【レポート】

第39回静岡自治研集会
特別分科会 今、必要とされる公共サービスと自治

福岡市現業職員のコロナ禍における取り組み


福岡県本部/福岡市役所現業職員労働組合 徳島 健人・吉田ルツ子・山内  徹

1. はじめに

 今般の新型コロナウイルス感染症の世界的な流行の影響によって、様々な業種において働き方に影響が出ている中で、デジタル化にはなじみにくい、対市民サービスの最前線で働く現業職員が在籍する職場においても、各業種の特性に合わせた工夫などを行いながら業務に取り組んできた。福岡市の現業職員には様々な職種があるが、今回は環境業務員、学校給食調理業務員、学校用務員の例を報告したい。

2. 現業職場での取り組み

(1) 環境業務員
 その環境業務員が所属する職場は、市内の各区役所・出張所と清掃工場などの廃棄物の処理施設がある。
 各区役所における環境業務員の業務として、廃棄物にかかわる相談等への対応や不法投棄対策、市民への環境啓発業務などがある。これらの業務はオンラインやテレワークなどのいわゆるデジタル化への対応が難しく、直接現地での調査や指導が必要となる業務がほとんどである。そのような業務が主となることから、新型コロナウイルスの感染が拡大していく状況においても現場の最前線で、感染リスクを身近に感じながら業務に取り組んできた。
 例えば、市民からの相談で、「自宅前にごみが散らかっている。どうやらネコかカラスが荒らしたようだ。何とかしてほしい」といった相談がよくある。これは、福岡市が全国的にも珍しい夜間戸別収集というごみの回収方法をとっており、基本的には週に2回、日が暮れてから夜の12時までにごみを家の前に排出してもらうようになっているが、中には排出日以外に出してしまう人、ごみの回収前や回収後に出してしまう人がおり、そのようなごみを、日中のごみ収集がない時間帯に猫やカラスが荒らしてしまうことで起きている問題である。こういった相談があった場合、私たち環境業務員は、まずは現地へ行き、状況確認後、ごみの中から排出者が特定できるものはないか調査を行う。仮に排出者が特定された場合は、排出者へ適正な排出指導を行うが、排出者の特定ができない場合には、道路等の交通に支障がないよう、片付けを行っている。
 これまでも環境業務員は、こういった廃棄物を扱うということにはウイルス性の感染症のリスクは感じていたが、今回の新型コロナウイルスの流行により、市民の方々も廃棄物に対して、感染のリスクを感じる方が増えたように思われ、多くの相談を受けるようになった。そのため、より多くの廃棄物を触れなければならず、車にも消毒液の常備をし、夏は暑く、冬は寒い中でも車内の換気を常に行うなどの感染対策もしながらの対応となった。不法投棄対策についても同様で、排出者を特定するために、どのようなものであっても、基本的には直接触れる必要があり、感染リスクを感じながらの業務となった。
 清掃工場などの処理施設においては、様々な場所から排出された廃棄物の受け入れを行っており、搬入に当たっては不適物が混入していないか確認するための目視による搬入物検査を行っている。この搬入物についても、感染者が使用した可能性のある廃棄物が含まれている可能性は十分にある中での業務となった。
 また、これまでに、環境業務員の知識や経験を活かしつつ、今後の起こりうる災害対応への備えとして、被災地域への災害復旧ボランティアへも参加を行ってきており、2019年発生した2019年8月豪雨への土砂の掻き出しや廃棄物の選別・運搬などの災害ボランティアに参加をしてきた。
 2020年7月豪雨の際にも災害復旧ボランティアへ参加したが、両年ともに新型コロナウイルス流行後であったため、これまでに行われていたような大規模なボランティア活動が行われていない状況であり、近隣市町村や他県からの応援体制も少ないように感じた。
 そのような中で、環境業務員は、これまでは業務としても災害廃棄物を清掃工場に受け入れる支援や、被災地において、災害廃棄物の収集運搬といった、災害復興支援に携わる機会もあったが、業務執行体制等の見直しによって、これまで通りの支援ができなくなっていた。
 しかしながら、どうにかして地域への復興にかかわりたいとの思いから、労働組合の活動の中で、NPO法人と連携をしながら、自治研活動として災害ボランティアに取り組んできた。新型コロナウイルスの影響で、多くの人出が得られない中では、少人数で大きな効果を生み出す必要があり、これまでに業務で取り組んできた廃棄物に関する知識や災害現場での経験を活かしながらの取り組みは、まさに少人数で大きな効果を発揮できたのではないかと思う。
 今回の新型コロナウイルスの影響を受けながらのボランティア活動は、これまでに業務として行ってきた被災地支援が行えなくなってきた中において、環境業務員だからこそできる新たな支援活動の道筋となり、今後、新型コロナウイルスのような予測のつかない事態が発生した際にも、柔軟に対応できるきっかけになったのではないかと思う。今後も、現場の最前線で働くことで得られた知識や経験を活かしつつ、業務の枠組を超えた活動が行っていけるよう、取り組みを続けていきたい。

