【レポート】

第39回静岡自治研集会
第9分科会 SDGs×生活×自治研

 脱炭素社会の実現に向けて、再生可能エネルギーの地産地消の実現に向けた実証実験「SDGsとよた再エネチャレンジ」を2019年4月に開始。その取り組みの中で、全国で初めて、ごみ焼却施設の発電設備が、「グリーン電力発電設備」として認定を受け、発電した再生可能エネルギーの環境価値を切り出して販売している。市内事業所の脱炭素化の取り組み支援や、これまで得られなかった新たな歳入確保につながっている。経済、社会、環境に対して統合的に取り組み、脱炭素社会やSDGsの達成に寄与する取り組みを展開している。



脱炭素社会の実現に向けた
再生可能エネルギー地産地消の実証実験

愛知県本部/豊田市職員労働組合連合会 伊奈 卓真・山井 一晃

1. SDGs未来都市とよたの紹介

(1) 概 要
 豊田市は、愛知県のほぼ中央に位置し、愛知県で最も広い市域を誇るまちである。全国有数の製造品出荷額を誇る「クルマのまち」として知られ、多くの市民がものづくりに親しみ、次世代の育成にも力を入れている。
 また、市域のおよそ7割を占める豊かな森林や市域を流れる一級河川矢作川による水資源を始め、豊富な作物を実らせる田園など自然が共存し、都市と山村が双方の強みと弱みを補完しあい、生かしあいながらまちづくりに取り組んでいる。

(2) 将来都市像
 豊田市は、「つながる つくる 暮らし楽しむまち・とよた」を将来都市像としてかかげている。
 成長社会においては、ものの豊かさや経済的な豊かさが追求されてきたが、これからは、従来の「(ものを)所有する豊かさ」だけでなく、自らの暮らしや働き方を「創造する豊かさ」や社会とのつながりの中で様々な人が持つ価値観などを「共有する豊かさ」が重要になると考えている。
 その中で、生きがいや自己実現といった内面の充実や社会の中での役割の創出、多様な働き方・暮らし方の選択肢の創出など、一人ひとりの幸せの実現や満足度の向上が求められるという考えを前提にまちづくりを推進している。

(3) SDGs未来都市とよた
 こうした中、豊田市は2018年6月15日、内閣府より持続可能な開発目標達成に向けた取り組みを先導的に進めていく自治体として「SDGs未来都市」に選定され、「エネルギー」「モビリティ」「ウエルネス」を重点分野として、地域の課題解決や、市民生活の質の向上を図る取り組みを進めている。
 
 特に2030年のSDGs達成に向けては、各施策にSDGsの視点を取り入れ、施策間の有機的な「つながり」によって好循環が持続するまちをめざしている。
 このため、「つながり」を意識して豊田市のSDGsを推進するプラットフォームを都市と山村にそれぞれ設置している。
 都市には、人や企業と地域、技術をつなぎ実証・実装を行うプラットフォーム「豊田市つながる社会実証推進協議会」がある。産学官の多様な主体が連携し、課題解決を図り、新たな産業の創出と持続可能な社会づくりに貢献している。2022年3月31日時点で89の団体が参加し豊田市をフィールドに実証実験等を行っている。
 山村には、都市と山村をつなぐ組織「おいでん・さんそんセンター」を設置している。人や地域をつなぐことで、都市と山村双方の課題解決をめざす取り組みを展開し、それぞれのライフスタイルやライフステージに応じた自分らしい暮らし方を実現する。
 また2019年11月には、SDGsの目標達成や豊田市の地域課題の解決に向け連携し、持続可能な取り組みや活動を推進するとともに、SDGsの普及啓発を図ることを目的とした「とよたSDGsパートナー」を発足した。
 2022年4月現在、400を超える企業・団体が登録されており、SDGs関連イベントへの出展やテレビ、ラジオなどメディアを通じてSDGsの普及等に連携して取り組んでいる。

