【レポート】

第39回静岡自治研集会
第9分科会 SDGs×生活×自治研

 国は、2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年度の水準から46%削減することを目標とし、再生可能エネルギーの最大限の導入促進をめざしています。2019年4月には、「再エネ海域利用法」が施行され、一般海域での洋上風力発電事業の実施にあたり発電事業者による海域の長期占用が可能となりました。この法律に基づき、現在、銚子市が推進する洋上風力発電事業の取り組みについて報告します。



銚子市沖における洋上風力発電事業について


千葉県本部/自治労銚子市役所職員労働組合

1. はじめに

 銚子市は、関東平野の最東端に位置し、三方を太平洋と利根川に囲まれ、利根川河口から屏風ケ浦に至る海岸線は、砂浜あり、岬あり、断崖絶壁ありと、変化に富んだ雄大な景観美を織りなしています。
 また、全国屈指の水揚げ量を誇る銚子漁港、「夏涼しく、冬温かい」気候を活かした農業、歴史と伝統を実感できる醤油工場、さらには、これらの産業基盤から産出される豊富で新鮮な食材や特産品といった多くの地域資源に恵まれたまちで、1933年には、県内で2番目に市制施行を果たすなど、地域における中核都市としてその整備を進めてきました。
 しかし、その後1965年の91,492人をピークに人口は減少に転じ、現在では56,979人(2022年6月1日現在)まで減少しました。市税収入は減少し、その一方で、高齢化の進行から社会保障費は増加しており、市の財政を取り巻く状況は年々厳しさを増しています。
 このような厳しい状況を打開すべく、銚子市では、2019年3月策定の総合計画において、銚子創生のための重点プロジェクトの一つとして自然(再生可能)エネルギー産業の活用促進を位置付け、雇用・税収の増加や地域経済の活性化が期待できる大規模な洋上風力発電施設の誘致に取り組んでいます。

2. 洋上風力発電とは

(1) 洋上風力発電の仕組み
 洋上風力発電は、風のエネルギーを電気エネルギーに変える発電方法で、風が吹く限り昼夜を問わず発電することが可能です。石油などの化石燃料を必要とせず、二酸化炭素排出量が極端に少ないことから、地球温暖化対策として非常に有効であるほか、大規模に開発することで発電コストを火力発電と同程度まで抑えることが可能であり、経済性も確保できる発電方法として期待されています。
 また、国土の狭い日本では、陸上での風力発電に適した地域が少なくなってきていることもあり、今後は、洋上風力発電の導入が進むものと考えられています。ヨーロッパでは、1990年代から洋上風力発電の導入に取り組み、特にイギリスやデンマークなどの北海周辺諸国での導入が進んでいますが、これは、北海のようなヨーロッパの海は、風況が良好であるほか、海岸から100kmにわたって水深20~40mの遠浅の地形が続くなど、現在の主流である基礎を海底に固定して設置する「着床式洋上風力発電」の導入に適した環境にあることが大きな要因です。

(出典:NEDO再生可能エネルギー技術白書/NEDO)

(2) 銚子市の自然環境について
 前述のとおり、着床式洋上風力発電の導入には、風況が良好であること、遠浅の地形が続くことが求められます。このことについては、2019年4月施行の「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律(以下「再エネ海域利用法」という。)」の運用の中でも、年平均風速7.0m/s以上、水深30m以浅であることが導入に向けた一つの目安として示されており、銚子市沖については、下図のとおり、年平均風速7.0m/s以上、水深20m程度の地形が続くなど、共に条件を満たしています。

(出典:NeoWinds洋上風況マップ/NEDO)

(3) 再エネ海域利用法について
 日本の領海のうち、その大半を占めているのは港湾区域や漁港区域などの指定を受けていない、いわゆる「一般海域」と呼ばれる海域です。これまで港湾区域における洋上風力発電事業については、港湾法に基づき、港湾管理者が発電事業者を公募することで、発電事業者に対して最大20年間(法改正により現在は30年間に延長)の占用を認めることが可能とされてきましたが、一般海域については、海域利用のための統一的なルールが存在しませんでした。
 そのような中、国は、さらなる再生可能エネルギーの導入促進をめざし、一般海域での洋上風力発電事業の実施にあたって、発電事業者による海域の長期占用などを可能とする「再エネ海域利用法」を施行しました。再エネ海域利用法に基づく海域占用までのプロセスは下図のとおりです。

