【レポート】

第39回静岡自治研集会
第9分科会 SDGs×生活×自治研

0(ゼロ)から始めて大きな価値に
―― 廃棄せざるをえない備蓄米を
学校給食で提供する取り組み ――

京都府本部/京都市学校給食職員労働組合 田和 智子

1. はじめに

 京都市では2022年4月現在、158校で約66,000食を各小学校にある給食調理室で私たち給食調理員が調理をして子どもたちに提供しています。小中学校の統合等により開校した義務教育学校(7校)においては児童・生徒が1~9年生まで在籍することから、中学生に当たる学年の子どもたちにも同様の給食が提供されます。
 学校給食の献立はその月の暦により増減しますが1か月約20回分、約20献立が4か月前の献立作成会において学校栄養教諭グループから出された原案を元に校長会の代表、給食物資を取り扱う京都市給食協会の代表、学校給食主任(教諭)の代表、学校栄養教諭の代表、給食調理員の代表と京都市教育委員会体育健康教育室の協議により決定されます。それらの献立について全市を4ブロックに分け順次実施しています。

2. 非常用献立について

(1) 非常用献立が考えられた理由
 給食の食材・物資は発注や調達の関係から急に差し止めをすることができません。そのため、台風が京都市に近づき、暴風警報が出て学校が休校になるかどうかわからない際に、どのように給食を実施するかを検討しました。
 京都市に暴風警報が発令されて学校が休校になった場合は食材・物資は中止されているので問題はないのですが、暴風警報が実際には発令されなかったり、午前中に解除されたりした際には学校が始業することになるので給食を実施しなくてはなりません。しかし、その際にはすでに食材・物資は止まっていますのでたちまちに替わりのものが必要になってきます。そこで、そのような非常時にも安定して給食を提供できるように非常用献立が考案されました。
 2006年度から京都市教育委員会体育健康教育室によって、台風の進路予報を参考に京都市に最接近するであろうと考えられる数日前に通常献立を中止し、非常用献立へ差し替えることが決定されることになりました。

(2) 非常用献立を実施してきた経過
 長期保存が効くことから、初めはご飯にかけるレトルトカレーを実施しました。これは学校給食専用に添加物を使用せずに調理したものです。給食調理室で釜に湯を沸かしてレトルトカレーを温め、食缶に入れて教室に運び、子どもたちが自分でご飯にかけて食べます。しかし、非常時にはご飯自体も止まってしまうのでレトルトカレーしかない状態になってしまいます。そこで、非常時においても子どもたちにしっかり提供できる、ご飯に替わる主食として何かできないかと検討し、中華乾麺を使用した非常用献立『ソース焼きそば』を実施しました。
 その後、精米を使用した献立を考案し、2006年度からは缶詰・乾物・乾燥野菜等を使用して『炊き込みごはん』を調理できるようにしました。現在では学校には『炊き込みごはん』のバリエーションである3献立分の食材・物資を備蓄し、非常時の急な献立変更に対応できるように常に備えています。

(3) 非常用の献立や食材・物資について
 通常献立ではごはん・パンといった主食についても肉や野菜など多くの生鮮食材や冷凍の魚・野菜などと一緒に当日の早朝に納入されています。非常時にはごはん・パンも止まってしまうのでこれらに替わる主食になるよう精米(無洗米)を備蓄し、学校の回転釜で『炊き込みごはん』を炊飯調理します。
 非常用献立としては『炊き込み五目ごはん』・『ツナごぼうごはん』・『カレーピラフ』と、それらとの組み合わせになる『みそ汁』・『トマトスープ』などがあります。調理法や食材・物資については、子どもたちが食べやすく、よりおいしいものになるよう年々検討され変更されてきています。
 非常用献立食材・物資としては、たけのこ(缶)・干ししいたけ・まぐろ油漬け・まぐろ水煮・乾燥ごぼう・乾燥にんじん・乾燥たまねぎ・乾燥キャベツ・チキンスープ(缶)・ホールトマト(缶)・マカロニ(ツイスト)・けずり節・味噌などがあります。

(4) 非常時の連絡体制
 非常時には京都市教育委員会体育健康教育室より各学校の学校長へ献立変更の連絡が入り、現場である給食調理室には管理職からその旨が伝えられ私たちは準備をします。日頃からの非常用献立物資の保管・管理に加え、調理方法も通常のものとは変わることからいつでも調理できるよう細かな確認が必要となります。

(5) 非常時に実施しなかった際の対応
 非常用献立については、その年度中に台風が最接近せず、非常用献立として実施しなかった際には、秋の台風シーズンが過ぎた12月から3月にかけて通常献立の中のひとつとして実施をしています。

