【レポート】

第39回静岡自治研集会
第9分科会 SDGs×生活×自治研

 近年、「気になる子」についての研究が大きく取り上げられるようになってきました。「気になる子」への対応に力を入れている園も少なくないのではないでしょうか。本レポートでは、「気になる子」とその保護者への支援について、私が勤務する園の現状と、園での取り組み、自分の思いを交えながら考察していきます。



「気になる子」とその保護者への支援


大分県本部/日田市職員労働組合 櫻木明日香

1. 「気になる子」について

(1) 「気になる子」とは
 日田市の公立園は現在4園あり、各園とも園児数は年々減少しつつあります。園児数の減少とともに保育者数も減少することで、横割り編成の園であるにもかかわらず、1人担任・異年齢合同クラスになることも少なくありません。その一方で、「気になる子」の割合は少しずつ増えているように感じます。
 近年、保育現場での「気になる子」についての研究が大きく取り上げられるようになってきました。「気になる子」とは、発達障害と診断されているわけではありませんが、個別の支援が必要な子どものことです。保育者から見て、他の園児よりも「気になる」行動が多く、コミュニケーションや情緒面での問題がみられることが多い傾向にあります。

(2) 「気になる子」が抱える問題
 保育現場での「気になる子」の特徴として、よく見られる問題を5つ挙げます。
① 行動に関する問題
 子ども自身の性格や気質が要因である可能性もありますが、じっとしていられない・ぼーっとしていることが多い・衝動性が強い・呼びかけに気付かないことが多い、といった様子が見られ、集団生活に支障をきたしてしまいます。
② 言葉やコミュニケーションに関する問題
 発語の遅れや言葉の理解力が乏しい、といった発達の遅れだけでなく、周りの子どもと双方向でのコミュニケーションが取れない、という様子が見られることもあります。また、言葉でのやり取りが難しいことから、叩く・奪うなどといった他害行動で補おうとする姿も見られます。
③ 対人関係に関する問題
 ②で挙げた言葉やコミュニケーション能力の問題に起因し、他の子どもとトラブルに発展することが多いように感じます。「言いたいことがあるのにうまく伝えられない」「相手の言っていることが分からない」といったもどかしさから、友達に手をあげてしまうこともあります。
④ 生活習慣に関する問題
 ご飯の準備や片付け、帰りの荷物をまとめるなど、毎日の生活の中で身に付くはずの動作や習慣が身に付きにくい傾向があります。また、習慣付いたことに対して変更が生じると、極端に嫌がるといったこだわり行動もみられます。
⑤ 情緒に関する問題
 自分の思い通りにならないとパニックを起こす、切り替えが難しい、などの姿が見られます。もともとの気質だけでなく、家庭環境や日々のストレスも要因ではないかと考えます。

(3) 「気になる子」と保育現場
 限られた保育者数でクラス運営をしながら、上記のような「気になる子」への配慮もしなければならない現状です。子ども一人ひとりの気持ちに寄り添い、適切な支援をしたいという気持ちがある一方で、時間と人手に限りがある保育現場では、それが叶わずに歯がゆい思いをしたことも少なくありません。「気になる子」は1対1のやり取りでなければ、コミュニケーションがうまくいかない・言っていることが理解できない・情緒不安定になる、といったことが多いからです。また、支援に必要な環境を整える必要性を感じつつ、他の子どもにとってはかえって設定しないほうが良い環境である場合もあります。

