【レポート】

第39回静岡自治研集会
特別分科会 今、必要とされる公共サービスと自治

 京都市の交通事業は、1912年に市電運行開始、1928年に市バスの営業を開始。しかし、時代の変革とともにモータリゼーションの進展や交通手段の多様化により1978年に市電を廃止、路面交通を市バスに一元化した。1981年に地下鉄烏丸線を開業。1997年に東西線を開業以降も順次路線を延伸し、2022年には京都市公営交通110周年を迎えることができ、市バス・地下鉄のネットワークにより、公共交通機関として重要な役割を担っています。



公営交通と地域住民との関わりについて
―― 地域のコミュニティーに参加してみよう ――

京都府本部/京都交通労働組合 山本  勇

1. コロナ禍における公共交通の役割(状況)

 2020年1月に国内で新型コロナウイルス感染症の感染が初めて確認されて以降、人流が大きく減少し、社会経済活動は大きな影響を受け、旅客輸送においては壊滅的な状況となりました。そうした状況においても、市バス・地下鉄は地域に根差した公共交通機関として、日々の生活を守るライフライン、また、エッセンシャルワーカーの移動手段の確保という使命もあり、懸命の努力のもと、運行を確保してきました。
 京都市の市バス・地下鉄事業においては、2020年1月まではお客様数も順調に増加していましたが、新型コロナウイルス感染症が拡大し、同年4月に緊急事態宣言が発出されて以降、影響は大きく、京都を訪れる観光客の減少や外出の自粛などにより、お客様数は大幅に減少しました。こうした危機的状況を踏まえ2020年度、2021年度において事業の見直しを行いましたが、大幅な減収を埋めるにははるかに及ばず、大幅な赤字となりました。また、現時点においても新型コロナウイルス感染症の影響によるお客様の大幅減の状況は続いています。
 今後、新型コロナウイルス感染症が収束したとしても、テレワークや、リモート化など新たな生活様式の定着により、通勤・通学の利用者は元に戻らないと見込まれています。しかし、市バス・地下鉄は通勤、通学、生活の移動手段として市民の暮らしや経済活動を支えるとともに、京都を訪れる観光客の交通手段として、京都のまちに必要不可欠な都市基盤として何としても存続させなければなりません。
 公共交通事業者としての社会的使命を果たすため、どのような状況下でも「安全・安心・快適」な市バス・地下鉄を運行することはもとより、公共交通に対しお客様を味方に付ける取り組み、市民や地域の方々の理解を得る活動にも積極的に取り組んでいかなければならないと考えています。

2. 京交の取り組み(エンパワメント活動)や交通局のイベントについて

 京都交通労働組合(京交)では「市民に愛される市バス・地下鉄」をめざし、労使一体の取り組みをしてきました。お客様を味方に付けるため、京交独自の運動として「エンパワメント活動」と銘打ち、本局支部・自動車部(4支部)・電車部(4支部)・青年女性委員会がそれぞれ様々な取り組みをしています。また、交通局のイベントにも協力参加し運動を展開してきました。私たちが取り組んだエンパワメント活動やイベント参加について紹介します。

(1) お客様に対して感謝表明、アピール行動としての取り組み
① 全車ピッカピカ洗車
 自動車部4支部で実施。組合員が直営車両全車を年末に清掃しています。早朝4時半ごろから出庫していくバスを1台ずつ丁寧に雑巾やモップを使い、座席周りや手すりを丁寧に磨き上げます。

② 地下鉄駅構内清掃、お客様用トイレ掃除
 電車部4支部が年末に駅のトイレを清掃しています。また駅構内や券売機まわりを普段清掃業者の手が届かないところをこまめに掃除します。
③ バス停、地下鉄駅周辺の清掃活動 
 自動車部、電車部、本局支部、全9支部と青年女性委員会が取り組んでいます。お客様に気持ちよくご利用いただくため、春と秋の年2回、バス停や地下鉄駅出入口、各営業所周辺の清掃活動を実施。吸い殻やペットボトル、最近ではマスクなどたくさんのごみを回収しています。合わせて、ビラやポケットティッシュを配布しています。
④ 祇園祭に「浴衣でおもてなし」お客様案内サービス
 本局支部が浴衣で地下鉄駅にてお客様案内サービスを実施。
⑤ 四条通清掃活動(祇園祭後)
 青年女性委員会が祇園祭後の四条通を清掃しています。

(2) 地域のイベントに参加
① みそのばしフェスティバル
 毎年10月に開催される御園橋商店街のイベントに参加。2021年度で11回目の参加になります。自動車部西賀茂支部が参加しています。
② 天神川清掃活動
 地域自治会と連携、天神川の清掃活動に参加。2021年度で10回目の参加となります。自動車部梅津支部が参加しています。

(3) 交通局のイベントに参加
① 地下鉄醍醐車庫見学会
 東西線醍醐車庫にて1997年開業当初から毎年10月の鉄道の日に合わせて開催。普段は見ることができない地下鉄の裏側を見学することができます。2022年開催があれば第25回目となります。第14回から第17回車庫見学会まで電車部電整支部がエンパワメント活動として参加。2019年は大型台風の影響により中止、2020年、2021年はコロナの影響により開催を見合わせています。
② 京都市営交通100周年記念フェスタ
 2013年に京都市営交通100周年を記念して竹田車両基地にて開催。電車部4支部がエンパワメント活動として参加。会場の一角を借り写真撮影会や運転シミュレーターの企画を実施しました。