3. 京都市災害備蓄米(アルファ化米)を使用することになった経過

(1) 京都市備蓄計画と備蓄米(アルファ化米)
 京都市では、京都市備蓄計画(2014年3月策定)に基づき、食糧等の公的備蓄を進めるとともに、市民備蓄を推進する取り組みを進めています。京都市で備蓄されている米はアルファ化米で、これは米を炊飯後に熱風で急速に乾燥させて作った加工米です。乾燥することで水分が少なくなり腐りにくい状態を保つので長期保存ができ、炊かなくてもお湯や水を注ぐだけで手軽にごはんになり食べられるようになるのでアウトドアや非常用・災害時用に広く利用されています。

(2) 備蓄食品の有効活用と災害備蓄米を使用することになった経過
 京都市の備蓄米は賞味期限が切れるとすべて廃棄処分されていました。私たちは、公的備蓄物資の有効活用の観点から、備蓄米であるアルファ化米の賞味期限到来前に給食として有効活用することで、食品ロスの削減を図れることや子どもたちが学校給食を通じて防災(備蓄)の重要性について学び、その取り組みを保護者に知らせ、家庭での備蓄の啓発を行うことが広く市民備蓄につながると考えました。
 そこで、給食調理員で構成する研究会から京都市に、「これまで賞味期限が来て廃棄していた災害備蓄米を期限が来るその前に学校給食で使えないか。」と提案し、2019年度から学校給食の非常用献立において精米に替わり京都市の災害備蓄米(アルファ化米)を使用することになりました。

(3) 学校への納入について
京都市災害備蓄米 アルファ化米
アルミパック包装されている
 学校に納入される備蓄米は「備蓄米セット」として丈夫な段ボール箱に約70人分のアルファ化米と「わかめごはん」にできるように塩味のついた乾燥わかめが入っています。その他にも個人に配れるように使い捨て容器・しゃもじ・ビニール手袋・輪ゴム・簡易カッター・プラスチックスプーンなどが入っていて、学校給食ではその中のアルファ化米だけを使用します。
 使用しない備品は子どもたちに展示をして災害時の備蓄のひとつとして学習したり、学校や地域で役立てたりしています。乾燥わかめについては、食物アレルギー反応の誘因となる物質である「アレルゲンの混入が無い」という確証が持てないことで使用しません。学校給食にとってこのことは非常に重要なことです。また、『わかめごはん』を調理しても子どもたちにとって栄養価が足りないことからも使用はしません。

4. 京都市備蓄米を使用した非常用献立『炊き込み五目ごはん』

缶詰のたけのこを切る 干ししいたけを切る 水で戻して切った乾燥
にんじん・たけのこ・
しいたけを炒める
調味料・水を入れて煮る
アルファ化米を入れる しっかりと混ぜて
火を消して蒸らす
上下に返す 【献立】
・牛乳
・炊き込み五目ごはん
・みそ汁

5. 京都市主催『京都やんちゃフェスタ』にて学校給食非常用献立を調理提供

(1) 『京都やんちゃフェスタ』とは
 『京都やんちゃフェスタ』は、すべての児童の健全育成と子育て支援を推進するとともに総合的な次世代育成イベントとして開催されてきました。未就学児とそのご家族を対象にした第2部は、2008年度から開催しているもので、近年においては「市民すこやかフェア」などのイベントと合同で開催して、幅広い世代が参加されたくさんの人々に親しまれています。乳幼児・未就学児が家族と一日を楽しく過ごす屋内型のイベントですが、このところはコロナ禍や財政的な観点から開催が見送られています。

(2) 学校給食非常用献立を調理提供
 2019年11月10日(土)に京都市勧業館「みやこめっせ」で開催された『京都やんちゃフェスタ』に参加して、非常用献立『炊き込みごはん"鶏ごぼう"』を来場された乳幼児とそのご家族や市民の方々に調理提供しました。
 このイベントで使用したアルファ化米も京都市の災害用備蓄米を新しいものと差し替えた際の賞味期限到来前のものです。私たちはこのアルファ化米を使用して調理・提供することで、備蓄米の取り組みを保護者や市民に知らせて、家庭での備蓄の啓発を行い、広く市民備蓄をアピールできると考え、京都市にこのイベントで使用できるように働きかけ話を進めました。
 また、献立提供とともに、京都市が啓発・配布している家庭備蓄に関するポスターやパネル、備蓄米セットなどを展示し、合わせてパンフレットやチラシ・プリントも配布しました。市民の方々からは「学校給食で京都市の備蓄米が使われているのは知らなかった。」、「アルファ化米の炊き込みごはんはおいしかった。」、「家庭で3日間分の備蓄をする必要があるのだと知った。」などの声をいただき、京都市の学校給食が手作りで調理していることだけでなく、京都市の災害備蓄についても知っていただく良い機会になりました。