2. 実際に経験したこと

 「気になる子」の支援は、日々葛藤の連続です。どんな保育者でも、子どもの前に立つ時、無意識に何らかの思いを持って立つのではないでしょうか。同じ活動でも、言葉掛けやその場の雰囲気、その保育者の保育観で、クラスの空気や子どもの様子が全く異なるものになると思います。しかし、集団活動場面での「気になる子」への支援を考慮すると、どれを優先するか、どの活動を省くか、といった、子どもの育ちのために取り入れたい内容を取捨選択することが多くなるように感じます。突発的な行動に対する対応、他の子どもへのフォローや理解を求める声掛けなど、同時進行でやらなければならないことが多く、加配もなくフリーの保育者もいない場合は、「気になる子」の支援は難しいと思います。
 私自身の経験談ですが、1人担任の時、子ども同士の会話がきっかけで、「気になる子」が保育室を飛び出しました。その時、他の子どもたちは落ち着いて遊んでいたので、「○○ちゃんを迎えに行ってくるね」と子どもたちに声をかけて飛び出した「気になる子」を迎えに行きました。対人関係の問題に加え、気持ちの切り替えが難しい子だったので、保育室に戻ってくるのに少し時間がかかりました。保育室に戻ってくると、他の子ども同士でトラブルが起こっていました。
 もちろん、私自身の保育者としての力不足が大きな原因であると思います。しかしそうなってしまった要因の中には、コロナ禍で換気のために保育室の扉を開けておいたこと、保育室を留守にする間、見守りを頼む人がいなかったことなどもあると考えられます。様々な要因が重なったことで起こったトラブル。この時は誰も怪我などなかったので安心しましたが、保育室を留守にしている間に取り返しのつかないことが起こっていたらと後から思うと、ぞっとしました。そして、このようなことにならないために、1人担任でも「気になる子」が脱走しない環境作りや、「気になる子」と他の子どもたちとの関わりの支援、「気になる子」と1対1で関わらなければならない場合の対応の工夫(フリー保育士の配置や、診断がついていない場合でも加配保育者をつけられるような人員配置など)、などの必要性を感じました。
 少ない保育者でクラス運営を行いながら、「気になる子」の支援をしっかりとしていくために、療育の知識をもっとつけていきたいと日々感じています。

3. 「気になる子」への関わり

(1) 「気になる子」への対応
 保育現場での「気になる子」への対応として、様々な研修や著書をもとに、大きく5つに分けました。
① ポジティブな面を見つけて褒める
 「気になる子」は、その特性から注意されることが多いので、自己肯定感が低くなりがちです。「頑張っていたね」「できたね」といったポジティブな言葉を心がけて、子どもとの信頼関係を築いていくことが大切です。
② 様々な関わり方を試す
 数ある支援方法の中で、どの方法がその子に合っているかは分かりません。「褒めて伸ばす」「むやみに干渉せず、できる限り見守る」「視覚に訴える」など、その子に合った方法を見つけることが大切です。
③ 個別のカリキュラムを作る
 「気になる子」は同じクラスの子どもより、ゆっくり発達・成長する傾向があります。「気になる子」専用のカリキュラムで、その子の発達・成長段階に合った、目標・内容を考えることが大切です。
④ 記録を取って他の保育者と連携を図る
 「気になる子」に関しての研究で取り上げられている園では、そのほとんどで「気になる子」の周りの子どもとの関わりの様子・保育中の様子・生活習慣の達成度など、毎日の様子を記録していました。その記録から、「気になる子」の行動傾向が分かり、対応方法やその子の育ちを他の保育者と共有できるようになります。園全体で見守る、という環境作りが大切です。
⑤ 専門機関へ相談する
 「気になる子」を支援するためには、園・専門機関・保護者の3者の連携が欠かせません。