3. 参加の経緯と取り組み内容

 地域自治体のイベントに参加することにより、市バス・地下鉄は市民にとって身近な存在となり親しみを持ってもらうことで、そこで働く私たちと地域の交流が生まれます。継続的に参加することで、恒例行事となればより交流が深まっていきます。エンパワメント活動の中でイベントに参加して地域との交流のあるもので、長年継続している取り組み内容を紹介します。

(1) みそのばしフェスティバル
 京都市北区大宮地域の御園橋(みそのばし)商店街が主催するイベントで毎年10月の第2日曜に行われています。
 御薗橋通り(堀川通り~船岡東通り)に、地域団体による飲食物等の屋台が出店、地域の保育園・小・中・高・大学の鼓笛や吹奏楽の演奏・舞台発表、パトカーや消防車、市バスの展示などがあります。2010年から商店街大通り(御園橋通り)に通行規制をかけ歩行者天国にし、大規模なイベントとなっています。
 参加のきっかけは、商店街の方から消防車や警察車両を展示する計画があると聞き、西賀茂支部の当時の組合役員から、「それなら市バスも展示しよう」と提案。イベントに参加して地域に恩返し、貢献したいとの思いで参加する事になりました。最初は市バス1台を展示し、車内とエンジンルームの公開、同時にゴム風船を来場者に配布をしました。それ以降、みそのばしフェスティバルには毎年参加しており、2020年はコロナの影響により中止となりましたが、2021年は11回目の参加となりました。最近は、市バスの展示とオリジナル缶バッジをその場で作成し配布しています。交通局に協力してもらい、子ども用制服を着用して写真撮影、交通局協力会がグッズ販売等を行っています。ゆるキャラブームの時は市バスのキャラクター「京ちゃん」がパレードにも参加しました。
 また、みそのばしフェスティバルのイベント(パン食い競走など)にも積極的に参加。2021年はコロナ禍での開催となり、時期を12月にずらしての開催となりましたが、市バスを2台展示するなど、今ではたいへん大きなイベントになっています。

(2) 天神川清掃活動
 春には桜の名所としても知られる市内を流れる天神川流域を、地域自治会が中心となり清掃活動が実施されています。天神川沿いに梅津車庫があり、地域自治会からの誘いを受け、自動車部梅津支部が活動に参加しています。「西京極丸」という小船を天神川に浮かべ、川底に降り腰のあたりまで水に浸かりながら、多くの地域ボランティアの方と一緒にごみ拾いをしています。毎回トラック一杯のごみを回収しており、中には自転車が出てきたりします。天候にも左右されますが、毎年11月頃に実施され、梅津支部が参加して10年目になります。

(3) 地下鉄醍醐車庫見学会
 地下鉄東西線醍醐車庫において、1997年東西線開業以来、毎年10月の「鉄道の日」に合わせて開催。交通局主催のイベントですが、近くにある醍醐寺の拝観券を参加者に配布し、見学会後に醍醐寺にも行けるようになっています。2022年10月で第25回目の開催になります。
 電車部電整支部では2011年第14回からエンパワメント活動として参加、車庫見学会を盛り上げ子どもたちに楽しんでもらえるよう、一部ブースを借りスタンプラリーを実施。達成者に組合員手作りのオリジナル缶バッジをプレゼントしました。
 見学会ではトレインシミュレーターや写真撮影コーナー、定位置停止ゲームなど職員がアイデアを出して取り組んでいるコーナーがあり、組合員が取り組んでいるスタンプラリーと同じ職員で取り組んでいるため整理が難しくなり、2015年第18回車庫見学会からその内容を見学会の一部として組み込むことにより、支部エンパワメント活動は役割を終えました。

4. これからのかかわり方、地域との交流の先に……

 新型コロナウイルス感染症拡大によるコロナ禍において人との関わりが減ってきています。コロナ対策についてもいろいろ経験してきた中で、感染対策を実施し、人数を制限するなどして、イベントも少しずつ再開しています。今までなんとなく参加していたイベントも地域では恒例行事となっていて、心待ちにされている方が多くいることや、開催に向けて努力されている方たちがいます。そのことが、地域の活性化にはとても大切なことだと感じています。
 イベントに参加することは大変なことではありますが、みんなでチームを作り企画準備や実施に向けて何ができるのか、どうすればお客様が喜ぶのかを考えていくことで、意外な能力を発揮する者や、普段の仕事ぶりではわからない一面を発見できます。一つのイベントをすることで、地域の活性化だけでなく参加者の結束を深めることができ、良い作用が生まれます。時間や予算もかぎりがあり、職場の理解や協力体制など課題も数多くありますが、それを乗り越えたとき、充実感や達成感が実感できます。
 長い間続いているイベントは地域住民や参加者から期待されています。「また参加したい」「次はいつ開催するのか」など盛り上りがあって成功と言えるのではないでしょうか。みそのばしフェスティバルは商店街の楽しみになっており、天神川清掃活動も「地元の川をきれいにしたい」というたくさんの思いがあります。醍醐車庫見学会も毎年応募される方もいます。
 私たちには多くの営業所、地下鉄各駅や職場、それぞれに各支部があります。そのすべてで何か地域とのコミュニケーションや取り組みが継続的にできれば、より多くの市民と交流ができ、多くの地域で味方が増え、公共交通に対して理解者が少しずつ広がっていき、市バス・地下鉄のファンを増やしていける。そんな状況をめざしていきたいと思います。