【レポート】

第39回静岡自治研集会
第9分科会 SDGs×生活×自治研

フードバンクふじのくに 活動レポート


静岡県本部/フードバンクふじのくに・事務局次長 鈴木 和樹

1. フードバンクとは

 フードバンクとは、「食料銀行」を意味する社会福祉活動です。安全に食べられるにもかかわらず、何らかの理由で流通にのらず、処分せざるを得ない食品や、家庭に眠っている食品を寄付してもらい、行政や社会福祉協議会、NPO団体を通じて、地域の生活困窮者や福祉施設に届ける活動です。(下記図参照)

フードバンク関係図
(資料:フードバンク関係図 農林水産省のホームページより)
 農林水産省の調べでは、日本における食料自給率は4割(カロリーベース)を切っているにもかかわらず、印字ミスや外箱の破損等の理由で流通させることができずに、処分せざるを得ない食料が年間522万トン(2020年 農林水産省調べ)に及ぶとされています。 その一方で、明日の食事にも事欠く方が増加している現状があります。
 2019年11月の時点で、全国に110団体以上のフードバンクが存在していますが、まだまだフードバンク自体の歴史が浅いためか、定義もしっかりと定まっているわけではないため、地域によって取り組み方に違いがあったりもします。

2. 静岡県内のフードバンク設立までの流れ

 静岡県内において、フードバンク設立の機運が高まったのは、2009年が最初になります。フードバンクふじのくにの事務局を現在でも担っている、一般社団法人静岡県労働者福祉協議会が労働者福祉中央協議会の活動方針に則って、フードバンク静岡の設立検討を行いました。当時はまだ、実際にどうやって運用していくのか、安全面や資金面はどうするのかなど、いくつか乗り越えなければいけない課題があったため、適切なタイミングが来るまで、フードバンク活動を行うことは現時点では困難ではないかという声もあり、体制が整うまで様子をみることになりました。
 その後、2012年にはこちらも現在の事務局を担っている、NPO法人POPOLOが静岡市と富士市でフードバンク活動を開始しました。しかし、食品の保管、出庫などのノウハウを積み上げることはできましたが、POPOLO自体の信頼面の課題もあり、なかなか食品企業からの協力が得られず、POPOLOだけでは静岡県内全域に食料支援をする体制を作ることは、不可能に近い状況でした。
 信頼性と実際の運営この2つの問題を解決するために、2014年一般社団法人静岡県労働者福祉協議会を呼びかけ代表とし、静岡県生活協同組合連合会、日本労働組合総連合会静岡県連合会などの10を超える団体により、フードバンク設立検討委員会が立ち上がり、その後設立準備会を経て、2014年4月24日静岡県庁で記者会見を行い、多くの記者の前でフードバンクふじのくにの設立を宣言しました。

3. 生活困窮者自立支援法とフードバンク支援

 生活困窮者自立支援法が2015年4月から施行され、全国の自治体ごとに、生活困窮に関する相談窓口が設置されました。しかし、肝心の出口(支援)の部分について、支援メニューを多様に用意することができず、所持金がなく食べるものがないといった、緊急の支援が必要な状況において、生活困窮者自立支援法の相談窓口では対応しきれない可能性があるのではないか、そして、フードバンクを活用すれば、そういった緊急の相談に対応できる部分もあるのではないかと考えました。
 フードバンクふじのくには、様々な団体が集まって1つの法人を形成する、いわゆるコンソーシアム型のフードバンク団体であることから、理事団体の信頼をかりて、関係する企業からの協力を得て、設立2年目の2015年4月には50社を超える企業から食品寄贈を受けるようになり、寄贈量も年間約38トンになりました。県内全域からの食料支援要請に応えることができる体制を整えることを意識してきた結果、2021年度の年間寄贈量は100トンを超え、食品提供企業数も180社となりました。
 安定して食品の寄附を受けることができるようになり、次に考えなくてはいけない課題は、どういった方法で生活に困っている人に渡すかという部分についてです。食料支援は、あくまでも一時的支援に過ぎず、フードバンクによる支援が必要な状況ということは、ほかにも生活に困窮してしまった要因がある可能性が高いと考えられ、生活困窮者が現状および課題を認識して、生活再建に取り組む計画を立て支援を行わなくては、根本的な解決はできません。ですから、食料自体はフードバンクふじのくにが用意し、相談者の支援については、行政や社会福祉協議会(以下社協)、困窮者支援NPO団体で行うという連携体制を構築していくことを大事にしました。