(4) ゼロカーボンシティ
 2019年11月には「2050年におけるCO2排出量実質ゼロ」を表明し、「脱炭素社会」の実現を目標に掲げた。
 これまで豊田市は、環境モデル都市として低炭素社会の実現をめざし様々な取り組みを行ってきたが、更なる加速化を図り、「脱炭素社会」をめざしていく。
 ゼロカーボンシティの実現に向けては、様々な企業・団体・学術機関とともにそれぞれがもつ資源や人材、技術を出し合い、繋がりあいながら取り組みを進めていく。

2. 社会環境変化と課題

 パリ協定の採択により、「1.5℃」が世界の共通目標となる中、2020年には日本政府もカーボンニュートラル宣言を行ったことで、カーボンニュートラルをめざす機運は一気に高まっている。
 カーボンニュートラルの機運の高まりは、自動車CASEをさらに進展させることが予想され、自動車産業を基幹産業としている豊田市では、産業構造の大転換期を迎えている。新技術等の開発に向けたイノベーションの機運醸成を行うことと併せ、自動車の製造から走行までのライフサイクルでのCO2フリー化へ貢献していく必要があると課題を認識している。

3. 再生可能エネルギー地産地消の実証実験「SDGsとよた再エネチャレンジ」

【実証概要】
・期間:2019年4月から2022年3月
・実証目的:豊田市所有施設(渡刈クリーンセンター、面ノ木風力発電ほか)で発電した再生可能エネルギーの有効活用、及び、産業・交通部門のCO2排出量削減への貢献
・実施内容:
 チャレンジ① 電力の地産地消
        ラグビーワールドカップ2019™の開催にあわせて、豊田スタジアム、スカイホール豊田及びとよたエコフルタウンに地域産の再生可能エネルギーを供給
 チャレンジ② 環境価値の地産地消
        地域産の再生可能エネルギーの「CO2フリーの価値」を「グリーン電力証書」として民間事業者が購入することで、自動車の製造時や走行時などのCO2の排出量を削減
 チャレンジ③ 市民参加による環境行動の促進
        次世代自動車を利用して、とよたエコフルタウンなどに訪れる市民に対し、とよたエコポイント等を付与することで環境行動を促進

4. 廃棄物によるグリーン電力発電設備認定

 この実証実験では、チャレンジ②として環境価値の地産地消の取り組みを具体化するため、これまでグリーン電力証書の発行が認められていなかった「廃棄物発電でのグリーン電力証書発行」の実現に向けて、2019年から挑戦が始まった。これが実現すると、豊田市内で創った再生可能エネルギーから環境価値を切り出して、市内の製造事業者や電気自動車走行時の電力CO2フリー化に充てることができ、ひいてはライフサイクルでのCO2フリー化に貢献することができる。
 2020年1月、一般社団法人日本品質保証機構から、渡刈クリーンセンターの廃棄物発電設備が、全国で初めてグリーン電力発電設備に認定され、さらに、2020年3月には、グリーンエネルギーCO2削減相当量認証委員会での認定を受けたことで、購入量に応じて「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づくグリーンエネルギーCO2削減相当量として算定できるものとなった。
 この取り組みで生み出されたグリーン電力証書は、日本自然エネルギー株式会社を通じて豊田市内の事業者に販売され、豊田市産の環境価値を豊田市内で活用する、環境価値の地産地消を実現することができた。
 2020年度の販売による豊田市の歳入は1,000万円以上となり、当初の予想を大きく上回る歳入確保にもつながったことから、このような取り組みが全国に拡がっていくことが期待される。

5. おわりに

 豊田市は、カーボンニュートラルの機運の高まりに合わせて様々な実証実験を率先して実施することで、無理なく無駄なく快適に暮らす「ミライのフツー」をめざしている。
 社会課題の解決に向けた先進技術の導入や新たな社会システムの構築を進め、SDGs未来都市として、「ミライのフツーをつくろう」をキャッチフレーズに、産官学民が連携し持続可能なまちづくりをめざしている。
 今後も、先進的な取り組みを積極的に進め、社会環境の変化に対して柔軟に対応した魅力あるまちづくりを実現していく。