【レポート】

第39回静岡自治研集会
第9分科会 SDGs×生活×自治研

 私たちの働く市、西東京市の条例"西東京市子ども条例"(2018年10月1日施行)の前文には「わたしたちは、まち全体で子どもの育ちを支える、子どもにやさしい西東京をともにつくっていきます。(中略)わたしたちは、とりわけ困難な状況にある子どもや多様な背景をもつ子どもの尊厳や参加を大切にするまちにしていきます。(中略)子どもは、いじめ、虐待、貧困等の困難な状況について、まち全体で取り組まれ、そのいのちが大切に守られます。(後略)」と謳われています。本レポートは私たち西東京市職員労働組合、西東京市自治研センターもその条例化のために労苦を惜しまず行政内外に働きかけ続け、やっと施行にこぎつけたこの条例の理念に基づき、コロナ禍で困窮する子どもや保護者のために、2年間、市民と協働し、切れ目なく活動してきた日々をレポートにまとめたものです。私たちはこの活動を通じて西東京市子ども条例の理念が息づく西東京市を、市民と共に作り続ける事こそが自治体職員の労働組合の役割であることを実感することが出来ました。本レポートをまとめたことでそのことに、改めて気付く機会になったことに感謝しています。



コロナ禍で子ども支援に立ち上がる市民との協働
―― 西東京市子ども条例の理念を活かすまちづくり ――

東京都本部/自治労西東京市職員労働組合・西東京自治研センター 相馬 明美

1. コロナ禍での組合のサークル活動
 「子どもたちに 安心して遊べる手づくりおもちゃで 安全にすごしてもらいたい」

(1) 「ワイワイトーク」というサークル活動
 「ワイワイトーク」は、1981年に発足した「障害児保育を考える会」という旧保谷市職員が作ったサークルの名称です。保育園に入所した障害児のことを学習するサークルだったのですが、広く子育てや保育について学ぼうと、サークルの名称を1996年「ワイワイトーク」と改名して今日に至ります。現在、西東京市の職員が運営しており、事務局を設けて、講演会、学習会、ワークショップなどを企画、実施しています。「ワイワイトーク」は、公立保育園の保育士、公立の児童発達支援センターの指導員など子育てに関係する職員が、保育や障害児の療育を学んでいる文化サークルで、西東京市職員労働組合の補助金交付サークルです。

(2) コロナ禍でのサークル活動
 2020年度以降、講師を招いての講演会、学習会は実施が難しくなりました。皆でワイワイ集まって、手作りおもちゃや教材を作り、新しく入った保育士や指導員に手作りおもちゃの作り方や遊び方を伝えることができなくなりました。そのような時、職員組合の執行委員長から、台風で被害にあった仙台市丸森ひまわりこども園へ、絵本などを送りたいが何がいいだろうと聞かれました。それなら、ワイワイトークのメンバーが得意な裁縫の技術を活かして、手作りおもちゃを作成し、それを送ってはどうかと提案しました。早速、おもちゃを作り、送ると、こども園では「手づくりおもちゃで遊ぶコーナー」を作って下さり、子どもたちが笑顔で遊んでいる写真を送ってくださり、サークルのメンバーは、大変嬉しく思いました。仙台以外にも、組合とつながりのあった福島県新地町へ復興支援フェスティバルのゲームの賞品として、手作りおもちゃを送りました。購入したものではなく、組合員の手作りのおもちゃということで、こちらも喜ばれました。

(3) おうち時間で手作りおもちゃ作り
 みんなで集まってのサークル活動は難しくなりましたが、退職した組合員の中で裁縫が得意な方がいて、おもちゃ作りを手伝ってくれ、それぞれの自宅で、ワイワイトークにて開発した手作りおもちゃや教材などをたくさん作成しました。

2. フードパントリーでの取り組み

(1) フードパントリーで手作りおもちゃを渡す。
 こども食堂を開催していた西東京市内の市民団体の方々は、2020年、東京都の緊急事態宣言下では、こども食堂を開くことが難しくなり、食材配布の「フードパントリー」を実施することにしました。
 ワイワイトークのメンバーは、フードパントリーへの支援ということで、手作りおもちゃ以外にも手作り布マスク、手作りエコバッグなどもたくさん作り、直接フードパントリーに出向いて市民の方々に渡しました。

(2) フードパントリーを実際に行っている方達の想いに触れる
 緊急事態宣言が延長になり、自分自身がいつコロナに感染するか分からないという時に、1週間に2日もフードパントリーを続け、実際に実施なさっているスタッフ、学生ボランティアの方達には、頭が下がる思いでいっぱいでした。
 1時間のフードパントリーに100人を超える市民が来ました。子どもたちや大人の方々の切実な声を丁寧に聞き取り、食材を必要な方々に届けたいという関係者の想いに、深く共感しました。