(2) 給食調理業務員
 福岡市の小学校には給食調理業務員という業種がある。新型コロナウイルス感染症が広がり始めた2020年2月末に安倍首相から唐突に「全校一斉休校(小・中・高校及び特別支援学校)をお願いする」との発言があり、その報道で現場は大混乱していた。実際休校にするかどうかは各地方自治体や学校の判断に任され、小学生の子どもをたった一人家に置いておけない、どうすれば良いのか? 保護者も教職員も短時間に多くの決断を迫られた案件だった。
 更に4月中旬より、勤務先では感染拡大防止を図るため原則在宅勤務をするように全職員に通達があり、給食調理業務員も在宅勤務となる。在宅勤務と言われても一体何をやればよいのか考えあぐね、先輩職員にも相談しながら決めた内容がこの4つだ。
① 他都市で高い評価を得た給食調理員を取材した方の著書を読む
② 手洗い・衛生・調理方法等、各種マニュアルを持ち帰りまとめる
③ 掲示用食育資料作成
④ 職務に関係する資格試験勉強を始める「第一種衛生管理者」
 漫然と日々を過ごさぬよう、一日のタイムスケジュールと日々の目標を設定し、更に本来調理業務の現場は体力もかなり必要なので衰えてしまわないように筋トレ等もその中に組み込んだ。
 こうして始まった在宅勤務だが、いつもの時間に起床、スケジュールをこなし、管理職に提出する日報を書く日々。特にこの時期はスーパーにも出来る限り行かないよう買いだめが推奨されたので、日々全く誰とも会話もせず黙々と散歩する以外は静かな部屋にずっといるだけ、常に悪い夢の中にでもいるかのような気持ちに落ち込むこともしばしば。
 5月の連休明けより、保護者が在宅ワークなど出来ない業種の子どもたちを留守家庭子ども会で受け入れた。人数も通常時より多く、留守家庭指導員の先生方よりレクチャーを受けた教員や調理室の職員も総出でお世話にあたった。
 密状態を避ける為、いくつかの教室で少人数を職員二人組でみる。日頃そこまで児童と接するチャンスは無く新鮮で楽しいが、やはり平時ではないのでマスクを外す、密着して、大声ではしゃぐ低学年の子ども達に「もし感染させたら」と内心ヒヤヒヤもした。
 この時点では遊具の使用や、どこまで消毒するのか大人も試行錯誤真っ最中で、振り回される子ども達はさぞ大変だっただろう。あれから2年程が経過した今もお世話した子ども達がそれぞれ関わった職員に親しげに笑顔で話しかけてくれるのは頑張ったご褒美のようで嬉しい。
 5月下旬にやっと休校が解除され、もちろんいきなり通常の学校運営には戻せないため、日替わりで2学年ずつ分けて登校させたり、各学年をA・Bのグループに分けての分散登校を試行したりと、感染状況を見つつ周辺の学校とも情報共有しながらの調整が続いた。コロナ感染が心配で学校をしばらくお休みする、逆に様子を見ていたが通学を再開すると決める家庭からも日々連絡が入る。
 給食室は牛乳やパン、食器など日々数を揃えてセットする必要があり、日替わりで変更されると、作業場ごとにある複数の人数表を頻繁に書き直す作業をする者、物を数える担当者は緊張の連続だった。
 各クラスの配膳方法も問題になった。感染防止の観点から子どもには当面の間配膳はさせないと決定したので、担任の先生方だけでは間に合わず専科の教員が全員でフォローする事になった。給食室も仕上げを早め、午前の片付けと午後の準備をバタバタと済ませてから忙しそうな教室をはしごしてフォローに駆けずり回った。
 この頃は様々な物資が不足し、手に入るとしてもとても高価で平時の5倍10倍の価格もざらな有様。衛生作業の多い給食室では世間で不足していた不織布マスクやアルコール消毒薬、次亜塩素酸ナトリウム、使い捨ての手袋等は在庫がしっかりあったので滞りなくいつもの基準で給食を作れたのは良かった。
 そして何より給食室にとって一番の大問題は、休校によって足りなくなった授業日数を夏休み期間の短縮で補おうという取り組みだ。
 何がそこまで問題なのかと言えば、給食調理室はスポットエアコンも未設置で換気扇しかない学校も多数で、砂や埃対策で調理中窓を開ける事もほぼ出来ない、夏の釜付近は40度超えも珍しくなく、加えて午後の洗浄作業中は湿度もおそろしく高くなりがち、ほぼ地獄の蒸し風呂状態という現状のためである。
 さすがに事故につながるのではとの懸念から、コロナの対策費用で予算がつき、冷風機(移動出来るキャスター付)と、小型冷蔵庫、暑さで衛生的にも着替えの頻度が上がる対策として乾燥機が設置された。
 また当局側と調理員の代表が協議をし、作業量を考慮した献立を選択して極力負担を減らす努力をした。これだけ準備がされても猛暑の中での調理作業は何度か気が遠くなるような過酷なものだった。