(出典:経済産業省ホームページ)

 国は、2019年5月17日に「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るための基本的な方針(以下「基本方針」という。)」を策定しました。この基本方針では、再エネ海域利用法に基づき整備される洋上風力発電などの海洋再生可能エネルギー発電設備の導入にあたっての目標や基本的な事項が示されました。
 洋上風力発電設備の運転開始までのプロセスとして、まず、国は、促進区域の指定に向け、既知情報の収集を行います。都道府県は漁業者や市町村と調整の上、促進区域の候補地や地元関係者との調整状況、風況や水深、海底面底質などの保有する情報を国に対して提供し、その情報を基に、国は、早期に促進区域に指定できる見込みがある区域を「有望な区域」として選定します。有望な区域には、地元漁業者など海域の先行利用者や地元自治体、有識者などから構成される協議会が設置され、促進区域の指定に向けて関係者間での合意形成が図られることとなります。
 促進区域として指定された区域では、協議会の意見を取り入れつつ、経済産業大臣及び国土交通大臣により公募占用指針が作成され、発電事業者の公募が実施されます。
 公募により選定された発電事業者には、最大30年間の海域の占用が認められることとなり、発電事業者は環境影響評価などの必要な手続きを経て、建設工事に着手し、発電事業者選定後、概ね6~8年で運転を開始することとなります。
 なお、2022年5月末現在、銚子市沖を含め、長崎県五島市沖、秋田県能代市・三種町・男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(北側・南側)、秋田県八峰町・能代市沖の5か所(6区域)が促進区域として指定されており、銚子市沖については、2020年11月27日から発電事業者の公募を開始し、2021年12月24日に三菱商事エナジーソリューションズ株式会社を代表企業とするコンソーシアム「千葉銚子オフショアウインド」が選定されました。

(出典:経済産業省ホームページ)

3. 銚子市における取り組み

(1) 洋上風力発電実証研究について
 銚子市沖では、2009年8月から2017年3月までの約8年間にわたって国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と東京電力株式会社(現 東京電力ホールディングス株式会社)の共同事業により、銚子市の南沖合約3km地点において、国内初となる沖合での洋上風力発電実証研究が行われました。
 この実証研究は、洋上における風況や塩害に対する風車の耐久性の確認のほか、地震や台風といった日本特有の厳しい自然環境に対する安全性、環境への影響などを検証するために行われたものですが、銚子市沖は風況が良好であること、遠浅の地形が続くことなど、着床式洋上風力発電設備の導入に関するポテンシャルが非常に高いことも判明しました。
 当初、実証研究終了後、発電設備については撤去される予定でしたが、地元漁業者などとの協議を経て、運転を継続することとなり、2019年1月1日から東京電力ホールディングス株式会社による商業運転が開始されました。
 なお、商業運転にあたって、市では「銚子市漁業振興基金」を設置しました。これは東京電力ホールディングス株式会社が銚子市沖において洋上風力発電事業を継続するにあたって、銚子市漁業協同組合の協力や漁業操業への影響、漁獲対象物を含む魚介藻類の生態系への影響等を考慮して支出する資金を積み立てるために設置したもので、使途は漁業振興に資することに限定しています。今後、銚子市沖での大規模な洋上風力発電事業が実現した際にも、本基金を活用し、漁業振興や漁業共生につながる取り組みに活かしていきたいと考えています。

(東京電力ホールディングス株式会社が商業運転している銚子市沖洋上風力発電施設)