(3) フードパントリーに来ている市民の方達の声を聞く。
 直接、フードパントリーに足を運ぶ市民の方々の様子を見ていますと、サークルのメンバーが作った布マスクやエコバッグの中から、お母さま方は、明るい優しい柄のマスクやバッグを選びます。次のフードパントリーまでにお母様用に明るく優しい柄の生地を購入し、マスクを縫いました。「パパのマスクが欲しい」と言うお子さんがいたので、男性用の柄で、大きめのマスクを縫って用意しました。子ども達は、保護者の方が食材をもらっている間、寄付されたおもちゃコーナーの中を必死になって探しています。そして、ボロボロに擦り切れたミニカーやキーホルダーを持って帰るのです。子どもたちは、お家で遊べるおもちゃや、持っていて安心できるもの、少しでも笑顔になれるものが欲しいのかなと思いました。
 そこで、手作りおもちゃ(布ボール、フェルトの電車、ひも通し、抱き人形、手指の教材など)を作成し、フードパントリーに来た子どもに渡しました。前回配った手作りの刺繍がされてある髪留めをつけてきた女の子がいました。気に入って大切に使ってくれているのだと思うと嬉しくなりました。子ども達が好きな柄のマスクは、大人気ですぐに無くなります。マスクだけでなく、子どもたちが好きそうなキャラクターのキーホルダーや、バッグなども、縫って作りました。食材で、お腹を満たし、手作りの作品で少しでも心を満たして欲しい、少しでも明るい気持ちになって笑顔でいて欲しい。そういう気持ちで、どのメンバーも心を込めて縫いました。

ワイワイトークの手作りマスクと
バッグをもらった参加者
クリスマスプレゼントを渡す自治研メンバー

3. こども食堂げんきでの取り組み
 「さらに安心して過ごすためのお手伝いを」

 2021年度、西東京市でこども食堂を再開する所が増えてきました。そして、2021年6月に「こども食堂げんき」という名前のこども食堂が新しく開催されるようになりました。西東京市職員労働組合自治研センターのメンバーは、市内の子ども食堂への支援を継続して実施しています。自治研センターのメンバーから、こども食堂げんきで、イベントがあるからワイワイトークのメンバーに手伝ってほしいと言われたので、こども食堂げんきに直接出向きました。そして、実際に実施している主催者や、ボランティアの方々、利用している市民の方々と交流しました。
 こども食堂げんきで、60食分の食事を用意する主催者やボランティアの方々は、当日の朝早くから、から揚げや、カツなどの揚げ物を揚げ、ご飯、サラダ、汁物、煮物など季節感あふれる栄養たっぷりのお昼ご飯を作ってくださいます。感染症対策をしているので、1回8人ずつの入れ替え制となっています。そのため、保護者や、子どもたちは、玄関の外で待つことになります。その待ち時間の間に、「虫ひろば」と称して、中学生のボランティアの男子学生が、家庭で育てているカブトムシやクワガタなどの昆虫を持って来てくれました。子どもたちは、珍しい昆虫を見たり触って歓声を上げています。地域のボランティアの方々が作ったバッグや、ワイワイトークのメンバーが作ったキャラクターのマスコットキーホルダーや、手作りおもちゃを見ながらおしゃべりしている間に、食事をする順番が回ってきます。

4. 西東京市子ども条例とこども食堂

(1) 【子ども】
 「子どもが自由に『意見表明』することができるきっかけをつくる」


 西東京市の2018年10月に施行された「西東京市子ども条例」の前文です。

 『子どもは、自分の意見を自由に表明することができ、自分に関わることやまちづくり等に参加することができます。』

 こども食堂げんきで、順番を待っている子ども達との交流。子ども達が好きなキャラクターのマスコットを作り、「どれ知ってる?」「どれが好き?」とか聞くと、子どもは言葉を話せなくても、指をさしたり、触って意思表示をします。「好きなもの1つ、お家へ持っていっていいよ」と言うと、子どもたちは嬉しそうにカバンにしまっています。子どもと気持ちを通わせ、子どもの心の奥にある本音を表現してくれるようになるまでには、大人側のしかけが必要です。子どもが好きなことや得意な事から会話の糸口を見つけ、丁寧に寄り添うことが大切だと言われています。子どもが「これ知ってるよ」「○○大好きなんだよ」と言ったら、そこから会話が始まります。
 私が子ども食堂に、子どもが好きそうなジャンル(電車、昆虫)やキャラクターのマスコットを作っていくのは、こんな会話の糸口になるのではないかと考えているからです。
 私の勤務している公立の児童発達支援センターには、市内の発達に支援が必要な子どもが何百人も相談、療育に来ています。言葉が話せない子ども、身体の不自由な子ども、さまざまな子どもと心を通わせるには、その子の興味のある物(電車や好きなキャラクターのついているおもちゃなど)を見せて、一緒にそれで遊んで、その子と仲良くなることからはじめていきます。
 こども食堂での市民と子どもの会話の中から、子どもが「自分の意見を自由に表明することができる」小さなきっかけが生まれるといいのではと思いました。