フードバンクふじのくにの食料支援の仕組み
 食糧支援の依頼は書面で各市町の自治体や社協、NPO団体より必要な際に提出され、内容は、人数・期間・家族構成・ライフラインの有無・アレルギー等の情報です。受け取った情報を元に食料セットを作成し、行政や社協などへ郵送や直接引き取りに来るなどの方法で渡すことになります。食品を受け取った行政や社協などの支援員が相談者の元へ届けます。食品を届けることで、相談者と支援員の信頼関係が構築され、相談に行けばなんとか力になってくれるという気持ちに相談者自身がなり、定期的に相談窓口に訪れ、生活再建に取り組む計画を、寄り添いながら実施することができるようになるだけでなく、困っている人の住居や家庭を実際に見ることで、より詳細な現状や生活困窮に陥った理由に気付くことができます。フードバンクを相談のツールとして利用し、社協や行政の相談窓口とフードバンクが一体となって連携し、一緒になって生活困窮という課題に取り組む仕組みを静岡県内に構築してきました。
 2014年度では、367件だった支援件数も大幅に増加し、2019年度になると、2,848件まで大幅に増加し、フードバンクの認知度も年々向上してきました。

実際に提供されている食料

4. 深刻な子どもの貧困

 2019年4月から2020年3月までの間にあった、フードバンクふじのくにへの食料支援依頼総数は、2,878件あり、そのうちの約11%がひとり親世帯からの依頼でした。中には、乳幼児を持つ世帯からの依頼もあり、その際には、ミルクや離乳食等も提供しています。厚生労働省の調べでは、生活困窮世帯の子どもは、親自身が日々の生活に精一杯で、教育や進学について関心が薄く、それが子どもに影響したり、不規則な生活により学習習慣が身につかないことが要因となり、一般家庭と比べ10%以上、高校の進学率が低いという数字が出ています。このことからも、フードバンクによる支援だけではなく、合わせて生活再建に取り組む計画を寄り添いながら実施する必要があるといえます。そして、子どもの親の年代は、20代~40代の若い世代が中心ですので、行政や社協の相談窓口自体を知らないという方が多いため、生活に困ったときにそもそも、どこに相談にいったらいいのかがわからないという状況が想定されることから、潜在的にフードバンク支援を必要としている方がまだまだいるのではないかと考えられます。

5. 県内に広がるフードバンクネットワーク

 深刻な子どもの貧困を解決するために、フードバンクふじのくにの連携範囲はより広範囲に広がりを見せています。若者支援のNPOが静岡市内の定時制高校において、食品配布会を企画し、困ったときに相談しようと思ってもらえる仕掛けのツールとして食品を活用したり、ひとり親支援団体の企画する食べ物配布会に食料を提供したり、子ども食堂、学習支援団体等の子どもに関わるNPO等の団体との連携を意識的に行っています。
定時制高校での食品配布会の様子   ひとり親世帯への配布会の様子
 
 近年では、自治体や社会福祉協議会が地域で食品自体も積極的に集める役割を担ってくれています。全国で初めて食品回収ボックスが市役所内に置かれたのは、2014年8月に回収ボックスを設置した島田市役所だと言われています。島田市役所では、フードバンクの幟旗やポスターを自主的に作成、オリジナルラジオドラマを作って放送するなど、フードバンク活動を熱心に行ってくれています。
 島田市は食品を集めるだけでなく、子どもの貧困対策事業や、アウトリーチ活動(支援が必要であるにもかかわらず届いていない人に対し、積極的に働きかけて情報・支援を届けるプロセス)を企画し、「しまだ夏休み子ども食糧支援事業」を2019年より市の独自事業として実施して、地域の子どもを抱える世帯が気軽に助けてと言える状況をつくろうとしました。この島田市の活動は、隣の牧之原市にも広がり2021年より牧之原市も島田市の仕組みを参考にして「牧之原市子ども食料支援事業」を実施しています。
 フードバンクふじのくにが、設立から一貫して行政や社会福祉協議会等との連携を基本原則として食料支援を行うという方針を貫いてきたこと、様々な団体の信頼を借りて、安定して食料を提供できる体制が整ってきたことから、行政も安心して食料支援の事業の計画を立てることができるようになったのではないかと私たちは考えています。

島田市夏休み子ども食糧支援事業   島田市による食品回収の様子
 
 自治体やNPOだけでなく民間企業との連携も発展を見せました。フードバンクふじのくにの県内における認知拡大と、食品の安定供給を目的に、「静鉄ストア」、「スーパー富士屋」、「スーパーマーケットバロー」、「スーパーかねはち」などのスーパーマーケットの店頭に、フードバンク食品回収ボックスを設置し、買い物に来たついでに、家庭で眠っている食品を寄附できる仕組みを構築しました。
 この動きは、スーパーマーケットだけにとどまらず、様々な企業へ波及しました。具体例としては、各企業の従業員による食品の寄贈の実施、静岡県労働金庫、静岡ガス、静清信用金庫、ららぽーと磐田、大丸松坂屋静岡店などでは食品回収ボックスを設置し、来館者にフードバンク活動を周知しつつ、食品寄贈を自主企画して呼びかけていただきました。それ以外にも、食品寄贈の増加により、食品を管理する場所がないという課題が出たときには、静岡県労働金庫が持つ、地下倉庫(約77m)を無償提供していただくなど、食品を集めるだけにとどまらない、様々な企業との連携が広がり続けています。これにより、生活に困っていない人もフードバンクの存在を知ることになり、フードバンクがより地域にとって身近なものになる一歩となりました。