(2) これまでの経過について
 銚子市では、雇用・税収の増加といった地域経済の活性化が期待できる大規模な洋上風力発電施設の誘致をめざし、2017年4月に洋上風力推進室を設置しました。
 同年8月には、銚子市と銚子市漁業協同組合との合同により洋上風力発電事業に関して先進的な取り組みを行っている長崎県五島市を視察しました。この視察を通じて、地元漁業者と発電事業者、地元自治体が三位一体となって事業に取り組む姿を共有できたことが、銚子市と銚子市漁業協同組合が一丸となって銚子市沖における大規模な洋上風発電事業の推進に取り組む一つのきっかけになったと思います。
 その後、前述のとおり、銚子市漁業振興基金を設置するとともに、2019年1月1日から東京電力ホールディングス株式会社による実証研究設備の商業運転が開始されました。
 同年4月1日には再エネ海域利用法が施行され、一般海域の利用に関する統一的なルールが定められましたが、法律の施行に先立ち、同年2月、国は都道府県に対する情報提供の募集を開始しました。この際、銚子市沖について、銚子市漁業協同組合をはじめとした地元漁業者の協力の下、千葉県を通じて国に対する情報提供を行いました。
 2019年7月30日に、国は、促進区域の指定に向けて、既に一定の準備段階に進んでいる区域として全国11区域を整理し、さらに、その中で銚子市沖を含めた4区域を有望な区域として選定しました。有望な区域に選定された区域にはそれぞれ、地元漁業者や地元自治体、有識者などから構成される協議会が設置され、千葉県銚子市沖における協議会については、これまで3回開催され、促進区域の指定や発電事業の実施に向けた協議が行われました。
 銚子市からは市長が出席し、洋上風力発電導入に向けた留意事項として、地元や漁業との共存共栄に関することなどについて意見を述べ、洋上風力発電事業が銚子創生の起爆剤となるよう要望しました。
 同年6月16日には、協議会で出された意見や有識者などで構成される第三者委員会による促進区域基準への適合性評価などを経て決定した促進区域案について、国が公告・縦覧を開始しました。縦覧期間終了後、農林水産大臣、環境大臣等の関係行政機関の長への協議や千葉県知事、千葉県銚子市沖における協議会への意見聴取を経て、同年7月21日、銚子市沖が促進区域として正式に指定を受けました。
 同年9月16日には、銚子市漁業協同組合、銚子商工会議所とともに、洋上風力発電施設のメンテナンス事業や、視察受け入れ事業に取り組む事を目的として、「銚子協同事業オフショアウインドサービス株式会社(通称:C-COWS)」を設立しました。
 同年11月27日に、経済産業省及び国土交通省が、再エネ海域利用法に基づき銚子市沖促進区域における発電事業者の公募手続きを開始し、2021年12月24日に三菱商事エナジーソリューションズ株式会社を代表企業とするコンソーシアム「千葉銚子オフショアウインド」が選定されました。

(銚子市沖促進区域図)

4. 洋上風力発電に期待する効果について

 前述のとおり、銚子市では洋上風力発電事業を銚子創生のための起爆剤として捉え、銚子市沖への誘致を推進しています。具体的には、洋上風力発電事業を活用し、次の4項目に取り組むことで地域振興につなげていきたいと考えています。

(1) 名洗港を核とした地域振興
 銚子市沖の促進区域の眼前には、千葉県が管理する「名洗港」が存在します。名洗港は現在、港湾法に基づき、台風や暴風雨時に小型船舶などが避難停泊する避難港に指定されているものの、実際には堆砂が著しく、その機能を果たしていません。そこで銚子市では、この名洗港を整備し、О&М(運転管理・保守点検)の拠点として活用することで、地域振興につなげていきたいと考えています。
 一般的に、洋上風力発電の場合、20年以上にわたって発電事業が行われることとなりますが、発電設備を長期間使用するためには定期的なメンテナンスが欠かせません。特に、故障により洋上風力発電施設が停止してしまうようなことがあれば事業に大きな影響を及ぼすため、メンテナンスは発電事業における非常に重要な要素であると言えます。
 そのため、銚子市と銚子市漁業協同組合、銚子商工会議所が連携を図り、洋上風力発電施設の建設後の運転管理やメンテナンスを担う企業(C-COWS)を共同設立し、地元が主導する形で発電事業者とともに、地域経済の活性化や地元の雇用の創出など、経済波及効果を長期にわたって地域に還元させるための体制づくりを始めています。
 洋上風力発電施設は約1~2万点の部品から構成されています。発電事業者には、О&Мに限らず、洋上風力発電施設建設時においても可能な限り地元企業の活用を要請し、地域経済への波及効果をさらに高めていきたいと考えています。