(3) 学校用務員
 学校用務員という業種は、福岡市立の小・中学校や高校、特別支援学校で児童・生徒の安全で快適な教育環境を整備するために多岐にわたる業務に従事している。
 新型コロナウイルス感染症が猛威をふるい始めたころ、感染拡大防止のために学校が休校になり、職員に対しても出勤抑制がかかった。福岡市の学校用務員は集団職場であり、合計200校以上の市立学校を21のエリアに分けて、そのエリアの1校に複数人在籍している。エリア内の約10校を業務で頻繁に行き来するため、仮に学校用務員が罹患した場合、エリア内の各学校に感染が拡大してしまう危険性がある事から、感染予防には細心の注意を払う必要がある。休校中においても業務は発生している状況ではあったが、出勤抑制による代表者のみの勤務は致し方ない面もあった。
 感染しないように注意していても、学校用務員が新型コロナウイルス感染症に罹患する事態が発生した。同じ勤務地の学校用務員が全員濃厚接触者と判断されれば、当時は感染の有無に関わらず2週間出勤することが出来ないとされていたため、10校前後あるエリア校全ての業務が滞ることとなった。緊急を要する営繕等に対しては、近隣のエリアの学校用務員が対応したが、1つのエリアの学校用務員が全員出勤できない場合や、陽性者が出た時に全員が濃厚接触者とならないようにするために、より感染防止の徹底がなされた。
 休校が解除された後、教育委員会からの依頼を受け、小学校で児童が使用する遊具の消毒も業務として行った。急激な環境の変化による児童の心身への負担を考えると、せめて外で力いっぱい遊具で遊ぶことでストレスを軽減し、健全に成長して欲しい。全小学校の遊具の消毒を毎日行ったが、夏になると猛暑の中での消毒作業は体力を要した。
 そのような中、当局も遊具の消毒作業の視察と体験に訪れた。感想を聞いてみると、想像していた以上に体力を消耗したことと、児童・生徒への感染拡大防止を最優先として消毒を行っていることへの感謝の言葉を頂いた。立場は違えど、子どもたちの安全を願う気持ちは同じである。いつまで続くか先の見えない状況でも課題を共有し、今後に備えて力を合わせることが大切だ。
 その後、消毒に対しての理解をより深めるための研修も行った。福岡市の学校用務員が行っている専門実技研修というものがある。その時々で研修内容が変わるが、コロナ禍で全庁的に研修や会議が抑制されている状況でも、遊具消毒の経験が今後に活かせるような内容であることから、感染対策の徹底のもと開催することができた。業務を行っていく中で、『安全』面はもとより、『衛生』面においても全体で意識することで、自分のためだけではなく、児童・生徒のため、仲間のため、社会のために感染防止に取り組むことの重要性を再認識した。
 現在ではオンラインによる研修が開催できるため、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止のための関連業務を行いながらも、通常業務に支障をきたさないように情報共有などが出来る環境になっている。
 新型コロナウイルス感染症の感染状況が続く中で、児童・生徒や教職員が新型コロナウイルス感染が確認された場合における学校施設内の使用箇所の消毒も行うこととなった。これも教育委員会からの依頼を受けたものである。組合として協力する立場から組合員への理解を求めたが、組合員からは心配の声が上がった。家族に高齢者や幼い子どもがいる組合員の不安も理解できる面もある。それに対しては正確な情報の提供や説得を行うことで組合員から理解を得ることができた。要件によっては業者での対応もあったが、状況に応じて施設の消毒を学校用務員が行った事例もあった。
 感染拡大防止のための業務は他にも様々なものがあった。一例として、部屋を区切る業務だ。部屋の中に壁を作る場合は消防法との絡みがあるため、関係する所に確認し、法律違反をしないようなものにする必要がある。お互いが見えるようにビニールカーテンを設置する場合や、児童・生徒同士の距離確保、又は教員と児童・生徒の飛沫対策等々、空間の区切り方一つでも学校ごとで様々なニーズがある。
 今では安価で購入できるパーテーションだが、新型コロナウイルス感染症が広がり始めた頃は、ありえない程に高額になった。学校施設内で相当数が必要なため、値上がりしたパーテーションをそのまま購入することができなかった。学校事務の先生と一緒に頭をひねらせ、その結果、巨大なアクリル板を単体で購入し、切り出し・組み立ててパーテーションを作成することで一枚単価を抑えるなど、予算と相談しながら行った。
 ここまで行ってきた新型コロナウイルス感染症の拡大防止のための業務は、通常業務を行いながらの追加された業務であるため、現場への負担はとても大きなものでる。それでも何とかやってこられたのは、普段から顔を合わせて関わっている児童・生徒の安全を守りたいという学校用務員の踏ん張りがあったように思う。

3. おわりに

 今回は福岡市の現業職員の中の環境業務員、学校給食調理業務員、学校用務員それぞれのコロナ禍での取り組みをまとめた。新型コロナウイルス感染症の感染状況はいつまで続くか分からない状況ではあるが、職場の仲間、組合の仲間、更には当局とも力を合わせながら市民の安全を守れたらと思う。そうした先に現業職員がこれからも市民ニーズに応えられるような業務展開ができればと考えている。