【自主レポート】
福島県の財政(賃金合理化に対抗するために)
福島県本部/自治労福島県職員労働組合
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1. 2000年度と1997年度の福島県の歳出の対比
①の表2000年度の福島県の人口1人当たりの歳出合計462,783円は、1997年度の歳出合計465,374円とほぼ同一の99.44%となっている。予算規模はほぼ同じであるが、目的別に見ると、農林水産業費は、97年度の76.8%(73,656円から56,600円)と減少し、土木費も89.6%(104,434円から93,584円)と減少している。商工費については、127.2%(25,699円から32,682円)、衛生費が109.1パーセント(14,121円から15,409円)となっている。
性質別で見ると、普通建設事業費が81.7%(177,499円から145,019円)と顕著に減少し、積立金も10,588円から3,674円へと減少している。目立って増えたのは、補助費等の122.1%(30,920円から37,757円)、維持補修費118%(5,209円から6,147円)である。繰出金は、107.4%(4,721円から5,071円)である。また、災害復旧費は約3倍(2,516円から7,535円)である。
人件費については、101.3%になっているが、警察職員を除くと、100.7%(121,072円から122,002円)と1997年度から2000年度の3年間で、930円の増加であり、福島県の人口が213万人であるから、約20億円の増加である。歳出合計の30%は人件費であるが、知事部局等職員の歳出合計に占める割合は、5.8%の26,619円である。
一方、公債費については、138.4%(39,123円から54,139円)と15,016円の増加である。県人口213万人であるから、約315億円の増加であり、人件費の伸びとは異なり、極めて大きな伸びとなっている。
歳出合計全体に占める公債費の構成比も8.4%から11.7%となっている。
1997年度から1998年度は、バブル崩壊を受けて、国の景気浮揚策のため自治体財政が公共事業に集中した。しかし、1999年度からは、自治体も自らの地方財政の危機を意識せざるを得ず、国の景気浮揚策に容易に乗れない状況になり、福島県の2000年度決算においては、普通建設事業費を約20%減少せざるをえない状況になったと思われる。災害復旧費については1998年の白河地方を中心とした集中豪雨の被災の復旧である。商工費の伸びについては、2001年開催した地方博覧会(未来博)に備えた支出と思われる。
2. 2000年度と1997年度歳出対比による新潟県と福島県の特徴
②の表は同様に新潟県の2000年度と1997年度の比較である。歳出規模は、1997年度に比し、99.8%(512,415円から511,477円)とほぼ同じである。農林水産業費は、84.6%、土木費は93.6%と減少はしているが、福島県の減少と比べるとより緩やかな減少となっている。
性質別でみても、普通建設事業費は88.3%と福島県の81.7%の減少より緩やかである。
人件費の100.8%に対し、公債費は、129.7%である。人件費については、福島県と同様であるが、公債費の伸びは、福島県の38.4%よりは急激な伸びにはなっていない。
3. 2000年度のCグループ県との対比
④は、2000年度歳出のCグループ県平均の表である。人口1人当たりの歳出合計の比率が⑤1997年度では97.1であったのが2000年度では107.7となっている。福島県の歳出合計がほぼ同じ462,763円なのに対し、Cグループ県平均は、1997年度より49,585円少ない429,769円となっている。これは、1997年度のCグループ県の移動によるものである。1997年度Cグループ県だった山口県、香川県、福井県、富山県、奈良県の5県がDグループに移行し、広島県、宮城県、滋賀県、三重県、岐阜県がB2グループからCグループ入りし、この5県が財政力指数でCグループ上位となっている。1997年と2000年の両方でCグループは、長野県、岡山県、福島県、新潟県、石川県の5県である。
Cグループを構成する10県の内5県が移動したことにより、2000年と1997年のCグループを直接的に対比することは、無理があるが、傾向をみることは可能と思われる。
福島県が目立って多い歳出の目的別では、衛生費・農林水産業費・商工費・教育費で、性質別では、維持補修費・繰出金である。衛生費・商工費については、通常では低いので、衛生費関係の施設整備や未来博などで恒常的なものではない。農林水産業費については、福島県が1997年度より23.2%も減少しているなかであり、農業県であることを踏まえれば、特に問題はないものと思われる。教育費については、県立高校の男女共学化に向けた校舎の整備等のための普通建設事業費に多くを費やしたものと思われ問題はない。
4. 2000年度の主な県の財政指標