(2) 地域新電力「銚子電力株式会社」との連携
 銚子市では、2018年6月に、市が50%出資する「銚子電力株式会社(以下「銚子電力」という。)」を設立しました。銚子電力は、市外に流出する電力を地域内で消費する再生可能エネルギーの地産地消に取り組むことで、地域内での資金循環による地域活性化や電力事業における利益の地域還元などをめざしています。
 現在のところ、市内の陸上風力発電から電力を調達し、公共施設のほか、企業や一般家庭に対して電力を供給することで、再生可能エネルギーの地産地消に取り組んでいますが、将来、銚子市沖に大規模な洋上風力発電が建設された際には、そこで発電された電力を調達し、発電事業者と協力の上、電力の小売りに限らず、様々な形で活用していきたいと考えています。
 また、2019年の台風15号の際には、銚子市においても大規模な停電が発生しました。全面復旧まで約2週間を要し、市民生活に大きな影響を及ぼしました。特に、冷凍冷蔵倉庫を保有する水産加工業者にとって停電は死活問題となります。現状、法制度やコストの面などから災害時の再生可能エネルギーからの電力確保については様々なハードルがありますが、将来的には、発電事業者と連携しつつ、洋上風力発電を活用した災害時の電力供給の仕組みについても検討していきたいと考えています。

(3) 新たな観光資源としての活用
 洋上に風車が立ち並ぶ光景は、新たな観光資源として銚子市の観光振興に寄与するものと考えます。観光客や行政視察などの交流人口の増加に伴う観光業者や宿泊業者、飲食業者などへの経済効果が見込まれるほか、ロケ地などとして活用されることでのプロモーション効果も期待できます。
 また、銚子市沖ではイルカウォッチングなど豊かな自然環境を活かした観光プランも人気があるほか、周辺では遊漁船も運行しているため、これらの既存の観光資源とのマッチングも期待できます。
 一方で、洋上に何十基もの風車が建設されることは、少なからず景観に影響を与えることとなります。特に、促進区域の眼前には、国指定名勝及び天然記念物「屏風ケ浦」が存在するため、屏風ケ浦に及ぼす影響が最小限となるよう配慮する必要があります。
 銚子市としては、洋上風力発電の観光資源としての価値をより一層高められるよう発電事業者と連携・協力するとともに、屏風ケ浦などの景観とも調和した事業をめざしていきたいと考えています。

(4) 漁業との共生による漁業振興
 洋上風力発電が漁業に及ぼす影響については、いまだ不明な点も多く、洋上風力発電事業を推進するためには漁業者の理解・協力が不可欠です。特に、漁業が盛んな銚子市においては、漁業との共生を絶対条件として事業を推進してきました。
 前述のとおり、銚子市では、漁業との協調・共生の取り組みを支援するため、銚子市漁業振興基金を設置しています。発電事業者には、売電収入の一部などを基金に拠出することを要請し、漁業振興策や漁業共生策の原資として活用していく予定です。具体的な使途については、今後、検討していくこととなりますが、漁船保険料や漁船の燃油代の補助のほか、新たな漁業の創造など、洋上風力発電を"てこ"とした漁業振興策・漁業共生策を地元漁業者と銚子市、発電事業者が三位一体となって作り上げていきたいと考えています。
 洋上風力発電事業によって発電事業者のみが経済的な恩恵を受けて終わりではなく、地元漁業者と発電事業者、双方がウィン・ウィンとなる形をめざしています。

(出典:第2回千葉県銚子市沖における協議会資料)

5. おわりに

 国は、2030年度の温室効果ガスの排出量を2013年度の水準から46%削減することを当面の目標とした上で、2050年度での再生可能エネルギーの主力電源化をめざしています。この目標を達成するためには、国や発電事業者のみならず、再生可能エネルギーに対する自治体の理解促進が非常に重要になると考えます。
 これまで銚子市における洋上風力発電事業の取り組みを説明させていただきましたが、再生可能エネルギーは地球温暖化対策としての効果はもちろんのこと、銚子市においては地域振興にもつながる非常にポテンシャルを秘めた事業と考えており、我々、労働組合としても、銚子市の未来を担う子どもをはじめとした市民全員が安心・安全で豊かな暮らしを実現できるよう、引き続き、フィールドワークを含めた調査・研究に取り組み、自治体目線ではなく市民目線による情報を全国へ発信していきたいと考えています。
 皆さんの地域でも再生可能エネルギーを推進してみてはいかがでしょうか。