(2) 園での取り組み
 光岡こども園では、これら5つの対応全て、取り組んでいます(個別カリキュラムに関しては、詳細計画ではなく、週案の中に「個別対応」の欄を作って記入しています)。中でも、私が昨年度じっくり取り組んだのは、「記録を取って他の保育者と連携を図る」ことでした。
 2021年度、日田市の公立園で行った研修で、「気になる子」のエピソードを記録し、その中で保育者の思いや子どもとの関わり、心の動きをとらえ、子どもの姿をより深く読み取っていくという取り組みをしました。各園でエピソードを持ち寄る際、様式に沿って資料作りをしました。資料を作るにあたって、「気になる子」のエピソードを日常的に記録する習慣が付きました。また、そのエピソードの中で、自分自身がどのような思いや意図を持って子どもと関わったのかを振り返るきっかけにもなりました。研修の中で、他の園の保育者から「こういう関わり方をしてみたらどうか」「うちの園では、そういう場合はこうしている」などといったアドバイスを得ることもでき、非常に有意義な研修となりました。この研修を通して、自分の中の「支援方法の幅」が広がり、他の保育者との情報共有のためにも、客観的に見て記録することの大切さも学びました。非常に勉強になったとの声も多く、この公立園での研修は、考察内容に「保護者との関わり」が加えられ、今年度も続いています。

4. 保護者との関わり

 園での生活も家庭での生活も、両方大切な幼児期には、保育者にとって保護者との関係作りが重要です。「気になる子」の保護者と保育者の関係作りは、特に難しいと感じています。「気になる子」の保護者にも様々なパターンがあります。
① 保護者が子どもの問題を意識していない
② 子どもの問題を心配していて、相談するか迷っている
③ 子どもの問題を心配しているが、相談する気はない
④ 子どもの問題を心配しているが、周囲には隠したい
 保護者がどのように考えているかによって、私たち保育者も対応を変える必要がありますが、いずれにしても「気になる子」の様子を保護者に共有することは大切だと思います。その際に気を付けているのは、発達障害の名称を明言しない・具体的な場面や行動を説明する・家庭と園での様子の違いも受け止めることです。私自身、保育者の立場で困っている場面が現実としてあるため、保護者との見解の違いを受け止めるのは意外と難しいと感じました。「この子はこんな行動を取るのに、家庭では本当に困っていないのだろうか」「子どもと向き合う時間は取れているのか心配だ」など、保護者に対して偏った目で見てしまうことも少なくありません。しかし、ある講演会で「保護者が子どもの問題を受け入れられるまで待つのが、保護者支援です」という言葉を聞いてからは、いつも自分にこの言葉を言い聞かせるようにしています。「気になる子」の保護者に対して、園で取り組んでいること・保育者がその子にどのように関わっているのかを伝えた上で、「気になる子」の様子や心配に感じていることを丁寧に伝えていきたいと思います。

5. おわりに

 「気になる子」への支援にあたっては、発達の偏りと遅れを発達関連の観点から丁寧に捉え、それに応じた支援の方法を探ることが重要です。「子どもの問題」としての発達障害の理解、家族や保育者など子どもと関わる人たちとの相互作用の影響を考慮して、一人ひとりの子どもへの対応を探っていく必要があると考えます。同時に、人的環境の必要性についても、根気強く訴えていく必要があると考えます。
 また、就学前の支援開始や発達相談を受けることで、子ども自身の困り感を軽減することに繋がります。「気になる子」の早期発見・支援が望ましいですが、子どもたちの行動観察をどこで・誰がするのかという問題があり、1歳半・3歳児健診では早期過ぎて見過ごされていることも多いです。そこで、日田市が行っている、5歳児発達相談という取り組みは、非常に重要な役割を担っているといえます。現状、保護者に子どもの発達に関してのアンケートを取り、希望者が相談会に参加するという形式ですが、それまでに、いかに細やかに「気になる子」とその保護者へ関わっていけるのかが、私たち保育者の重要な役割であると考えています。また、療育保育士による、こども園や保育園などへの巡回指導や巡回相談を密に行うことや、教育委員会や保健師、心理士など様々な他機関の人々との連携体制づくりも重要となってきます。今後、日々の保育で支援に悩む保育者や、育てにくさ・発達の遅れなど気付きのある保護者にとって、身近に感じられ気軽に足を運べる場、開かれた相談できる場が増え、当たり前の存在になるように、少しずつでも現場から声をあげていくことが大切だと考えます。