活動になっていくことが期待される。
 また、鳥海山・飛島ジオパーク自体、次のステップとして世界ジオパーク認定をめざしている。世界ジオパークの管理運営団体には法人格が求められていることを確認したことから事前の準備として推進協議会が2022年3月に一般社団法人格を取得した。このように活動の主となる組織の大きな変更もあり、今後の活動拡大のための下地準備は整いつつある。
 今後さらにジオパーク活動を発展させ、地域における役割とめざす将来像を達成していくためにも、これまでの活動は継続しつつ、次のステップを見据えた課題の解決について「鳥海山・飛島ジオパーク」という山形県と秋田県をまたぐ広域かつ貴重なネットワークを活かして活動を推進していくことが求められる。



※1:日本ジオパークネットワーク(JGN)は、日本国内のジオパークとジオパークをめざす地域をサポートし、ジオパークのネットワーキングの軸となる特定非営利活動法人(NPO法人)。日本ジオパークの認定機関で4年に1度の再審査を行っている。
※2:「ユネスコ世界ジオパーク」は、国際的に価値のある地質遺産を保護し、そうした地質遺産がもたらした自然環境や地域の文化への理解を深め、科学研究や教育、地域振興等に活用することにより、自然と人間との共生及び持続可能な開発を実現することを目的とした事業。ユネスコの国際地質科学ジオパーク計画(IGGP)の一事業として実施されている。
※3:ジオツーリズム(英語:Geotourism)とは単なる美的な鑑賞眼のレベルを超えて、ある場所の地球科学的な現象に対して興味や関心を持ち、知識と理解の獲得をめざす観光をいう。
※4:トビシマカンゾウとは山形県酒田市の飛島と新潟県佐渡島の2か所にのみ分布すると言われている多年草。かつて飛島一面に群生し江戸時代には「吉野の桜にも劣らない」と高い評価を得ていた。しかし、電気やガスの普及により葦やイタドリを燃料として採取しなくなったこと、島民数の減少と高齢化により除草作業が行われなくなったことにより数を減らし、島一面の群生が見られなくなった。
※5:NPO法人庄内海岸のクロマツ林をたたえる会とは、公益の理念によって先人が植栽し、今も公益の役割を果たしている庄内海岸のクロマツ林を理解し、啓発に努めその環境を保全し、健全で有用な砂防林として未来に引継ぐことを目的とする団体である。
※6:庄内海岸松原再生計画とは「松原を保全することの重要性を広くPRしていくこと」、「松原の保全に取り組む人たちを支援すること」、「子どもたちを松原に親しませていくこと」を通して松原を再生し、再び元気にしていく「日本の松原再生運動」を立ち上げ、全国の松原をつないでいく「日本列島松回廊構想」が財団法人日本緑化センターより提案され、「平成18年度日本の松原再生事業」に応募したところ採択を受け、庄内海岸砂防林再生計画を策定したもの。