主な県として11県を抽出した(表⑥)理由は、福島県、新潟県、長野県、の3県比較を類似県として、継続的に比較分析するため、今回も比較する。しかし、新潟県は2000年度、県民1人当たりの土木費が140,410円と道府県平均80,103円を60,307円上回り、福島県の歳出規模で1,284億円多く、同様に普通建設事業費では、190,871円と道府県平均の112,503円を78,368円上回り、福島県の歳出規模で1,669億円多いという、公共事業費が極めて多い県であり、長野県についても土木費が多く、その結果、公債費負担比率が高い県であり、新潟県と長野県の3県比較やCグループ比較では、不十分であることや、もともと事情が許せば、道府県全部を比較したいがためである。新潟県については、財政危機との理由で、賃金合理化を受け、新潟県職労は、「財政危機は、大型公共事業のせい」と反発している。
三重県については、財政指標が多くの数値において福島県と極めて近いためである。茨城県、栃木県は、B2グループであるが隣の県であり、特に茨城県においては、財政危機を理由とした、賃金合理化を受けた県である。青森、岩手、山形、秋田は、Eグループであるが福島と同じ東北地方であり、青森においては、賃金合理化を受けている。(宮城県については、県と同様の行政権限のある政令指定都市の仙台市がある県のため、今回除外)
岡山県については、1997年度と2000年度ともCグループ県であり、1998年度Cグループ内では、公債費負担比率23.7・公債費比率23.2・起債制限比率18.2・経常収支比率98.4などの指数が最も高く賃金合理化を受けている県である。
(1) 3県の財政指標数値変動の類似点
福島、新潟、長野の3県の2000年度と1997年度(表⑦)の財政指標での特徴は、財政力指数においては、0.046程度、経常収支比率のうちの人件費の割合は、新潟3.1、福島4.0、長野4.7ポイントそれぞれ落ち込み、公債費の割合は、長野3.7、新潟4.0、福島4.3ポイントそれぞれ上昇している。また、公債費負担比率も、新潟2.8、長野3.1、福島4.1ポイント上昇している。
(2) 3県の財政指標数値変動の相違点
基準財政需要額については、1997年度と2000年度対比で、新潟15,144円、長野14,816円と15,000円程度の上昇であるが、福島は、41,485円と大きく上昇し210,834円である。1997年度以降、福島県の面積や人口に変動は少なく、要因は、県の基準財政需要額を増加させる起債による新規事業が他の2県より多かった可能性がある。1992年度(H4年度)までは600億円台で推移してきた県債発行が、1993年度900億円台になり、1994年度1,028億円、1995年度1,311億円、1996年度1,383億円、1997年度1,485億円、1998年度1,805億円、1999年度1,407億円となっている。
起債制限比率については、長野2.7、福島1.7ポイント上昇したが逆に新潟は、0.4ポイントとわずかながら下降している。
財政指標からは、新潟県職労が賃金合理化を受ける合理的な理由が存在するとは読み取れない。
(3) その他の県との比較
Cグループ平均や、三重との比較では、基準財政需要額や財政力指数に若干の相違があるものの、経常収支比率、公債費負担比率、起債制限比率はほぼ福島県と同様であり、三重は特に福島県と近い数値となっている。
B2グループの茨城・栃木は当然財政力指数が高く、基準財政需要額が低い。しかし、経常収支比率は、高い数値を示し、茨城は90%と高い。経常収支比率のうち、人件費が47.2となっている。当局の賃金合理化のひとつの理由に用いられた可能性がある。
(4) 東北の他の県との比較
Eグループであり、基準財政需要額が福島より大きく、財政力指数は小さい。青森を除く岩手、山形、秋田で公債費負担比率が20.0を超えている。特に秋田は、公債費負担比率が26%、起債制限比率が15.7%と高い数値を示している。
財政指標からは、青森県職労が賃金合理化を受ける合理的な理由が存在するとは読み取れない。
(5) 岡山県の状況
1998年度と比較し、2000年度は公債費負担比率が同じで、起債制限比率が1ポイント高くなっている。経常収支比率については、98.4から91.9へ改善している。
(6) 福島県の経常収支比率の分析
一般的に財政の弾力性を示すといわれる経常収支比率について、2000年度と1997年度を比較すると97年度より0.5ポイント上昇し85.7となり、財政の硬直化がその分進んだことになる。しかし、経常収支比率のうちの人件費の割合は、4.0ポイント下降し43.4である。一方、公債費の割合は、4.3ポイント上昇し22.0となっている。
人件費の下降にかかわらず、経常収支比率が上昇する原因は、公債費である。
5. 2000年度歳出の福島県と各県の対比
(表⑧-1)長野県に対する比率で目立って多い歳出は、3.のCグループとの対比とおなじであるが、目立って少ない歳出は、労働費・土木費・商工費などである。さらに、災害復旧費や公債費も少ない。福島県はもともと労働費が少ないので、長野県に問題はないが、公債費の歳出が1人当たりで16,542円、福島県の歳出規模で、352億円多い。
(表⑧-2)三重県との対比では、目的別では農林水産業費が多いのが目立つ程度で特にないが、性質別では、福島県は積立金が約半分で、繰出金が約4倍となっている。
(表⑧-3)茨城県との対比では、農林水産業費が多いのが目立つ程度である。性質別では、維持補修費の多さと、普通建設事業費が目立つ程度である。したがって、2000年度の歳出からは、茨城県職労が賃金合理化を受ける合理的理由は、読み取れない。工業団地が県内各地で塩漬けになっていることでの批判かわしや2000年4月に県庁の新築に対する県民世論などの政治的な背景か? ちなみに、同じく2000年4月に県庁を新築した香川県においても賃金合理化を行っている。