2019京都やんちゃフェスタ実施要項
 ○事業目的 家庭や地域の方に学校給食について知ってもらうための取り組みの更なる充実のため、市民を対象とした学校給食に関する情報発信の場として京都市学校給食研究会が企画開催する。
 ○事業名称 『おいしい たのしい 学校給食!!
 ○日 に ち 2019年 11月10日(土)
 ○時  間 イベント開催時間 10:00~15:30(集合及び準備開始 8:00)
 ○会  場 京都市勧業館 みやこメッセ 第三展示場(3階)
 ○対 象 者 子どもや子育て中の家庭をはじめとする全ての市民
 ○来 場 者 約9,000人 
 ○試食(無料) 
  ◇品目「スパゲッティのミートソース煮」 約400食
  ◇  「炊き込みごはん"鶏ごぼう"」   約400食
       *京都市の災害用備蓄米(アルファ化米)使用
  ◇提供時間 11:00~12:30 
  ◇食器   リユース食器(どんぶりM・箸)を使用し試食後に回収
 ○調理場3階 厨房 
  調理したものを同階の学校給食ブースまで運び、ブース内の長テーブルの上で配膳し、提供する。
 ○掲示物・配布物 他 
  ・京都市の給食展示(手作り・季節感・地産地消・取り組み・なごみ献立等)
  ・給食お当番さん顔出しパネル展示
  ・給食献立紙粘土細工野菜・フエルト製手作り野菜など展示
  ・人気献立のレシピ配布
  ・災害用備蓄米(アルファ化米)のパネル展示
  ・家庭での備蓄啓発プリント配布
  ・災害用備蓄米(アルファ化米)セット展示
  ・調理エプロン等展示

6. おわりに

 災害用の備蓄米は非常に重要なものです。しかし、食品である以上賞味期限があります。期限が来たら廃棄しなければならない。それは仕方のないことかもしれませんが、廃棄してしまえばすべて0(ゼロ)になってしまいます。けれども、賞味期限が来る前に学校給食で使うことができたなら、0(ゼロ)がもっともっと大きなものになります。
 捨てるとコストもかからないから「もう、いいっか。」になる。捨てることは簡単ですが使用するのは難しい。しかし、それは使用しない理由にはならない。みんなで考えること、横のつながりが大切です。学校給食で使用するには配送はどうするか、手間もかかる、まず約70,000食の備蓄米を数回分も確保できるのか等々、課題はたくさんあります。しかし、捨てられてしまう備蓄米で学校給食が一食分作れている。目には見えないですが市民に還元できるのです。
 防災の面から見たら賞味期限到来前のものともっと賞味期限の長いものと取り換えられる。他の人が見たら捨てるものも給食を作る側から見たら調理をして学校給食として提供できる。食育の観点からは子どもたちの災害への意識、防災の教材になり、それが家庭から市民に広がる。市民には学校給食の一食が無料になり還元されている。目には見えませんが備蓄米で多くの人を助けることができるのです。
 このように取り組みを進めてきているところですが、自分たちのところだけでなく、「もっと広がっていけば……。」という思いがあります。
 本来は食べることができたはずの食品が廃棄されてしまう「食品ロス(フードロス)」の削減が、その生産や廃棄においてエネルギーが投入され、多くの温室効果ガスが排出されていることから日本だけでなく国際的にも重要な課題となっています。また、世界には様々な状況から食べ物を十分に得られず栄養不足の状態にあり、飢えに苦しむ人々が多数存在する中で、食べられることが当たり前で、「食べないから」・「食べられなくなったから」という理由で安易に廃棄してよいというものではないと考えます。
 国の「食品ロス削減推進法」の基本的施策のひとつに、「命の大切さや食への感謝の気持ちを養うなど、学校の教科や食育等を通じて食品ロスの削減に関する理解と実践を促し、地方公共団体においては地域の特性に応じた取組を推進する。」とあります。京都市においては、「京(みやこ)・資源めぐるプラン  ―― 京都市循環型社会推進計画 ―― 」の中に「食品ロス削減推進計画」があり、強化が図られています。
 そこで、『月刊 学校給食』という全国学校給食協会が発行している学校給食に関する月刊誌に投稿し、発信しています。この本は全国で幅広い人々の目に触れ読まれていることから、書籍という媒体を使って広く知らせることで、自治体に働く給食調理員だけでなく、民間の給食調理員や学校給食に携わる栄養士や職員、学校関係者や自治体職員、そして、保護者や市民・地域の方々に向けて、京都市の学校給食で行っている取り組みがヒントになり、いろいろなところ、いろんな方向へ様々な取り組みを広げていけるのではないかと思います。