こども食堂げんきで子どもを見守る自治研メンバー

(2) 【おとな】
 「おとなは、子どもの過ごしやすい居場所をつくり、子どもたちのことに気づき、支援していく」


 西東京市子ども条例の前文です。
 『おとなは、子どもに寄り添いながら、子どもが遊び、学び、その他の活動ができるよう子どもの育ちを支えます。』
 おとなは、子どもに寄り添いながら、子どもの育ちを支えていくには、どのようにしていけばいいのでしょうか? 学齢期になると、保護者は、学校でいい成績を取って欲しい、先生の言うことを聞いて欲しい、という願いが前面に出る方が多いような印象を受けます。保護者、学校の先生の中には、おとな目線で、子供たちの将来のためにという目標を掲げ、勉強、勉強と言う方がいます。そのような中で、「そうだよね」「つらいこともあるよね」「わからないこともあるよね」「難しいのなら、一緒にやってみようか」というおとなが、子どもの目線まで降りて行って、寄り添う態度や言葉がけが大切だと考えます。
 こども食堂では、子どもがご飯を美味しく食べて、笑顔になる事だけを、おとなは願っています。温かい優しい地域の人たちのおとなの眼差し、寄り添う心が、自分の子どもだけでなく、「まち」のすべての子どもたち、世界中全ての子ども達に注がれていると感じました。

(3) 【地域】
 「地域は、子どもが安心して生きていくことができるように支援していく」


 西東京市子ども条例の前文
 『地域は、子どもの育ちを支えることで、子どもと市民のふれ合いをすすめ、子どもが安心して生きていくことができるよう支援しています。』

 こども食堂では、子どもと市民のふれあいは、自然な感じがします。ただ、おいしいご飯を食べ、いまは、コロナの感染症対策をしなくてはいけないので、黙食ですが、マスク越しであっても、「おいしいね」と言葉を交わしながら、「きょうね、学校でね、おうちでね、こんなことあったの」「へー、そうなんだ」「どんな感じだった?」「嬉しかったよ」「悔しかった」「面白かった」「悲しかった」「楽しかった」そんな風に語り合っています。
 おとなと子どもが「ふれあい」をして関係をより深めて行って欲しい。西東京市の子どもたちが、そんな優しい温かい地域の中で、安心して、育ち暮らしていって欲しい。
 特に私は、児童発達支援センターに勤務していることから、どのような重い障害がある子どもでも、どのような厳しい事情が家庭にある子どもでも、「自分らしく、一人一人かけがえのない存在として輝いて欲しい」と願っています。
 また、私自身が、組合のサークル活動をしながら、自治研センターのメンバーとして、こども食堂で活動をしながら、西東京市という【地域】で子どものことを温かく優しく見守り、子どもが安心して生きていくことができるように支援する【おとな】でありたいと思いました。

(4) 【連携・協働】
 「みんなで、連携・協働して子どもの育ちを支援していく」


 西東京市子ども条例第4条
 『市、保護者、育ち学ぶ施設の関係者、市民及び事業者は、お互いに連携・協働して子どもの育ちを支援するものとします。』

 2022年5月に、西東京市子ども食堂推進事業と言う名称で、こども食堂について、市が事業の経費の一部を補助する制度ができました。西東京市では、「安定的な実施環境の整備及び地域に根差した活動を支援するとともに、子どもの居場所と見守りに取り組み並びに支援が必要な子どもとその過程の把握を行ない必要な支援につなげる取り組みを推進する」事業に取り組んでいます。
 2022年4月に、こども食堂げんきを実施している場所で、「げんきひろば」という不登校などのサポートが必要な子どもの居場所を開催しました。「こどもは誰でも来ていいよ。折り紙でコマをつくる工作教室をしています。宿題をしてもいいよ。ゲームもできるよ。お友だちと来てもいいよ。」というチラシを多くの方に配りました。
 初めて実施した日、雨の降る中、1時間たっても誰も来ませんでした。雨があがったその時、こども食堂げんきに毎回来ている女の子3人が「げんきひろば」に顔を見せました。「学校から帰ってすぐきたの。」「宿題やってもいい?」こども食堂げんきの会員証代わりである「げんきバッグ」に、ワイワイトークのメンバーが作ったマスコットのキーホルダーをどの子もつけて。
 こども食堂げんきの主催者、不登校の子どもの支援団体の方々、社会福祉協議会の方々、ボランティアの方々、自治研センター及びワイワイトークのメンバーが手を取り合って喜びました。
 お互いに連携・協働ができたことを感じた瞬間でした。
 この連携・協働を今後も継続していく、より多くの【おとな】や【地域】の方々に広げていくことが、今後の課題だと思われます。