(表⑧-4)栃木県についても、茨城県と同様であるが歳出全体に対する公債費の割合が福島県より若干高い。
Cグループでは目立って多かった農林水産業費もEグループの青森県(表⑧-5)や岩手県(表⑧-6)と比較すると、少なくなる。山形県(表⑧-7)よりは若干多い。基準財政需要額が他のグループより多くなり、単純な比較は困難になるが、東北の3県とも賃金合理化を受ける理由は見当たらない。賃金合理化を受けている青森県について詳しく見ると、総務費の普通建設事業費が、福島県が5,093円に対し青森県は、18,651円と約3.6倍である。また、総務費の積立金が福島県2,034円に対し青森県は、10,982円と約5.4倍になっている。福島県を上回っている分について福島県の歳出規模(213万人の人口)にすると、総務費の普通建設事業費で288億円、総務費の積立金が190億円で合計478億円となる。
表⑧-8は、道府県平均に対する福島県の対比である。歳出合計に占める人件費の割合は、道府県平均より、1.5ポイント下回っており、公債費も0.6ポイント下回っている。
6. 一般財源の充当状況
一般財源(県税・地方譲与税・地方交付税等)をどこにつぎ込んでいるかを見る(表⑨)。2000年度と⑩1997年度対比で、目的別経費では、総務費1.7、農林水産業費0.7、土木費0.8、警察費1.2、教育費1.2ポイントそれぞれ減り、性質別経費では、人件費は41.4と0.9ポイント減っているものの、公債費は、15.4から20.6と5.2ポイント増えている。
補助金が7割で県負担が3割のような公共事業の場合、「3割の県負担は全額起債で賄うことができ、基準財政需要額に組み込まれ、起債の償還には地方交付税で面倒見てもらえ、県費を使うわけでもないので、補助事業をしなければ損」ということが国の政策によって、自治体の職員に植え付けられている。しかし、地方交付税は、地方公共団体の共有の財産であり、交付税の総額は、法律で決められていることから、結局は、「債券の利子を含めて県費と自治体共有の財産で償還することになる」という当然の結果を表している。
表⑪は普通建設事業費の充当財源である。
7. 福島県の歳入の状況
(1) 2000年度と1997年度の歳入の比較
(表⑫)2000年度歳入合計は469,760円で、1997年度(表⑬)470,536円の99.8%となっている。一般財源の県税・地方譲与税・地方交付税の合計は、234,296円で、1997年度212,238円の110.3%と増えているものの、県税については、約5%減り、地方譲与税は半分以下になっている。逆に、地方交付税は133,455円と1997年度の104,039円の128.2%と増加している。地方交付税の歳入全体に占める割合は28.4%となり、1997年度の22.1%を大きく上回る結果となっており、その分、歳入の地方交付税に依存する割合が高くなったとも言える。今後は、地方交付税の減額が予想される。
(2) 県税の内訳
県税の主要な税である法人事業税は、2000年度28,424円で、1997年度35,770円の79.4%、県民1人当たり7,346円減少している。県の歳入としては、154億円の減少となっている。県民税(個人)については、13,561円で、1997年度16,289円の83.2%、2,728円減少している。県の歳入としては、57億円の減少となっている。
8. む す び
総体的に見れば、福島県の財政は、1999年度以降財政健全化へ向け、努力を重ねていると思われるが財政の悪化は、より深刻化している。この「財政悪化」は、1994年度以降の県債発行に伴うもので、国の政策によるものである。したがって、他の県も同様な状態に陥っており、福島県だけの特殊な傾向ではなく、福島県はむしろ、2000年度時点においては、他の県と比較すれば良いほうである。
しかし、公債費の急激な伸びや、2001年度からの臨時財政対策債の発行、地方交付税の減額、県税の法人事業税の減収などの要因を考慮すると予断を許さない状況に変化はない。
財政悪化に対しての県当局の対応は、職員の賃金合理化が考えられるが、財政の悪化は、国の政策によったものであり、職員の賃金ではないことは、明らかである。財政悪化に至った真の原因を究明し、対策を講じなければ財政悪化を乗り切ることができないし、乗り切ったにしても、新たな財政悪化を迎えるだけである。
各県において、さまざまな賃金合理化が行われているが「財政危機」という言葉を当局が叫ぶだけで、誠実な労使交渉の結果ではなく、職員に一方的に責任を転嫁しているにすぎないのではないか。
1999年以降、3年連続して一時金が削減され、2002年の人勧は、マイナスベア勧告となっている。人勧が公務員労働者の労働基本権制約の代償措置であるなら、人勧制度と関係なく賃金合理化をすることは、許されない。
資料については、総務省財政局財務調査課「平成12年度都道府県財政指数表」による。
本表の数値は、市町村に対する利子割交付金、地方消費税交付金、ゴルフ場利用交付金、特別地方消費税交付金、自動車取得税軽油取引税交付金等相当額を控除しています。
※ 別表については、添付したもの以外は省略させていただきます。
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