ららぽーと磐田での食品回収の様子   静岡労働金庫の食品回収のチラシ
 

6. 広がるフードドライブ

 前項でも、自治体や企業の食品回収の連携事例を記載しましたが、フードバンクふじのくにでは、食品の寄贈増加および広く県民に周知することを目的に、「フードドライブ」という食品回収強化月間企画を行っています。時期は毎年1月と8月に実施しており、2021年度には326ヶ所まで増加し、寄贈量も約33トンと年間の寄贈量の約33%を占めています。
 企業からの食品寄贈は同じものが大量にいただけるというメリットがありますが、その一方で、企業からの寄贈では多種多様な食品を提供することは難しいというデメリットも存在することから、それを補完することが「フードドライブ」の実施によって可能になります。フードバンクふじのくにへ食品を寄贈したい場合は、フードドライブの時期以外は、①直接フードバンクふじのくにへ持ってくる。②送料を負担してフードバンクふじのくにへ郵送する。③常設で食品回収ボックスが設置されている自治体へ持参する(静岡県庁、静岡市、藤枝市、島田市、牧之原市、磐田市、湖西市のみ)。④静岡県内のしずてつストアの常設回収ボックスに寄贈する(静岡県内32ヶ所)という4パターンしか選択肢がないため、金銭的な負担が厳しい方や、回収ボックスが住んでいる地域に常設されていない場合などは、県民が食品を寄贈することが難しい状況のため、年に2回のフードドライブを企画することにより様々な地域の住民の方にフードバンク活動に関わってもらうきっかけにもなっています。

7. 新型コロナウイルス感染拡大対策緊急事業

 現在も変異を続け猛威を振るっている新型コロナウイルスですが、2020年1月に日本で初めての新型コロナウイルス感染の確定診断がされ、その後日本全国に感染が拡大してきましたが、フードバンクふじのくにでは、静岡県でも今後感染が拡大していくのではないか。感染拡大の影響で生活に困る人が増えてくるのではないかと想定し、2020年2月後半から静岡県共同募金会と協議し、2020年3月23日から「赤い羽根新型コロナ対策フードバンク応援事業」を実施しました。当初は6カ月間の短い期間を想定していましたが、新型コロナウイルス感染拡大の影響は大きく、結果として3度の延長を経て、2022年3月31日まで行うこととなりました。
 事業内容は、①臨時休校・活動自粛によって満足に食事ができない子どもたちの増加。②学校給食等の休止により食品ロスが増加。③失業等により、ひとり親世帯などを含む生活困窮に陥る恐れのある方の増加など、通常のフードバンクでは対応しきれない新たな社会課題に対応するために、静岡県共同募金会から2,000万円の助成金提供を受け、フードバンクふじのくにが築いてきた、行政や社会福祉協議会、NPOとのネットワークを活用して、新型コロナウイルス感染拡大対策緊急応援事業を行いました。その結果、食品依頼件数は大幅に増加することになりました。
 コロナ禍以前では、平均依頼件数は約240件程度でしたが、2020年度は平均約534件、2021年度は平均約416件と大幅に依頼件数が増加しています。そして2022年度現在も依頼件数は高止まりしている状況です。特に、2020年5月の1,120件、2020年6月の812件の時はコロナ禍前の4倍から5倍近くまで依頼件数が増加していたため、事務局も大きく疲弊し連日深夜まで作業せざるを得ないほどでした。

8. フードバンクを地域の仕組みに

 生活困窮の問題は範囲も広く、実態が見えにくいという現状があります。その時々の社会情勢や社会課題に合わせて、NPOの長所である柔軟性と、様々なメンバーが集まって設立した私たちフードバンクふじのくにだからこそ、協働の視点を大事に、フードバンクがつなぐ食によるセーフティネットを担っていることを意識し、様々な方々と一緒にフードバンク活動に取り組むことで、どんな状況の人でも食をきっかけとした支援体制を行政、社会福祉協議会、NPO、地域の方々と一緒になって作ることが私たちの目標と考えています。私たちの活動が、全国でともに生活困窮者支援活動を頑張っている方々の参考になることを願い活動報告を締めさせていただきます。